上 下
15 / 80
囚われの家 後編

14話

しおりを挟む
 室内は真っ暗だった。
 この家全体が薄暗いのは承知だが、昼間ということで場所によっては多少なりと明るさが感じられた。
 しかし、この部屋には全くと言っていいほどそれが皆無だった。そもそも光源自体存在していないように思える。

 やはりというのか、俺の想像した通りというのか、本来窓がある位置には外から板が貼り付けてあって、採光を遮断していた。
 この家に来た時に目にした塞がれた部屋というのが、この位置だったのだ。

 しかし、何だろうこの感じ。
 俺は指で鼻をつまみながら、男が向けるライトに合わせて室内を見て回った。
 何がどうとはいえないのだが、この部屋に違和感を感じてしまう。その原因がはっきり分からない。

 男は俺の方にライトを向け、心配そうに首を傾げる。

「そんなに匂いますか」
「ええ、ちょっと。あなたは大丈夫ですか?」
「多少古臭い匂いはしますが、そこまでではないですね」

 霊どころか、匂いにも鈍感なのか。俺は男の図太さに呆れてしまう。
 これだけメンタルが強ければ、ここへ1人で帰ってきても動じることはないはずだ。
 見たくもない霊を見て震え上がっている俺よりも、よっぽどこういう人間の方が長生きをする。その適応力が羨ましい限りだ。

「ペンキやら絵の具やら、いろんな匂いが混じっていてなんともいえない匂いがします。どうして窓を閉じているんでしょう? そのせいじゃないですか」

 俺は右手で鼻を押さえるようにして男に疑問を投げかけた。

「ああ、実は2人が出て行ったすぐあと、誰かに悪戯をされて窓ガラスを割られたんです。家主の和久田さんが物騒だからと応急処置で対応してくれたんですが、結局直す気力もなくそのまま放置しています」
「なるほど。でも、奥さまがおっしゃっていた話だと、家主にはこの部屋は使うなと言われていたそうですが」
「ええ、最初にそう言われました。他の部屋より傷んでいて雨漏りもするから、と。でもこの部屋が一番風通しも良くて娘も気に入ったので、内緒で使わせてもらってたんです。痛んでいるとは聞いていましたが、他の部屋と大差ないように思えましたし」
「そうですか」

 娘のいない部屋の窓を、わざわざお金をかけて直そうと思えないのも理解できる。男にとってここは借家だ、直すなら家主がやるべきだろう。
 俺は数日前に出会った軽薄そうな若者の姿を思い浮かべた。
 偏見と言われるかもしれないが、ブランドや車、好きな女のためには金を出すが、関係ないところにはびた一文払いたくないというタイプに思えた。

 俺は男から懐中電灯を受け取り、部屋の中を順に照らしていった。
 この部屋だけは他と違ってずいぶん殺風景だ。足元の畳も剥がされ、窓は塞がれ、部屋の中には生活用品がない。キャンバスや画材、ペンキの缶などが散乱しているのみだ。

 塗り直した成果なのだろう、壁の色は他と違って淡いピンク色をしていた。気持ちが明るくなるようこの色を選んだのだろうが、この闇の中では何の効果も発揮しない。
 この部屋に違和感を感じたのは、畳がないせいかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

骸行進

メカ
ホラー
筆者であるメカやその周囲が経験した(あるいは見聞きした)心霊体験について 綴ろうと思います。 段落ごと、誰の経験なのかなど、分かりやすい様に纏めます。

壊れた世界、壊れた明日

トウリン
ホラー
世界はある日突然終わりを迎えた。 ヒトがヒトを食い殺し、社会は崩壊し、未来が消滅した。 その壊れた世界の片隅で、平凡な女子高生であった江藤明日菜もまた、狂った獣と化した父の牙によって今まさに命を奪われようとしていた。 もう終わる、彼女がそう思った刹那、一人の男が現れたのだ――彼女を護る者として。 彼と共に旅立った明日菜は、終末世界で生き残り、生き足掻く人々と出会う。 ※他サイトとの重複投稿です。

【怖い話】さしかけ怪談

色白ゆうじろう
ホラー
短い怪談です。 「すぐそばにある怪異」をお楽しみください。 私が見聞きした怪談や、創作怪談をご紹介します。

「   」

茶々あやめ
ホラー
初心者。投稿がよく分からない、大丈夫でしょうか。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

ミックスド★バス~家のお風呂なら誰にも迷惑をかけずにイチャイチャ?~

taki
恋愛
【R18】恋人同士となった入浴剤開発者の温子と営業部の水川。 お互いの部屋のお風呂で、人目も気にせず……♥ えっちめシーンの話には♥マークを付けています。 ミックスド★バスの第5弾です。

“Z”ループ ~タイム・オブ・ザ・デッド~

鷹司
ホラー
土岐野《ときの》キザムは、ある日学校内で起きたゾンビカタストロフィーに巻き込まれてしまい、非業の最期を遂げてしまう。 しかし次の瞬間、気が付くと世界は元の平和だった時間に巻き戻っており、キザムは自分の席にいつもと変わらぬ姿で何事も無く座っていた。 悪い夢を見ていたと思い込むキザムだったが、再び起きたゾンビカタストロフィーに巻き込まれて、またも死んでしまう。 そして再び時間は逆戻りして、キザムは再度生き返っていた。 ようやく、ただ事ではない『何か』が起こっていると察したキザムは、ゾンビカタストロフィーとタイムループが起こる謎を解くために、行動を起こすのだった。 ☆タイムループネタとゾンビネタを基本にして、そこにミステリー的な謎解き要素を加えて、学園モノの中に強引に全部詰め込んだ小説です。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

処理中です...