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バラバラの絆
20話:ハリケーン襲来
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「――じゃあ、早速取材OKですか?」
手帳とボールペンを取り出して、ボイスレコーダーのスイッチをオンにしたつかさが姿勢を正す。
冷めた家族を残して、1人エンジン全開の栄子が返事をする。
「ええ、どうぞ。なんでも聞いてちょうだい」
「知らないよ、何でも聞いてちょうだいなんて」
この前の一件で、美園はつかさの恐ろしさや腹黒さを十分理解したつもりだった。その彼が今日1日の取材で納得する訳がないのだ。
何かある。絶対何かある。栄子のはしゃぎようとは真逆に美園は警戒心を抱きつつ、つかさの言葉を待った。
「えっと、じゃあ、まずお父さんから」
「お前にお父さんなどと言われる筋合いはない!」
条件反射で言ってしまってから、元樹は慌てて「な~んちゃって」と付け足すのだが、部屋の中に白けた空気が漂う。
「え~、じゃあ、元樹……さん」
「はいは~い」
そのノリのよさが確実に場を冷やしていることに、本人は気づいていないようだ。
「栄子さんと離婚された後、リンリンさんとの再婚をお考えですか?」
――カキ~ン
人間が凍りつくとは正にこのことだ。
元樹は顔に笑みを貼りつけたまま、栄子はそんな元樹に視線をよこしながら、勇治はカッと目を見開いた状態で、ケンジとタキはお茶を口に運んだ体勢で、美園は頭を落としたまま、全員が一斉に凍りついた。
この瞬間に動ける人間は1人と1匹。
状況がよく飲み込めてない誠と、呑気にイスの下で寝転がっている犬のあんこだけだ。
「あれ? 元樹さん? もしもぉ~し」
つかさは目の焦点が合わない元樹の前で、手をひらひらさせる。
「あ、ああ。ちょっと疲れてるようで、幻聴が聞こえてね。で、質問は何だったかな」
元樹はさっきの質問を幻聴と捉えたようで、2度聞きをして自爆する。
「いや、だから離婚後の身の置き方についてなんですけど」
「…………」
完璧に脳内停止状態になってしまった元樹の代わりに、栄子が答える。
「あらやだ、離婚だなんて。そんな事考えたことないわ。そりゃあケンカして、売り言葉に買い言葉で離婚よ、って怒鳴ったこともあるけど、あくまで口だけなんだから」
「じゃあ、栄子さんも単身でイタリアに行かないってことですね?」
開きかけた口を噤んで、曖昧な笑みを漏らす栄子を前に、納得いかないと首を捻ったつかさは、ケンジとタキに視線を移す。
「お2人は賞金の半分を寄付なさるそうで、大変素晴らしいお考えだと思います」
ケンジとタキは聖母マリアのような微笑みでお茶を啜る。
「ところで、それについてご家族は賛成なんですか?」
「……………………。」
誰もが瞬時に返事をできなかったため、まだノーダメージである勇治が言葉を引き継いだ。
「そりゃ、おじいちゃんとおばあちゃんがそうするっていうんだから、家族としては異存はないよ。無駄に物を買うよりも、困った人に寄付するっていうのは賛成だね」
つかさは大きく頷いて、手帳に何か書き込みながら言う。
「じゃあ、勇治さんも寄付を?」
「…………は?」
「いや、賛成なさるのならご家族の皆さんも何割かを寄付なさると公言なさった方が大衆受けすると思いますけど」
「…………」
勇治の目が殺気だってくる。
千秋の次にこよなく愛するものがお金な勇治が、そうやすやす人様に寄付などするはずがない。街頭募金にだって目もくれないのだから。
「勇治さんに関してはほかに聞きたいことがあります。千秋さんとのことですが、いつ頃から小さなお子様に興味を持つようになったんでしょうか?」
ガコン、と顎が外れる音が聞こえたのは気のせいだろうか。勇治はあんぐりと口を開けた状態で静止した。
そんな勇治を横目に、ほんの一瞬勝ち誇った笑みをみせたつかさは、同じく思考停止している美園を見る。
「なんだか皆さん急に静かになっちゃって。仕方ないので今度は美園さんにお聞きします、今お付き合いしている人は?」
「…………いえ」
「赤い糸のお相手はいるってことでしたよね?」
「まぁ」
頭の中に城島の姿を思い浮かべながら返事した。
その言葉を聞いて、氷付け状態だった元樹が眉をピクッと寄せて美園を観察する。
「でもまぁ、脈なしとハッキリしましたけどね。現実を受け入れましょう」
つかさが厭味ったらしく忠告した。
手元にあった湯呑みを危うく投げつけそうになった美園は、なんとか自制をきかせて生唾と共に暴言を飲み込んだ。
部屋の空気は、進藤つかさというハリケーン襲来によって、甚大な被害を被った。
手帳とボールペンを取り出して、ボイスレコーダーのスイッチをオンにしたつかさが姿勢を正す。
冷めた家族を残して、1人エンジン全開の栄子が返事をする。
「ええ、どうぞ。なんでも聞いてちょうだい」
「知らないよ、何でも聞いてちょうだいなんて」
この前の一件で、美園はつかさの恐ろしさや腹黒さを十分理解したつもりだった。その彼が今日1日の取材で納得する訳がないのだ。
何かある。絶対何かある。栄子のはしゃぎようとは真逆に美園は警戒心を抱きつつ、つかさの言葉を待った。
「えっと、じゃあ、まずお父さんから」
「お前にお父さんなどと言われる筋合いはない!」
条件反射で言ってしまってから、元樹は慌てて「な~んちゃって」と付け足すのだが、部屋の中に白けた空気が漂う。
「え~、じゃあ、元樹……さん」
「はいは~い」
そのノリのよさが確実に場を冷やしていることに、本人は気づいていないようだ。
「栄子さんと離婚された後、リンリンさんとの再婚をお考えですか?」
――カキ~ン
人間が凍りつくとは正にこのことだ。
元樹は顔に笑みを貼りつけたまま、栄子はそんな元樹に視線をよこしながら、勇治はカッと目を見開いた状態で、ケンジとタキはお茶を口に運んだ体勢で、美園は頭を落としたまま、全員が一斉に凍りついた。
この瞬間に動ける人間は1人と1匹。
状況がよく飲み込めてない誠と、呑気にイスの下で寝転がっている犬のあんこだけだ。
「あれ? 元樹さん? もしもぉ~し」
つかさは目の焦点が合わない元樹の前で、手をひらひらさせる。
「あ、ああ。ちょっと疲れてるようで、幻聴が聞こえてね。で、質問は何だったかな」
元樹はさっきの質問を幻聴と捉えたようで、2度聞きをして自爆する。
「いや、だから離婚後の身の置き方についてなんですけど」
「…………」
完璧に脳内停止状態になってしまった元樹の代わりに、栄子が答える。
「あらやだ、離婚だなんて。そんな事考えたことないわ。そりゃあケンカして、売り言葉に買い言葉で離婚よ、って怒鳴ったこともあるけど、あくまで口だけなんだから」
「じゃあ、栄子さんも単身でイタリアに行かないってことですね?」
開きかけた口を噤んで、曖昧な笑みを漏らす栄子を前に、納得いかないと首を捻ったつかさは、ケンジとタキに視線を移す。
「お2人は賞金の半分を寄付なさるそうで、大変素晴らしいお考えだと思います」
ケンジとタキは聖母マリアのような微笑みでお茶を啜る。
「ところで、それについてご家族は賛成なんですか?」
「……………………。」
誰もが瞬時に返事をできなかったため、まだノーダメージである勇治が言葉を引き継いだ。
「そりゃ、おじいちゃんとおばあちゃんがそうするっていうんだから、家族としては異存はないよ。無駄に物を買うよりも、困った人に寄付するっていうのは賛成だね」
つかさは大きく頷いて、手帳に何か書き込みながら言う。
「じゃあ、勇治さんも寄付を?」
「…………は?」
「いや、賛成なさるのならご家族の皆さんも何割かを寄付なさると公言なさった方が大衆受けすると思いますけど」
「…………」
勇治の目が殺気だってくる。
千秋の次にこよなく愛するものがお金な勇治が、そうやすやす人様に寄付などするはずがない。街頭募金にだって目もくれないのだから。
「勇治さんに関してはほかに聞きたいことがあります。千秋さんとのことですが、いつ頃から小さなお子様に興味を持つようになったんでしょうか?」
ガコン、と顎が外れる音が聞こえたのは気のせいだろうか。勇治はあんぐりと口を開けた状態で静止した。
そんな勇治を横目に、ほんの一瞬勝ち誇った笑みをみせたつかさは、同じく思考停止している美園を見る。
「なんだか皆さん急に静かになっちゃって。仕方ないので今度は美園さんにお聞きします、今お付き合いしている人は?」
「…………いえ」
「赤い糸のお相手はいるってことでしたよね?」
「まぁ」
頭の中に城島の姿を思い浮かべながら返事した。
その言葉を聞いて、氷付け状態だった元樹が眉をピクッと寄せて美園を観察する。
「でもまぁ、脈なしとハッキリしましたけどね。現実を受け入れましょう」
つかさが厭味ったらしく忠告した。
手元にあった湯呑みを危うく投げつけそうになった美園は、なんとか自制をきかせて生唾と共に暴言を飲み込んだ。
部屋の空気は、進藤つかさというハリケーン襲来によって、甚大な被害を被った。
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