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消えた妹 前編

2話

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 天堂家についた時刻は午前10時だが、天気はあいにくの曇り空だった。
 吐く息が白く、手足も凍りそうなほど冷たい時期で、路面にも雪が数センチ降り積もっていた。

 俺はポケットに突っ込んでいた安定剤を、コンビニで購入した水で流し込んで気持ちを落ち着ける。

 今日の夜には警報級の大雪になりそうだとラジオの予報士が言っていた。
 手早く話を聞いて引き上げよう、俺はそう思って古ぼけた屋敷のチャイムを鳴らす。

 事前に天堂家の情報をある程度入手しておきたかったのだが、インターネットで調べられることには限りがあった。

 今回の依頼者、天堂一志を社長に添えたTENDOグループの歩みは、明治時代の絹糸工場にまで遡る。
 戦時中に軍事用品などを製造しシェアを獲得した後、終戦後には皮製品などの生産事業へと大幅に舵を切る。
 この事業が運よく軌道に乗り、現在は海外の有名ブランドなどと取引がある業界では名の知れた企業へと成長を遂げている。

 N県の中心地にオフィスを構えているが、若き社長の住まいはそこから2時間離れた辺鄙な場所にあった。
 豪華なタワーマンション暮らしを想像していただけに、古ぼけた洋館が目に入った時には少し肩透かしを食らった。

 誤解を招かぬように言っておくと、外観こそ古ぼけているが屋敷の佇まいは荘厳だ。
 上背のある錆びれた鉄製の門は侵入者を阻むかのように硬く口を閉じており、その向こうに見える2階建ての屋敷には、見える範囲で窓が11個あった。玄関へ辿り着くまでの庭もサッカー場とテニスコートが楽々入るほどの広さがある。
 常識離れした豪邸であることは間違いないだろう。

 ただひとつ残念な点を挙げるとすれば、庭木は荒れ放題で、屋敷の壁には蔦が這い、本来あるべき場所の表札もくり抜かれていることだった。
 手入れさえしていればリゾート施設のように豪華だったのだろうが、今現在は廃墟の香りが色濃く出ている。

 本当にこんなところに大企業の若社長が暮らしているのか、俺は若干訝しがりながら門柱の横にあるチャイムを鳴らした。
 音が聞こえるので電気は通っているようだ。

 チャイムを鳴らしてしばらくすると、自動で門が開いたため俺は車ごと庭先に乗り入れた。
 庭全体に雑草が生い茂っていて駐車スペースが見つけられなかったため、適当な場所へ愛車を停めて、そのまま玄関扉をノックした。

 すぐに男性の返事が返ってきて、ゆっくりと扉が開かれた。
 年の頃は20代後半、色白でどこか頼りなげな男が顔を出した。表情にほんの少し疲れが見えるのは妹のことで思い悩む日々が続いているからだろう。

 この男があのTENDOグループを率いているリーダーなのか。
 俺は少し面食らってしまう。
 男の立ち振る舞いからして、社長というより平社員に近いものを感じる。人は見た目によらず、というがまさしくその通りなのだろうか?
 それとも使用人が表に出てきているのか?

 俺は男の様子を探りながら、丁寧に挨拶をした。

「初めまして、天堂一志さんという方からご依頼をいただきました、お祓い屋の椿風雅と申します」
「ああ、わざわざ遠いところまでご足労願いましてすみません。私が天堂一志です。さぁ、中へどうぞ」

 やっぱりこの人が依頼者本人か。

「恐れ入ります」

 俺は軽く一礼して屋敷の中に足を踏み入れた。
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