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囚われの家 前編

6話

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 1度の除霊で全てを終わらせず2度目の訪問に持ち込んでさらにお金をふんだくる。これが俺のいつものやり口だ。霊が強力で祓いきれないとか、まだ残党が残っているとかなんとか嘘八百を並べ立てて2回目でしっかりお金をいただくというのが俺のインチキ手法(もちろんその際に、心のケアはしっかり行う)。

 だが今回ばかりはもう二度とこの家に来たくないというのが本音だ。
 霊に遭遇したことは何度もあるが、今回はなんとなく嫌な予感がする。俺の第六感は当たるのだ。

 触らぬ神に祟りなし、俺は部屋の四隅に盛り塩を置いて、数珠を取り出し何事や唱える。
 インチキ商売を5年もこなしていれば、それなりの風格は身に付いてくるものだ。低い声で相手に理解できない言葉をもごもごと唱えながら、時折声に強弱を付ける。これだけでなんとなくすごいお祓いを行っているように見えるから不思議だ。
  
 俺はいつも通りたっぷり時間をかけて基本的なインチキ除霊を終えた。

 いつもならここで、

「低級霊は祓いましたが、大きいものはまだ残っています。後日改めて準備を整えて、本格的な除霊作業に入らせてもらいます」

 という定型文を口にするのだが、現状としてはそれを言うのも憚られる。
 目の端にちらちらと映るものがどうしても気になって仕方がない。

 老女はさっきと同じように親子の背後に立っており、影が薄くなっている様子もない。予想していたことだが、全く祓えていない。当たり前だが、幽霊には俺のエセ祈祷など響きもしないのだ。
 
 俺は大きくため息をつき考える。この老女は誰だろうと……。
 家に憑いているのか、親子に憑いているのか、それが分かるだけでも解決策が見えてくるのだが。

「すいませんが、お2人の目撃したおじいさんやおばあさんはお知り合いの方ではないのですか? 例えば祖父母や曽祖父母とか」
「いえ、全く。もちろんもっと上の代にまで遡った場合、親族にあたる相手かもしれませんが、私の知る限りでは知人も含め知っている人ではありません」

 母親の答えに、娘も同じように頷く。

「なるほど。確か、この家に越してきてから霊を見るようになったということですね。それ以前に似たようなことはありましたか?」
「いえ、全く」

 2人は同時に首を振った。

 ということは、問題があるのは親子ではなくこの家、もしくは土地ということか。
 しかし、俺の調べた限りこの辺りで不穏な事件が起きた過去もなく、土地の歴史を紐解いても格段目を引かれるものはなかった。

 大金持ちの一族が所有し、時代の流れに伴って廃れていった。どこにでもあるような家の成り立ち、そんな感じだ。
 この家の歴史をもっと深く掘り下げていけば原因が掴めるかもしれないが、そこから先は俺の役目ではない。本物の霊媒師が行うことだ。
 偽の霊現象なら口のうまさで上手く丸め込むことができるが、本物相手には太刀打ちできない。ここらが引き上げ時だろう。

「申し訳ありません。できるだけのことはやったのですが相手が強力すぎます。今回はここで終了……」

 そう切り出した時、親子の背後から殺気に満ちた視線が突き刺さる。気づけば老女が鬼のような形相でこちらを睨みつけていた。

 ――――憑り殺される!

 瞬時にそう感じた俺は、絶妙な速さで話の方向を切り替えた。

「できる限りのことはやったのですが、今回はうまくいきませんでした。後日、改めて来訪させてください」
「……そうですか。ご迷惑をおかけしますが、何卒よろしくお願いいたします」

 母親と娘は深々と頭を下げた。
 2人が顔を上げた時には、老女の姿は跡形もなく消えていた。
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