創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

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第2章 紡がれる希望

第66話 命を懸けた約束

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 創造の世界

 結晶刀クリスタリアが砕けたユウキが距離を取ろうと脚に力を入れた瞬間、右手をティオーに掴まれた。

「言葉で理解出来ないなら……近くで観察すると良い」

 右手を掴まれた瞬間、ユウキの右手は路面に落ちた雪のように消滅し始めた。

「くっ!」

 右手の消滅を皮切りに、腕を登ってくるように消滅し始めた様子を視認したユウキは、後ろに飛び退きながら左手に結晶刀クリスタリアを創造した。

 そして、数秒で上腕に到達しかけていた消滅を阻止する為に、右肘の下部分を結晶刀クリスタリアで斬り離した。

「ッ!!」

 激痛に顔を歪めたユウキは、斬り裂いた部分からの出血を止める為の結晶を創造し止血した後に、無傷の状態の右腕を創造した。

 (創造のお陰で痛みは無くなった……けど、あれがレンの見たティオーの力。力が制限された状態であの速度なら……ティオーの言葉を信じるのなら、全開の時は一瞬で全身が消滅して死んだ事にすら気付かないかもしれない)

 創造された右手に視線を向けたユウキは、徐々に消滅部位の感覚が失われていく消滅の感覚を思い出し顔を青ざめた。

「その顔……やっと分かったか?お前の見ている人間が、どういう人間か」

 不敵な笑みを浮かべるティオーは、赤黒い服のポケットに両手を入れた。

「……お前が使った消滅の力、着ている服には作用しないのか?」

「さっき言ったろ?俺の力は、存在する物全てを破壊する。俺の服が消滅しないのは、俺が力を制御しているからだ」

 そう告げたティオーは、ポケットに入れていた両手を出すと身に纏っていた赤黒い服を両手で触って見せた。

「お前が出会いと経験を重ねている時……当然だが、俺にも同じ量の時間があった」

 淡々と話を続けるティオーは、左手を入れたポケットの中から一枚の〝白い石〟を取り出した。

「身体の意識を特定の部位に集中させる事で、消滅の力が発揮される場所を自由に操作する事が出来るようになった。だからこそ俺は、こうして地面を歩く事が出来ているんだ。でないと足元に存在する地面を……いや、地球すら消滅させちまう」

 説明を終えた瞬間、ティオーがユウキ達に見せていた白い石が消滅すると、左手には黒い石が残された。

 その状況を見ていた二人は、ティオーが見せていた物は〝オセロの石〟であり、見せられていた白い面だけを消滅させた事で黒い面が見えるようになったのだと悟った。

「お前らと違って俺達は暇だったんだよ。無限に感じる程の退屈な時間の全ては、アイツに与えられた空間で力の制御に費やした」

「お前の言う『アイツ』って奴は、消滅を無力化させる程の力を持っていると言う訳か」

「闇の人間なら口を揃えて言うだろうさ……〝闇の神〟であるアイツは、ユカリすら超える存在だとな」

 闇の神について語るティオーの瞳には、闇の人間達が信奉する神に対する尊敬と憎しみの念が込められていた。

「……何故、そこまで俺達に話す?情報を得た俺達に得はあっても、お前達には何の得もないだろ」

「テメェだからだクソが!!」

 ユウキの発言に対して突然大声で返答したティオーの瞳は、紅の炎を感じさせる程の怒りを露わにしていた。

「お前さえいなければ、俺は存在せずに済んだ!テメェが創造されずにいれば……俺は、あんな化け物の側近にならずに済んだんだ!!」

 怒りをユウキに向けているティオーの地面は、消滅の力によって徐々に黒く染め上げられていた。

「選択したのはお前だ。お前は、お前が選んだ結果で生じた全てを知る必要がある」

「俺の……選択」

「そうだ」

 表情を曇らせたユウキに向けて怒りの籠った返答を返したティオーは、再び両手をポケットに入れた。

「もっとも、俺達の情報をお前ら光の人間共が知った所で、対処出来る人間なんて誰一人として存在しないがな」

 冷静さを取り戻したティオーは、自身の力で消滅させた背後の白い世界に身体を向けた。

 (俺の選択……いや、ティオーの言っている事について考えるのは後だ)

 そう考えたユウキは、隣に立っていたレンに身体を向けた。

「レン……お前に、謝らないといけない事がある」

 ティオーに視線を向けていたレンは、ユウキの言葉を聞いて身体を向けた。

「俺は——」

「約束を破った事なら謝らなくて良いよ」

 暗い面持ちで謝罪を口にしようとした瞬間に告げられたレンの言葉に、全てを見抜かれていた事を悟ったユウキは目を見開いて驚いた。

「な、なんで分かった?」

「僕が転生した時の君は、髪を束ねていなかったから直ぐに分かったよ。その時も感じた事だけど、君が危険を承知で約束を破ったのは、それを強いられる程の強敵と戦ったからだって」

「っ!」

 その時の状態を見ただけで状況を理解していた事を告げられたユウキは、心から溢れ出る程の嬉しさから薄らと涙目になっていた。

「ティオーの力は、契約エンゲージを使っても勝てるかどうか分からない……だから君は、もう一度あの力を使うつもりなんだよね?」

「……」

「その力の脅威は、一度力を使った君が一番知ってる。その君が出来ると言うなら、僕は君の言葉を、君の勝利を心から信じるよ」

「……レン」

「ティオーに勝って、二人で元の世界に帰ろう」

「……ああ、約束する。俺の……命に賭けて」

 レンの言葉に力強く頷いたユウキは、正面に立っていたレンに背中を向けた。

 背中を向けられたレンは、ユウキの髪を束ねていた結晶のリングを両手で摘み、軽い力で二つに割った。

 結晶のリングが外された瞬間、ユウキの瞳は以前と同様に紅蓮へと色を変えた。

 しかし、力を解放させたユウキの姿は以前の暴走状態とは異なり、元の姿のまま紅の瞳に変化したのではなく、整っていた前髪の所々が跳ねている状態で紅の瞳に変化していた。



 (わざとらしく背中を見せていたが、それだけの価値は有ったな……容姿が似てきたとアイツに話せば、泣いて喜ぶだろう)

 雰囲気を一変させたユウキの様子を少し離れた場所から観察していたティオーは、記憶に鮮明に残る闇の神の姿とユウキの姿を重ね合わせていた。

「俺の全てを懸けて……お前に勝つ」

 その言葉を最後に、ティオーの視線からユウキとレンは姿を消し、代わりに大量の結晶で創られたユウキが周囲を取り囲むように現れた。

「なんだ?アンリエッタの真似事か?」

 次の瞬間、周囲に創造されたユウキの結晶隊が同時にティオーに急接近した。

「戦闘開始の合図だ」

 接近した結晶隊がティオーの身体に触れた瞬間、ユウキによって創造された結晶隊は全員消滅したが、体内に内蔵された結晶爆弾エクスプローリアだけは空中に残されたままだった。

「ふっ……成る程な」

終焉の爆烈結晶フィニス・エクスプローディア

 身を潜めていたユウキが左手を握ると、ティオーの周囲に存在した結晶爆弾は同時に起爆され、創造の世界に強烈な衝撃波と熱風が広がった。

 爆裂の瞬間に見たティオーの表情は、何かに期待しているかのような笑みを浮かべていた。
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