モデルファミリー <完結済み>

MARU助

文字の大きさ
上 下
11 / 146
突き進め!偽装ファミリー

9話:俺のこと知ってる?

しおりを挟む
「あの、私それじゃあ……」

 そう言って逃げ去ろうとした美園の前に、つかさが両手を広げて立ち塞がる。

「あ、ちょっと待って」

 ちょっと待って? 嘘でしょ? この人、私のこと呼び止めた? 待ちたくない。無理。マジで無理。
 美園の脳裏で警戒音がさらに激しくなる。
  逃ゲロ、逃ゲロ、コイツ二関ワッタラ、ロクナコトナイゾ!

「いい所で会った。近々、世良田さんに会いたいと思ってたんだよ」
「そう、会えて良かったわね。それじゃ」
「ああ、もうちょっと待って」

 はやる気持ちを抑えて、美園はもう一度つかさに向き直る。

「えっと、俺の仕事知ってる? ああ、仕事っていっても本分は学生なんだけど、今それと両立してやってることがあってさ。アルバイト的な」

 ああ、知ってるとも。
 美園は表情を殺して、首を傾げる。

「ああ、知らないか。俺の親父の名前、進藤仁しんどうじんって言うんだけど。一度世良田さんたちにも会ってるはずなんだけど、覚えてないかな」
「……それなら。今もよくテレビに出てらっしゃるわね」

 無精髭を生やした、いかにも極道上がりですという風体の男。その鋭い目と、強力な裏社会のコネクションを駆使して芸能人の秘密を探り当てる。

「そうそう、それ。俺のオヤジ芸能レポーターなんだよ」

 別名:パパラッチ。

「あら、そうなの」
「俺は芸能よりも報道に興味があるんだけど、今は親父のとこで社会勉強がてらにゴシップも追いかけてる。本望じゃないけど、何でも経験ってやつ」

 勘弁してくれ。

 そう、美園が進藤つかさを恐れていた理由はこれなのだ。
 進藤仁。芸能人の醜態ばかりを好む芸能記者で、彼のスクープによりイメージダウンしたものは数知れず。中にはそれが原因で芸能界を引退するものも出る始末。

 実は3年前、世良田一家も彼の知名度を利用してのし上がってやろうとインタビューを受けた。その結果、とんだしっぺ返しをくらったのだ。
 相手は世良田一家よりも抜け目なく、狡猾だった。

「それでさ、ちょっとお願いがあるんだけど」

 きた。きた。きたぁぁ!

「同じ学校にモデルファミリー候補がいるなんて、すげぇラッキーなんだ。こんなチャンスそうそうないし」
「チャンス?」

 わざと惚けてみせる。

「そうチャンス。俺に、世良田一家の記事を書かせてほしいんだ」

 キタ―――――――ッ!

「き、記事?」

 声が裏返ってしまった。

「そう。地方新聞のコラムなんだけど、モデルファミリーの記事なら読者も増えるし、場所を大きく取れるんだ」

 確かにその通りだろう。
 モデルファミリーはもともとただの一般人、普段なら誰も興味は示さない。
 けれどひとたびモデルファミリー候補に選出されようものなら、その瞬間から彼らは時の人。勝ちが進むごとに知名度があがり、最終ブロックまで残った段階で企業とのタイアップが実現する。

 美園たちは大手紅茶メーカーと契約し、ファミリーで優雅にお茶を楽しむCMに出演している。
 CMの中でさらりと家族の自己紹介を加えることで、全国的な知名度アップを図り投票を有利に進めようと計画を立てているのだ。

 東北代表は医薬品会社、九州代表は某スポーツメーカーとの契約を取り付けており、どのファミリーもこぞって宣伝活動に余念がない。

 世良田一家はCM契約料に遊興費・衣服代など、メーカー側から数千万単位の金銭的サポートを受けている。
 最終的に一家が今年度のモデルファミリーに選出されれば、企業イメージも上がるため相手側にも世良田一家に投資した以上のうまみが返ってくる。
 お互いに持ちつ持たれつの関係のなか、妙なゴシップが流れて契約を打ち切られでもしたら大変だ。

 お金は大事、何よりも大事だ。
 企業のため、自分たちのため、何がなんでも仲良し家族のイメージを守り続けねばならない。
 それをこんなゴシップ小僧に壊されてたまるものか。
 美園はぎゅっと拳を握りしめ、気持ちを冷静に保とうと息を吸った。

 そんな美園の内心を見透かしたように、つかさは期待を込めた目で見つめてくる。

「……三流の分際で何様よ」

 美園は小声で毒づいた。
 何よりもイメージが大事なこの時期、何が悲しくて三流ゴシップ記者の取材に応じなければならいのだ。
 しかも、よりにもよってあの<進藤仁>の息子。

 美園も許さないが、それ以上に家族が許すはずがない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

茜川の柿の木後日譚――姉の夢、僕の願い

永倉圭夏
ライト文芸
「茜川の柿の木――姉と僕の日常、祈りの日々」の後日譚 姉の病を治すため医学生になった弟、優斗のアパートに、市役所の会計年度職員となった姉、愛未(まなみ)が転がり込んで共同生活を始めることになった。 そこでの姉弟の愛おしい日々。それらを通して姉弟は次第に強い繋がりを自覚するようになる。 しかし平和な日々は長く続かず、姉の病状が次第に悪化していく。 登場人物 ・早坂優斗:本作の主人公。彩寧(あやね)というれっきとした彼女がいながら、姉の魅力に惹きつけられ苦悩する。 ・早坂愛未(まなみ):優斗の姉。優斗のことをゆーくんと呼び、からかい、命令し、挑発する。が、肝心なところでは優斗に依存してべったりな面も見せる。 ・伊野彩寧(あやね):優斗の彼女。中一の初夏に告白してフラれて以来の仲。優斗と愛未が互いに極度のブラコンとシスコンであることを早くから見抜いていた。にもかかわらず、常に優斗から離れることもなくそばにい続けた。今は優斗と同じ医大に通学。 ・樋口将司(まさし)愛未が突然連れてきた婚約者。丸顔に落ち窪んだ眼、あばた面と外見は冴えない。実直で誠実なだけが取り柄。しかもその婚約が訳ありで…… 彼を巡り自体はますます混乱していく。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

笑顔になれる沖縄料理が食べたくて

なかじまあゆこ
ライト文芸
幼い日お母さんが帰って来なくて公園のベンチに座り泣いていた愛可(あいか)に見知らぬおばさんが手を差し伸べてくれた。その時に食べさせてもらった沖縄ちゃんぽんが忘れられない。 いつもご飯を食べると幸せな気持ちになる愛可。今日も大好きな食堂でご飯を食べていると眉目秀麗な男性に「君をスカウトします」と声をかけられたのだけど。 沖縄料理と元気になれる物語。 どうぞよろしくお願いします(^-^)/

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

シャングリラ

桃青
ライト文芸
 高校三年生のこずえは、卒業後、大学へ行かず、フリーターになることを決意。だが、好きな人が現れたり、親友が鬱病だったりと、色々問題のある毎日。そんな高校生活ラストイヤーの青春、いや青い心を、できるだけ爽やかに描いた小説です。

隣の古道具屋さん

雪那 由多
ライト文芸
祖父から受け継いだ喫茶店・渡り鳥の隣には佐倉古道具店がある。 幼馴染の香月は日々古道具の修復に励み、俺、渡瀬朔夜は従妹であり、この喫茶店のオーナーでもある七緒と一緒に古くからの常連しか立ち寄らない喫茶店を切り盛りしている。 そんな隣の古道具店では時々不思議な古道具が舞い込んでくる。 修行の身の香月と共にそんな不思議を目の当たりにしながらも一つ一つ壊れた古道具を修復するように不思議と向き合う少し不思議な日常の出来事。

王太子殿下の小夜曲

緑谷めい
恋愛
 私は侯爵家令嬢フローラ・クライン。私が初めてバルド王太子殿下とお会いしたのは、殿下も私も共に10歳だった春のこと。私は知らないうちに王太子殿下の婚約者候補になっていた。けれど婚約者候補は私を含めて4人。その中には私の憧れの公爵家令嬢マーガレット様もいらっしゃった。これはもう出来レースだわ。王太子殿下の婚約者は完璧令嬢マーガレット様で決まりでしょ! 自分はただの数合わせだと確信した私は、とてもお気楽にバルド王太子殿下との顔合わせに招かれた王宮へ向かったのだが、そこで待ち受けていたのは……!? フローラの明日はどっちだ!?

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

処理中です...