退魔淫妖伝

サノサトマ

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記録その7

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 次の日、授業が終わり放課後の時間になると、琴美は退魔士協会に向かうため酒匂の車で送ってもらっていた。
 昨夜は緊張からあまり眠れなかった。
 これから行われるのは今まで経験したことのない事であり、不安は尽きない。
(大丈夫かな、私)
 そんなことを考えているうちに車は数時間掛けて山奥へ進み、森の中にある目的地に着く。
 そこは、立派な鳥居がある神社だった。
 二人は車を降りて鳥居を潜り奥へ進み、本殿の中へと入る。
 そこには巫女装束の女性が座っており、二人を見ると立ち上がる。
 女性は30代くらいの女性で、長い黒髪に背が高くスレンダーな体型をしていた。顔立ちは凛々しく整っているが、どこか近寄りがたい雰囲気を持っている。
 彼女は琴美を見て微笑む。
「ようこそおいでくださいました、愛園琴美さんですね」
「はい、そうです」
「私は退魔士協会の一条あやねと申します。今回はよろしくお願いしますね」
 退魔士協会は表向きは宗教団体として活動しているものの、実際は妖魔を狩って人々を守る組織でこの神社もまた退魔士のための施設だった。
 そして目の前にいる女性もまた退魔士だ。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
 お互いに挨拶を終えると、酒匂は一条の傍まで行き耳打ちをする。
「この子に変なことはするなよ」
「しないわ、あれから何年経ったと思っているの?」
 二人は琴美に聞こえないように話をしていた。
「それじゃあ一条、後は頼む」
「はい」
「愛園、一週間後に迎えに来る、それまで頑張れよ」
 そう言うとぶっきらぼうな態度のまま踵を返して車に乗り、あっという間に遠くに行ってしまった。
 残された彼女は部屋へ案内される。
 途中、廊下で歩きながら質問する。
「あの、ここは……」
「男子禁制、女性退魔士専用の施設です」
「女性専用?」
「はい、主に女性退魔士の治療、ちょうど貴方のような人のための場所なんですよ」
「……」
 自分が妖魔に酷いことをされた記憶が蘇り、言葉が詰まってしまう。
 そんな雰囲気を察したのか、一条の方から話を続ける。
「ここは清らかな霊脈が溢れている場所なんです、なので安心して治療に専念出来ますよ」
「……私の霊力は、元に戻りますか?」
「それは……貴方次第ですが、全力でお手伝いしますので頑張ってくださいね」
「はい……」
 一抹の不安を抱えながら部屋の前に到着すると、襖を開けた。
 そこは広さ十畳の和室だった。
 一瞬だけ旅行に来た気分になってしまったが、すぐに首を横に振って気を引き締める。
「では、愛園さん、こちらに着替えてください」
 部屋の中央に敷かれた布団、その横に置かれていた白い袴に着替えるよう指示された。
 服を脱ごうとした時、一条が見つめてくるので目が合う。
「あ、あの~……」
「どうしました? さ、早く着替えてください」
 一人で着替えたかったが駄目だったようだ。
 着替え終え、白一色の服装となると、先ほどまで着ていた服を一条が丁寧に畳んで手に持った。
「それではお食事をお持ちしますので、ここで待っていてください」
「あ……」
 琴美からの返事も聞かず、服を持ったまま一条は出ていってしまった。
(帰るときに返してもらえるよね?)
 少し不安に思ったが、仕方ないので大人しく待つことにした。
 それから数分後、食事が運ばれてきた。
 一人用の小さなテーブルの上に並べられたのは、薬味料理のメニューだった。
 琴美は早速箸を手に取り食べ始める。
「んんっ!?」
 ほぼ緑一色の料理は見た目以上に苦い味だった。思わず吐き出しそうになるが我慢する。
(な、何これ……こんなの食べるの?)
 琴美は必死になって吐き気を抑えた。
 その様子を見ていた一条は心配そうな表情をする。
「どうされましたか、愛園さん」
「えっと、この食べ物は何ですか?」
「ここで清められた草で作られた物です、まずは愛園さんの身体の中から薬を取り込んでもらいます」
 砂糖や醤油等、美味に繋がるような味付けは一切していない。
 当然のことながら、口にするまでそんなことを知らなかった琴美は顔をしかめる。
 すると、一条は笑顔で告げる。
「大丈夫ですよ、ちゃんと浄化の効果はありますから」
 そう言われても味に関して嬉しくなかった。  
 だが、これも治療の一環なので残すわけにはいかない。
 少しずつ、なんとか箸を進めていく。
 しかし、飲み込む度に口の中に強烈な苦味が残る。
 耐えながらもなんとか食べ終えた琴美は、大きくため息をつく。
「ぅ、ふぅ……ごちそうさまでした」
「お粗末様でした、それでは次は本命である清めの儀式となります、酒匂さんから聞きましたが、貴方は霊力を取り戻すために一晩行う決心をなされたようですね、なので今の内に睡眠をとってください」
「はい……」
 一条は一人用の小さなテーブルを持って部屋を出ていった。
 残された琴美は、いよいよ本番直前の状態に緊張した。
 酒匂先生からの話。
 もし元の体質に戻りたければ、日没から日の出まで薬効風呂に浸かり薬を何度も飲むというもの。
 ただでさえ今の料理が苦かったのだ。
 それに加えての長風呂。琴美は気が重くなる。
 だが、ただ起きていてもやることはない。
 無理にでも寝るため、布団に横になった。




 そして、遂にその時が来た。
 僅かだが眠れた琴美は一条と共に廊下に出て、ある場所へと案内される。
 まずは脱衣所。ここで着ていた袴を脱ぐが、一条は肌着のみ着用していた。
 不思議に思いながら中に入るとそこは広さ二十畳もある湯治場で、床は石、壁と浴槽は木製の物だった。
 同時に薬の匂いが鼻腔を刺激する。琴美は室内を見渡す。
 広い空間の中心にある大きな浴槽の中には大量の湯が張られていた。
 恐らくあれが薬湯だろう。琴美は一条に指示されるがまま、湯の入った浴槽の前に立つ。
「愛園さん、これから儀式を行いますが……最後に確認します、本当に一晩浸かる覚悟はありますね?」
「……はい」
「霊力を回復させず、浄化だけなら一時間程ですが、いいですね?」
「はい」
 琴美はしっかりと頷く。
 退魔士としての力を取り戻し、妖魔と戦うことを決意したのだ。
 その妖魔を倒すためには、今のままだと駄目だ。
 だから、体質が元に戻るためならどんな辛いことにも耐えてみせるつもりだった。
 覚悟を決めた琴美は髪を結とうとするが、一条が止める。
「あ、愛園さん、髪はそのままにしてください」
「え?」
 通常、風呂に入るときは髪が湯に浸からないように結うのだが、なぜかそのままの状態で入るように指示された。
 何故なのか分からず戸惑っていると、一条が説明を始める。
「愛園さんの身体全てを清めるためです。流石に顔は無理ですが、髪も含めて全身入浴することで穢れが祓われます」
 そう言い終えると一条は琴美の後ろに回り込み、両手で肩に手を置く。
「さぁ始めましょう」
「はい」
 こうして、清めの儀式が始まった。
 これから入る薬湯は、手を入れればすぐ見えなくなるほど黄緑色に濁っていた。
 なんの薬が入れられているかは分からなかったが、ここの薬である以上は汚くはないはずである。
 意を決して右足からゆっくりと入る。
 すると、湯に浸かった部分からピリピリとした刺激が伝わってきた。
「っ!」
 痛みはないが、今まで感じたことの無い感覚だったため思わず声を出してしまった。
 薬の効果なのかと思いつつ、続いて左足を入れる。
 やはり同じ様にピリリときたが、先程よりは慣れていたためなんとか堪えることができた。
 次に腰から胴体、両腕を湯に入れて身体を沈め、やがて肩まで浸かる。
 一人用の浴槽ではあったが、縦横ともに十分余裕のある大きさだった。
 暖かさはぬるま湯程度といったところ。
(なんか、全身変な感じだよぉ……)
 磨り潰してベチャベチャの状態にした薬草でも塗り込んだかのような妙な感覚。
 あまり心地よくない感情を露にしていると、一条が湯の中へ手を入れた。
「?」
 疑問に思う琴美を余所に何かを探し、それを掴む。
 続いて琴美の左手を掴むと、その手首に何かを嵌めた。
「え!? な、なに!?」
 輪っか状の何か、恐らく手錠だろうか。
 しかも引っ張るとすぐ鎖に繋がれていることが分かった。
 なぜ? と困惑するが、一条はすぐ移動して今度は左足首に。次に右足首、最後に右手首に手錠を付けた。
「え、あ、あの、一条さん!?」
 淡々と拘束行為をする様子に若干恐怖を憶える。
 一通り終えると、琴美が入っている浴槽から一歩離れた位置に立つ。
「この儀式を行うにあたって大量の薬を使用して準備しました、なので万が一にも途中で逃げたりすれば無駄になってしまいます、これはそれを防止するための措置です」
 要は『これだけ手間を掛けさせたんだがら最後までやれ』ということだ。
 加えてまだ説明する。
「貴女は大丈夫かと思いますが、中には身体が妖魔に変異しかけている人もいて、浄化されるのを本能的に嫌がって出ようとするんです」
「わ、私、変異してません、けど」
「念のためです」
 どうも信用されていないらしい。
 だが一条の言うことも尤もだと思った琴美は大人しく従うことにしたが、一つ疑問が浮かんだ。
「あ、あの……お手洗いにはどうやって?」
「そのまま中でしてください」
「えぇ!?」
「大丈夫ですよ、その薬湯は排泄物も綺麗にしますから」
「え、で、でも……」
 流石にもう子供ではないのだから、風呂の中で漏らすというのは抵抗感を感じてた、だが一条は素っ気なく対応する。
「先程説明した通り浄化だけでしたら一時間程で済みます、もしそれ以降無理だと感じたら言ってください。では、私は一旦お暇させていただきます」
 そう言って一条は出口に向かう。
「あ、あの……」
 止めようとする琴美の言葉も聞かないまま出ていく。
 扉を閉めた瞬間、結界が張られ中は清らかな霊力で満たされていく。
 あまりの浄化効果に圧迫感を感じ、まるで巨大な風船の中に入れられた気分だった。
 どうやらこれが始まりの合図らしい。
 それから少し経ち、身体全体が熱くなってきた頃。
 薬湯のお陰なのか分からないが、全身がポカポカする。それにしても、と琴美は思った。
(こんな、気持ちいいなんて……)
 最初はその感覚に戸惑ったが、やはり薬湯の力なのだろう。
 しかし、それだけではない。
 なんとも言えない心地よさが全身から染み渡ってくるのだ。
 身体の芯まで暖まるような、それでいて包み込まれるような安心感がある。
 今まで経験したことのない清められていくことの快楽。
 次第に頭がぼーっとしていく。
 手足が手錠で拘束されていなければ、この湯も悪くないと思った。
 だが、そんな考えは時間と共に変わっていく。
 10分、20分、30分と時間が経つにつれて退屈さが増していく。
 加えて長風呂のせいでのぼせてきそうであった。
 まだ一時間も経っていないのにこの有り様である。
 まるで、授業が始まってから大分経ったと思ったが、実際は10分位しか経過していなかった時の時間の遅さの感覚。
 体質を元に戻し、霊力を取り戻すにはこれを明日の朝まで続けなければならないのか、と考えると早く時間が経ってほしいと切に願った。
 そう考えれば考えるほど1秒が長く感じる。
 そもそも時計がないため、徐々に何分経過したかも分からなくなってくる。
 更に言えば、薬のせいか全身が敏感になっているせいでビクッとなってしまう。
 少し呼吸が荒くなり、声が出そうになり湯船に浸かりながら悶えていた。
(早く……終わってぇ……)
 背もたれ部分に身体を預け、天井を見ながらただその時が来るのを待つしかなかった。




―――もうすぐ一時間が経過しようとしていた頃。
 琴美は変わらず浸かっていた、天井を見上げているが目を閉じている。
 することが無さすぎるのである。
 退屈で死にそうになるとは、まさにこのことかと身をもって知った。
 すると、扉が開く音が聞こえた。
 誰かが来たのかと見ると、陶器の湯呑みを持った一条だった。
「愛園さん、お薬の時間ですよ」
 薬ならこの湯で間に合ってるのでは?
 と、鈍った思考で思うが口にはしなかった。
「あ、ありがとう、ございま……っ!?」
 湯呑みを受け取ろうとしたが、鎖付きの手錠のせいで手が届かない。
 せいぜい胸元辺りまでしか動かせなかった。
 そんな彼女の口元に、一条が湯呑みを近づけていく。
「慌てずゆっくりと飲んでくださいね」
 餌を与えられるヒナのように口を近づけるが、湯呑みの中の液体の色を見て一瞬引く。
 なんと、その液体は今琴美が浸かっている薬湯とほぼ同じ色をしていたのだ。
「あ、あの、これは……?」
「この湯とは別の種類の薬ですよ、これで身体の中から浸透させて体内を綺麗にするんですよ」
 ここの食事といい、飲食物はずっと薬と草しか見ていないため、もう進んで飲みたいとは思えなかった。
 それでも貴重な水分補給の機会であることには変わりなかったため、不味いことを覚悟の上で少し口に含んだ。
「んぐっ!?」
 予想通り、というより予想以上に不味かった。
 なんだこれは? と言わんばかりに一条を見るが、笑顔で返される。
『早く飲んで下さいね』と顔に書いてあるようだった。
 渋々といった様子で琴美は飲む。
 喉を鳴らしながら少しずつ嚥下していく。
 やがてやっとの想いで全てを飲み干すと、一条はそそくさとその場を後にした。
 せめて一言、例えば今の時刻や励ましの言葉を何か掛けてほしかった。
 それからしばらくしてさらなる異変が起きる。
 恐れていたこと、尿意である。
(ど、どうしよう……)
 無駄だと分かっていても手や足を動かすが、やはり手錠のせいで出られない。
(やだやだやだ、こんなところで漏らすなんて)
 いっそ終了時間まで耐えるかと考えたが、どうも現実的ではない程排泄欲求が強くなってくる。
 両足を閉じて股に力を入れ、なんとか我慢するが限界に近づいていた。
 顔を真っ赤にして俯く。
(うぅ……いや……恥ずかしいよぉ……)
 その表情は羞恥に染まり、泣きそうな目になっていた。
 数分後、耐えた甲斐なくついに決壊した。
 浸かっているお湯の中に漏らすという失態は避けたかったが、膀胱はもう本人の意思など受け入れずに放出する。
 一度漏らすと、残りの尿も勢いよく出た。
 幸いにも湯の色は変わらなかったが、もしそうでなければと思うと、とてもじゃないが平静でいられなかっただろう。
 湯からは相変わらず薬の匂いがしたままで、アンモニア臭はなかった。
 その後しばらく放心していたが、ようやく我に返るとまるでベッドに漏らしたかのような羞恥心に襲われる。
 そして、今の自分に情けなくなる。
 この歳になってお漏らしするなんて。
 ほんの少しだけ、この儀式を受けたことを後悔してしまう。
 だが、すぐに顔を左右に振る。
(ここで折れちゃだめ、先生みたく耐えて身体を元に戻さなきゃ)
 恥ずかしいという感情を押し潰し、酒匂先生の顔を思い浮かべる。
 あり得ないが、もしここへ居たらきっと厳しい言葉を投げ掛けるだろう。
 自分で自分を鼓舞し、目を閉じ心を無にして時間が経過するのを黙って待った。
 それから、始まってから約二時間程経過しただろうか。
 また、別の欲求に苛まれる。
 なぜか発情してしまっていた。
 長時間浸かっていたことによる心拍数の上昇で身体が錯覚しているのか。
 それとも薬による浄化の効果か。
 正確には分からなかったが、とにかく性的な欲望で頭が満たされていった。
(なんで……なんで……こんな……)
 やはり妖魔に長時間弄られた影響で身体の中から変わってしまったのか。
 本当に元の体質に戻れるのだろうか。
 そう考えながら、右手が無意識の内に右胸を触ってしまった。
「ひぅっ」
 敏感になっている自身の感覚に、思わず声が出てしまった。
 すぐに手を離すが、ますます興奮が増してしまう。
 のぼせ掛けている頭が、我慢することよりいっそ発散させた方がいいという考えを強める。
(一条さんが、来る前なら……)
 まるで頭の中の悪魔が囁くような甘美な誘惑。
 理性はそれに抗おうとするが、もはや抵抗できないほど思考力は低下していた。
 左手で左胸を下から持ち上げる。
 よくこんな手に余る大きさになったと思いながら揉んでいく。
 もう理性が本能に負けてしまった。
 右手の指先をゆっくりと下腹部の方へ移動していき、遂には秘所に触れた。
「あっ……」
 割れ目に人差し指と中指を這わせ、過去にした自慰行為と同じように上下に擦っていく。
「あ、あ、いい、これ、いい」
 動かせば動かすほど快楽を得ていく。
 我慢していた分、より強く、もっと欲してしまう。
 右手の二本の指先を、ゆっくりと中へ入れていく。
「あ、ひ、くぅぅ」
 妖魔に犯される前、処女の時は深く指を入れなかった。
 だが、今は痛みなど感じない。快楽だけ感じている。
 自分では初めて触れる場所へ、さらに奥へと進めていき、ある所まで来た時だった。
「んああぁ!」
 一際大きな声で喘ぐ。
 そこは琴美にとって一番感じるところであり、同時に最も弱い部分でもあった。
 そこを重点的に責め続けると、膣内から愛液が溢れ、薬湯と混じっていく。
 琴美の身体は今や完全に生娘から女のものになっていた。
 もう快楽一色となった頭で妖魔に犯されていた時のことを思い出す。
 あの肉棒で刺激されていた所。
 その時の再現をしようと指で掻き回していく。
 爪を立てず、指の腹で膣壁をなぞるように動かしたり、時にはGスポットを刺激するように曲げたりする。
 その度に口から甘い吐息が漏れた。
 やがて、限界を迎える頃合いになると、自然と手の動きが早くなっていく。
「あ、ふ、い、イクッ!イッちゃう!!」
 もうここが何処か、一条が入ってくるかもしれない等考えていられない。
 快楽に身を任せるしかなかった。
 より激しく愛撫し、高まっていく。
 その感覚が限界を越えた瞬間、激しく絶頂した。
「イッックウゥゥゥゥゥゥゥゥウ!!」
 鎖を引き千切るのではないかという程強く身体の仰け反らせる。
 無論彼女の力では千切れないが、それでも手錠が肌に食い込む程に強く引っ張っていた。
 秘部からは大量の潮を吹き出し、それが薬湯の中で混ぜられた。
 そのまま気絶しそうになるが、何とか踏み止まる。
 しかし、まだ身体はビクビク震えており、肩で呼吸をしていた。
「はーっ、はーっ、はーっ」
 完全に脱力したまま口を開け、空虚な表情で天井を見る。
 こんな痴態は他の人に見せられない。
 そう思っていた時だった。
「気持ちよかったですか?」
「!?!?!?」
 出入り口から声がした。
 慌ててそちらへ顔を向けると、一条さんが立っていた。
「あ、あ、あ、あの……い、い、いつ、から……」
「私がここへ入った時は随分と激しく自慰行為をされていましたよ」
「そ、そんな……」
 見られた。見られてしまった。こんな淫らな姿を。
 恥ずかしさと絶望感が琴美の心を埋め尽くす。
 あまりのショックに言い訳するための言葉も出ない。
「さて、お薬の時間ですよ、しっかり飲んでくださいね」
 まるで何事もなかったかのように、またも黄緑色の液体が入った湯呑みを持ってくる。
 それを最初の時と同じように琴美の口へ近づけると、もうヤケクソだ、と言わんばかりに飲み干した。
「良い飲みっぷりでしたね、それではまた」
 それだけ言うと、一条は出ていった。
 残された琴美は再び目を閉じる。
 もう何も考えたくない。
 ただ眠りたい。そんな気分だった。
 諦めの境地に達した琴美は、時間が過ぎるのを待つようにゆっくりと目を閉じた。




 もうどれ程の時間が経過しただろうか。
 まるで何日も入っているかのような錯覚を憶える。
 一条が来るときに時刻を聞くのだが、なぜかキリのいい時間には来ていない。
 40分後に来ることもあれば1時間後に来たりと不定期だった。
 時折、数人の他の巫女が薬湯が入った桶を持ってくると、琴美が入っている浴槽に追加していく。
 そして最後に来たときに聞いた時刻は夜中の2時過ぎ。
 ようやっと半分位は過ぎたのかと思うが、長時間の入浴のせいで思考、身体共々脱力していた。
 自分はなんのためにここにいるのか、という自問さえしてしまう。
 そんな時に扉が開けられる音。
 また一条が薬を持ってきたようだが、首を動かす気力すらない。
 浴槽の縁に頭を乗せたまま近くに来た一条の手を見ると、湯呑みではなく皿を持っていた。
 持ってきたのは、まるで抹茶羊羮のような固形の食べ物だった。
「それ、は……?」
「特別に冷やした羊羮です、ここの薬が入っているため甘くはありませんが」
 ここに来て冷たい物が食べられることに、少しだけ喜んだ。
 二股の小さな竹のフォークでそれを小さく切って刺すと、琴美の口へ近づける。
 弱々しくも、まるで金魚のように口を開ける。
 そこへ入れられる薬味羊羮。
 味は相変わらずだが、その冷たさはまるで砂漠で飲む水のようだった。
 一口、また一口と食べさせてもらう。
 遂に食べ終わると、少しだけ名残惜しく感じた。
 そんな様子を一条は嬉しそうに見つめる。
 なぜ見つめてくるのだろうか?
 疑問に思っていると、背後に移動し後ろから抱き締めてきた。
「……え? あ、一条、さん?」
 突然の包容に戸惑う。
 すると、一条は手を湯の中へ入れ、乳房を両手で両側から挟むように揉みだした。
「ぁん……あ、え、い、一条さん?」
「頑張っている貴女のために私がお手伝いしますよ」
「え? え? え???」
「先程、貴女は自慰行為をしていましたが、今ここでは良いことなんですよ」
「あ、え……?」
 説明をしながら一条は揉み続ける。
「あの行為で更に体液が外に出ますからね、特に妖魔に重点的に汚されたそこに指と入れることで薬湯も膣内に入りますから、恥ずかしがることはありませんよ」
 一条の右手が胸から腹、下腹部を伝って下へ向かっていく。
「あぁぁ、あ、そこは……」
 琴美の最も敏感な場所に一条の指が到達すると、ゆっくりと人指し指を挿入していった。
 その瞬間、身体がビクッ震えたが、手錠で拘束されているため抵抗できない。
 出来ることといえば、一条の手に自分の手を添えるように掴むだけ。
 出来るだけ最大限の抵抗をしているつもりだったが、その弱々しさからもっとしてほしいように押し付けているようにしかなっていない。
 一条はそんな琴美の気持ちを知ってか知らずか、左手で乳首を摘まみながら右手の人指し指を曲げ、胎内の天井を刺激する。
「ひぃ! あっ!! ああ!」
 琴美は悲鳴にも似た声を上げるが、一条は構わず刺激を続ける。
 中指も追加して二本同時に責め立てる。
 さらに親指を使いクリトリスを弄ぶと、ビクビクッと連続して震えた。
「やっ!もうだめぇ……!!」
 女性に愛撫されるという今まで経験したことの無い快感に耐えられず、元々敏感になっていたせいかあっさり絶頂を迎える。
 身体が仰け反り、足がガクガクと痙攣する。
 しかし、まだ満足しないのか、一条は愛撫をやめない。
 行為をしつつ横から抱きつくと、琴美の顔の向きを自身に向けさせ接吻をした。
「んんっ!?」
 舌を入れられ絡ませられる。
(わ、私、こんな……)
 今度は女との初めてのディープキス。
 だが、嫌ではなかった。
 戸惑いはしたものの、むしろ心地好かった。
 妖魔のように欲望を満たすための乱暴なものではない。
 身体を気遣ってくれるような優しい愛撫。
 そんな快楽に浸っていた時、一条は秘所への刺激を少し強める。
「ふぅん……んんっ!!!」
 再び訪れた強い感覚に腰が浮く。
 そのまま一条は、膣内に挿れた指を折り曲げ、肉壁を刺激していく。
 そして、ある箇所を探り当て、そこを中心に激しく擦った。
「ひっ! そ、そこはダメです……あぁん!!」
 琴美の弱点をここぞとばかりに、何度も責める。
「は、激しい……ああん、はぁ、は、激しすぎます……あ、ま、また、イクッ……ああ、あーー!!」
 二度目の絶頂を迎え、琴美は再び脱力してしまう。
 それを見て一条は微笑んだ後、耳元で囁いた。
「またイッちゃったね、安心して、これも儀式の一環だから……このまま寝ても大丈夫、溺れないように支えてあげるから、勿論、眠ったままでも気持ちよくしてあげる」
 その言葉に琴美はゾクっとした。
 恐怖ではなく期待からだ。
(どうしよう、すごく気持ちいい……けど……これ以上したら、戻れなくなる気がする)
 琴美は心の中で葛藤していた。
 だが、絶頂した余韻と疲労から意識が遠ざかっていく。
 それでも一条の手は止まらない。
 重くなっていく目蓋。
 耳まで舐められ、ピチャピチャという音が脳に心地よく響いていく。そして遂には眠りについてしまった。




「ハッ!?」
 一瞬だけ深い谷底に落ちたような感覚を感じた直後、琴美は起きた。
 状況は変わらず薬湯に浸かったままだが、後ろから誰か胸を揉んでいた。
「あ、起きました?」
「え、あ、一条さん?」
「少し寝てしまったようですね、フフッ、可愛かったですよ、眠ったままでも感じて」
「え、あ、うぅ……」
 恥ずかしそうにする琴美に対し、一条は更に続ける。
「それにしても、良い身体つきですね、お腹も引き締まってるし」
「ひゃ……!」
 おへそ周りを撫でられ驚く琴美だが、一条は耳打ちをした。
「少しですが、霊力が生成され始めましたよ」
「え!?」
 羞恥心と快楽による浮遊感で把握していなかったが、言われてみると撫でられている腹部辺りから確かに自身の霊力を感じた。
「体質が元に戻り始めたようですね」
 これまでの疲労感が一時的に感じなくなる程喜びの感情が沸き上がってくる。
 妖魔に犯され、霊力をまったく生成できなくなるという絶望的な状況からの復活の兆しに、同性である一条に愛撫されたという事実すら気にならなくなっていた。
 目に希望が宿っていくと、また耳元で一条が呟く。
「このままいけば朝には元通りの体質に戻りそうですね、頑張ってください」
 琴美から手を離すと、頬に軽くキスをしてからその場を後にした。
 随分スキンシップが激しい人だ、と思いつつ一人腹部へ力を入れて集中する。
 だが、完全に戻ったというわけではなく、全身に霊力が巡る前に消えてしまった。
 それでも諦めず、目を閉じて再び霊力を生成しようとする。
 数十秒もの間、深呼吸しているとまた僅かだが身体の奥底に僅かに霊力が生まれた。
 今度はそれを維持しつつ増大しようとする。
 まるで無人島で着火するため、種火を必死になって大きくしようとする行動に似ていた。
 薬湯に浸かりながら、何度も生成されては消える霊力に悪戦苦闘する。
 退魔士として修行し始めた頃のように、大きくゆっくり深呼吸をして精神を安定させる。
(落ち着いて、大丈夫、諦めない、絶対に元に戻ってみせる)
 何度霊力が消えても諦めず、維持と増大作業を繰り返す。
 もう何度目か分からなくなる程回数をこなしたその時、ついに維持に成功した。
 薪に着け始めた火を大きくするため、息を吹き掛けるように、今度はそれを大きくしようと力を込めていく。
 何がなんでも復帰するという強い意思に呼応するように、霊力が僅かずつ増えていく。
 それを血流に乗せて全身へ巡らせ、一巡すると後はエンジンが掛かった車のように意識せずとも毎秒霊力が生成され始めた。
「くはっ、ふうぅぅぅ」
 完全ではないものの、ようやく元の体質に近づいたことで力を抜くことが出来た。
 後はこのままこの湯に浸かりながら薬を飲むことで更に浄化させていくだけ。
 ある意味ではひと安心出来る状況となった。





―――その後。
 定期的に湯呑みをもってくる一条にも霊力の有無を確認させつつ飲み、儀式の終わりの時間が近づいていくのを確認する。
 長時間による入浴でのぼせていたが、徐々に増大していく霊力を感じながら気合いで耐えていく。
 最後の1時間辺りからはもう記憶が朧気だった。
 そして、ついに一条の口から待ち望んでいた言葉が聞ける。
「琴美さん、お疲れさまです、これで清めの儀式は終わりです、見事に霊力が戻りましたよ」
「あは……やっ……たぁ……」
 背を浴槽の縁に預け、見上げた体勢のまま琴美は喜んだ。
 一条はすぐに鍵を手に手錠を外していく。
 晴れて自由になった琴美だが、ぐったりして立ち上がれない。
 儀式のためとはいえ、一晩中浸かっていたためだ。
 一条は自らの肩を貸してゆっくりと立たせる。
 まるで介護でも受けているように、片足ずつゆっくりと浴槽から出る。
 普通なら数秒で出られるのだが、転ばないように一分近く時間を掛けて浴槽から出ると、そのまま一条に支えられながら出口へ向かう。
 脱衣所に着くと、部屋の中央の床にバスタオルが何重にも重ねられていた。
「琴美さん、まずはそこへ横になってください」
 言われるがまま崩れるようにタオルの上に仰向けに倒れた。
 その身体の上から、胴体を隠すように一条が別のバスタオルを掛けてくれた。
 まるでその場で何回も回ったかのように頭がクラクラしている琴美。
 そんな彼女に対し、一条はまた別のタオルを手にするとそれを使ってゆっくりと振って風を送る。
 身体に感じるそよ風に心地よさを感じながら、意識が落ちていくのを感じる。
 すると、一条が何か言っていた。
 おそらく労いの言葉か何かだと思われたが、それを確認する前に完全に意識を失った。





「とても良い身体ですね、私が男なら今襲っちゃいそう」





―――数時間後。
 琴美が目を覚ますと、そこには見慣れない天井が見えた。
 ここは最初に案内された和室だった。
 白い袴を着て布団に眠っていた状況から、恐らく一条さんがしてくれたのだろうと考えた。
 しかし、今何時か分からない。
 上体を起こして周囲を見渡していると、襖が開けられる。
 誰? と見ると、一人用のテーブルを持った一条が入ってきた。
「あ、丁度よかったみたいですね」
「一条さん……今、何時ですか?」
「夕方くらいですね、さ、お腹空いたでしょう」
 そう良いながら琴美の前に置かれたテーブルの上には、ご飯、味噌汁、焼き魚に漬け物の和食が乗せられていた。
 ここに来てから薬味関係の物しか口にしていなかった。
 その上ずっと薬湯に浸かっていてまともな食事は取っていない。
 当然、空腹だった琴美は今にも飛び付きそうになるが、一条が一旦止める。
「落ち着いて、ゆっくり食べてください、いきなり胃に詰め込むと身体がビックリしますよ」
 そう言われた琴美は一旦唾を飲み込みながら両手を合わせて『頂きます』と言うと、まずはご飯を一口食べた。
 普段何気なく食べていたそれが、今はとても美味しく感じる。
 涙さえ出てきそうなほど暖かな料理に、満面の笑みで次々と料理を口に運ぶ。
 そんな琴美に、一条はまるで我が子を見る親のように安心した。
 妖魔に犯されたショックと霊力が戻らなかった際の徒労感に襲われれば、もう心が折れて復帰することは不可能だろうと考えていた。
 それだけではなく人としての喜びや笑顔さえ失っていただろうと―――。
 しかし、今の彼女は年相応の歓喜の感情を見せている。
 今後、また妖魔に襲われるかもしれないが、取り合えずは安心できた。



 その後、琴美はここで掃除の手伝いをしながら引き続き薬味料理も口にしていく。
 念のための追加措置だが、毎回まるで苦虫を噛み潰したような顔に一条は笑いを堪える。
 時間が開くと木刀を手に庭で素振りをして刀を持つ感覚を取り戻す。
 次に日が落ちると、部屋で正座をしながら精神を集中し、霊力を練っていく。
 まるで強化合宿にでも来たかのような日々は充実していた。
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