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会合
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深夜、森の中を一台のリムジンが走行していた。
その車の運転手はハンドルを握りながら何度も後部座席に座る二人を気に掛ける。
なぜならその二人はこの数分間無言のまま険悪な雰囲気になっていたからだ。
一人は局長のライアン、もう一人はレイナ。
これから他の局長との会合のため移動しており、レイナはその護衛のため一緒に乗っているのだが、一切ライアンを守るつもりはない。
その証拠に、腕組みをしたまま足も組んでいる。
これはいざというとき動くつもりはない、という意思表示であった。
そんな彼女の態度をライアンは気に入るはずがなかった。
数十分前。
射撃訓練所で標的を撃っているレイナの元へライアンの側近であるエミリアがやってくる。
「レイナ、ライアンが会合に行くから護衛をして」
溜め息混じりの言葉。
レイナは無視したまま銃を撃ち続ける。
「ちょっと、聞いてるの?」
苛立つエミリアに、レイナは正面を見たまま口を開く。
「聞いてる、貴女が行けばいい」
「私じゃ護衛は無理よ」
「なら他の人に頼んで」
「あんたじゃなきゃダメなのよ、デュランさんからの伝言よ」
「……え?」
レイナは眉間に皺を寄せながらようやくエミリアの顔を見る。
それは嘘ではないのかといった顔だった。
その怒りを滲ませた表情に、エミリアは若干動揺する。
「ほ、本当よ、レイナに護衛を頼むって」
「……はぁ」
大きく息を吐き、不機嫌そうにレイナは部屋を出ていく。
必要な装備を整えた後、すでにライアンが乗り込んでいる黒のリムジンが停めてある正面玄関前に向かった。
そして、リムジンを前に呆れる。
なぜなら、会合へ向かうためにはあまり目立たない車が望ましい。
そうでなければ敵対している者に見つかり追跡される可能性があるからだ。
しかし、ライアンは無駄に贅沢思考なのかこの車を手配させた。
そのことにレイナは頭痛がしそうだった。
(本当にバカなのね)
ドアを開け乗車すると、案の定見たくもない男の姿が奥にあった。
「遅いぞレイナ、他の局長を待たせる気か」
「子守りするための道具が揃わなくて」
「なっ、子守りだと……!?」
お坊っちゃんのような扱いをされ、怒るライアン。
だが、レイナは無視して運転手に話しかける。
「出して頂戴、早くしないと子供がお漏らしするかも」
「お前!!」
案の定怒るライアンをよそに、運転手は我関せずといった様子のまま車を走らせた。
そうして車内は険悪な雰囲気のまま目的地へと向かっていく。
会合場所は敵の襲撃を避けるため決まっていない。
予め政府が管理している複数の屋敷の中から、その都度会合するための場所を決める。
今回は少々遠い場所のため、若干時間が掛かっている。
車内にいる誰もが口を閉ざしたまま、遂に目的地に到着した。
森の中、比較的高い場所に位置する白を基調とした屋敷。
門の中の敷地内には、銃を持ち黒いロングコートを着た吸血鬼が複数警護にあたっていた。
屋敷の正面に駐車されたリムジンから、まずレイナが降りるとそのまま玄関へ向かっていく。
続けてライアンが降りるが、車のドアを執事のように閉めるはずのレイナが先に行ったことで舌打ちをする。
周囲の吸血鬼が頭を下げる中、レイナは屋敷へ入った。
広いエントランスホールには既に到着していた三人の人物がいる。
左手側のロングコートを着た二人組がいた。
一人は白に近い金髪のショートヘアーの気の強そうな女性ビアンカ。
もう一人は赤の短いソバージュヘアーの軟派な雰囲気の男性ロッソ。
右手側には白いずきんに白のワンピースを着たアルビノの少女メイジー。
いずれも各局長の護衛のために来た実力者である。
そこへ、まるで大物のように両手を広げてライアンが入ってくる。
「ようお前達、もう集まったみたいだな」
その態度にレイナは呆れ、周りの者達も特に反応しない。
だが、そんな雰囲気などお構い無しに、ライアンは奥にある部屋へ歩いていく。
その先にある会議室には先に到着していた局長達が待っている。
まるで自分は主役であるかのように、ライアンは会議室へ入っていった。
エントランスホールに残された者達の内、最初にロッソが口を開いた。
「レイナ、お前も大変だな、あんなお子ちゃまの相手をしなきゃならないなんて」
「あいつのためじゃない、デュランさんのため」
「そっか、真面目だねぇ」
今にもナンパしてきそうなロッソ。
そんな彼とは対照的に、ビアンカが不満そうに近づいてくる。
「あんたは私らと違ってブラッドハウンドの称号を貰ってるんだ、子守りくらいなんてことないだろう」
「おいビアンカ、やめろ」
「ロッソ! あんたからも言ってやりな、どうして私達はグレイハウンド止まりなのにレイナは違うのかってな」
ビアンカとロッソはグレイハウンド。
つまり、最高の称号であるブラッドハウンドの一つ前の称号止まりのままだ。
そのことにビアンカは苛立っていた。
そして、物事をハッキリ言う性格のままレイナに当たった。
しかし、レイナは相手にしない。
ライアン達局長の部屋を背にその場を離れていった。
「チッ、私らは眼中にないってツラね」
「もうよせビアンカ」
「だって!! 私とあんたで何匹奴らを狩ったの!? もうブラッドハウンドの称号を貰っても良いでしょう!?」
ビアンカの言うとおり、二人は今まで多数の人狼を倒してきた。
だが、ロッソはその称号を貰えない理由がなんとなく分かっている。
「なあビアンカ、それは俺たち二人で戦ってようやく倒してるからだろう? レイナは一人でフェイズ3の奴を倒してるんだ」
この二人の戦闘スタイルは、ロッソが2丁拳銃で相手を牽制し、両手にナイフを持ったビアンカが敵に斬り込む、というものだった。
たしかに二人はフェイズ3の個体も倒しているが、それは相手一体を二人掛かりでやっとといった具合だった。
しかし、ビアンカは納得がいかない。
「あの女はプラチナのブレードを持ってるでしょ!? 私達は持ってない!!」
「持ってたとしても一対一じゃ無理だ……」
何度もフェイズ3の人狼と戦い、その動きや強さを体感し、自分達の身体能力と客観的に比べたロッソには一対一では勝てないと分かっていた。
「あいつの味方するの? ロッソ!!」
「そうじゃない、落ち着けよビアンカ」
二人は付き合っているが、いつもこんな様子だった。
昔から気が強く、プライドも高いビアンカは戦闘では頼りになるが熱くなりやすく冷静さが欠けている。
対するロッソはニヒルだが冷静な性格で見栄より命を優先する。
そんな凸凹コンビのやり取りを、アルビノの少女メイジーは興味を示すことなく静かに、かつ気づかれることなく去っていった。
レイナが一人廊下を歩いていくと、向こうからサブマシンガンを持った男の吸血鬼が歩いてくる。
レイナとの距離が近くなると、相手はすぐ壁を背にして道を譲る。
まるでその国の首相が通るのを護衛が見ているような状況だった。
たとえこの護衛がレイナのいる施設の吸血鬼でないとしても、ブラッドハウンドの称号を持つレイナより立場は下の一般兵。
男はそのことがわかっているからこそ失礼のないようレイナが通りすぎるまで微動だにしない。
レイナもそれがわかっているが、決して傲慢な態度を取ったりしないよう速やかに通りすぎる。
しかし、後ろから一人の少女が尾行していることに気がついていない。
唯一気がついたのは道を譲った護衛のみだった。
レイナがしばらく歩いていくと、大量の本が貯蔵されている図書室へたどり着いた。
この屋敷の見取り図はあまりわからなかったが、過去様々な所へ行った経験から大体の目星は付いていた。
こういった屋敷は大抵の場合はどこかに本が蓄えられている。
その勘が見事に当たった。
この場所の独特の本の匂い。
かつて人間だった頃の記憶が甦る。
あまり他者と話さず本ばかり読んでいたあの日々。
ここにあの時読んでいた物と同じ本がないか淡い期待を寄せる。
そうして本棚へ近づこうとしたその時。
「レイナ」
「!?」
後ろから声を掛けられた。
ここには今自分一人しかいないと思っていたレイナは、思わず懐の銃に手を掛けながら振り返った。
しかし、白い姿の少女を見て警戒を解く。
「メイジー……」
「久しぶり……かな?」
どこか儚い雰囲気だが、レイナはその少女を年相応の相手として見ていない。
他の施設の吸血鬼、特に腕の立つ者のプロフィールはおおよそ報告書等から頭に入っていた。
その中でも、レイナはメイジーのことを不審に思っていた。
なぜなら彼女はその小さい見た目に反して数多くの人狼を一人で狩っている。
そのことでレイナはある疑惑を抱いていた。
もしかしたら殺しを楽しんでいるのではないか?
そんなことを考えているレイナに、メイジーは薄ら笑いの表情を見せる。
「私に、銃の使い方、教えて」
「……私にではなく貴女の上司に言ったら?」
「言ったけど、駄目だって、私、手が小さいから、かな?」
「さあ……」
レイナからは特に話すことはないので、言葉に詰まってしまう。
すると、メイジーはうつ向きながら口を開く。
「私、称号、貰ってないの、沢山、殺してるのに、どうして?」
メイジーは現在何の称号も貰っていない。
戦績だけを見れば十分資格はあるように思えた。
「レイナは、ブラッドハウンド、私は、何もない、まだ、殺し足りないの?」
「それは私が判断することじゃないから何も言えない」
「そう……」
先ほどの笑みは消え、落胆する様子のメイジーは振り返って部屋を出ていった。
姿を見なければほとんど気配を感じ取れないその姿に、レイナは少女が他の吸血鬼から何と呼ばれているか思い出す。
その白い服が返り血で赤く染まるまで戦う『血まみれの赤ずきん』と。
その車の運転手はハンドルを握りながら何度も後部座席に座る二人を気に掛ける。
なぜならその二人はこの数分間無言のまま険悪な雰囲気になっていたからだ。
一人は局長のライアン、もう一人はレイナ。
これから他の局長との会合のため移動しており、レイナはその護衛のため一緒に乗っているのだが、一切ライアンを守るつもりはない。
その証拠に、腕組みをしたまま足も組んでいる。
これはいざというとき動くつもりはない、という意思表示であった。
そんな彼女の態度をライアンは気に入るはずがなかった。
数十分前。
射撃訓練所で標的を撃っているレイナの元へライアンの側近であるエミリアがやってくる。
「レイナ、ライアンが会合に行くから護衛をして」
溜め息混じりの言葉。
レイナは無視したまま銃を撃ち続ける。
「ちょっと、聞いてるの?」
苛立つエミリアに、レイナは正面を見たまま口を開く。
「聞いてる、貴女が行けばいい」
「私じゃ護衛は無理よ」
「なら他の人に頼んで」
「あんたじゃなきゃダメなのよ、デュランさんからの伝言よ」
「……え?」
レイナは眉間に皺を寄せながらようやくエミリアの顔を見る。
それは嘘ではないのかといった顔だった。
その怒りを滲ませた表情に、エミリアは若干動揺する。
「ほ、本当よ、レイナに護衛を頼むって」
「……はぁ」
大きく息を吐き、不機嫌そうにレイナは部屋を出ていく。
必要な装備を整えた後、すでにライアンが乗り込んでいる黒のリムジンが停めてある正面玄関前に向かった。
そして、リムジンを前に呆れる。
なぜなら、会合へ向かうためにはあまり目立たない車が望ましい。
そうでなければ敵対している者に見つかり追跡される可能性があるからだ。
しかし、ライアンは無駄に贅沢思考なのかこの車を手配させた。
そのことにレイナは頭痛がしそうだった。
(本当にバカなのね)
ドアを開け乗車すると、案の定見たくもない男の姿が奥にあった。
「遅いぞレイナ、他の局長を待たせる気か」
「子守りするための道具が揃わなくて」
「なっ、子守りだと……!?」
お坊っちゃんのような扱いをされ、怒るライアン。
だが、レイナは無視して運転手に話しかける。
「出して頂戴、早くしないと子供がお漏らしするかも」
「お前!!」
案の定怒るライアンをよそに、運転手は我関せずといった様子のまま車を走らせた。
そうして車内は険悪な雰囲気のまま目的地へと向かっていく。
会合場所は敵の襲撃を避けるため決まっていない。
予め政府が管理している複数の屋敷の中から、その都度会合するための場所を決める。
今回は少々遠い場所のため、若干時間が掛かっている。
車内にいる誰もが口を閉ざしたまま、遂に目的地に到着した。
森の中、比較的高い場所に位置する白を基調とした屋敷。
門の中の敷地内には、銃を持ち黒いロングコートを着た吸血鬼が複数警護にあたっていた。
屋敷の正面に駐車されたリムジンから、まずレイナが降りるとそのまま玄関へ向かっていく。
続けてライアンが降りるが、車のドアを執事のように閉めるはずのレイナが先に行ったことで舌打ちをする。
周囲の吸血鬼が頭を下げる中、レイナは屋敷へ入った。
広いエントランスホールには既に到着していた三人の人物がいる。
左手側のロングコートを着た二人組がいた。
一人は白に近い金髪のショートヘアーの気の強そうな女性ビアンカ。
もう一人は赤の短いソバージュヘアーの軟派な雰囲気の男性ロッソ。
右手側には白いずきんに白のワンピースを着たアルビノの少女メイジー。
いずれも各局長の護衛のために来た実力者である。
そこへ、まるで大物のように両手を広げてライアンが入ってくる。
「ようお前達、もう集まったみたいだな」
その態度にレイナは呆れ、周りの者達も特に反応しない。
だが、そんな雰囲気などお構い無しに、ライアンは奥にある部屋へ歩いていく。
その先にある会議室には先に到着していた局長達が待っている。
まるで自分は主役であるかのように、ライアンは会議室へ入っていった。
エントランスホールに残された者達の内、最初にロッソが口を開いた。
「レイナ、お前も大変だな、あんなお子ちゃまの相手をしなきゃならないなんて」
「あいつのためじゃない、デュランさんのため」
「そっか、真面目だねぇ」
今にもナンパしてきそうなロッソ。
そんな彼とは対照的に、ビアンカが不満そうに近づいてくる。
「あんたは私らと違ってブラッドハウンドの称号を貰ってるんだ、子守りくらいなんてことないだろう」
「おいビアンカ、やめろ」
「ロッソ! あんたからも言ってやりな、どうして私達はグレイハウンド止まりなのにレイナは違うのかってな」
ビアンカとロッソはグレイハウンド。
つまり、最高の称号であるブラッドハウンドの一つ前の称号止まりのままだ。
そのことにビアンカは苛立っていた。
そして、物事をハッキリ言う性格のままレイナに当たった。
しかし、レイナは相手にしない。
ライアン達局長の部屋を背にその場を離れていった。
「チッ、私らは眼中にないってツラね」
「もうよせビアンカ」
「だって!! 私とあんたで何匹奴らを狩ったの!? もうブラッドハウンドの称号を貰っても良いでしょう!?」
ビアンカの言うとおり、二人は今まで多数の人狼を倒してきた。
だが、ロッソはその称号を貰えない理由がなんとなく分かっている。
「なあビアンカ、それは俺たち二人で戦ってようやく倒してるからだろう? レイナは一人でフェイズ3の奴を倒してるんだ」
この二人の戦闘スタイルは、ロッソが2丁拳銃で相手を牽制し、両手にナイフを持ったビアンカが敵に斬り込む、というものだった。
たしかに二人はフェイズ3の個体も倒しているが、それは相手一体を二人掛かりでやっとといった具合だった。
しかし、ビアンカは納得がいかない。
「あの女はプラチナのブレードを持ってるでしょ!? 私達は持ってない!!」
「持ってたとしても一対一じゃ無理だ……」
何度もフェイズ3の人狼と戦い、その動きや強さを体感し、自分達の身体能力と客観的に比べたロッソには一対一では勝てないと分かっていた。
「あいつの味方するの? ロッソ!!」
「そうじゃない、落ち着けよビアンカ」
二人は付き合っているが、いつもこんな様子だった。
昔から気が強く、プライドも高いビアンカは戦闘では頼りになるが熱くなりやすく冷静さが欠けている。
対するロッソはニヒルだが冷静な性格で見栄より命を優先する。
そんな凸凹コンビのやり取りを、アルビノの少女メイジーは興味を示すことなく静かに、かつ気づかれることなく去っていった。
レイナが一人廊下を歩いていくと、向こうからサブマシンガンを持った男の吸血鬼が歩いてくる。
レイナとの距離が近くなると、相手はすぐ壁を背にして道を譲る。
まるでその国の首相が通るのを護衛が見ているような状況だった。
たとえこの護衛がレイナのいる施設の吸血鬼でないとしても、ブラッドハウンドの称号を持つレイナより立場は下の一般兵。
男はそのことがわかっているからこそ失礼のないようレイナが通りすぎるまで微動だにしない。
レイナもそれがわかっているが、決して傲慢な態度を取ったりしないよう速やかに通りすぎる。
しかし、後ろから一人の少女が尾行していることに気がついていない。
唯一気がついたのは道を譲った護衛のみだった。
レイナがしばらく歩いていくと、大量の本が貯蔵されている図書室へたどり着いた。
この屋敷の見取り図はあまりわからなかったが、過去様々な所へ行った経験から大体の目星は付いていた。
こういった屋敷は大抵の場合はどこかに本が蓄えられている。
その勘が見事に当たった。
この場所の独特の本の匂い。
かつて人間だった頃の記憶が甦る。
あまり他者と話さず本ばかり読んでいたあの日々。
ここにあの時読んでいた物と同じ本がないか淡い期待を寄せる。
そうして本棚へ近づこうとしたその時。
「レイナ」
「!?」
後ろから声を掛けられた。
ここには今自分一人しかいないと思っていたレイナは、思わず懐の銃に手を掛けながら振り返った。
しかし、白い姿の少女を見て警戒を解く。
「メイジー……」
「久しぶり……かな?」
どこか儚い雰囲気だが、レイナはその少女を年相応の相手として見ていない。
他の施設の吸血鬼、特に腕の立つ者のプロフィールはおおよそ報告書等から頭に入っていた。
その中でも、レイナはメイジーのことを不審に思っていた。
なぜなら彼女はその小さい見た目に反して数多くの人狼を一人で狩っている。
そのことでレイナはある疑惑を抱いていた。
もしかしたら殺しを楽しんでいるのではないか?
そんなことを考えているレイナに、メイジーは薄ら笑いの表情を見せる。
「私に、銃の使い方、教えて」
「……私にではなく貴女の上司に言ったら?」
「言ったけど、駄目だって、私、手が小さいから、かな?」
「さあ……」
レイナからは特に話すことはないので、言葉に詰まってしまう。
すると、メイジーはうつ向きながら口を開く。
「私、称号、貰ってないの、沢山、殺してるのに、どうして?」
メイジーは現在何の称号も貰っていない。
戦績だけを見れば十分資格はあるように思えた。
「レイナは、ブラッドハウンド、私は、何もない、まだ、殺し足りないの?」
「それは私が判断することじゃないから何も言えない」
「そう……」
先ほどの笑みは消え、落胆する様子のメイジーは振り返って部屋を出ていった。
姿を見なければほとんど気配を感じ取れないその姿に、レイナは少女が他の吸血鬼から何と呼ばれているか思い出す。
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