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第2章 紡がれる希望
第76話 新たな誓いの刻
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ロシア本部ツァリ・グラード 中庭
会議室での情報交換を終えたユカリは、ユウキによって気絶させられたエムをシュウとリエルに任せ、一人で中庭へと向かっていた。
覚束ない足取りで中庭へと辿り着いたユカリは、中庭の中央部分に微かに残された雷属性を横目に、中庭にある一本の木へと近付いた。
普段であれば空を照らしている筈の太陽は、今朝から分厚い雲によって隠されていた。
アーミヤ達が修練場へと向かった頃から中庭に湿気を帯びた風が流れ、ユカリはその風に髪を靡かせながら木へと歩みを進めた。
木の根元にあるソーンとパベーダの墓の前に立ち尽くしたユカリは、墓に供えられたクチヤを静かに見つめていた。
『どうしたのユカリちゃん?そんなに暗い顔をして……』
顔を上げたユカリの視界に映ったのは、属性によって創造された二人の名前が刻まれた結晶の墓石だった。
『導き手のアンタが暗い顔してるなんて珍しいな』
無言のまま墓石を見つめていたユカリの耳には、過去の二人が自分に向けて発した言葉が鮮明に聞こえていた。
『不安な事があれば、お姉ちゃんに相談して下さいね?』
導き手の後継として活動し始めた頃に、ソーンがユカリに対して発した言葉。
最大限の助力をしてくれたソーンやヨハネは、幼いユカリにとっては頼りになる姉のような存在だった。
『アンタは行動で示してくれたからね。私みたいな常識に囚われた人間さえ信じさせる……働き者でお人好しの小さな神様だって』
ツァリ・グラードの主力となったパベーダと話した際に、ユカリに背を向け顔を逸らしたパベーダが、独り言のように発した言葉。
耳を赤くしながら告げられたその言葉を聞いて、思わず頬が緩んでしまった事を、ユカリは今でも鮮明に覚えていた。
「……」
両手を握り締めたユカリは、中庭に生えた一本の木を見つめながら、戦いで亡くなった主力達との記憶を振り返っていた。
『導き手の娘ってお前だろ?俺はカイって言うんだ……俺も導き手と同じで争いの無い平和な世界を作りたいって夢を持ってるんだ!』
両親とイタリアへ訪れていた際に偶然出会ったカイとは、同じ平和を志す者として意気投合した。
『主力は後二人か……なんにせよ、ユカリが導き手で、俺が主力なら日本も安泰だな!』
親指を立てた右拳と笑顔を向けるカイを心の底から頼もしいと感じていた事、カイを加えた主力四名で活動していた頃の平和と呼べる時間の記憶は、ユカリにとって宝と呼べるモノだった。
『は、はいっ!は、初めましてユカリ様!本日から西拠点ルミナに配属となりました、フィリアと申します。本日はよろしくお願い致します!』
ルクスで初めて出会った時は、冷静で口数の少ないフィリアと改めて顔を合わせたユカリは、実は自分に対する敬称以上に、別人のように変化していたフィリアの様子に驚いていた。
『ユカリ……私は、ルミナに来た事を奇跡だと思っているんです。ユウトと出会えた事だけじゃなく、ルミナのみんなに出会えた奇跡……私は、幸せ者ですね』
ユウトとの対決後、ユカリを含めたルミナの隊員達を懸命に支援していたフィリアは、ユカリと二人で書類整理をしていた際に、ユカリに向けてそう呟いていた。
「……ぅ」
数え切れない程の思い出を振り返っていたユカリは、声を押し殺しながら空色の瞳から滝のような涙を流していた。
『すぅ……すぅ……』
『またアーミヤに怒られた……導き手のアンタからも堅苦し過ぎるアーミヤに何か言ってくれよ』
『皆でやる野菜パーティさ……毎週やるってのはどうだ?俺は、全員で食事する時が一番の楽しみなんだよ~』
『この仕事は私に任せて、ユカリはちゃんと休んで下さい……大丈夫!私には、病気になった事が無い丈夫な身体がありますから!』
「う……ぅぅ」
垂れ下げた両腕を震わせ、涙を流し続けていたユカリの額に、冷たい雫がピシャリと落ちた。
黒い雲から滴り落ちた雫は、ユカリの押し殺した小さな声を消し去るように、次第に量を増していった。
木の前で立ち尽くしたユカリは、自身の身体が濡れる事など意にも返さず、命を落とした四人の事だけを思っていた。
「うぅ……ぅ」
全身が濡れる中、ユカリは声を押し殺し、心の底から感じる悲しみや喪失感と向き合いながら啜り泣いていた。
「ソーン……パベーダ……フィリア……カイ」
ユカリの口から微かに溢れた言葉は、亡くなった者達の名前だった。
何度も発せられた言葉は、周囲の雨音の中へと消え、止め処なく流れる涙は、降り注ぐ雨に混ざり合うようにユカリの顔を濡らしていた。
「……ユカリさん?」
日本の主力二名が会議室から退室し、一人になったリエルが訪れた中庭で目にしたのは、大粒の雨が降り注ぐ中で凝然と立ち尽くし、雨音を立てて揺れる木の葉を見上げながら涙を流す導き手の姿だった。
(あれは……ソーン達の墓?)
ユカリの前にある結晶の墓がソーンとパベーダの墓である事に気が付いたリエルは、その場で一分程の黙祷をした後に、中庭からツァリ・グラードの通路へと戻って行った。
(私にも出来る事を……もう二度と、取り返しのつかない間違いをしない為に……自分で考えて、やれる事を全部やらないと)
他人の言葉だけを鵜呑みにした自分の行動が招いた悲劇を、二度と同じ理由で繰り返さない事を胸の奥で誓ったリエルは、修練場へ向かったシュウの訓練に協力する為に修練場へと駆け出した。
ツァリ・グラードに集結した主力達は、イタリアで予想される戦いに向けて、各自が出来る最善の行動を開始していた。
会議室での情報交換を終えたユカリは、ユウキによって気絶させられたエムをシュウとリエルに任せ、一人で中庭へと向かっていた。
覚束ない足取りで中庭へと辿り着いたユカリは、中庭の中央部分に微かに残された雷属性を横目に、中庭にある一本の木へと近付いた。
普段であれば空を照らしている筈の太陽は、今朝から分厚い雲によって隠されていた。
アーミヤ達が修練場へと向かった頃から中庭に湿気を帯びた風が流れ、ユカリはその風に髪を靡かせながら木へと歩みを進めた。
木の根元にあるソーンとパベーダの墓の前に立ち尽くしたユカリは、墓に供えられたクチヤを静かに見つめていた。
『どうしたのユカリちゃん?そんなに暗い顔をして……』
顔を上げたユカリの視界に映ったのは、属性によって創造された二人の名前が刻まれた結晶の墓石だった。
『導き手のアンタが暗い顔してるなんて珍しいな』
無言のまま墓石を見つめていたユカリの耳には、過去の二人が自分に向けて発した言葉が鮮明に聞こえていた。
『不安な事があれば、お姉ちゃんに相談して下さいね?』
導き手の後継として活動し始めた頃に、ソーンがユカリに対して発した言葉。
最大限の助力をしてくれたソーンやヨハネは、幼いユカリにとっては頼りになる姉のような存在だった。
『アンタは行動で示してくれたからね。私みたいな常識に囚われた人間さえ信じさせる……働き者でお人好しの小さな神様だって』
ツァリ・グラードの主力となったパベーダと話した際に、ユカリに背を向け顔を逸らしたパベーダが、独り言のように発した言葉。
耳を赤くしながら告げられたその言葉を聞いて、思わず頬が緩んでしまった事を、ユカリは今でも鮮明に覚えていた。
「……」
両手を握り締めたユカリは、中庭に生えた一本の木を見つめながら、戦いで亡くなった主力達との記憶を振り返っていた。
『導き手の娘ってお前だろ?俺はカイって言うんだ……俺も導き手と同じで争いの無い平和な世界を作りたいって夢を持ってるんだ!』
両親とイタリアへ訪れていた際に偶然出会ったカイとは、同じ平和を志す者として意気投合した。
『主力は後二人か……なんにせよ、ユカリが導き手で、俺が主力なら日本も安泰だな!』
親指を立てた右拳と笑顔を向けるカイを心の底から頼もしいと感じていた事、カイを加えた主力四名で活動していた頃の平和と呼べる時間の記憶は、ユカリにとって宝と呼べるモノだった。
『は、はいっ!は、初めましてユカリ様!本日から西拠点ルミナに配属となりました、フィリアと申します。本日はよろしくお願い致します!』
ルクスで初めて出会った時は、冷静で口数の少ないフィリアと改めて顔を合わせたユカリは、実は自分に対する敬称以上に、別人のように変化していたフィリアの様子に驚いていた。
『ユカリ……私は、ルミナに来た事を奇跡だと思っているんです。ユウトと出会えた事だけじゃなく、ルミナのみんなに出会えた奇跡……私は、幸せ者ですね』
ユウトとの対決後、ユカリを含めたルミナの隊員達を懸命に支援していたフィリアは、ユカリと二人で書類整理をしていた際に、ユカリに向けてそう呟いていた。
「……ぅ」
数え切れない程の思い出を振り返っていたユカリは、声を押し殺しながら空色の瞳から滝のような涙を流していた。
『すぅ……すぅ……』
『またアーミヤに怒られた……導き手のアンタからも堅苦し過ぎるアーミヤに何か言ってくれよ』
『皆でやる野菜パーティさ……毎週やるってのはどうだ?俺は、全員で食事する時が一番の楽しみなんだよ~』
『この仕事は私に任せて、ユカリはちゃんと休んで下さい……大丈夫!私には、病気になった事が無い丈夫な身体がありますから!』
「う……ぅぅ」
垂れ下げた両腕を震わせ、涙を流し続けていたユカリの額に、冷たい雫がピシャリと落ちた。
黒い雲から滴り落ちた雫は、ユカリの押し殺した小さな声を消し去るように、次第に量を増していった。
木の前で立ち尽くしたユカリは、自身の身体が濡れる事など意にも返さず、命を落とした四人の事だけを思っていた。
「うぅ……ぅ」
全身が濡れる中、ユカリは声を押し殺し、心の底から感じる悲しみや喪失感と向き合いながら啜り泣いていた。
「ソーン……パベーダ……フィリア……カイ」
ユカリの口から微かに溢れた言葉は、亡くなった者達の名前だった。
何度も発せられた言葉は、周囲の雨音の中へと消え、止め処なく流れる涙は、降り注ぐ雨に混ざり合うようにユカリの顔を濡らしていた。
「……ユカリさん?」
日本の主力二名が会議室から退室し、一人になったリエルが訪れた中庭で目にしたのは、大粒の雨が降り注ぐ中で凝然と立ち尽くし、雨音を立てて揺れる木の葉を見上げながら涙を流す導き手の姿だった。
(あれは……ソーン達の墓?)
ユカリの前にある結晶の墓がソーンとパベーダの墓である事に気が付いたリエルは、その場で一分程の黙祷をした後に、中庭からツァリ・グラードの通路へと戻って行った。
(私にも出来る事を……もう二度と、取り返しのつかない間違いをしない為に……自分で考えて、やれる事を全部やらないと)
他人の言葉だけを鵜呑みにした自分の行動が招いた悲劇を、二度と同じ理由で繰り返さない事を胸の奥で誓ったリエルは、修練場へ向かったシュウの訓練に協力する為に修練場へと駆け出した。
ツァリ・グラードに集結した主力達は、イタリアで予想される戦いに向けて、各自が出来る最善の行動を開始していた。
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