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第2章 紡がれる希望
第103話 人工の神
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ウクライナ北部
満面の笑みを浮かべながら、勝色の炎で形成された両翼を揺めかせたファクティスは、両手を大きく広げ、自身を赤黒く照らす二重の光輪を激しく発光させ始めた。
『ズシャ~ン』
嬉々として発せられた言葉に反応した両翼は、左右に向けて大きく広がり、翼の背後で発光する光輪から電撃の塊が、まるで触手の様に翼の上下左右へと伸長した。
そして、無数に発生した触手の先端が鏃の様に鋭利な形状へと変化すると同時に、広げていた両手をユウキ達に向けた。
「穴だらけになっちゃえ!」
ファクティスの言葉と共に、ユウキ達に向けて不規則に接近する電撃の触手を前に、二人は同時に深呼吸をした。
そして、同時に結晶の薄い障壁を全身に纏った二人は、身体を左右に揺らす様に接近する触手を最小限の動きで回避し始めた。
「アハハッ!ホラッ、ホラッ、ホラッ!!」
鋭利な先端を有する触手を回避し、迸る電撃を薄い障壁で防いでいるユウキ達の様子を面白がったファクティスは、光輪から発生した触手を増やし、再び二人に向けて伸長した。
「当たると思ってやってるのか?」
「今の僕らなら、簡単に避けられる攻撃だよ」
音速を超える攻撃を視認してから回避する二人の様子は、常人の目には回避の瞬間を視認する事が出来ない程の速度域まで到達していた。
「すごい凄い!私の攻撃を回避出来る人なんて、ロシアの世界最強?の人だけかと思ってた!」
結晶の属性によって身体能力が全体的に強化されているユウキ達には、刻絕の姫君と呼ばれたソーン程では無いが、俊敏性が格段に上昇していた。
「ユウキ、少し借りるよ」
「ん?」
足場を変えながら、身体を左右に揺らす様に触手を回避していたレンは、右手に握る結晶刀に結晶を追加で纏わせた。
「許可なんて必要ないだろ?今は、俺達二人の力だ……存分に使ってくれ」
百七十前半程の身長のレンを超える刀身の長さに変化した結晶刀は、二十五センチを超える幅を有していた。
「ありがとう、ユウキ」
触手を軽やかに回避しながら大刀を両手で構えたレンは、先端を天高く持ち上げた。
「はわぁ……重そ——」
『浄化の凍刃』
自身の感じた事を口にしていたファクティスは、勢い良く振り下ろされた結晶刀から放たれた、水縹の斬撃に視界を埋め尽くされた。
「でも、残念でした。全てお見通しだよ!」
そう告げたファクティスは、その場で後転宙返りをした。
そして、斬撃に背中を向ける様な状態で静止したファクティスは、翼の背後に形成していた雷の光輪を高速回転させながら拡大させた。
『壁』
拡大した光輪は、中心部に向かって雷属性を展開し、円状の盾を作り出した。
レンが放った斬撃に接触した事を確認したファクティスは、両翼と光輪を繋いでいた雷属性を分離し、その場から飛び去った。
「アハハ、私の裏をかく事なんて——」
「出来るだろ」
ユウトの協力によって思考の偽装が可能と判断したユウキは、ファクティスの思考読みを逆手に取り、斬撃によって視界を奪われたファクティスが、二人の思考を完璧に読んだという慢心から見せる隙を狙っていた。
「え!?」
斬撃から距離を取り、空中で両翼を揺らめかせていたファクティスは、背後から聞こえた声に対して驚きの声を上げた。
『光結の審判』
その時、先程の加速する結晶拳を凌駕する速度の両拳を背中に受けたファクティスは、全身を凍結させる多量な結晶の属性を一瞬にして痛感した。
「あぐ……う——」
キイィィィィイン
甲高い音と共に周囲に存在する全てを激しく揺らす衝撃波が広がり、レンの放った斬撃とファクティスが雷属性で形成した光輪は、衝撃波と共に放たれた冷気によって同時に凍結した。
「は……はぅ」
背中から胸部を貫かれたと感じる程の強い冷気に意識を支配されたファクティスは、ぎこちなく動く両腕を胸部に当て、無意識のうちに自身の体温を暖めようとしていた。
「さ、む……いよ」
結晶化し始めた両翼は、徐々に形状を保てなくなり、ガラガラと音を発しながら地面へと落ちていった。
翼を失ったファクティスは、身体を丸めた状態で地面へと落下した。
しかし、地面に激突する直前に無意識下で放たれた炎、雷、水属性によって、ファクティスの落下地点周辺は、白い蒸気に覆い隠された。
「その技は……」
「大丈夫だ。ティオーの時とは、属性力も、属性量も全然違うんだ……ちゃんと残ってる」
白煙の中、レンの隣に素早く戻って来たユウキは、両手に創造していた結晶拳を力強く構えながら、自身に戦う余力が残っている事を主張した。
「それにしても、なんでファクティスは君の考えている事を読み間違えたんだろう?」
「それは——」
「アハハ……」
「「っ!!」」
会話をしながらも気を緩める事なく、周囲に意識を向けていた二人は、白煙の中から聞こえたファクティスの声に反応し、再び意識を集中させた。
「アハハハハハハッ!」
歓喜の叫びと共に突風が吹き、周囲に立ち込めた白煙が一瞬にして吹き飛ばされた。
「くっ!」
「うっ!」
突風に対して咄嗟に両腕で顔を庇っていた二人は、再び姿を現したファクティスの姿を視認すると同時に目を見開いた。
「私は、ねぇ……普通じゃないんだよぉ?」
常人であったファクティスが多種の属性を所有するには、その属性に〝対応する為の肉体へと造り変える〟必要があった。
チェルノボグの提案した内容は、転生可能な人間でありながらアンリエッタの様な、世界最強を凌駕する属性量と属性力を扱える肉体へとファクティスの身体を変化させる事。
闇の神は、チェルノボグの要望に応えたが、研究室に返還されたファクティスは、常識では考えられない変化を遂げていた。
外見的変化は殆ど見られなかったが、属性が干渉する全ての部位や臓器は、全て黒い糸の様なモノで造られていた。
身体検査の末に判明した異様な変化を目の当たりにしたチェルノボグは、平静を装いながらも内なる怒りを込めた眼差しを、ファクティスを送り届けたアンリエッタへと向け、最大限の皮肉を込めてこう告げた。
『俺は、お前達に人〝間〟と言ったつもりだったが……一文字、聞き間違えたのか?……随分と良い耳をお持ちだ』
二人の前に現れたファクティスの焼け爛れた皮膚の下からは、黒い糸が露わになり、背中に再び形成された両翼は、黒い糸によって形造られた翼に二種類の炎属性が纏われている状態だった。
笑みを浮かべるファクティスの口は耳元まで大きく裂けており、避けた部分を繋ぐように張っていた黒い糸は、自我を有しているかの様にユラユラと不規則な動きをしていた。
「あんな攻撃じゃ、私は死なないよ?だって……私はねぇ、神様になったんだもん」
今にも千切れそうな四肢を繋ぐ黒い糸は、ファクティスの意志に反応すると同時に全身を元の状態へと再生させ、完全回復したファクティスは、勢い良く両腕を上空へと上げた。
「こ~んな事も、出来るんだよ?」
その直後、両翼の炎属性がファクティスの両手に集結し始めた。
「さっきの攻撃が冷たかったから、私からは暖かい攻撃をあげるね?」
空を覆っていた暗雲に到達する程の、超巨大な勝色の火球を造り出したファクティスは、両翼を力強く左右に広げ、火球の中へと飛び込んだ。
「彼女の姿……あれは、一体——」
「そんな事、今は考えている余裕はないぞ」
ファクティスが入った火球は、核となる部分が円状に漆黒に染まり、核を囲う様に朱殷の球体が浮かび上がった。
三色の巨大な火球を中心に、二種類の雷属性で構築された複数の環が、互いに重なる事の無い位置を維持していた。
『太陽』
核の中で立ち尽くし、ユウキ達に向けてゆっくりと切先を構えたファクティスは、太陽を二人に向けて放った。
移動する太陽の内部から姿を現したファクティスは、両翼を揺めかせながら、離れていく太陽の様子を静かに見守っていた。
「少しの間だけ本気を出す。レンは少し離れた……いや、俺の側を離れるな」
「その言葉、僕から君に言いたかったな」
小声で呟いたレンを他所に、ユウキが左手を前に翳すと、掌付近に創り出された弓柄を中心に、上下に結晶が伸び、巨大な結晶の大弓を創り出した。
弓柄を握り締めたユウキは、弦に結晶で創り出した矢の矢筈を右手で番えた。
結晶の弓を垂直に、矢を水平に構えたユウキは、左右均等に弓を弾き始めた。
『蒼穹の結晶弓』
放たれた結晶の弓は、周辺の凍結した空気を貫きながら太陽に接近し、爆風と共に多量の白煙を放ち始めた。
発生した白煙は上空へと吹き上がり、暗雲を左右に吹き飛ばした。
差し込んだ陽の光を浴びたその時、ファクティスは何かに驚いたかの様に目を見開いた後に、ゆっくりと悲しげに瞼を閉じた。
「……おやすみ、ソアレ」
瞼を閉じた時から、ファクティスは周囲の音が全く聞こえない静寂の空間の中に立っていた。
再び目を開けたファクティスの瞳には、純白の世界で今にも深い眠りに付きそうなソアレの姿が映っていた。
「ありがとう。ファクティス……」
互いに微笑み合った後に、ソアレはその場に居たもう一人の少女の名前を告げ、ゆっくりと瞼を閉じた。
別れの言葉を告げ、元の世界に戻ったファクティスは、吹き荒れる白煙の中、漆黒の髪を荒々しく靡かせていた。
「ソアレが死んじゃった…………寂しいなぁ」
ソアレが死去した事で、孤独感に苛まれたファクティスは、掠れた声を発しながら吹き上がった白煙によって露わになった蒼天を仰いだ。
「寂しいのは……ヤダァ」
依然として互いの技が衝突し続ける中、ファクティスは周囲に吹き荒れる蒸気の熱気を冷やす様な冷たい涙を、一人静かに流していた。
―*―*―*―*―
「ファクティス。貴女の気持ち……痛い程分かります」
古びた椅子に座った白髪の少女は、数秒瞼を閉じた後にゆっくりと椅子から立ち上がり、腰まで流れる白髪を左右に揺らしながら、廃墟の出口に向けて歩き始めた。
「うおっ!」
壁に背中を預ける様に腕を組みながら立っていたティオーは、突然動き始めた少女に〝恐怖〟し、その場から駆け足で離れた。
「オイオイ、落ち着けって。お前が今行ったら、その場にいるアイツら全員殺しちまうだろ?……ユウトを殺しちまっても良いのか?」
一定の距離を維持した状態で声を掛けたティオーは、ユウトの名前を口にした瞬間にピタリと歩みを止めた少女の反応に、多少の苛立ちを感じていた。
「お前には誰も、〝お前自身〟すらも救う事は出来ない。そんな事…… 〝三年前〟から知ってんだろ?」
そう口にしたティオーの心は、ユウトに対する苛立ちを超える孤独と悲しみに支配され、瞳から一筋の涙が流れた。
「……そうでしたね。それが、私の……」
『運命』
見えない空を仰いだ少女の瞳から流れた涙は、三年前から始まった少女の呪われた運命を物語るかの様に、朱殷に染まっていた。
満面の笑みを浮かべながら、勝色の炎で形成された両翼を揺めかせたファクティスは、両手を大きく広げ、自身を赤黒く照らす二重の光輪を激しく発光させ始めた。
『ズシャ~ン』
嬉々として発せられた言葉に反応した両翼は、左右に向けて大きく広がり、翼の背後で発光する光輪から電撃の塊が、まるで触手の様に翼の上下左右へと伸長した。
そして、無数に発生した触手の先端が鏃の様に鋭利な形状へと変化すると同時に、広げていた両手をユウキ達に向けた。
「穴だらけになっちゃえ!」
ファクティスの言葉と共に、ユウキ達に向けて不規則に接近する電撃の触手を前に、二人は同時に深呼吸をした。
そして、同時に結晶の薄い障壁を全身に纏った二人は、身体を左右に揺らす様に接近する触手を最小限の動きで回避し始めた。
「アハハッ!ホラッ、ホラッ、ホラッ!!」
鋭利な先端を有する触手を回避し、迸る電撃を薄い障壁で防いでいるユウキ達の様子を面白がったファクティスは、光輪から発生した触手を増やし、再び二人に向けて伸長した。
「当たると思ってやってるのか?」
「今の僕らなら、簡単に避けられる攻撃だよ」
音速を超える攻撃を視認してから回避する二人の様子は、常人の目には回避の瞬間を視認する事が出来ない程の速度域まで到達していた。
「すごい凄い!私の攻撃を回避出来る人なんて、ロシアの世界最強?の人だけかと思ってた!」
結晶の属性によって身体能力が全体的に強化されているユウキ達には、刻絕の姫君と呼ばれたソーン程では無いが、俊敏性が格段に上昇していた。
「ユウキ、少し借りるよ」
「ん?」
足場を変えながら、身体を左右に揺らす様に触手を回避していたレンは、右手に握る結晶刀に結晶を追加で纏わせた。
「許可なんて必要ないだろ?今は、俺達二人の力だ……存分に使ってくれ」
百七十前半程の身長のレンを超える刀身の長さに変化した結晶刀は、二十五センチを超える幅を有していた。
「ありがとう、ユウキ」
触手を軽やかに回避しながら大刀を両手で構えたレンは、先端を天高く持ち上げた。
「はわぁ……重そ——」
『浄化の凍刃』
自身の感じた事を口にしていたファクティスは、勢い良く振り下ろされた結晶刀から放たれた、水縹の斬撃に視界を埋め尽くされた。
「でも、残念でした。全てお見通しだよ!」
そう告げたファクティスは、その場で後転宙返りをした。
そして、斬撃に背中を向ける様な状態で静止したファクティスは、翼の背後に形成していた雷の光輪を高速回転させながら拡大させた。
『壁』
拡大した光輪は、中心部に向かって雷属性を展開し、円状の盾を作り出した。
レンが放った斬撃に接触した事を確認したファクティスは、両翼と光輪を繋いでいた雷属性を分離し、その場から飛び去った。
「アハハ、私の裏をかく事なんて——」
「出来るだろ」
ユウトの協力によって思考の偽装が可能と判断したユウキは、ファクティスの思考読みを逆手に取り、斬撃によって視界を奪われたファクティスが、二人の思考を完璧に読んだという慢心から見せる隙を狙っていた。
「え!?」
斬撃から距離を取り、空中で両翼を揺らめかせていたファクティスは、背後から聞こえた声に対して驚きの声を上げた。
『光結の審判』
その時、先程の加速する結晶拳を凌駕する速度の両拳を背中に受けたファクティスは、全身を凍結させる多量な結晶の属性を一瞬にして痛感した。
「あぐ……う——」
キイィィィィイン
甲高い音と共に周囲に存在する全てを激しく揺らす衝撃波が広がり、レンの放った斬撃とファクティスが雷属性で形成した光輪は、衝撃波と共に放たれた冷気によって同時に凍結した。
「は……はぅ」
背中から胸部を貫かれたと感じる程の強い冷気に意識を支配されたファクティスは、ぎこちなく動く両腕を胸部に当て、無意識のうちに自身の体温を暖めようとしていた。
「さ、む……いよ」
結晶化し始めた両翼は、徐々に形状を保てなくなり、ガラガラと音を発しながら地面へと落ちていった。
翼を失ったファクティスは、身体を丸めた状態で地面へと落下した。
しかし、地面に激突する直前に無意識下で放たれた炎、雷、水属性によって、ファクティスの落下地点周辺は、白い蒸気に覆い隠された。
「その技は……」
「大丈夫だ。ティオーの時とは、属性力も、属性量も全然違うんだ……ちゃんと残ってる」
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「それにしても、なんでファクティスは君の考えている事を読み間違えたんだろう?」
「それは——」
「アハハ……」
「「っ!!」」
会話をしながらも気を緩める事なく、周囲に意識を向けていた二人は、白煙の中から聞こえたファクティスの声に反応し、再び意識を集中させた。
「アハハハハハハッ!」
歓喜の叫びと共に突風が吹き、周囲に立ち込めた白煙が一瞬にして吹き飛ばされた。
「くっ!」
「うっ!」
突風に対して咄嗟に両腕で顔を庇っていた二人は、再び姿を現したファクティスの姿を視認すると同時に目を見開いた。
「私は、ねぇ……普通じゃないんだよぉ?」
常人であったファクティスが多種の属性を所有するには、その属性に〝対応する為の肉体へと造り変える〟必要があった。
チェルノボグの提案した内容は、転生可能な人間でありながらアンリエッタの様な、世界最強を凌駕する属性量と属性力を扱える肉体へとファクティスの身体を変化させる事。
闇の神は、チェルノボグの要望に応えたが、研究室に返還されたファクティスは、常識では考えられない変化を遂げていた。
外見的変化は殆ど見られなかったが、属性が干渉する全ての部位や臓器は、全て黒い糸の様なモノで造られていた。
身体検査の末に判明した異様な変化を目の当たりにしたチェルノボグは、平静を装いながらも内なる怒りを込めた眼差しを、ファクティスを送り届けたアンリエッタへと向け、最大限の皮肉を込めてこう告げた。
『俺は、お前達に人〝間〟と言ったつもりだったが……一文字、聞き間違えたのか?……随分と良い耳をお持ちだ』
二人の前に現れたファクティスの焼け爛れた皮膚の下からは、黒い糸が露わになり、背中に再び形成された両翼は、黒い糸によって形造られた翼に二種類の炎属性が纏われている状態だった。
笑みを浮かべるファクティスの口は耳元まで大きく裂けており、避けた部分を繋ぐように張っていた黒い糸は、自我を有しているかの様にユラユラと不規則な動きをしていた。
「あんな攻撃じゃ、私は死なないよ?だって……私はねぇ、神様になったんだもん」
今にも千切れそうな四肢を繋ぐ黒い糸は、ファクティスの意志に反応すると同時に全身を元の状態へと再生させ、完全回復したファクティスは、勢い良く両腕を上空へと上げた。
「こ~んな事も、出来るんだよ?」
その直後、両翼の炎属性がファクティスの両手に集結し始めた。
「さっきの攻撃が冷たかったから、私からは暖かい攻撃をあげるね?」
空を覆っていた暗雲に到達する程の、超巨大な勝色の火球を造り出したファクティスは、両翼を力強く左右に広げ、火球の中へと飛び込んだ。
「彼女の姿……あれは、一体——」
「そんな事、今は考えている余裕はないぞ」
ファクティスが入った火球は、核となる部分が円状に漆黒に染まり、核を囲う様に朱殷の球体が浮かび上がった。
三色の巨大な火球を中心に、二種類の雷属性で構築された複数の環が、互いに重なる事の無い位置を維持していた。
『太陽』
核の中で立ち尽くし、ユウキ達に向けてゆっくりと切先を構えたファクティスは、太陽を二人に向けて放った。
移動する太陽の内部から姿を現したファクティスは、両翼を揺めかせながら、離れていく太陽の様子を静かに見守っていた。
「少しの間だけ本気を出す。レンは少し離れた……いや、俺の側を離れるな」
「その言葉、僕から君に言いたかったな」
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弓柄を握り締めたユウキは、弦に結晶で創り出した矢の矢筈を右手で番えた。
結晶の弓を垂直に、矢を水平に構えたユウキは、左右均等に弓を弾き始めた。
『蒼穹の結晶弓』
放たれた結晶の弓は、周辺の凍結した空気を貫きながら太陽に接近し、爆風と共に多量の白煙を放ち始めた。
発生した白煙は上空へと吹き上がり、暗雲を左右に吹き飛ばした。
差し込んだ陽の光を浴びたその時、ファクティスは何かに驚いたかの様に目を見開いた後に、ゆっくりと悲しげに瞼を閉じた。
「……おやすみ、ソアレ」
瞼を閉じた時から、ファクティスは周囲の音が全く聞こえない静寂の空間の中に立っていた。
再び目を開けたファクティスの瞳には、純白の世界で今にも深い眠りに付きそうなソアレの姿が映っていた。
「ありがとう。ファクティス……」
互いに微笑み合った後に、ソアレはその場に居たもう一人の少女の名前を告げ、ゆっくりと瞼を閉じた。
別れの言葉を告げ、元の世界に戻ったファクティスは、吹き荒れる白煙の中、漆黒の髪を荒々しく靡かせていた。
「ソアレが死んじゃった…………寂しいなぁ」
ソアレが死去した事で、孤独感に苛まれたファクティスは、掠れた声を発しながら吹き上がった白煙によって露わになった蒼天を仰いだ。
「寂しいのは……ヤダァ」
依然として互いの技が衝突し続ける中、ファクティスは周囲に吹き荒れる蒸気の熱気を冷やす様な冷たい涙を、一人静かに流していた。
―*―*―*―*―
「ファクティス。貴女の気持ち……痛い程分かります」
古びた椅子に座った白髪の少女は、数秒瞼を閉じた後にゆっくりと椅子から立ち上がり、腰まで流れる白髪を左右に揺らしながら、廃墟の出口に向けて歩き始めた。
「うおっ!」
壁に背中を預ける様に腕を組みながら立っていたティオーは、突然動き始めた少女に〝恐怖〟し、その場から駆け足で離れた。
「オイオイ、落ち着けって。お前が今行ったら、その場にいるアイツら全員殺しちまうだろ?……ユウトを殺しちまっても良いのか?」
一定の距離を維持した状態で声を掛けたティオーは、ユウトの名前を口にした瞬間にピタリと歩みを止めた少女の反応に、多少の苛立ちを感じていた。
「お前には誰も、〝お前自身〟すらも救う事は出来ない。そんな事…… 〝三年前〟から知ってんだろ?」
そう口にしたティオーの心は、ユウトに対する苛立ちを超える孤独と悲しみに支配され、瞳から一筋の涙が流れた。
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王子に同行している騎士団長は、自らの部隊が命懸けで挑む難敵を、遊び感覚で仕留める彼女たちの振る舞いに、常に顔を青ざめさせ、胃を痛め、絶叫に近いツッコミを入れ続ける。
レイエスは確信する。各地で活発化する魔獣の脅威を退け、王国の平和を守る鍵は彼女たちの力にあると。しかし、義務や名誉に興味がない自由奔放な彼女たちを、騎士団などの堅苦しい枠に閉じ込めることは不可能だ。そこでレイエスは、一石二鳥の妙案を思いつく。それは、彼女たちを「働かせる」のではなく、討伐対象がいる危険地帯へ「遊び」という名目で誘い出すことだった。
レイエスは親たちへの根回しを完璧に済ませ、再び三人の前に現れる。「褒美に海へ遊びに行こう」という誘いに、三人は、王子様が自分たちを騙して捕まえようとしてるのではないかと疑うが、結局未知なる冒険という名のピクニックへと旅立つことになる。
こうして、規格外の力を持つ三人と、彼女たちを「遊び」で導き、その力を正しく制御しようとする王子の奇妙な旅が始まる。彼女たちが無邪気に遊ぶたび、王国を脅かす難敵は露知らずのうちに駆逐されていく。自覚なき救世主たちのドタバタな日常が、世界の運命を静かに、そして豪快に変えていくのである。
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【2025カドカワBOOKS10周年記念長編コンテスト中間選考通過作品】
・規格外の魔法少女は『遊び』と称して魔獣討伐行ってます!?
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