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突き進め!偽装ファミリー
8話:進藤つかさ登場
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――ここは県立M高校。
県内でもピカ一の進学率を誇り、生徒総数は2千人を超えるマンモス高。
創立してからの歴史も長く、数多くの政治家や大企業の社長などを輩出したことでも有名な進学校である。
そんな名門校の中庭で、昨年のミスM高に選ばれた可憐な女子生徒に声をかけている無謀なヤツがいた。
「ん~、だからさ、断るのは一度つきあってからにしてみない?」
「でも……ごめんなさい。やっぱりお受けできません」
「そう言わずにさぁ。一度外で会ってみない? 世良田さんの私服見てみたいな。家ではどんなかっこしてんの?」
「――中学のジャージ」
「え?」
男子生徒は聞きなおす。
「ううん。ワンピースとかが多いかな」
「そっかぁ。ワンピースかぁ。見てみたいな」
鼻の下を伸ばして詰め寄る男子生徒を前に、美園は困ったような笑みを見せる。
「ごめんなさい。そろそろ生徒会室に行かないと、時間なくなっちゃう」
「じゃあ、約束してくれたら行っていいよ」
「約束?」
「そ、今度俺とデートするって」
男子生徒は前髪をかきあげて、微笑む。間違いなく大抵の女はこれで落ちるのだ。
「――――」
美園は俯いてスカートの裾をギュッと握った。
それを目の端に捉えた男子生徒は、ここが引き際だと感じて攻撃の手を弱める。
「ごめん。ちょっとしつこかったよね? でも、俺それくらい世良田さんに本気なんだ。だから嫌いにならないでくれよ? な?」
美園がほんのりと頬を赤らめたのを確認した男子生徒は、脳裏に「勝算あり」の言葉を焼きつけ、ようやく彼女を解放した。
美園はトトトトと可愛らしく中庭を駆け出して、途中一度振向いて、小さく頭を下げて、またトトトトと走り去っていった。
「――あとひと押しってとこかな」
男子生徒はにんまりと笑った。
・
・
・
・
ガツン!
中庭の裏、人気のない一角で鈍い音が響き渡る。
今しがた拳で思いきり壁を殴りつけた美園は「い――ッ」と野獣のような声を挙げて地団太を踏んだ。
「なぁにが『俺それくらい本気だから』だよ、あのスケコマシ野郎。いろんな女に手出してんの知ってんだからね」
美園の頬が赤らんだ理由は、怒りで爆発寸前だったというわけだ。
「なぁにがデートだ。調子こいてんじゃねぇぞ。あたしには、赤い糸で繋がった運命の相手がいるんだから」
それは断じてさっきの男ではない。
美園は自分の小指の先を見て、愛しい生徒会長の姿を思い浮かべた。
「あ~あ、城島先輩と繋がってないかなぁ、この指」
「何が繋がってるって?」
!!
反射的に壁から飛びのいて辺りを見回す。人っ子一人いないのは最初に確認済みだ、なのに今の声はどこから聞こえたのだろう。
美園がきょろきょろと視線を巡らせていると、目前の花壇からボイスレコーダー片手の男子生徒がひょっこり顔を覗かせた。
「あ……あんた…」
「あ、どーも。進藤つかさです。世良田さんと同じ2年なんだけど、知らないよね」
知っている。よぉ~く知っている。
「名前は……聞いたことあるけど……」
名前だけじゃない、本当は彼の顔やクラス番号、校内においての出没スポットまで、全てインプットしてあった。この顔を見たら、即座に方向転換。これが美園に叩きこまれたデータだ。
「いやぁ、ちょっとここで昼寝してたんだよ」
嘘だ。ずぇったい嘘だ。
どこの世の中にボイスレコーダー片手に、花壇の茂みで眠るやつがいるのだ。
ピーピーピー!!!!
美園の頭の中で警戒信号が鳴る。
コノ顔ヲ見タラ、即座ニ方向転換!直チニ実行セヨ!
県内でもピカ一の進学率を誇り、生徒総数は2千人を超えるマンモス高。
創立してからの歴史も長く、数多くの政治家や大企業の社長などを輩出したことでも有名な進学校である。
そんな名門校の中庭で、昨年のミスM高に選ばれた可憐な女子生徒に声をかけている無謀なヤツがいた。
「ん~、だからさ、断るのは一度つきあってからにしてみない?」
「でも……ごめんなさい。やっぱりお受けできません」
「そう言わずにさぁ。一度外で会ってみない? 世良田さんの私服見てみたいな。家ではどんなかっこしてんの?」
「――中学のジャージ」
「え?」
男子生徒は聞きなおす。
「ううん。ワンピースとかが多いかな」
「そっかぁ。ワンピースかぁ。見てみたいな」
鼻の下を伸ばして詰め寄る男子生徒を前に、美園は困ったような笑みを見せる。
「ごめんなさい。そろそろ生徒会室に行かないと、時間なくなっちゃう」
「じゃあ、約束してくれたら行っていいよ」
「約束?」
「そ、今度俺とデートするって」
男子生徒は前髪をかきあげて、微笑む。間違いなく大抵の女はこれで落ちるのだ。
「――――」
美園は俯いてスカートの裾をギュッと握った。
それを目の端に捉えた男子生徒は、ここが引き際だと感じて攻撃の手を弱める。
「ごめん。ちょっとしつこかったよね? でも、俺それくらい世良田さんに本気なんだ。だから嫌いにならないでくれよ? な?」
美園がほんのりと頬を赤らめたのを確認した男子生徒は、脳裏に「勝算あり」の言葉を焼きつけ、ようやく彼女を解放した。
美園はトトトトと可愛らしく中庭を駆け出して、途中一度振向いて、小さく頭を下げて、またトトトトと走り去っていった。
「――あとひと押しってとこかな」
男子生徒はにんまりと笑った。
・
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・
ガツン!
中庭の裏、人気のない一角で鈍い音が響き渡る。
今しがた拳で思いきり壁を殴りつけた美園は「い――ッ」と野獣のような声を挙げて地団太を踏んだ。
「なぁにが『俺それくらい本気だから』だよ、あのスケコマシ野郎。いろんな女に手出してんの知ってんだからね」
美園の頬が赤らんだ理由は、怒りで爆発寸前だったというわけだ。
「なぁにがデートだ。調子こいてんじゃねぇぞ。あたしには、赤い糸で繋がった運命の相手がいるんだから」
それは断じてさっきの男ではない。
美園は自分の小指の先を見て、愛しい生徒会長の姿を思い浮かべた。
「あ~あ、城島先輩と繋がってないかなぁ、この指」
「何が繋がってるって?」
!!
反射的に壁から飛びのいて辺りを見回す。人っ子一人いないのは最初に確認済みだ、なのに今の声はどこから聞こえたのだろう。
美園がきょろきょろと視線を巡らせていると、目前の花壇からボイスレコーダー片手の男子生徒がひょっこり顔を覗かせた。
「あ……あんた…」
「あ、どーも。進藤つかさです。世良田さんと同じ2年なんだけど、知らないよね」
知っている。よぉ~く知っている。
「名前は……聞いたことあるけど……」
名前だけじゃない、本当は彼の顔やクラス番号、校内においての出没スポットまで、全てインプットしてあった。この顔を見たら、即座に方向転換。これが美園に叩きこまれたデータだ。
「いやぁ、ちょっとここで昼寝してたんだよ」
嘘だ。ずぇったい嘘だ。
どこの世の中にボイスレコーダー片手に、花壇の茂みで眠るやつがいるのだ。
ピーピーピー!!!!
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