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第2章 紡がれる希望

第65話 破壊と創造

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 創造の世界

「お前に希望を持たれる訳には、いかないんだよ」

 ティオーと呼ばれた少年は、唐紅からくれないの右眼と朱色しゅいろの左眼でユウキを見つめ、不敵な笑みを浮かべていた。

「……一体どうなってるんだ?この世界に入って来れるなんて……創造の妨害をする為にいるって事は闇の人間なのか?だったら何で名前を……それに、俺の失敗作だって?」

 理解の範疇はんちゅうを超えた出来事に困惑したユウキは、正面に立つティオーに向けて独り言のように複数の問いを投げ掛けていた。

「ティオーって名前か?俺は、ユウト……いや、今はユウキだったか?お前が来る随分前にこの世界に来た。その時に、そこに居るレンが勝手に俺の名前を付けやがったんだ」

 そう告げたティオーは、首を傾げるユウキの隣に立っていたレンを指差した。

「自然と名前が浮かんだんだ……ユカリ達が創造の神様だとしたら、君は破壊デーレーティオーの神様……そう思わせるような力を見てね」

 レンの言葉を聞いたティオーは、不敵な笑みを浮かべると自身の左手をレンに向けた。

「創造の世界は、創り出した者の実力次第で制限が掛かる。ユウキ程度の実力じゃ、極限まで力は制限される」

 そう告げたティオーは、右手をヒラヒラと揺らしユウキの力を見下す様な仕草をしてみせた。

「俺の力を見たお前なら理解しただろ?アンリエッタのような数しか取り柄の無い雑魚も含めて、〝アイツ〟に近い存在はそう言う奴だ」

 クレイドルの主力であるケフィを死の間際まで追い込み、数分ではあるが世界最強の一人であるファイスと対峙して傷を負わなかったアンリエッタを雑魚呼ばわりしたティオーは、二人との距離を詰めるように前進し始めた。

「この世界に入って来れた理由だが、ユウキ……お前は、この場所が本来ユカリとアイツ、二人だけが入る事の出来る場所だったと理解しているよな?」

「さっきも言ってたな……アイツって誰の事だ?」

「ああ、お前〝は〟知らないんだったな」

 冷静さを取り戻したユウキが発した疑問の声に対して、呆れた様な声を返したティオーは、二十メートル程近付いた所でピタリと立ち止まった。

「お前が気付かなかっただけで、俺はお前と同じ様にこの世界で生まれたんだ」

「俺と同じ?この世界で生まれた……だって?」

 困惑するユウキを他所に、ティオーは自身についての説明を続けた。

「さっき話した通り、本来であればユカリとアイツの二人しか入れない場所だったんだ……この、創造の世界はな」

 そう告げたティオーは、周囲に広がる白い世界と自身の入って来た黒い世界を左手で交互に指差した。

「つまりユウキ、ユカリの創造物であるお前はこの世界に生まれた異物……この世界に存在しなかった筈の存在なんだよ」

 視線を合わせたティオーは、創造の世界へと向けていた右手の人差し指をユウキに向けた。

「そして、俺はお前になる筈だった存在……失敗作にはなっちまったが、同じように異物として生まれたんだよ。お前が〝選ばなかった〟黒い世界にな」

 ティオー言葉を聞いたユウキは、見た覚えは無いが微かに記憶に残っている白と黒の世界を思い出した。

「この世界は、言ってしまえば裏表の世界さ。白の世界と黒の世界は互いに互いの存在を視認する事は出来ないが、二つの世界は隣り合うように存在している……だからこそ、俺は力を使って此方こちら側に入る事が出来たんだ」

 説明をしているティオーと視線を合わせたレンは、初めて出会った時の事を思い出した。

「それは、君だから出来た事なんだろうね……君が最初に現れた時は驚いたよ。あの時の事を、僕は一生忘れられないだろうね」

 黒い世界から白い世界に力を使って現れた際に、レンの恐怖した顔を思い出したティオーは、薄ら笑いを浮かべていた。

「境界を砕いて入った事は無かったからな。空間の半分が砕けた時は、アイツにも叱られたよ」

 レンとティオーの会話から、一度白い世界に足を踏み入れたティオーが再度黒い世界に戻り、何らかの方法で砕いた白い世界を元に戻した事を理解した。

「お前の力も、俺と同じように属性の変異なのか?」

 ユウキの質問を聞いたティオーは、会話していたレンからユウキに意識を戻した。

「ああ、俺の属性は負の性質を多量に含んでいた。その結果、本来であれば属性力を強化する程度だった性質は、属性の破壊力を異常なまでに増大させた」

 そう告げたティオーは、自身の右手を白い空間に向けてかざした。

「その力は、俺の中に存在した属性を飲み込んだ。俺の中に本来の性質を有した属性は存在しない……代わりに、破壊に特化した異質な変化を遂げた属性は、存在する物を破壊する力を俺に与えた」

 ティオーが右手を翳していた白い空間が、真っ白だった紙に墨汁ぼくじゅうを溢した時ように黒い世界が白い世界を侵蝕しんしょくしながら現れた。

 (なんだ!?何が起こったんだ……てのひらを向けた場所が黒に呑まれたように見えた)

 徐々に広がって行く黒い世界に意識を奪われていたユウキは、冷や汗を掻きながら再び正面に立つティオーに視線を合わせた。

「属性には正と負の性質がある事は、当然知っているよな?」

「……ああ」

「属性はプラスとマイナス、それぞれに決められた色が存在している……だが、一定以上の属性力を有し、性質を極めた時には別の色彩へと変化する」

「別の色?」

「ああ、正の属性は光のように白く染まり、負の属性は闇夜のように黒く染まるんだ」

 光の人間が使用する色鮮やかな属性に対し、闇の人間が使用する属性が黒くよどんでいた理由は、正と負の性質によるものだった。

「属性が洗練され、白と黒……互いに近い色に染まった時、その属性は他の属性では到達し得ない属性力を持つ属性へと進化する」

 そう告げたティオーは、その場でゆっくりと屈み始めた。

 ティオーの取った行動に異様な不安感を感じたユウキは、右手に結晶刀クリスタリア創造し始めた。

「お前との話は、ここまでだ。念の為に言っておくが、俺の属性は……既に黒に染まっている」

 その瞬間、ティオーは屈めていた足を伸ばし、二十メートル先からユウキの正面一メートル付近まで接近した。

「くっ!」

 ティオーの接近に対して、咄嗟に身を後退させたユウキは右手に創造した結晶刀クリスタリアを、ティオーに向けて上から振り下ろした。

「お前……俺の力を甘く見ているだろ?」

 そう告げたティオーの暗い眼差しは、自身に向けて振り下ろされた刃では無く、正面に立つユウキに向けられていた。

 そして次の瞬間、ティオーは迫る刃を左手で受け止めた。

「っ!」

 パキィィィィン

 そして、ティオーの掌に触れた結晶刀クリスタリア硝子がらすが割れた時のような高音を発しながら砕け散り消滅した。

「言葉で理解出来ないなら……近くで観察すると良い」

 結晶刀クリスタリアが砕けた事で、反射的に距離を取ろうと脚に力を入れたユウキの右手を、ティオーは右手で力強く握り締めた。
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