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プロローグ

はじめに……

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 世の中には霊媒師や拝み屋なんて職業があるらしい。
 幽霊に憑かれたり、苦しめられたとき、あるいは死者と交信したい時に力を貸してくれる相手だ。
 
 普通に生活している分には、こういった職業の人にお目にかかることはないだろう。大概はテレビやドラマ、バラエティーの中で活躍する姿を見るのみだ。

 テレビはある程度視聴率が大事なので、見る側が興味を引くよう数多の演出をほどこしている。大袈裟な演技や絶妙なタイミングで事件が起こる映像を見て、大方の視聴者は「嘘臭い」という感想を抱くだろう。

 霊媒師たちもテレビに出る以上、局の意向に従って劇場型の演技をしなければならない。本人の意思とは関係なく演出が優先されてしまうものだから、彼ら・彼女らの姿が余計に悪目立ちしてしまい、微妙な空気感が漂ってしまう。

 こういった悪循環が視聴者に「霊媒師=インチキ」という印象を与える要因のひとつだろう。

 


  ◇  ◇  ◇




 俺、椿風雅(つばきふうが)29歳は、自称・お祓い屋をやっている。

 先頭に自称をつけたのは、文字通り「自称」だからだ。資格があるわけでも、実績があるわけでもない。実際に霊を祓う能力などないに等しい。
 本来であれば「詐欺師」と名のらなければならないエセ商売なのだが、俺の場合完全に詐欺なのかと言われればそうでもない。
 
 依頼者に呼ばれ相手の話に耳を傾け、霊を払った「ふり」をする。
 そしていくばくかのお金をいただく――これが俺の仕事だ。

 大儲けというわけでないが、ありがたいことに自分1人がほそぼそと食べていけるくらいのお金は貰えている。
 なぜこのような詐欺商売がまかり通るかと言えば、多くの霊現象が偽物や思い込みからくる自然現象だからだ。

 家に何かいる気配がする、良くないことが続くので憑かれている、ある人の恨みをかったので呪われている。だいたいの依頼がこういった漠然としたものだ。
 どれも本人の思い込みや勘違いから来ているもので、一度そう信じたら部屋の染みも人の顔に見えてくるし、ちょっとした家鳴りも恐ろしいものになってくる。

 過去にその家で人が死んだとなれば、誰だってなんとなく怖いと感じるだろう。こういった「なんとなく」という漠然とした恐怖が起因となって、心理的にどんどん沼にはまっていく。最終的には、全ての偶然やアクシデントが「霊現象」に変わってしまうのだ。

 はっきり言ってばかばかしいの一言に尽きるわけだが、わざわざインターネットで俺みたいな無名のお祓い屋を頼ってくるあたり、依頼者本人は大真面目に悩んでいるのだ。

 初回料を交通費プラス2万円というお値打ち価格に設定しているおかげで、意外とカモ(客)がよく釣れる。

 最初は安く見積もっておいて、相手と面談したのち「一度では祓えない」だとか「やっかいな相手だ」ともったいぶって、2回目の訪問にこぎつける。ここで数十万単位のお金をちょうだいし、霊を祓うのだ。もとい、祓ったふりをするのだ。

 さもそれらしいことを言い、霊が消えたと言えば相手は納得する。
 なるべくメンタルが上がるようなことを言ってあげるし、時には病院への受診も打診する。
 多かれ少なかれ霊現象に悩んでいる人は精神的に参っていることが多い。医者の力を借りればケロリと治ってしまうこともあるくらいだ。

 お祓い屋なんかを頼るよりメンタルクリニックに通った方がよっぽど即効性が高い場合も多いが、そうされると俺の商売が上がったりになる。あくまで霊は俺が祓い、心のケアを医者が担当するというスタンスだ。
 罪悪感はない。俺としては相談料を受け取っているつもりなのだから。

 依頼者の気持ちに寄り添って不安を取り除いてやる。医師の免許がないだけで、これも「治療」のひつとではないだろうか。相手がそれで満足していればお互い万時OKなのだ。
 
 決して悪徳詐欺ではない。それだけは言っておきたい。
 だた、街で警察官を見かけると、少しだけ不安な気持ちになるのはなぜだろう……。
 
 
 なんだか自己弁護のような前置きになってしまったが、こんな感じで詐欺商売、もといお祓い屋を続けて早5年になる。
 つい最近、助手の紗里に勧められ自身の経験した魔訶不思議な体験を記録として残しておこうと思い至った。
 小説など書いた経験がなく全く乗り気ではないのだが、紗里が言うのだから仕方がない。俺は彼女に勧められるがままに、しぶしぶ筆を執った。

 過去の依頼者の中に偶然出版関係の仕事をしている男がいたため、彼を頼って自費出版にこぎつけた。
 いつまでもこんな商売が続くとは限らない、頭の片隅に「印税」という言葉が浮かんだことは必然だろう。

 どこにでもある雑記録的な本が売れるはずもないが、何かのキッカケで映像化の話が舞い込んでくるかもしれず、運よくテレビ出演に繋がれば儲けもんだと思っている。頭の中でそんな皮算用をしながら、俺は黙々と自著執筆に挑んだ。
 
 この本には俺が今までこなしてきた仕事の中から、ちょっと特殊なものを3件ほど紹介している。

 信じがたい内容のものが多いが、本当にあった事件だ。信じてくれなくても構わない、どんな理由であろうと、この本を手に取ってくれたあなたに心から謝意を示したい。
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