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第3章 光闇の宿命を背負ふ者
第21話 戦場
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私は、仲間を殺した事がある。
光の導き手であり、私の大親友であるユカリの誘いで日本の主力となった私は、ユカリ達と共に戦場の最前線に立っていた。
その時に私が使用していた武器が、水のプラス属性で構築された空の弓。
光の人間に使用する場合には、属性量を調整した水のマイナス属性の矢を使い、仲間を治癒する。
闇の人間に使用する場合には、対象の属性量が過多になる量の水のマイナス属性の矢を撃ち、属性に直接影響を与える。
傷付いた仲間を癒す為。
命を落とす仲間を一人でも減らす為。
私は、幾度も仲間達に迫る脅威に向けて矢を射った。
中距離からの狙撃を行なう上で、私が最も注意していたのは味方への誤射だった。
常に味方の位置を把握し、味方の周囲に存在する敵の位置を全て把握し、弦を引いて確実に標的に命中する角度、方向、位置で離す。
万が一にも、仲間にこの矢が当たらないように。
でもあの日、私は敵からの奇襲を受けた女性の悲鳴を聞き、空の弓を構えた。
射程範囲内の女性、奇襲を仕掛けた男性、周囲の残存する仲間の位置を把握した私は、素早く男性に緑色の矢尻を向け、空の弓の弦を離した。
その時、戦場に雷鳴が響き渡った。
確かにあの時、奇襲を受けた女性を救援出来る範囲に仲間は存在しなかった筈なのに。
悲鳴を上げた女性を助ける一心で、自身の有した雷属性を全て使用し、命懸けで女性に駆け寄った一人の女性が、私の空の弓の軌道上に入ってしまった。
「避けてっ!!!!!」
私の叫びも虚しく、空の弓に背中から射抜かれた女性は、水のマイナス属性によって体内の属性が暴走した。
矢を受けた女性は甲高い絶叫を上げ、眩い閃光を放ち、身体から溢れ出る黄色の雷を前方に向けて全て放出した。
彼女が死の間際に放った雷は、奇襲を仕掛けた男性を呑み込み炭にした。
その後の記憶は、決して消える事の無い過去。
助けられた女性は、叫び声を上げながら滝のような涙を流し、光となって消滅した親友の姿を必死で探していた。
「このっ!人殺しっ!!」
戦火が消えぬ中、私は憎悪に満ち溢れた瞳の女性に幾度も殴られ、私はその拳を全て受け入れた。
私のせいで、彼女を闇に堕とす訳にはいかない。
私が、彼女の大事な親友の命を奪ってしまったのだから。
「お前の属性が、俺の家族を……仲間を殺したんだっ!!」
私が命を奪った女性の親族の男性は、戦いを終えて光拠点に戻った私を叱責し、同じように私を幾度も殴った。
その時、激昂する男性を静止したユカリが、私の代わりに殴られた。
プツン
その時、私の中で何かが切れた気がした。
「御免なさい……ごめんなさい」
身体の内側に感じる黒く冷たい感情、溢れ出る涙、辛うじて発する事の出来た謝罪の言葉。
そこで、私の記憶は途絶えた。
―*―*―*―*―
エジプト拠点 アンラダクシア 謁見の間
「妾を前に『絶対』とまで言い切るとは。未だに、力の差を理解出来んようじゃな」
「私達三人なら勝てるよ⭐︎」
投げ飛ばされたエムを治癒していたヒナは、二人への信頼を感じる言葉に嬉しさを覚える一方で、全ての泡沫を一瞬で無力化された不甲斐なさに表情を曇らせた。
「そうか」
鋭い眼差しを向けたオラルセプタは、羊飼いの杖を持つ左腕を前に差し出した。
「期待しておるぞ?」
その直後、複数の蒼い球体から高速の水流がルアに向けて放たれた。
「当たらないもんね~⭐︎」
ルアは先程のエムと同様に、オラルセプタに向けて駆ける事で水流の軌道から外れた。
「ほう、当たらんか?」
水流はルアが移動した直後、背後を追うように屈折し加速した。
「うん、当たらな~い⭐︎」
ルアは背後から迫る水流を、オラルセプタから視線を外す事なく左方向に移動して回避した。
「ふふ、そうじゃろうな」
その直後、水流の軌道上に蒼い球体が発生した。
球体に吸い込まれるように消滅した複数の水流は、一本の水流となってルアの立つ方向へと放出された。
(なるほどね…… 〝小さな水球〟を中継地点にして、通過する水の軌道を変えてたんだ)
「ハズレ⭐︎」
放たれた水流を仰け反って回避したルアは、先程自分が考察した事を思い出し目を見開いた。
(あれ、 〝小さな水球〟で軌道を?ならなんでさっきのは見え——)
次の瞬間、ルアが避けた水流は四方八方に分裂し、側にいたルアの全身に無数の穴を開けた。
「あ……ゥ」
「っ!?ルアァァァァアアアっ!!」
眼を覆いたくなるような凄惨な光景に絶叫したヒナは、分裂し驚異的な速度で自身に迫る水流から意識が逸れてしまっていた。
「クソっ!!」
涙を流し叫ぶヒナを突き飛ばしたエムは、三度水流に身体を貫かれた。
「チィッ!」
「妾を相手に身の程も弁えず、慢心した愚かな者の末路じゃ」
「舐めんじゃねぇっ!!」
傷を治癒する事なく駆け出したエムは、多量の血を流して立ち尽くすルアに近付き肩に手を置いた。
「お前の身体は、ここに有るぞ」
その言葉だけを言い残し、エムはオラルセプタに向けて駆けた。
(……ワタシノ……カラダ)
意識と共に痛みの感覚も消えゆく中で、ルアは微かに感じたエムの体温を辿った。
次の瞬間、エムの触れた右肩付近に開けられた傷穴から水のマイナス属性が吹き出し、徐々にルアの全身を包み込むように広がった。
「懲りもせずに接近戦か?」
「一度の失敗で折れるほど、俺の芯は細くねぇんだよっ!!」
「ならば、もう一度失敗してみると良い」
紅蓮の炎を帯びた拳を振り上げたエムに、オラルセプタは羊飼いの杖の石突で再び地面を突いた。
「その一度で、汝の命潰えるやもしれんがな」
『女王の鞭』
直後、玉座周辺に浮遊していた複数の蒼い球体から同時に水流が放たれた。
「それは、もう〝諦めた〟!」
鞭の様にうねる水流に対して、一切避ける素振りを見せないエムは、身体の節々を水流に貫かれながら、玉座の前に立つオラルセプタに接近した。
「っ!?」
(痛みを知りながら、妾の水流を避けぬとは)
多量に流血しながらも顔色一つ変えず、決して脚を止める事なく、勇猛果敢に迫ってくるエムの姿にオラルセプタは目を見開いた。
『憤怒の鉄拳』
オラルセプタを視線の先に捉えていたエムは、全身全霊の力と属性を込めた右拳をオラルセプタの顔面目掛けて突き出した。
しかし、咄嗟に羊飼いの杖の持ち手を突き出したオラルセプタは、エムの拳の前に蒼い球体を作り出し憤怒の鉄拳を防いだ。
「チッ、クソッタレがっ!」
「実に肝の据わった奴じゃ」
蒸発音と共に発生した白煙が周囲に広がり、二人の身体は煙の中へと消えて行った。
「まだ……死なない……よ」
重傷を負っていた身体が徐々に回復し、消えかけた意識も少しずつ戻り始めたルアは、大鎌を握る右手を上げた。
「ユウト達が目指してる平和な世界に、私も……皆んなと一緒にいたいから」
「ルア……」
額から流れ出る血液が入らないように左眼を閉じていたルアは、これから先の幸せを考え嬉しそうに頬を緩めた。
「もう誰も、死んで欲しくないから。ユウトだけじゃない……ヒナも、エ~くんも死なせない」
ルアの背中を見つめていたヒナは、ルアの発した心からの言葉を聞き、静かに涙を流した。
その直後、立ち込めていた白煙を一本の水流が穿った。
「「っ!?」」
「イッテェんだよ、畜生がっ!」
蒼い球体から発生した水流によって、突き出した右拳ごと貫かれたエムは、欠損した右腕を揺らしながら白煙の中から飛び出した。
「エムっ!」
傷付いたエムの姿を目にしたヒナは、急いでエムの元へと駆け寄り治癒を開始した。
「残念じゃったな。もう少し早ければ、妾の顔に触れる事ぐらいは出来たやもしれんのに」
「チッ、良い気になってんじゃねぇよ。まだまだ、こっからだ」
「エム、少しだけジッとしていて下さい……すぐに治しますから」
散り散りになって消えゆく白煙の中から姿を見せたオラルセプタは、流血状態で無理矢理立ち上がろうとしているエムを無視し、傷の治癒を終えたルアに視線を向けた。
「汝は始末したと思っておったが、あの状態から生還したか。常人であれば、間違いなく死んでおったぞ?」
「私には、生きなきゃいけない理由がい~~~っぱいあるからね⭐︎」
そう告げたルアは、両手で大鎌を数度回した後に自身の背後に刃が来るように構えた。
「貴女を倒すまで、私はゼ~~~ッタイに倒れないし、ゼ~~~ッタイに死なない⭐︎」
「…………」
覚悟を秘めた瞳を見つめていたオラルセプタは、瞬きの後に正面で身構えているルアではなく、離れた場所で治癒を受けているエムに視線を向けた。
「汝らは二人は、その命を懸け、全ての力を尽くして妾と対峙しておると言うのに、未だに死力を尽くさぬ阿呆がおる」
「え?急に何言ってんの?」
「幾許か猶予を与えておったが、もう十分じゃ。斯様な者は、この戦場から消えるが良い」
次の瞬間オラルセプタは、エムの隣で治癒を行なっているヒナに羊飼いの杖の持ち手を向け、周囲に存在する全ての蒼い球体から一斉に水流を発射した。
(っ!?間に合わないっ!)
「避けてっ!!!」
ルアの叫びを聞いたヒナの瞳には、自身に迫る避けようのない水流ではなく、過去に命を落とした女性に向けて叫んだ時の自分の姿が写っていた。
「うっ!」
直後、ヒナは右手で胸倉を掴まれると同時に、強い力で強引に場所を移動させられた。
「…………え?」
死を覚悟し瞳を閉じていたヒナは、恐る恐る開いた瞳に写った景色に驚愕した。
「……」
そこには立っていたのは、ヒナと自身の居場所を強引に入れ替え、ヒナの代わりに全ての水流をその身に受けたエムの姿だった。
「エ……エム」
直前に左手をポケットに入れていたエムは、辛うじて残っていた意識で小さな単結晶を握り締め、身体に受けた傷を治癒した。
パキィィィィン
数多の水流を同時に受けた事による人体への損傷はとても甚大で、傷を治癒し終えた瞬間に回復結晶が砕け散ってしまった。
「エム……ご、ごめんなさ——」
ヒナの謝罪の言葉は、更に強く胸倉を掴んだエムによって強引に止めれた。
「エム……く、苦しいです」
「……謝罪の言葉なんざ、要らねぇ」
胸倉を掴まれ爪先で立っていたヒナに、エムは鋭い眼差しを向けた。
「ヒナ、てめぇ……ここは、戦場だぞ!」
「っ!?」
苦しげな表情を浮かべていたヒナは、エムの思い掛けない言葉を聞いて眼を見開いた。
「失って、奪われてが当たり前の場所だ……それをさせない為に、俺達は戦ってんだろうが!」
両手で胸倉を掴んだエムは、至近距離で互いに視線を合わせた。
「アイツが言った言葉が、本当がどうかは分からねぇ……だが、もしユカリと同じで仲間想いのお前が、その仲間の為に死力を尽くせてねぇって言うなら、俺には理由が一つしか思い当たらねぇ」
そう告げたエムは、少しだけ胸倉を掴む力を弱め、ヒナが自身の言葉を落ち着いて聞けるようにした。
「俺達の知らねぇ力で、仲間の命を奪った事でもあるんだろ?それが理由で、お前の中に消えねぇ悔恨の念があんだろ?」
全てを見透かされたヒナは、それまで見つめていたエムの瞳から視線を逸らした。
「それが過失だったとしても、優しいお前は俺なんかよりよっぽど後悔してんだろうさ」
視線を逸らされたエムは、自分自身が口にした言葉が事実に近い事である事を悟っていた。
「だけどな、その事を悔やみ続けて出来る事をやらずに、また誰かを死なせちまったら、お前だけじゃねぇ……死んじまったソイツにとっても不幸だろうが」
「っ!」
その言葉を聞いたヒナは、ハッとしたように目を見開いた。
「それでもまだ、お前は『力は使えない』って言うのか?」
「……」
胸倉を掴んでいた右手の力を緩めてヒナを解放したエムは、ゆっくりと背を向けた。
「最終的に選ぶのはお前だ。けど、忘れんな……俺達の〝運命〟も、お前の選択次第で全て決まるって事を」
「プッ、なんじゃそれは?妾から視線を逸らしてまで始めた劇じゃというのに、最後がそれか?」
二人の会話を黙って聞いていたオラルセプタは、いつの間にか玉座に再び腰掛け、右手で口元を隠しながら笑みを浮かべていた。
「汝が口にした言葉は、大の男が恥も外聞も無しに女を頼る方便だった訳か?……汝よりも若く小さな女子に、随分と酷な選択をさせるではないか」
「若く小さな女だぁ?馬鹿言ってんじゃねぇよ」
オラルセプタに鋭い眼差しを向けたまま、エムは右手を背後のヒナに向けた。
「コイツはこの歳で、この小さな身体で、俺なんかより何年も前から俺達の国を支えて来たんだ」
そう言葉にしたエムは、ヒナに向けていた右手を下ろし、両拳に荒々しい紅蓮の炎を纏わせた。
「俺達の命ぐらい、簡単に預けられる……立派な、日本の誇りなんだよっ!!!」
「っ!!」
視界内に立っていたルアも、ヒナの顔を見つめ、笑みを浮かべながら頷いていた。
(エム……ルア……こんな私を、そこまで信じて——)
一筋の涙を流したヒナは、数秒の沈黙の後にゆっくりと左手を前に突き出した。
(……死なせたくない。私を信じて、命を預けると言ってくれた二人の気持ちに、応えたい)
その時、身体の底から溢れ出てくる正の感情が、ヒナの全身を静かに流れていた属性に波風を立たせ始めた。
(二度と使わないと誓っておきながら、本当に申し訳ありません……仲間の為に力を行使する事を、どうか……どうか赦してください)
すると左手の平から、水のプラス属性で構築された細い糸が複数本出現し、数秒のうちに〝青色の弓〟を編み出した。
(裁きが下り、私が死ぬ事になったとしても……二人には、絶対に死んで欲しくない)
ヒナは真っ直ぐな眼差しで、玉座に腰掛けたオラルセプタを見据えた。
「私の全てを懸けて、貴女を射貫く」
「……さあ、始めようゾ。妾の知らぬ、本当の戦いと言うモノを」
ヒナは、青い弓に付いた弦を右手で引き、アラルセプタに向けて構えた。
『空の弓』
光の導き手であり、私の大親友であるユカリの誘いで日本の主力となった私は、ユカリ達と共に戦場の最前線に立っていた。
その時に私が使用していた武器が、水のプラス属性で構築された空の弓。
光の人間に使用する場合には、属性量を調整した水のマイナス属性の矢を使い、仲間を治癒する。
闇の人間に使用する場合には、対象の属性量が過多になる量の水のマイナス属性の矢を撃ち、属性に直接影響を与える。
傷付いた仲間を癒す為。
命を落とす仲間を一人でも減らす為。
私は、幾度も仲間達に迫る脅威に向けて矢を射った。
中距離からの狙撃を行なう上で、私が最も注意していたのは味方への誤射だった。
常に味方の位置を把握し、味方の周囲に存在する敵の位置を全て把握し、弦を引いて確実に標的に命中する角度、方向、位置で離す。
万が一にも、仲間にこの矢が当たらないように。
でもあの日、私は敵からの奇襲を受けた女性の悲鳴を聞き、空の弓を構えた。
射程範囲内の女性、奇襲を仕掛けた男性、周囲の残存する仲間の位置を把握した私は、素早く男性に緑色の矢尻を向け、空の弓の弦を離した。
その時、戦場に雷鳴が響き渡った。
確かにあの時、奇襲を受けた女性を救援出来る範囲に仲間は存在しなかった筈なのに。
悲鳴を上げた女性を助ける一心で、自身の有した雷属性を全て使用し、命懸けで女性に駆け寄った一人の女性が、私の空の弓の軌道上に入ってしまった。
「避けてっ!!!!!」
私の叫びも虚しく、空の弓に背中から射抜かれた女性は、水のマイナス属性によって体内の属性が暴走した。
矢を受けた女性は甲高い絶叫を上げ、眩い閃光を放ち、身体から溢れ出る黄色の雷を前方に向けて全て放出した。
彼女が死の間際に放った雷は、奇襲を仕掛けた男性を呑み込み炭にした。
その後の記憶は、決して消える事の無い過去。
助けられた女性は、叫び声を上げながら滝のような涙を流し、光となって消滅した親友の姿を必死で探していた。
「このっ!人殺しっ!!」
戦火が消えぬ中、私は憎悪に満ち溢れた瞳の女性に幾度も殴られ、私はその拳を全て受け入れた。
私のせいで、彼女を闇に堕とす訳にはいかない。
私が、彼女の大事な親友の命を奪ってしまったのだから。
「お前の属性が、俺の家族を……仲間を殺したんだっ!!」
私が命を奪った女性の親族の男性は、戦いを終えて光拠点に戻った私を叱責し、同じように私を幾度も殴った。
その時、激昂する男性を静止したユカリが、私の代わりに殴られた。
プツン
その時、私の中で何かが切れた気がした。
「御免なさい……ごめんなさい」
身体の内側に感じる黒く冷たい感情、溢れ出る涙、辛うじて発する事の出来た謝罪の言葉。
そこで、私の記憶は途絶えた。
―*―*―*―*―
エジプト拠点 アンラダクシア 謁見の間
「妾を前に『絶対』とまで言い切るとは。未だに、力の差を理解出来んようじゃな」
「私達三人なら勝てるよ⭐︎」
投げ飛ばされたエムを治癒していたヒナは、二人への信頼を感じる言葉に嬉しさを覚える一方で、全ての泡沫を一瞬で無力化された不甲斐なさに表情を曇らせた。
「そうか」
鋭い眼差しを向けたオラルセプタは、羊飼いの杖を持つ左腕を前に差し出した。
「期待しておるぞ?」
その直後、複数の蒼い球体から高速の水流がルアに向けて放たれた。
「当たらないもんね~⭐︎」
ルアは先程のエムと同様に、オラルセプタに向けて駆ける事で水流の軌道から外れた。
「ほう、当たらんか?」
水流はルアが移動した直後、背後を追うように屈折し加速した。
「うん、当たらな~い⭐︎」
ルアは背後から迫る水流を、オラルセプタから視線を外す事なく左方向に移動して回避した。
「ふふ、そうじゃろうな」
その直後、水流の軌道上に蒼い球体が発生した。
球体に吸い込まれるように消滅した複数の水流は、一本の水流となってルアの立つ方向へと放出された。
(なるほどね…… 〝小さな水球〟を中継地点にして、通過する水の軌道を変えてたんだ)
「ハズレ⭐︎」
放たれた水流を仰け反って回避したルアは、先程自分が考察した事を思い出し目を見開いた。
(あれ、 〝小さな水球〟で軌道を?ならなんでさっきのは見え——)
次の瞬間、ルアが避けた水流は四方八方に分裂し、側にいたルアの全身に無数の穴を開けた。
「あ……ゥ」
「っ!?ルアァァァァアアアっ!!」
眼を覆いたくなるような凄惨な光景に絶叫したヒナは、分裂し驚異的な速度で自身に迫る水流から意識が逸れてしまっていた。
「クソっ!!」
涙を流し叫ぶヒナを突き飛ばしたエムは、三度水流に身体を貫かれた。
「チィッ!」
「妾を相手に身の程も弁えず、慢心した愚かな者の末路じゃ」
「舐めんじゃねぇっ!!」
傷を治癒する事なく駆け出したエムは、多量の血を流して立ち尽くすルアに近付き肩に手を置いた。
「お前の身体は、ここに有るぞ」
その言葉だけを言い残し、エムはオラルセプタに向けて駆けた。
(……ワタシノ……カラダ)
意識と共に痛みの感覚も消えゆく中で、ルアは微かに感じたエムの体温を辿った。
次の瞬間、エムの触れた右肩付近に開けられた傷穴から水のマイナス属性が吹き出し、徐々にルアの全身を包み込むように広がった。
「懲りもせずに接近戦か?」
「一度の失敗で折れるほど、俺の芯は細くねぇんだよっ!!」
「ならば、もう一度失敗してみると良い」
紅蓮の炎を帯びた拳を振り上げたエムに、オラルセプタは羊飼いの杖の石突で再び地面を突いた。
「その一度で、汝の命潰えるやもしれんがな」
『女王の鞭』
直後、玉座周辺に浮遊していた複数の蒼い球体から同時に水流が放たれた。
「それは、もう〝諦めた〟!」
鞭の様にうねる水流に対して、一切避ける素振りを見せないエムは、身体の節々を水流に貫かれながら、玉座の前に立つオラルセプタに接近した。
「っ!?」
(痛みを知りながら、妾の水流を避けぬとは)
多量に流血しながらも顔色一つ変えず、決して脚を止める事なく、勇猛果敢に迫ってくるエムの姿にオラルセプタは目を見開いた。
『憤怒の鉄拳』
オラルセプタを視線の先に捉えていたエムは、全身全霊の力と属性を込めた右拳をオラルセプタの顔面目掛けて突き出した。
しかし、咄嗟に羊飼いの杖の持ち手を突き出したオラルセプタは、エムの拳の前に蒼い球体を作り出し憤怒の鉄拳を防いだ。
「チッ、クソッタレがっ!」
「実に肝の据わった奴じゃ」
蒸発音と共に発生した白煙が周囲に広がり、二人の身体は煙の中へと消えて行った。
「まだ……死なない……よ」
重傷を負っていた身体が徐々に回復し、消えかけた意識も少しずつ戻り始めたルアは、大鎌を握る右手を上げた。
「ユウト達が目指してる平和な世界に、私も……皆んなと一緒にいたいから」
「ルア……」
額から流れ出る血液が入らないように左眼を閉じていたルアは、これから先の幸せを考え嬉しそうに頬を緩めた。
「もう誰も、死んで欲しくないから。ユウトだけじゃない……ヒナも、エ~くんも死なせない」
ルアの背中を見つめていたヒナは、ルアの発した心からの言葉を聞き、静かに涙を流した。
その直後、立ち込めていた白煙を一本の水流が穿った。
「「っ!?」」
「イッテェんだよ、畜生がっ!」
蒼い球体から発生した水流によって、突き出した右拳ごと貫かれたエムは、欠損した右腕を揺らしながら白煙の中から飛び出した。
「エムっ!」
傷付いたエムの姿を目にしたヒナは、急いでエムの元へと駆け寄り治癒を開始した。
「残念じゃったな。もう少し早ければ、妾の顔に触れる事ぐらいは出来たやもしれんのに」
「チッ、良い気になってんじゃねぇよ。まだまだ、こっからだ」
「エム、少しだけジッとしていて下さい……すぐに治しますから」
散り散りになって消えゆく白煙の中から姿を見せたオラルセプタは、流血状態で無理矢理立ち上がろうとしているエムを無視し、傷の治癒を終えたルアに視線を向けた。
「汝は始末したと思っておったが、あの状態から生還したか。常人であれば、間違いなく死んでおったぞ?」
「私には、生きなきゃいけない理由がい~~~っぱいあるからね⭐︎」
そう告げたルアは、両手で大鎌を数度回した後に自身の背後に刃が来るように構えた。
「貴女を倒すまで、私はゼ~~~ッタイに倒れないし、ゼ~~~ッタイに死なない⭐︎」
「…………」
覚悟を秘めた瞳を見つめていたオラルセプタは、瞬きの後に正面で身構えているルアではなく、離れた場所で治癒を受けているエムに視線を向けた。
「汝らは二人は、その命を懸け、全ての力を尽くして妾と対峙しておると言うのに、未だに死力を尽くさぬ阿呆がおる」
「え?急に何言ってんの?」
「幾許か猶予を与えておったが、もう十分じゃ。斯様な者は、この戦場から消えるが良い」
次の瞬間オラルセプタは、エムの隣で治癒を行なっているヒナに羊飼いの杖の持ち手を向け、周囲に存在する全ての蒼い球体から一斉に水流を発射した。
(っ!?間に合わないっ!)
「避けてっ!!!」
ルアの叫びを聞いたヒナの瞳には、自身に迫る避けようのない水流ではなく、過去に命を落とした女性に向けて叫んだ時の自分の姿が写っていた。
「うっ!」
直後、ヒナは右手で胸倉を掴まれると同時に、強い力で強引に場所を移動させられた。
「…………え?」
死を覚悟し瞳を閉じていたヒナは、恐る恐る開いた瞳に写った景色に驚愕した。
「……」
そこには立っていたのは、ヒナと自身の居場所を強引に入れ替え、ヒナの代わりに全ての水流をその身に受けたエムの姿だった。
「エ……エム」
直前に左手をポケットに入れていたエムは、辛うじて残っていた意識で小さな単結晶を握り締め、身体に受けた傷を治癒した。
パキィィィィン
数多の水流を同時に受けた事による人体への損傷はとても甚大で、傷を治癒し終えた瞬間に回復結晶が砕け散ってしまった。
「エム……ご、ごめんなさ——」
ヒナの謝罪の言葉は、更に強く胸倉を掴んだエムによって強引に止めれた。
「エム……く、苦しいです」
「……謝罪の言葉なんざ、要らねぇ」
胸倉を掴まれ爪先で立っていたヒナに、エムは鋭い眼差しを向けた。
「ヒナ、てめぇ……ここは、戦場だぞ!」
「っ!?」
苦しげな表情を浮かべていたヒナは、エムの思い掛けない言葉を聞いて眼を見開いた。
「失って、奪われてが当たり前の場所だ……それをさせない為に、俺達は戦ってんだろうが!」
両手で胸倉を掴んだエムは、至近距離で互いに視線を合わせた。
「アイツが言った言葉が、本当がどうかは分からねぇ……だが、もしユカリと同じで仲間想いのお前が、その仲間の為に死力を尽くせてねぇって言うなら、俺には理由が一つしか思い当たらねぇ」
そう告げたエムは、少しだけ胸倉を掴む力を弱め、ヒナが自身の言葉を落ち着いて聞けるようにした。
「俺達の知らねぇ力で、仲間の命を奪った事でもあるんだろ?それが理由で、お前の中に消えねぇ悔恨の念があんだろ?」
全てを見透かされたヒナは、それまで見つめていたエムの瞳から視線を逸らした。
「それが過失だったとしても、優しいお前は俺なんかよりよっぽど後悔してんだろうさ」
視線を逸らされたエムは、自分自身が口にした言葉が事実に近い事である事を悟っていた。
「だけどな、その事を悔やみ続けて出来る事をやらずに、また誰かを死なせちまったら、お前だけじゃねぇ……死んじまったソイツにとっても不幸だろうが」
「っ!」
その言葉を聞いたヒナは、ハッとしたように目を見開いた。
「それでもまだ、お前は『力は使えない』って言うのか?」
「……」
胸倉を掴んでいた右手の力を緩めてヒナを解放したエムは、ゆっくりと背を向けた。
「最終的に選ぶのはお前だ。けど、忘れんな……俺達の〝運命〟も、お前の選択次第で全て決まるって事を」
「プッ、なんじゃそれは?妾から視線を逸らしてまで始めた劇じゃというのに、最後がそれか?」
二人の会話を黙って聞いていたオラルセプタは、いつの間にか玉座に再び腰掛け、右手で口元を隠しながら笑みを浮かべていた。
「汝が口にした言葉は、大の男が恥も外聞も無しに女を頼る方便だった訳か?……汝よりも若く小さな女子に、随分と酷な選択をさせるではないか」
「若く小さな女だぁ?馬鹿言ってんじゃねぇよ」
オラルセプタに鋭い眼差しを向けたまま、エムは右手を背後のヒナに向けた。
「コイツはこの歳で、この小さな身体で、俺なんかより何年も前から俺達の国を支えて来たんだ」
そう言葉にしたエムは、ヒナに向けていた右手を下ろし、両拳に荒々しい紅蓮の炎を纏わせた。
「俺達の命ぐらい、簡単に預けられる……立派な、日本の誇りなんだよっ!!!」
「っ!!」
視界内に立っていたルアも、ヒナの顔を見つめ、笑みを浮かべながら頷いていた。
(エム……ルア……こんな私を、そこまで信じて——)
一筋の涙を流したヒナは、数秒の沈黙の後にゆっくりと左手を前に突き出した。
(……死なせたくない。私を信じて、命を預けると言ってくれた二人の気持ちに、応えたい)
その時、身体の底から溢れ出てくる正の感情が、ヒナの全身を静かに流れていた属性に波風を立たせ始めた。
(二度と使わないと誓っておきながら、本当に申し訳ありません……仲間の為に力を行使する事を、どうか……どうか赦してください)
すると左手の平から、水のプラス属性で構築された細い糸が複数本出現し、数秒のうちに〝青色の弓〟を編み出した。
(裁きが下り、私が死ぬ事になったとしても……二人には、絶対に死んで欲しくない)
ヒナは真っ直ぐな眼差しで、玉座に腰掛けたオラルセプタを見据えた。
「私の全てを懸けて、貴女を射貫く」
「……さあ、始めようゾ。妾の知らぬ、本当の戦いと言うモノを」
ヒナは、青い弓に付いた弦を右手で引き、アラルセプタに向けて構えた。
『空の弓』
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処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
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