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第7話
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恵美はしばらく乱れた呼吸を整えるのに時間を要した。
「危なかった……。これ以上付き合ってたらボロが出る」
呼吸を整えながら落ちた写真立てを拾い上げた。
そこに映った幸せそうな家族を眺めていると、唐突に黒い感情が沸き上がってくる。どうしようもできないこの穢れた思い、幾度となく味わってきた敗北感。
恵美はその思いごと切り捨てようと、写真立てを窓から外へ放り投げた。
こんな時間に外を歩いている奴などいやしない。重みのある写真立ては放物線を描きながら、暗い闇の中に消えていった。
こんなことをしても何も変わらない、何ひとつ変えることなどできるはずがない。
それが分かっていてもそうせざるを得ないほど、恵美の心を妬ましさや憤り、そして羞恥心が支配しているのだ。
感情を鎮めようと深呼吸をした恵美は、先ほどまさやが見つけた紙を手に取った。
<消エロ! きぇロ! 消えロ!>
これも脅迫状だった。
新聞や広告の記事を切り抜いているため、文字に統一感がない。けれど、それが余計に作り手の執念深さを表しているようで身の毛がよだつ。
恵美は脅迫状を元あった引き出しの中に戻そうとして、ふと手をとめる。
「……これ」
恵美は慌てて引き出しの中を探る。
思ったとおり、引出しの中から同じような手紙がたくさん出てきた。
内容は全て脅迫まがいのものばかり。ひとところに纏めて保管していたのだろう。
「どういうこと? 最初に私に見せてきた1枚目の手紙、まさや君は机の上で見つけたって言ってたのに」
『ああ、机の上に置いてありました。勝手に読んですいません』
あの時、紅茶を入れようとダイニングに降りた恵美。しばらくして戻って来た恵美に、まさやはそう言って手紙を差し出したのだ。
『相当恨まれてますよ、恵美さん』
そうも言っていたはずだ。
けれど、そんな筈はない。手紙が机の上にあったはずはないのだ。
恵美はまさやが部屋に入って来る寸前まで、机に突っ伏して寝ていた。
――そう、綺麗に 整頓された 机の上で寝ていたのだ。
こんな手紙があれば最初に気付いたはずである。
まさやは恵美が紅茶を入れるために階下へ降りた僅かばかりの間に、机の中を探ったのだろうか。だとしたらそこには一体何の目的があるのだろう。
人懐こく見えていたまさやの存在がだんだん恵美の中で得体の知れない異質なものへと変化していく。
よくよく考えてみれば明日香の友人だと言うけれど、彼女はあちこちで自分が冬休みにハワイに行く事を吹聴していたではないか。家に上がりこむほど仲の良い友人が、そのことを知らないはずがない。
この時になって、恵美は急に思い出したことがあった。
丁寧に丸められたまさやのダッフルコート。
雪のように白い色。
それは最近恵美の周りで時々見かけた色。
特に意識はしていなかったが、確か今日もこのダッフルコートを見た気がするのだ。どこにでもあるコートの色だ。けれど……。
「――つけられてた?」
恵美は背筋が凍りつくのを感じた。
「まさか……あいつは本当に泥棒?」
――カタン。
隣室で物音がした。
明日香の部屋だ。
恵美は考えもなしに部屋を飛び出し、音のした方へ向かった。
☆ ☆ ☆
まさやは机の上に置かれた小さな小箱を開いて、中からネックレスを取り出した。明日香のAの字を形どったネックレス。箱の中には恵美からのメッセージカードが添えられている。
<クリスマスプレゼント。バイトして買ったから大事にしてね。 恵美>
ふいに気配を感じて振り返った。
扉の前で、真っ青な顔をした恵美が立っていた。
2人はしばらく無言でお互いに見つめ合っていた。
初めて恵美とまさやが対面した時と同じ状況だ。
けれどさっきと違うことは、まさやが口を固く閉じていたこと。最初に口を開いたのが恵美の方だということだった。
「……あなた、誰?」
「危なかった……。これ以上付き合ってたらボロが出る」
呼吸を整えながら落ちた写真立てを拾い上げた。
そこに映った幸せそうな家族を眺めていると、唐突に黒い感情が沸き上がってくる。どうしようもできないこの穢れた思い、幾度となく味わってきた敗北感。
恵美はその思いごと切り捨てようと、写真立てを窓から外へ放り投げた。
こんな時間に外を歩いている奴などいやしない。重みのある写真立ては放物線を描きながら、暗い闇の中に消えていった。
こんなことをしても何も変わらない、何ひとつ変えることなどできるはずがない。
それが分かっていてもそうせざるを得ないほど、恵美の心を妬ましさや憤り、そして羞恥心が支配しているのだ。
感情を鎮めようと深呼吸をした恵美は、先ほどまさやが見つけた紙を手に取った。
<消エロ! きぇロ! 消えロ!>
これも脅迫状だった。
新聞や広告の記事を切り抜いているため、文字に統一感がない。けれど、それが余計に作り手の執念深さを表しているようで身の毛がよだつ。
恵美は脅迫状を元あった引き出しの中に戻そうとして、ふと手をとめる。
「……これ」
恵美は慌てて引き出しの中を探る。
思ったとおり、引出しの中から同じような手紙がたくさん出てきた。
内容は全て脅迫まがいのものばかり。ひとところに纏めて保管していたのだろう。
「どういうこと? 最初に私に見せてきた1枚目の手紙、まさや君は机の上で見つけたって言ってたのに」
『ああ、机の上に置いてありました。勝手に読んですいません』
あの時、紅茶を入れようとダイニングに降りた恵美。しばらくして戻って来た恵美に、まさやはそう言って手紙を差し出したのだ。
『相当恨まれてますよ、恵美さん』
そうも言っていたはずだ。
けれど、そんな筈はない。手紙が机の上にあったはずはないのだ。
恵美はまさやが部屋に入って来る寸前まで、机に突っ伏して寝ていた。
――そう、綺麗に 整頓された 机の上で寝ていたのだ。
こんな手紙があれば最初に気付いたはずである。
まさやは恵美が紅茶を入れるために階下へ降りた僅かばかりの間に、机の中を探ったのだろうか。だとしたらそこには一体何の目的があるのだろう。
人懐こく見えていたまさやの存在がだんだん恵美の中で得体の知れない異質なものへと変化していく。
よくよく考えてみれば明日香の友人だと言うけれど、彼女はあちこちで自分が冬休みにハワイに行く事を吹聴していたではないか。家に上がりこむほど仲の良い友人が、そのことを知らないはずがない。
この時になって、恵美は急に思い出したことがあった。
丁寧に丸められたまさやのダッフルコート。
雪のように白い色。
それは最近恵美の周りで時々見かけた色。
特に意識はしていなかったが、確か今日もこのダッフルコートを見た気がするのだ。どこにでもあるコートの色だ。けれど……。
「――つけられてた?」
恵美は背筋が凍りつくのを感じた。
「まさか……あいつは本当に泥棒?」
――カタン。
隣室で物音がした。
明日香の部屋だ。
恵美は考えもなしに部屋を飛び出し、音のした方へ向かった。
☆ ☆ ☆
まさやは机の上に置かれた小さな小箱を開いて、中からネックレスを取り出した。明日香のAの字を形どったネックレス。箱の中には恵美からのメッセージカードが添えられている。
<クリスマスプレゼント。バイトして買ったから大事にしてね。 恵美>
ふいに気配を感じて振り返った。
扉の前で、真っ青な顔をした恵美が立っていた。
2人はしばらく無言でお互いに見つめ合っていた。
初めて恵美とまさやが対面した時と同じ状況だ。
けれどさっきと違うことは、まさやが口を固く閉じていたこと。最初に口を開いたのが恵美の方だということだった。
「……あなた、誰?」
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