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第2章 紡がれる希望

第69話 片鱗

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 創造の世界?

「ュ……ュゥ」

 眩い光に包まれていたユウキは、遠くから誰かの声が聞こえて来る事に気が付いた。

「ユウ……ユウキ!」

 時間が経つにつれ鮮明になり始めた声の主がレンの声だと認識すると同時に、気付かぬ内に閉じていた目をゆっくりと開けた。

「ユウキ!……意識が戻ったんだね」

 (レンの顔が上に?……そうか……俺、あの戦いの後に気を失ってたのか)

 レンが上から心配そうに此方を見つめる様子を視認したユウキは、光に包まれた時から意識を失い倒れていた事を悟った。

「こ、ここは?」

 レンの膝枕からゆっくりと身を起こし周囲の様子を確認したユウキだったが、辺りは全て白色に埋め尽くされていた。

「それが、僕にも分からないんだ。君が創り出してくれた障壁の中で君の勝利を願っていたら……突然障壁が消えて、視界が真っ白になったんだ」

 レンが淡々と自身の体験を説明する中、ユウキは説明内に含まれた言葉に対して顔を赤らめていた。

「サラッと言うなよ『勝利を願ってた』とか……恥ずかしい」

 ユウキの言葉を聞いたレンは、障壁内での心情を思い出し表情を曇らせた。

「今の僕に出来るのは、それぐらいだからね」

 レンは、失った命を創造される立場であり、ティオーの力によって消滅する訳にもいかない事は重々承知していた。

「君の隣に立つ男として恥ずかしくない様に、元の世界に戻ったら修行するよ」

 自身の無力を嘆いたレンは、障壁内でユウキの勝利を願いながら、無力だった事を後悔しない為に修行する事を心に誓った。

「あのティオーを、君は退けた。そんな君を超えられると思う程、自惚れるつもりはないけれど……君に全て任せる情けなさで、後悔する様な事が無いぐらいには強くなってみせるよ」

「レン……」

 真っ直ぐな眼差しを向けられたユウキは、優しげに微笑んで小さく頷いた。

「出来るさ……俺の信じるレンなら、きっと」

 そう告げたユウキの瞳は、〝髪が結晶のリングで束ねられていない〟にも関わらず、美しい空色へと変わり始めていた。

「……」

「ん?」

 数秒間黙り込んだユウキから無言で差し出された右手には、内側の側面に〝Y to R〟の文字が刻まれた結晶で出来たギメルリングが握られていた。

「今度は俺から、レンに……だ」

「ユウキ……ありがとう」

 恥ずかしさで赤面したユウキから手渡されたレンは、内側に刻まれた文字を確認すると自身の〝左手の薬指〟に着けた。

「に、二度と手放したりするなよ?」

「そんな事は二度と無いよ……僕が死なない限りね」

 冗談半分に口にしたレンの言葉に対して、正面に立っていたユウキは涙目になりながら身体を震わせていた。

「ご、ごめん」

「グスッ……死なせない為に強くなったんだ。絶対に、二度と死なせるもんか」

 そう告げて涙を拭ったユウキは、謝罪するレンに向けて何かを握った左手をおもむろに突き出した。

 目の前で開かれた掌の上に置かれた物を見たレンは、深呼吸をして正面に立つユウキに視線を合わせた。

「……僕も、約束するよ。君と共に、君の描いた全てを見届ける事を」

 真剣な眼差しで心の底からの誓いを口にしたレンは、差し出された左手に置かれた〝R to Y〟の文字が刻まれた結晶で出来たギメルリングを受け取った。

 そしてユウキの左手の下に自身の左手を添え、薬指にギメルリングをめた。

「約束だからな……レン」

契約エンゲージ・第二段階』

 ユウキが幸せそうに微笑んだ瞬間、二人は再び強い光の中へと消えていった。

―*―*―*―*―

 ※心の中では「」と()の意味が逆転しています。

 「」 心の声  () 会話

 心の中

 青白磁せいはくじの瞳で空を見上げていたユキは、雪の積もった白の世界で静かに立ち尽くしていた。

「繋がりが、薄れてきてる」

 力の暴走によって黒く染まり始めていた世界は、既に元の純白の世界へと戻ったが、ユキは着実に成長しているユウト達の姿を見て悟った。

 創造されたユウトが不完全だったが故に生まれた心の世界が、成長したユウトの中に溶け合い、一つになろうとしている事を。

 (僕の声、届かなくなってるもんね)

 空に向けて右手を翳して声を発したユキは、レンの創造に成功した事を喜ぶユウキの笑顔を見て、一筋の涙を流していた。

 (レン……良かった)

 過去にユキから微かな想いを受け継いだ現在のユキも、レンの創造が成功した事に歓喜していた。

 (それにしても……はぁ)

 小さく溜息を吐いたユキは、降り積もる雪の上に背中から倒れ込んだ。

 (……いつか消える時が来るんだろうなって思ってたけど、ユウト達……成長早過ぎだよ)

 右腕をひたいの上に置いたユキは、遥か先へと突き進んで行くユウト達の背中を思い浮かべ再び息を吐いた。

「ユキが託した想いは、ユウキの中で成就しつつある……でも、僕はまだ……何も出来てない」

 短期間で急激に成長し、世界最強と呼ばれた存在を討ち破る壮挙を成し遂げたユウキの姿を心の中から見ていたユキは、実力の差を痛感していた。

「世界中の人達が、最強と呼んでいた人を倒す。僕には絶対出来ない事だよ」

 不死の炎を有するファイス、時を超越し未来を見通したスラーヴァ、時を置き去りにする程の超加速を誇るソーン、そして光の神と呼ばれるユカリ。

 世界最強と呼ばれる存在は、属性を有する人間であろうとも神話上に存在する空想の存在だと感じてしまう程、常人離れした力を有する怪物達だった。

 そんな世界最強に名を連ねた天月のヨハネに、ユウキは打ち勝った。

 その瞬間からユキは、自分自身の力がユウトの力の一部でしか無いことを改めて実感していた。

「僕の力はユウトと別れた状態で創造された……でも、本来はユウトが持っている筈の力だもんね」

 右腕を下ろしたユキは、頭の邪念を払うように降り積もった雪の上を何度か回転して停止した。

 (僕も……消える前に色々やっておきたいな)

 白い世界に雪が降り続く中、横になりながら小さな声で呟いたユキは、過去にユキと同じ様に瞳を閉じて眠りについた。
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