10 / 146
突き進め!偽装ファミリー
8話:進藤つかさ登場
しおりを挟む
――ここは県立M高校。
県内でもピカ一の進学率を誇り、生徒総数は2千人を超えるマンモス高。
創立してからの歴史も長く、数多くの政治家や大企業の社長などを輩出したことでも有名な進学校である。
そんな名門校の中庭で、昨年のミスM高に選ばれた可憐な女子生徒に声をかけている無謀なヤツがいた。
「ん~、だからさ、断るのは一度つきあってからにしてみない?」
「でも……ごめんなさい。やっぱりお受けできません」
「そう言わずにさぁ。一度外で会ってみない? 世良田さんの私服見てみたいな。家ではどんなかっこしてんの?」
「――中学のジャージ」
「え?」
男子生徒は聞きなおす。
「ううん。ワンピースとかが多いかな」
「そっかぁ。ワンピースかぁ。見てみたいな」
鼻の下を伸ばして詰め寄る男子生徒を前に、美園は困ったような笑みを見せる。
「ごめんなさい。そろそろ生徒会室に行かないと、時間なくなっちゃう」
「じゃあ、約束してくれたら行っていいよ」
「約束?」
「そ、今度俺とデートするって」
男子生徒は前髪をかきあげて、微笑む。間違いなく大抵の女はこれで落ちるのだ。
「――――」
美園は俯いてスカートの裾をギュッと握った。
それを目の端に捉えた男子生徒は、ここが引き際だと感じて攻撃の手を弱める。
「ごめん。ちょっとしつこかったよね? でも、俺それくらい世良田さんに本気なんだ。だから嫌いにならないでくれよ? な?」
美園がほんのりと頬を赤らめたのを確認した男子生徒は、脳裏に「勝算あり」の言葉を焼きつけ、ようやく彼女を解放した。
美園はトトトトと可愛らしく中庭を駆け出して、途中一度振向いて、小さく頭を下げて、またトトトトと走り去っていった。
「――あとひと押しってとこかな」
男子生徒はにんまりと笑った。
・
・
・
・
ガツン!
中庭の裏、人気のない一角で鈍い音が響き渡る。
今しがた拳で思いきり壁を殴りつけた美園は「い――ッ」と野獣のような声を挙げて地団太を踏んだ。
「なぁにが『俺それくらい本気だから』だよ、あのスケコマシ野郎。いろんな女に手出してんの知ってんだからね」
美園の頬が赤らんだ理由は、怒りで爆発寸前だったというわけだ。
「なぁにがデートだ。調子こいてんじゃねぇぞ。あたしには、赤い糸で繋がった運命の相手がいるんだから」
それは断じてさっきの男ではない。
美園は自分の小指の先を見て、愛しい生徒会長の姿を思い浮かべた。
「あ~あ、城島先輩と繋がってないかなぁ、この指」
「何が繋がってるって?」
!!
反射的に壁から飛びのいて辺りを見回す。人っ子一人いないのは最初に確認済みだ、なのに今の声はどこから聞こえたのだろう。
美園がきょろきょろと視線を巡らせていると、目前の花壇からボイスレコーダー片手の男子生徒がひょっこり顔を覗かせた。
「あ……あんた…」
「あ、どーも。進藤つかさです。世良田さんと同じ2年なんだけど、知らないよね」
知っている。よぉ~く知っている。
「名前は……聞いたことあるけど……」
名前だけじゃない、本当は彼の顔やクラス番号、校内においての出没スポットまで、全てインプットしてあった。この顔を見たら、即座に方向転換。これが美園に叩きこまれたデータだ。
「いやぁ、ちょっとここで昼寝してたんだよ」
嘘だ。ずぇったい嘘だ。
どこの世の中にボイスレコーダー片手に、花壇の茂みで眠るやつがいるのだ。
ピーピーピー!!!!
美園の頭の中で警戒信号が鳴る。
コノ顔ヲ見タラ、即座ニ方向転換!直チニ実行セヨ!
県内でもピカ一の進学率を誇り、生徒総数は2千人を超えるマンモス高。
創立してからの歴史も長く、数多くの政治家や大企業の社長などを輩出したことでも有名な進学校である。
そんな名門校の中庭で、昨年のミスM高に選ばれた可憐な女子生徒に声をかけている無謀なヤツがいた。
「ん~、だからさ、断るのは一度つきあってからにしてみない?」
「でも……ごめんなさい。やっぱりお受けできません」
「そう言わずにさぁ。一度外で会ってみない? 世良田さんの私服見てみたいな。家ではどんなかっこしてんの?」
「――中学のジャージ」
「え?」
男子生徒は聞きなおす。
「ううん。ワンピースとかが多いかな」
「そっかぁ。ワンピースかぁ。見てみたいな」
鼻の下を伸ばして詰め寄る男子生徒を前に、美園は困ったような笑みを見せる。
「ごめんなさい。そろそろ生徒会室に行かないと、時間なくなっちゃう」
「じゃあ、約束してくれたら行っていいよ」
「約束?」
「そ、今度俺とデートするって」
男子生徒は前髪をかきあげて、微笑む。間違いなく大抵の女はこれで落ちるのだ。
「――――」
美園は俯いてスカートの裾をギュッと握った。
それを目の端に捉えた男子生徒は、ここが引き際だと感じて攻撃の手を弱める。
「ごめん。ちょっとしつこかったよね? でも、俺それくらい世良田さんに本気なんだ。だから嫌いにならないでくれよ? な?」
美園がほんのりと頬を赤らめたのを確認した男子生徒は、脳裏に「勝算あり」の言葉を焼きつけ、ようやく彼女を解放した。
美園はトトトトと可愛らしく中庭を駆け出して、途中一度振向いて、小さく頭を下げて、またトトトトと走り去っていった。
「――あとひと押しってとこかな」
男子生徒はにんまりと笑った。
・
・
・
・
ガツン!
中庭の裏、人気のない一角で鈍い音が響き渡る。
今しがた拳で思いきり壁を殴りつけた美園は「い――ッ」と野獣のような声を挙げて地団太を踏んだ。
「なぁにが『俺それくらい本気だから』だよ、あのスケコマシ野郎。いろんな女に手出してんの知ってんだからね」
美園の頬が赤らんだ理由は、怒りで爆発寸前だったというわけだ。
「なぁにがデートだ。調子こいてんじゃねぇぞ。あたしには、赤い糸で繋がった運命の相手がいるんだから」
それは断じてさっきの男ではない。
美園は自分の小指の先を見て、愛しい生徒会長の姿を思い浮かべた。
「あ~あ、城島先輩と繋がってないかなぁ、この指」
「何が繋がってるって?」
!!
反射的に壁から飛びのいて辺りを見回す。人っ子一人いないのは最初に確認済みだ、なのに今の声はどこから聞こえたのだろう。
美園がきょろきょろと視線を巡らせていると、目前の花壇からボイスレコーダー片手の男子生徒がひょっこり顔を覗かせた。
「あ……あんた…」
「あ、どーも。進藤つかさです。世良田さんと同じ2年なんだけど、知らないよね」
知っている。よぉ~く知っている。
「名前は……聞いたことあるけど……」
名前だけじゃない、本当は彼の顔やクラス番号、校内においての出没スポットまで、全てインプットしてあった。この顔を見たら、即座に方向転換。これが美園に叩きこまれたデータだ。
「いやぁ、ちょっとここで昼寝してたんだよ」
嘘だ。ずぇったい嘘だ。
どこの世の中にボイスレコーダー片手に、花壇の茂みで眠るやつがいるのだ。
ピーピーピー!!!!
美園の頭の中で警戒信号が鳴る。
コノ顔ヲ見タラ、即座ニ方向転換!直チニ実行セヨ!
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

気だるげ男子のいたわりごはん
水縞しま
ライト文芸
第7回ライト文芸大賞【奨励賞】作品です。
◇◇◇◇
いつも仕事でへとへとな私、清家杏(せいけあん)には、とっておきの楽しみがある。それは週に一度、料理代行サービスを利用して、大好きなあっさり和食ごはんを食べること。疲弊した体を引きずって自宅に帰ると、そこにはいつもお世話になっている女性スタッフではなく、無愛想で見目麗しい青年、郡司祥生(ぐんじしょう)がいて……。
仕事をがんばる主人公が、おいしい手料理を食べて癒されたり元気をもらったりするお話。
郡司が飼う真っ白なもふもふ犬(ビションフリーゼ)も登場します!
フリー台本と短編小説置き場
きなこ
ライト文芸
自作のフリー台本を思いつきで綴って行こうと思います。
短編小説としても楽しんで頂けたらと思います。
ご使用の際は、作品のどこかに"リンク"か、"作者きなこ"と入れていただけると幸いです。
魔女の虚像
睦月
ミステリー
大学生の星井優は、ある日下北沢で小さな出版社を経営しているという女性に声をかけられる。
彼女に頼まれて、星井は13年前に裕福な一家が焼死した事件を調べることに。
事件の起こった村で、当時働いていたというメイドの日記を入手する星井だが、そこで知ったのは思いもかけない事実だった。
●エブリスタにも掲載しています
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
一行日記 2024年11月 🍂
犬束
エッセイ・ノンフィクション
ついこの間まで、暑い暑いとボヤいていたのに、肌寒くなってまいりました。
今年もあと2ヶ月。がんばろうとすればするほど脱力するので、せめて要らない物は捨てて、部屋を片付けるのだけは、じわじわでも続けたいです🐾

無感情だった僕が、明るい君に恋をして【完結済み】
青季 ふゆ
ライト文芸
地元の大学を休学して東京で暮らす主人公、望月治(おさむ)の隣室には、恐ろしいほど可憐な女子高生、有村日和(ひより)が住んでいる。
日和との関わりは無に等しく、これからもお隣さん以上の関係になるはずがないと思っていたが……。
「これから私が、君の晩御飯を作ってあげるよ」
「いや、なんで?」
ひょんなことから、日和にグイグイ絡まれるようになるった治。
手料理を作りに来たり、映画に連行されたり、旅行に連れて行かれたり……ぎゅっとハグされたり。
ドライで感情の起伏に乏しい治は最初こそ冷たく接していたものの、明るくて優しい日和と過ごすうちに少しずつ心を開いていって……。
これは、趣味も性格も正反対だった二人が、ゆっくりとゆっくりと距離を縮めながら心が触れ合うまでの物語。
●完結済みです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる