創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

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第2章 紡がれる希望

第84話 重なる双刃

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「私の大好きな……世界一大好きな、私のお友達」

 転生する刹那、光に照らされた黄褐色おうかっしょくの髪をした少女の暖かい微笑みを見た。

「私の方こそ、ありがとう。私の大好きな〝ソアレ〟」

 馴染みのある小高い山の上で、私はソアレと抱き合って別れを告げた。

 こんな私を、ソアレは優しく包み込んでくれた。

 私が犯した拭い切れない罪を、少しでも和らげてくれる様な暖かな光で。

 ソアレの命は、私がこの手で奪ってしまったのに。

―*―*―*―*―

 マリオット島

「ユウっ!!」

 一点を見つめ、呆然と立ち尽くしていたユウに駆け寄り突き飛ばしたウトは、右手に携えた刀を払った。

 その瞬間、正面からユウを貫くように迫っていた双刃刀が白色の刀身に接触し、甲高い金属音を発した。

 ヨハネ戦以来、真っ向から刃を受ける事を避けていたウトは、刀身を下に向けた状態で刃を受け、回避に転じられる体勢を取っていた。

「想定内です」

 左手で突き出した双刃刀の軌道を逸らされたソアレは、右手に持っていた双刃刀をウトの左側腹部に向けて払った。

「くっ!」

 左側から接近する刃に対して、先程ユウに突き飛ばされた際に床から拾い上げたメスを使用した。

 双刃刀を防いだウトは、ソアレの人並外れた力に圧倒され、左手で握り締めていたメスを飛ばされてしまった。

「十分」

 刃を防ぐ事の出来た一瞬を利用したウトは、身を屈めながら右手に握っていた刀を左側に動かし、左側から迫る刃を刀身上に反らせ、自身は刃の下を潜るように移動する事で斬撃を回避した。

明敏めいびんですね」

 ウトを逃してしまったソアレは、両手の双刃刀を回転させながら腕を元の位置に戻し、周囲を確認していたウトに視線を合わせた。

「感覚でやっているだけ、頭で考えた事なんて無い」

 そう告げたウトは、地面に落ちているメスを拾い上げた。

「二度と同じ手は通用しませんよ?」

「知ってる。ある物を利用するだけ……それが、私の命であっても」

 研究室として使用されていた部屋の中には、武器になり得る器具が至る所に散らばっていた為、ウトは事前にの位置を大凡おおよそ把握していた。

「彼女の為ですか?」

 ソアレが視線を向けた先には、突き飛ばされた場所で座り込んだままソアレを呆然と見つめ続けているユウの姿があった。

 (ソアレの属性は開花していなかった。別人?……だとしても、声が同じで雰囲気も同じような……でも、属性が開花していなければ転生しない筈。それにソアレは、あの時私が……殺して)

 光の灯っていない瞳でソアレを見つめていたユウは、属性開花前のソアレを手に掛けた記憶と、現在の状況の差異に混乱し、理解が追い付いていない状態だった。

 そんなユウの様子を見たウトは、ソアレに視線を合わせながら白色の刀身を有した刀を向けた。

「ユウの為だけじゃない……ここへ来たみんなの為に、私達は負ける訳にはいかない」

 その言葉を聞いたユウは、共にヴァイスへとやって来たユウトの事を思い出した。

 過去の過ちだけを見つめ、罪を背負いながら闇の人間として生き続ける事が両親達への贖罪だと考えていた自分が、過去と向き合い、何が本当の贖罪となるかを考える切っ掛けをくれた人物の事を。

『俺の名前から取った。……〝優〟……お前は両親だけじゃなく村人達からも愛された優しい子なんだ。罪を背負っているのなら、転生した先の未来で一生をかけて償い続けるんだ』

 (罪を背負って生き続けるか、死ぬ事で罪を償うかの選択しか考えていなかった私に、名前も、生きる場所も与えてくれた人)

 ユウキという名前が無かった頃のユウトとの戦いを思い出したユウは、静かに瞳を閉じ、記憶に鮮明に残された親友との会話を思い出した。

『——は悪くない。私はここで死んじゃうけど……私は死んでも、ずっと願っているから……』

 正面で向き合っていたソアレは、大きく手を広げ、紫色の瞳から一筋の涙を流した。

『——が……いつか必ず、救われますようにって』

 (私は、転生して償い続けると決めた。私の事を信じてくれたユウト達と、最後まで私なんかの事を愛してくれたお父さん、お母さん、村の人達……そして、私の大好きな親友の為に)

 再び開かれた紅の瞳には光が灯り、過去に向き合ったユウの決意を感じさせていた。

「みんなの為、ですか」

 ウトの言葉を聞いたソアレは、微かに表情を曇らせた後に、両手に携えた双刃刀をウトに向けた。

「ソアレ、貴女なら分かるでしょ?私の知っている、昔の貴女なら」

 そう口にしながらゆっくり立ち上がったユウは、その場で紅緋べにひ紺碧こんぺき双刃そうじんをソアレに向けて構えた。

 (昔の?……まさか、あの村の住人?)

 ユウの言葉を聞いたウトは、ユウの故郷である山奥にある村の事を思い出した。

「誰かの為に頑張ろうとしていた、他人の幸せを他人以上に願っていたソアレなら」

「シア、誰かと勘違いしてるんじゃない?私はチェルノボグ様の研究で生まれた、ソアレという名前を与えられただけの存在だから」

「勘違いなら、なんで貴女は私をシアと呼ぶの?」

 その言葉に対して、ソアレは微かに目を見開いた。

「なんで?……確かに、何でだろう?」

 ソアレの朧げな記憶には、顔を思い出せない蒼いツインテールの少女との思い出が残されていた。

「貴女が私の知っているソアレなら、私が逃げる訳にはいかない」

「っ!」

 記憶に残された少女と同じ声を聞いた事で意識を正面に戻したソアレは、向けられた双刃に合わせるように両手に携えた双刃刀の切っ先をユウへと向けた。

「逃しはしない。私の使命は、貴方達を殺し、光の希望を消し去る事だから」

 そう口にしたソアレは、両手の双刃刀に赤黒い電撃を走らせた。

「私にも、やるべき事があるよ……ソアレ」

 優しげに告げたユウは、紅緋べにひの刃に紅蓮の炎を、紺碧こんぺきの刃に蒼炎を纏わせた。

「今度は私が、貴女を救ってみせるから」

 その言葉を皮切りに、両者は地面を強く蹴り、互いの双刃を重ね合わせた。
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