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突き進め!偽装ファミリー
10話:美園(長女)、絶体絶命
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美園はわざとらしく首を傾げ、困ったように微笑む。
「ごめんなさい、やっぱりどう考えても無理よ」
「どうして」
「こっちにも都合があるし」
「でも3年前、親父の取材は受けたよな?」
「ええ……」
あれほど後悔したクソみたいな取材はなかった、美園は喉まで出かかった暴言をぐっと飲みこむ。
「マジで頼むよ世良田さん。今までのモデルファミリーって警戒心が強くて、なかなか突っ込んだところまで書けなくてさ。ガードもきついから表面的な部分のインタビューしかとれなくて」
「あら、でも私たちもご期待に添えないと思うわ。すごく平凡な家庭だしつまらないもの」
「いやいや、そんなことないよ。美男美女勢ぞろい。それだけですごくポイント高いんだ。ね、同じ学校のよしみでさ、俺に専属契約結ばせてくれない?」
専属契約? ご冗談を。
寝言は寝てから言えよカスが――再び湧き上がってきた毒素を精神力で堪え抜いた美園は、困ったように微笑んだ。
「専属契約は無理よ。インタビューが撮りたいのなら、正式な段階を踏んでもらわないと。他にも雑誌やTVのオファーがきてるみたいだから。そういうのは全部、母に任せてあるの。だから独断で決めることはできないわ」
「そっか、残念だなぁ」
つかさは頭をポリポリ掻いて、唇を尖らせる。
「本当にごめんなさい。それじゃあ、私急ぐから……」
踵を返して歩き出そうとした美園の背中に、つかさの声が突き刺さる。
「じゃあ、勝手に書かせてもらうね」
「……え?」
「他の奴らにすっぱ抜かれるちゃ困るからさ」
「どういうこと?」
嫌な予感がする。
「俺さ、だいぶ前からここにいたんだよ」
「……だいぶ前から……ここに?」
つかさの言葉を鸚鵡返しに呟いた美園。ようやく事の重大さに気付く。
壁を素手で殴った挙句、イメージを崩さんばかりの暴言の数々。完全にキャラ崩壊だ。
まさか、あの光景を見ていたと?
つかさは、美園がひきつった笑みを見せると、それに答えるかのように満面の笑みで返す。
「いやぁ、イメージ落ちちゃうよね? 純情可憐な美園ちゃんが、実はヤンキーばりに激しい人だなんて」
さ、酸素が欲しい。
美園は今にも窒息寸前の金魚のように口をパクパク開けて、周りの空気を思いっきり吸い込む。
落ちつけ、落ち着くんだ。証拠はない。
「いやぁ、なんか偶然こんなものがあってさ」
美園の考えを読んだかのように、つかさはボイスレコーダーを掲げ、ポチッとボタンを押す。さきほどの美園の罵詈雑言が午後のひだまりを蹴散らした。
彫像のように固まってしまった美園を見て、つかさは満足げにレコーダーのスイッチを切った。
「ってことで、専属契約OKかな?」
「――――」
無言の美園に対して、勝手に了解と解釈したつかさは、
「んじゃ、これからよろしくな」
そう言って背を向けるが、途中、思い出したように振り返る。
「ああ、ひとつ忠告。今時赤い糸なんて信じてる奴いないって。想像するだけで寒気がするんだけど。俺の指と誰かの指が繋がってるかもなんて考えたらさ」
指でチョキチョキと糸を切る仕草を見せたつかさは、癪に障る高笑いを残してその場を後にした。
――ガツン!!!!!
誰もいなくなった中庭に、再び鈍い音が響き渡ったことは、言うまでもない。
「ごめんなさい、やっぱりどう考えても無理よ」
「どうして」
「こっちにも都合があるし」
「でも3年前、親父の取材は受けたよな?」
「ええ……」
あれほど後悔したクソみたいな取材はなかった、美園は喉まで出かかった暴言をぐっと飲みこむ。
「マジで頼むよ世良田さん。今までのモデルファミリーって警戒心が強くて、なかなか突っ込んだところまで書けなくてさ。ガードもきついから表面的な部分のインタビューしかとれなくて」
「あら、でも私たちもご期待に添えないと思うわ。すごく平凡な家庭だしつまらないもの」
「いやいや、そんなことないよ。美男美女勢ぞろい。それだけですごくポイント高いんだ。ね、同じ学校のよしみでさ、俺に専属契約結ばせてくれない?」
専属契約? ご冗談を。
寝言は寝てから言えよカスが――再び湧き上がってきた毒素を精神力で堪え抜いた美園は、困ったように微笑んだ。
「専属契約は無理よ。インタビューが撮りたいのなら、正式な段階を踏んでもらわないと。他にも雑誌やTVのオファーがきてるみたいだから。そういうのは全部、母に任せてあるの。だから独断で決めることはできないわ」
「そっか、残念だなぁ」
つかさは頭をポリポリ掻いて、唇を尖らせる。
「本当にごめんなさい。それじゃあ、私急ぐから……」
踵を返して歩き出そうとした美園の背中に、つかさの声が突き刺さる。
「じゃあ、勝手に書かせてもらうね」
「……え?」
「他の奴らにすっぱ抜かれるちゃ困るからさ」
「どういうこと?」
嫌な予感がする。
「俺さ、だいぶ前からここにいたんだよ」
「……だいぶ前から……ここに?」
つかさの言葉を鸚鵡返しに呟いた美園。ようやく事の重大さに気付く。
壁を素手で殴った挙句、イメージを崩さんばかりの暴言の数々。完全にキャラ崩壊だ。
まさか、あの光景を見ていたと?
つかさは、美園がひきつった笑みを見せると、それに答えるかのように満面の笑みで返す。
「いやぁ、イメージ落ちちゃうよね? 純情可憐な美園ちゃんが、実はヤンキーばりに激しい人だなんて」
さ、酸素が欲しい。
美園は今にも窒息寸前の金魚のように口をパクパク開けて、周りの空気を思いっきり吸い込む。
落ちつけ、落ち着くんだ。証拠はない。
「いやぁ、なんか偶然こんなものがあってさ」
美園の考えを読んだかのように、つかさはボイスレコーダーを掲げ、ポチッとボタンを押す。さきほどの美園の罵詈雑言が午後のひだまりを蹴散らした。
彫像のように固まってしまった美園を見て、つかさは満足げにレコーダーのスイッチを切った。
「ってことで、専属契約OKかな?」
「――――」
無言の美園に対して、勝手に了解と解釈したつかさは、
「んじゃ、これからよろしくな」
そう言って背を向けるが、途中、思い出したように振り返る。
「ああ、ひとつ忠告。今時赤い糸なんて信じてる奴いないって。想像するだけで寒気がするんだけど。俺の指と誰かの指が繋がってるかもなんて考えたらさ」
指でチョキチョキと糸を切る仕草を見せたつかさは、癪に障る高笑いを残してその場を後にした。
――ガツン!!!!!
誰もいなくなった中庭に、再び鈍い音が響き渡ったことは、言うまでもない。
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