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バラバラの絆

15話:お金の使い道

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「その前に現実的な話しじゃが」

 TVから目を戻したケンジが、皆を見渡して口を開く。

「7億円の内訳を話しおうとく必要があるじゃろ」
「内訳? 単純に7で割りゃあいいんじゃねぇの」

 元樹が返事すると、勇治が慌てたように立ち上がる。

「何で7なんだよ。そうすると1人あたま1億じゃねぇか。俺は来年からアメリカに留学するんだ。アメリカだぞ。向こうは物価が高いんだ。それっぽっちのお金でどうやって生活するってんだよ」
「生意気言ってるんじゃないわよ。1億もあれば十分じゃないの。あんたは優秀なんだから、最初こそ貧乏したってすぐに生活の基盤ができるわよ。それと比べてあたしは40代。この年で女手ひとつで生活していくのは大変なの」

 栄子はそう言って、元樹を睨む。

「あたしの言ってる意味が分かって?」
「なんだ?」
「1億じゃ足りないの。あなたのところから5千万慰謝料としてもらうわよ」
「慰謝料? ふざけんじゃねぇ。なんで俺が払うんだよ」
「離婚原因はあんたの浮気じゃないの。非がある方が払うのは当然でしょ。裁判起こしたっていいのよ」

 あ――、と呻いて、元樹は涙ながらに訴える。

「俺が浮気したのは、お前が料理も何もしないからだよ。家事、洗濯、子育て、お前何にもしないで俺の稼いだ金で遊びほうけてたじゃないか」
「何言ってるのよ。男が仕事、女が家事なんて時代錯誤もいいところよ。今は男女平等なんだから。それにね、いつまでも綺麗でいてくれって言ったのはあなたでしょ。だからあたしは努力してエステに通って美を保ってるんじゃない」
「限度ってもんがあんだよ、限度が。際限なく貯蓄を減らしやがって、この脳ナシ女」
「なんですって! 木偶の棒のクセして、デカイ口聞くんじゃないわよ」

 気の弱い元樹は徐々に栄子に押され気味になり、ケンジとタキに救済を求める。

「父さんもなんとか言ってくれよ。悪魔だよ、この女は」
「お前が選んだんじゃろうが。なんでもポッポと決めてしまうから後悔するんじゃ」

 横でタキがお茶を啜って頷く。

「なぁ父さん達の年だったら2人で2億も使わねぇだろ? その金から栄子に慰謝料払ってくれないか?」

 栄子にしてもお金をもらえるのならどこからでも構わないので、口を挟まずケンジたちを見る。

「無理じゃ。もう使い道は決めてある」
「何に使うんだよ」
「タキの1億は寄付して、残ったわしの1億で老人ホームに入ろうと思っとる」
「老人ホーム!?」

 美園がびっくりして2人の顔を凝視する。

「そうじゃ。老人に金がかからんと思うとったら大間違いじゃ。年をとると悪いところが増えて薬代、入院費と出費が嵩むんじゃ」
「だからって老人ホームだなんて」

 不満そうに呟いた栄子へ向けて、穏やかな目をしたタキが問う。

「では、私たちの面倒を見てくださいますか?」
「そ、それは……」

 栄子は気まずそうに咳払いをする。それを皮切りに皆がよそよそしく2人から視線を逸らす。

「最後に裏切らんのは金じゃ」

 ケンジが苦々しく言う。
 なんとか話題の矛先を変えようと、元樹が口を開く。

「それより、美園はどうするんだ? 栄子についていくのか、ここに残るのか」
「どっちも嫌。イタリアなんて興味ないし、ここに残っても入れ替わりするパパの恋人と上手くやってく自信ないし、1人暮らしするつもり。言っとくけど、私もきっちり1億はもらうわよ。大学だって通いたいし、マンション代だってバカにならないんだから」
「何言ってるのよ、大学は奨学金で通いなさいな」

 栄子が美園を睨みつけるが、美園はわざと聞こえないフリを通して、机の下の犬と戯れている誠を見る。

「誠は? あんたどうするの?」
「僕? 僕はね……」

 誠は困ったように栄子と元樹を見る。

「誠ちゃんはママと一緒にイタリアに行くわよね」

 誠の意見も聞かず強制しようとする栄子を横目に、元樹が言う。

「お前、そんなこと言って誠の取り分着服しようって魂胆だろ」
「な、何言ってるのよ。この子のお金にはビタ一文手はつけないわ。し、将来の為に貯金しといてあげるのよ」

 すぐさま否定した栄子だが、声の上ずりようからして元樹の指摘はほぼ間違いなかったようだ。
 そんな2人を見て、寂しそうに微笑んだ誠は、犬を指差して言う。

「僕はどっちかなんて選べない。だから、あんこと暮らすよ。お金は……そうだなぁ、あんこの餌代と新しいパソコンに使おうかな」

 心清らかな誠を前にして互いの欲深さがとんでもなく恥ずべきものであるということに気づいた世良田一家。なんとなく気まずくなり、誠から目を逸らした。

 そこへ、どこからともなくパチパチと乾いた拍手の音が鳴る。
 世良田一家で手を叩いているものは誰もいない。皆、お互いの手を確認した後、恐る恐るリビングのドアを振り返った。

「いやぁ~、素晴らしい家族愛です」

 わざとらしく涙を拭うフリをしながら、少年が拍手していた。

「ゲッ! 進藤つかさ!」

 踏みつぶされた蛙のような声を上げて、美園が立ち上がった。
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