創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

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第2章 紡がれる希望

第99話 僕らの背負うモノ

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 ラザレット島

 雷の皇帝グロム・ツァーリの中で繰り広げられた戦闘は、遠方のアーミヤが属性を通じて認識出来る速度を超え始めていた。

「っ!」

 先見プリヴィデニアで未来を視ているミールでさえ、向かい合うチェルノボグから繰り出される斬撃を避け切れず、右頬に付いた裂け目から血液が流れ出ていた。

 斬撃を受けた瞬間に地面から出現する雷の盾を避けるように飛び退いたチェルノボグは、終わった後に現場に駆け付けた二人の導き手の事を思い出していた。

「遅いんだよ……何もかもが」

 両手に握る銀色のメスに属性を纏わせていたチェルノボグは、二本を同時に左右へと投げた。

伝導スポシブ・プロバ・ワンニャ

 あらぬ方向へと投げ放たれたメスは、チェルノボグの両手から発せられた雷の属性に反応すると同時に、その場で静止した。

「そうは、させないっ!」

 危険を察知したシュウは、素早く両手を広げているチェルノボグの懐へと入り込んだ。

「隙が出来たとでも思ったのか?」

 不敵な笑みを浮かべながら告げたチェルノボグの足元には、先程投げ捨てられたガバメントが落ちていた。

 投げ捨てられたガバメントから意図的に外されたと思われる弾倉からは、不自然な程の弾丸が溢れ辺りに散らばっていた。

「前工程は、既に終了している」

 ミールとの攻防の最中、溢れ出た弾丸を脚で弾き飛ばしていたチェルノボグは、雷の皇帝グロム・ツァーリ内のあらゆる場所に属性を伝達する為の弾丸を配置していた。

『チェルノボグに殺されてしまえ』

 チェルノボグの両手と共に配置された一部の弾丸に属性が伝わり赤く発光し始めると、地面を伝う電撃がシュウとミールの肌をピリピリと刺激し始めた。

「っ!」

「ヤバっ!」

寂寞の雪せきばくのゆき

 赤黒い閃光が発せられた瞬間、ミールは属性による超加速を用いてその場から離れ、シュウは寂寞の雪せきばくのゆきを使用し、素早くその場から姿を眩ませた。

 直後、雷鳴と共にチェルノボグの正面に雷属性で構築された複数の雷の柱が発生した。

 赤黒い雷の柱は、天井に存在する雷の皇帝グロム・ツァーリを貫く程の威力を見せた。

「ミールが回避する事は想定していたが、お前も避けられるとは想定外だった。属性の恩恵があるとはいえ、判断が早くなったな……シュウ」

 先程の雷撃で大穴が開けられた雷の皇帝グロム・ツァーリが再生する様子を見たチェルノボグは、領域外に存在する研究室の天井に傷一つ付いていない事を確認した。

 (やはり、俺の属性では……神には到底及ばないか)

 結晶の属性を多少使用して回避したシュウは、僅かに電撃を受けてしまった右脚に痛みを感じ、顔を歪めていた。

 (属性、少し使っちゃった。出来るだけ、僕の属性でなんとかしないと……でも、僕の属性じゃ……)

「ううん。大丈夫、だって……その為にリエル達と鍛錬したんだから」

 不安を消し去るように首を左右に振ったシュウは、痛みを感じる右脚を属性で治癒し、両手で握る日本刀で正面にある地面に横線を描くように斬り付けた。

 (この線を基準に)

「えいっ!」

 斬り付けた感覚を残した状態で属性を展開すると、属性は緑色の幕のようにシュウを隠すように、二人の間に発生した。

「繋いで、僕の属性っ!」

 そう叫んだシュウは、日本刀を両手で振り上げ、幕のように発生していた属性を真っ二つに斬り裂いた。

 その瞬間、切れ目から発生したのは大量の緑色のシャボン玉と、切れ目を繋いでいた水の糸だった。

「水属性の糸……」

 幕を形成していた水の糸は、斬撃を受けた瞬間に切れ目から解け、解けた糸の先端は意志をもっているかのようにチェルノボグへと迫った。

「成る程。水の幕という基盤から、捕縛する糸を量産したという訳か。確かに、水属性の使用法としては良いだろう」

 接近する無数の糸を最小限の動きで回避するチェルノボグは、足を接している地面に向けて雷の属性を流した。

「だが、雷属性を有する相手には不適切だ」

 地面から発生した雷の針に貫かれた糸は、伝導した雷属性によって内部から受けた衝撃によって爆散した。

「属性相性に関する情報は、アーミヤから指導されなかったのか?」

「されましたよ」

 視線をシュウに向けていたチェルノボグは、背後からミールの声が聞こえているにも関わらず、視線を向ける事は無かった。

「もう一度言おう。隙があると思ったのか?」

 チェルノボグがそう告げた瞬間、何も無い空間から突如として黒い渦が発生した。

 (駄目だ……少し遅い)

 先見プリヴィデニアで一瞬未来を視たミールは、光線に呑み込まれる自分自身の未来を予見した。

 空中に発生させた雷円の中央を踏み込んだミールは、勢い良くその場から離れるべく雷で形成された面を蹴り、左方向へと飛んだ。

 それと同時に、黒い渦から姿を現した対物移動型属性砲に付属された巨大な砲台から赤黒く巨大な光線が放たれた。

「うわっ!」

 雷の皇帝グロム・ツァーリの壁に直撃した光線は、強烈な爆風を生み出し、電撃を帯びた風を受けたシュウはピリピリとした痛みから顔を守る為に、両腕を顔の前で交差させた。

「やはり避けたか……だがその芸当も、長くは続かんだろう」

 チェルノボグの視線の先には、少し呼吸の乱れたミールが鋭い眼差しを向けたまま立っていた。

「それは、お互い様です」

「ああ、俺も属性の消費は避けられん。だが、それならば尚の事……俺に敗北は見えんな」

 頬から流れる血を左腕で拭ったミールは、属性を纏わせた白刃の刀を構えた。

「ミール……回復してあげたいけど、チェルノボグに隙を見せる訳にはいかないし……」

 (そうだっ!あの方法なら、いけるかもっ!)

 ある作戦を思い付いたシュウは、左手で刀を握った状態で、腰に装着していた銀色のグロックを一丁右手で取り出した。

「ちゃんと狙って……えいっ!」

 そして銃口をチェルノボグへと向けると、水のマイナス属性を纏わせた弾丸を一発放った。

「ふぁっ!」

 放たれた弾丸は、ミールの右頬を掠めるように横を通過し、不意をつかれたミールは身体を震わせる程の動揺を見せた。

「はぁ……無駄だ」

模倣マスリィド・ワンニャ

 しかし、チェルノボグの周辺に発生した黒い渦の中からシュウの放った弾丸と酷似した弾丸が姿を現し、正面から衝突した弾丸は同等の衝撃を受けた事によって互いに砕け散った。

「嘘っ!?」

 予想外の光景を目にしたシュウは、唖然とした表情を浮かべながら立ち尽くしていた。

 (あ、あれが……僕とユキの弾丸を相殺していた技の正体なの?)

 黒い渦から鏡写のように現れる弾丸には、対象となった物と同じ質量と速度を有していた。

 だからこそチェルノボグは、弾道逸らす事無く弾丸を撃ち砕く事が出来た。

「俺は、闇の神からの恩恵を強く受けた人間の一人。得たモノは全て利用する……例えそれが、二度と得られないモノだとしてもな」

 そう口にし、両手を大きく広げたチェルノボグの周辺には、二つの黒い渦が出現していた。

「言った筈だ。俺もアンリエッタと同じ様に、数でその場を制すると。数で優位なのは、お前達じゃ無い……俺の方だ」

 その言葉通り、チェルノボグの左右に存在する空間には次々と黒い渦が出現し続けていた。

「それだけじゃない。俺とお前達とでは、属性量の差も歴然としている」

 その直後、雷鳴と共に二本の砲台から赤黒い光線が放たれた。

「シュウ!」

「大丈夫、信じてるから」

 身構えた状態で動かない二人の正面に、雷の皇帝グロム・ツァーリが属性で構築した雷の盾が現れ、光線から二人を守った。

「大半の属性をアーミヤに消費しようとも、お前達の相手が優に出来る属性量が、俺には残されている」

 徐々に縮小した光線が消え、二人の正面に存在した雷の盾が自然消滅すると、両腕を組んだ状態で立っているチェルノボグと二人の視線が重なった。

「属性量の差は、戦闘方法から推測する事が出来る。ミール、お前の扱う強大な属性力とは相反して、属性量は依然として未成熟である事も」

 チェルノボグの周辺に増え続ける渦の中からは、巨大な砲台が顔を覗かせ、赤黒い電撃が渦の外へと溢れ出す程に荒々しく迸っていた。

「確かに、僕の属性量は未熟かもしれせん……それでも」

 シュウの弾丸に付与された水属性によって頬の傷と属性を少々癒したミールは、姉の形見である白刃の刀の柄を強く握り締めた。

「それでも僕は、貴方に勝利する未来を視てみせるっ!」

 その時、刀身に迸っていた属性の色が光を強め、通常と比べ〝白に近い色〟へと変化していた。

「残念だが、お前がその未来に到達する事は無い」

 刃を伝う属性を目にしたチェルノボグは、何かを悟ったかの様に目を細めると、組んでいた両腕を解き、身体の中を流れる〝全ての雷属性〟を四肢に集中させた。

 (俺には、この目で見なければならない未来がある……そうだろう、アナスタシアさん)

『もしも私に何かあった時は、エリーの事をお願いね?』

 チェルノボグの脳裏には、永遠の忠誠を誓った女性と最後に交わした、約束の日の言葉が鮮明に蘇っていた。
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