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第2章 紡がれる希望

第67話 Niger Angelus Alatus

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 創造の世界

 ティオーに向けて発揮された終焉の爆烈結晶フィニス・エクスプローディアを視認したユウキは、レンの安全を確保する為に爆破地点から数十キロ離れた場所まで二人で転移していた。

「ここで待っていてくれ」

 転移した先で、レンを囲うように何重にも及ぶ白色の障壁を創り出した。

「自分が不甲斐ないよ……君の力になりたいと思っても、君達二人の戦いでは足手まといにかなれない無力な自分が」

 暗い表情を浮かべて俯いているレンの様子を見たユウキは、創造を途中で停止し垂れ下がられているレンの両手を握り締めた。

「レンがいてくれたから、今の俺がいるんだ。力の強弱なんて関係ない……俺が戦う時、俺の隣には、いつもレンがいる……だから、絶対に負けない」

「……ユウキ」

 向けられた瞳に笑顔で返したユウキは、握っていた両手をゆっくりと離した。

「レン、行ってきます」

「ユウキ……行ってらっしゃい」

 互いに言葉を交わしたユウキは、レンの周囲を完全に結晶で覆い隠した。

「必ず勝って、戻って来るから」

 白い世界に溶け込んだ障壁に向けて告げたユウキは、決着をつけるためにティオーの元へと転移した。

 爆発地点に戻ったユウキは、爆発による白煙を視認すると同時に自身の周囲に白色の障壁を展開し、ティオーの出方を伺った。

「この程度の爆発で、俺を殺せると思ったのか?」

 白煙の中から声が聞こえた瞬間、身体に傷一つない状態のティオーが、周囲に広がっていた白煙を全て消滅させて現れた。

「隠れてないで出て来やがれ……良心の塊である俺が、痛みを感じないように一瞬で全てを無にしてやるからよ」

 嬉しそうに笑みを浮かべるティオーの周囲に存在する白い世界は、消滅の影響を受けた事で徐々に消えていき、次第に裏側に存在すると言う黒い世界がティオーの周囲に広がり始めた。

 (ティオーが黒い世界と言っていた場所……何か嫌な予感がする。あの世界に〝侵蝕〟されるのは、危険な気がする)

 背筋が凍りつくような嫌な予感を感じたユウキは、以前ユキが使用していた即興技を使って様子を見る事を思い付いた。

 (ティオーの消滅が、どれ程のモノか分からない内に近付く事だけは避けないといけない……ユキの使った技だけど、上手くいくかな?)

結晶の槍ランサ・ディ・クリスタリア

 ユウキは結晶で創り出した二メートル程の槍を、ティオーに向けて全力投槍した。

「あ?」

 周囲に目を向けていたティオーに向けて放たれた結晶の槍は、一瞬とも言える速度でティオーの腹部を空間と共に貫いた。

「まだだっ!」

 障壁を解除して姿を露わにしたユウキは、空中に結晶の槍を同時に数十本創造した。

槍の雨ピオッジャ・ディ・ランチア

 左手をティオーに向けて翳した瞬間、ユウキの周囲に創造された結晶の槍は、雨のように連続してティオーに向けて放たれた。

「なんだ?空気に触れられたのかと思ったぜ」

 その場に佇んだまま結晶の槍を視認していたティオーは、自身の身体に接触した瞬間に消滅する結晶の様子を観察していた。

 (奴の力も属性には変わりない……使い続ければ、燃料切れを起こす筈だ)

結晶光線クリスタ・スタリオン

 消滅範囲を広げる事で属性を消耗させる事を考えたユウキは、ティオーに向けて比較的広範囲に影響を与える結晶光線クリスタ・スタリオンを放った。

「チッ……理解力の乏しい野郎だな」

 迫り来る紅蓮の光線を見たティオーは呆れたように溜息を吐くと、左手を結晶光線クリスタ・スタリオンに向けて翳した。

 すると、結晶光線クリスタ・スタリオンはまるで左手に吸い込まれるように消滅して行った。

「何もかも……効かねぇって言ってんだろうが!!」

 視認が困難になる程の結晶が辺りに舞い散り消滅していく中、ティオーの怒号が白い世界に木霊こだました。

 その瞬間、ティオーに向けて放たれていた結晶光線クリスタ・スタリオンは、最初から無かったかのように一瞬で姿を消した。

「見つけたぜ……そこにいやがったのか?」

 視界を遮っていたモノが消滅し、視界が良好になったティオーは、ユウキを視認すると同時に正面に向けて地面を力強く蹴り飛んだ。

 一瞬にも感じる程の速度で距離を詰めたティオーに視線を合わせていたユウキは、既に両手に結晶拳リフィスタを創造していた。

 (ティオーは、相手が消滅を恐れて遠距離から攻撃してくる事を当たり前だと考えている。確信の中に存在する隙……そこに勝機を見出すしかない)

加速する結晶拳アクセレイト・リフィスト

「ハッ、俺に拳で挑むか?命知らずの馬鹿が!!」

 ユウキの加速させた右腕に合わせ、ティオーも右腕を突き出した。

 ズガァァァァン

 加速したユウキの拳は音速の壁を超え、衝撃波と共に周囲の空気を揺らす程の轟音を放っていた。

 その拳に真っ向から挑んだティオーの拳は、消滅によってユウキの結晶拳リフィスタを消滅させながら受けた衝撃すらも打ち消していた。

「くっ……はあぁぁぁぁあ!!」

『対なる加速する結晶拳・反復《ツイン・アクセレイト・リフィスト・リフレイン》』

 右拳の結晶拳リフィスタが消滅している事を視認したユウキは、次に左拳の結晶拳リフィスタを加速させると同時に右拳を戻した。

 そして瞬時に右腕の結晶拳リフィスタを創造したユウキは、左拳と交互に拳を加速させて連打し始めた。

「速さで上回るつもりか?……無駄なんだよ!」

 そう言い放ったティオーは、ユウキと同じ瞬間に同じ拳をぶつけて消滅させ、再び創造された結晶拳リフィスタに対しても同じように対処し、互いに拳の撃ち合いが開始された。

「速度すらも消滅させる俺の力を超えられる人間なんざ、この世に一人しか存在しねえ!」

 両拳がぶつかり合う度に、二人の周囲に存在する空間を揺らすように連続して衝撃波と轟音が響き渡っていた。

 (さっきティオーは言った……特定の部位に意識を集中させる事で、消滅する位置を指定していると)

 腰まで流れる黒い髪を揺らしながら創造と打撃を繰り返す中で、数分前の会話を思い出したユウキは両拳に意識を集中させた。

 (属性の消費が激しい……やるなら、今しかない!)

 そう考えたユウキは、結晶拳リフィスタの再創造と同時に両拳を前へと突き出した。

「はっ!オラァッ!」

 ユウキの行動を嘲笑うかのように笑みを浮かべたティオーは、迫り来る拳に向けて同時に両拳を突き出して接触させた。

「どうした?潔く諦める気にでもなったのか?」

 消滅し始めていた結晶拳リフィスタを観察していたティオーは、拳を突き出した状態で俯いているユウキに視線を向けた。

「ああ、そうだな」

 そう言葉を返したユウキは、正面に立つティオーに不敵な笑みを向けた。

 次の瞬間、両拳に纏わせていた結晶拳リフィスタの内側にユウキが事前に創造していた結晶爆弾エクスプローリアが姿を現した。

「っ!」

 ティオーが目を見開いた瞬間に、結晶爆弾エクスプローリアは両拳を弾き飛ばすように起爆された。

 (予想通りだ……ティオーの力、消滅は意識に左右されている。俺の創造していた結晶拳リフィスタに意識を向けていたせいで、内側に創造していた結晶爆弾エクスプローリアの爆発は意識の外にあった)

 ティオーの消滅は、自身が触れる事の出来る範囲に存在するモノであり、尚且つ意識を向けている時に作用する。

 身を守る為であれば、身体全体に意識を向ける事で迫る脅威を全て無効化させる事が出来る。

 但し、意識を向けられる対象は限られている為、攻撃と防御を両立させる事は難しい。

「なん……だと!?」

 結晶爆弾エクスプローリアの爆発を両拳に受けたティオーは、生まれて初めて感じる痛みによって意識を乱され、消滅の力を発動出来ずにいた。

 (今だ!)

 消滅しかけていた結晶拳リフィスタを再び創造したユウキは、通常の色よりも白色の青白磁せいはくじ結晶拳リフィスタを両拳に纏っていた。

 (最初で最後の好機!……俺に残された全ての属性を使った一撃で、全てを終わらせてやる!!)

 そして、後部の爪に存在する炎の核を何重にも覆い、数倍の破壊力を有した炎に耐えられる核を創造していた。

「消し飛べぇぇぇぇえ!!」

光結の審判ルクスリア・ジャッジメント

 既存の加速する結晶拳アクセレイト・リフィストを軽々と凌駕する程の加速力を有した両拳は、全ての属性力を含んだ状態のままティオーの腹部へと撃ち込まれた。

「がぁっ!?」

 打撃音が数十秒遅れて聞こえる程の速度で撃ち込まれた両拳は、直撃したティオーの腹部から結晶化させた。

 ティオーを結晶化させていた属性は身体を結晶化させる速度を遥かに上回り、溢れた属性がティオーの後方へと放出された。

 キイィィィィイン

 甲高い音と共に空間全体を激しく揺らす衝撃波が辺り一面に広がり、数十キロ離れていたレンの障壁を振動させた。

「「……」」

 数分に感じる沈黙の中、微かに白く染まり始めていた髪を揺らし紅の光を浴びたユウキの瞳は、強烈な衝撃を受けた事で白目を剥いているティオーの姿を睨み付けていた。

 その時、最大限の属性を使用したユウキの背中に薄らと黒い翼が浮かび上がっていた。

 刻が止まっていると感じる程の緩やかな時間が過ぎた実感を感じた瞬間、意識を強引に引き戻されるような衝撃と轟音が二人を巻き込んで白い世界中に広がって行った。
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