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第2章 紡がれる希望
第58話 支配する者
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アメリカ中央拠点クレイドル 北部
ユウトの腕の中で結晶化したフィリアは、寂しげに靡く風と共に雪のように流れ、徐々に周囲の景色と混ざり合うように消えていった。
その光景を静かに見つめていたユウトは、命尽きる寸前のフィリアに託された刀の柄を握り締め、最後に立てた誓いを自身の心に刻み込んだ。
周囲が静寂に包まれている中、クレイドル方面上空から何かが急速に近づいていた。
「ん~~~寒いぃぃぃい!!」
ユウトへ向けてミサイルのように飛んで来たのは、ヨハネによって柱に縛られ、クレイドルに連行されていた筈のルアだった。
「よっと!」
ユウトから数十メートル横地点に頭を下にした状態で飛来したルアは、両手で着地すると同時に凄まじい速度で前方倒立回転を連続で決めた。
「……アレェ?」
しかし前方倒立回転で速度が落ちる事は無く、ルアは山積みになった瓦礫に向かって回転しながら勢い良く突っ込んだ。
ズガァァァァアン
周囲に瓦礫を吹き飛ばす程の力で衝突した事で、周囲に轟音が響き渡り、強風によって土煙が舞っていた。
「きゃっ!」
ルアによって飛散した瓦礫を避ける為に身を屈めたフェイトは、間一髪で自分以上の大きさの瓦礫を回避していた。
「す、凄い威力」
爆弾が爆発したと勘違いする程の光景を目の当たりにしたフェイトは、脱力しながら地面にへたり込んだ。
「も~~容赦ないんだからぁ!」
ぷんぷんと怒りながら自身に覆い被さっていた瓦礫をストレス発散の意を込めて周囲に吹き飛ばしたルアは、座り込んだユウトを見つけると一目散に駆け寄った。
「あっ!!ユウ……ト」
本来であれば、ユウトに頭突きをしているであろう状況で数歩進んで足を止めたルアからは、先程までの笑顔は消えていた。
「悪いな。今は近付かないでくれ」
契約によって増大したユウトの属性力によって結晶化した地面は、ルアの立ち止まった地点まで広がっていた。
「……分かった⭐︎」
ウインクしながら緩い敬礼をしたルアは、離れた場所にへたり込んでいたフェイトの元へと歩いて行った。
「この感覚…… ユカリとの契約とは何かが違う」
ユウトは、契約によって増大した属性力がユカリの時とは違う変化をしている事を感じ取っていた。
契約は、指輪を持つ者同志が互いの属性を共有する事が出来る。
しかし、フィリアはユカリ達と違って契約の指輪を持っていないにも関わらず契約が発動した。
(指輪無しで契約が発動した。まさか……〝一段階目よりも数段階上の契約〟なのか)
ユウトが想定した契約は、全部で三段階存在する。
しかし、第二段階を成功させるには依然として指輪が必要になる為、フィリアの様に指輪無しで契約を発動する事は出来ない。
(急激に属性が流れ込んで来る様な感覚……この感覚は契約とは違う…… 〝属性の譲渡〟だ)
契約をした二人は、互いに任意で共有している属性量を決める事が出来るが、フィリアは自身の所有する属性を全て渡し、ユウトの属性と結合させていた。
ユウトはフィリアの雷のプラス属性を有していなかった為、ユウトの持つ変異した水のプラス属性と混ざり合い属性力を倍以上に増大させていた。
(属性は少しずつ安定してる。フィリアの持っていた属性……炎が炎と繋がり、雷が水と混ざり……弱気だった俺に進む勇気と力をくれる)
「ありがとう……フィリア」
属性が安定したユウトはゆっくりと立ち上がり、フィリアに向けて感謝の言葉を告げたユウトは、雲一つない晴天の空に向けて視線を向けた。
―*―*―*―*―
「泣いてるのぉ~?」
へたり込んだフェイトに歩み寄ったルアは、フェイトの頬を伝う雫を見つめながら声を掛けた。
「うん……ルアは痛くないの?」
「私は平気だよぉ!だって治癒力凄いから⭐︎」
ルアは自身の持つ強力な水のプラス属性によって、激突時の傷を既に治癒していた。
「フェイトだっけぇ?フェイトだってなんで泣いてるのぉ?怪我でもしたぁ?」
忙しなくフェイトの周りを回り身体を観察したルアは、怪我がない事を確認し終えるとすぐにユウトへ視線を向けた。
「私もユウトと同じだったから。大切な人達が突然殺されて、頼りにしていた人達も逃げる様に私の側から離れて行った……私は、ずっと一人だった」
ルアの意識がユウトに向いており、話を聞いていない事に気付いていないフェイトは、自身の過去について短く語った。
その瞳には、光を呑み込むとさえ感じる程の底知れない負の感情が込められていた。
「でも今は、お母さん達がいる……ユウトも、皆んなもいてくれる……だから、私〝は〟寂しくない」
そう告げて視線を上げたフェイトは、ルアが話を聞いていない事に気が付き頬を膨らませた。
「ルアが話聞いてない!」
「へ?ん~~ゴメンなちゃい⭐︎」
「全然気持ちが篭ってないー!」
「私が気持ちを込めるのは、ユウトへの愛だけ♡」
頬を膨らませて怒るフェイトと、身体を揺らしながら愛を告げるルアを他所に、ユウトは雲の無い空に向けて顔を上げていた。
その後、北部に戻ったヨハネ達と合流したユウトから告げられた言葉に、ユウは涙を流し、ヨハネとウトは瞳を閉じて黙祷を捧げた。
―*―*―*―*―
アメリカ中央拠点クレイドル 支援部隊本部
北部で起きていた事を報告する為に、ファイス達がいるクレイドル中階の支援部隊本部に到着した六人は、妙な違和感を感じていた。
「……静かだな」
先頭を歩くヨハネの後に付いていたユウトは、クレイドル内の妙な静けさに対する違和感を口にした。
「確かにそうですよね?大国の総本部なら、敵襲の後も損壊した建物の復旧や、避難した人々に対する対応に追われていてもおかしくない筈ですけど」
「もう復旧は終わった……とか?」
「ウト……北部の状況を見て来ましたよね?ユカリやユウトのように一瞬で治せる人なんて普通はいないんですよ?」
三人の会話を聞いていたヨハネは、何かを考える様に数秒目を閉じた後、ゆっくりと支援部隊本部に足を踏み入れた。
中に入った六人は、ラベンダーの香りが広がる室内で、黙々と作業に従事している隊員達に目を向けた。
「皆、作業に集中しているだけのようだな」
「……それにしては、空気が重くないか?」
ユウトは、周囲を見回していたヨハネに自身の感じた違和感について小声で語り掛けた。
「当然と言えるだろう。闇の人間が侵入不可能とされた障壁内に、同じ容姿をした得体の知れない敵が大群で現れ、私やルアのような主力戦力が必須となる敵の出現……挙句に、クレイドルで攻の月と称されたアンリエッタが敵となった。感情に浸る暇もない程短い間に、想定外の出来事が起き過ぎた」
そう口にしたヨハネの暗い表情からは、自身が転生前に犯した行ないを心の底から悔いる事が見て取れた。
「お疲れ様です!皆さん!」
部屋の奥にある会議室から出てきたクライフは、入り口付近に立っていた六人に気付くと、足早にヨハネの元へと歩み寄った。
「すまないなクライフ。私は導き手が創造したクレイドルには地理が無いからな……クレイドル内の隊員達に場所を聞きながら来たんだ」
「いえ、此方こそ皆さんにお手数をお掛けしてしまい申し訳ございませんでした」
そう告げたクライフは、六人に向けて深々と頭を下げて謝罪をした。
「お前が謝る必要は無い……クライフ、北部で戦っていた私達と同じ様に、本部で作業に従事していたお前達も多忙だっただろう?」
ヨハネの言葉を聞いたクライフは、申し訳なさそうにゆっくりと顔を上げると、正面に立つヨハネに視線を合わせた。
「地理を知らぬなら聞けば良い……そんな些細な事に文句を言う人間は、少なくとも私の後ろにいる五人の中にはいない」
その言葉を聞いたクライフが視線をヨハネの背後にいる五人に向けると、その内の三人は小さく頷いた。
「迷子にならなかった!」
そう元気良く告げたフェイトは、頷いたユウト達の横で胸を張っていた。
「私は~もぉっとユウトとお散歩したかったかも♡」
北部で自由になったルアは、再度拘束を試みるヨハネの手を掻い潜り、現在までユウトの右半身に張り付く様に身体を擦り寄せ続けていた。
「ふぅ……少しの間、我慢してくれユウト……私が、後で必ず教育する」
「ヨ、ヨハネ様が怒ってる」
ヨハネがルアに向けた鋭い眼差しに身震いしていたクライフの背後から、会議を終えたファイスが近づいて来ていた。
「ヨハネ……ユウト?達もお帰り」
まだ名前を覚えていないファイスは、疑問形でユウトの名前を読んでいた。
「合ってますよファイス様。すみませんユウト……ファイス様は名前を覚える事が苦手で」
「対人関係に慣れてないの……クライフやフィアと違って」
「き、気にしないでくれ。俺だって、ユカリに創造されてから日が浅いんだ……覚えて貰えるように、これから努力すれば良いだけだから」
視線を逸らすファイスと、ファイスの代わりに謝罪するクライフを前にユウトは、自身の感じた気持ちを素直に告げた。
「貴方がしてくれた事、私は感謝してる……貴方の、貴方達の行動があったからクライフ達を助けられた……ありがとう」
ユウトに視線を合わせて感謝の意を告げたファイスは、小さく『人の名前を覚えられないのは、元からだから』と口にしていた。
「クライフ、あの部屋は会議室か?」
「は、はい」
クライフ達が出てきた扉を凝視していたヨハネの質問に、クライフは間髪入れずに答えた。
「互いに情報を共有しておきたい。あの部屋を使用しても構わないか?」
「勿論です」
「私達が得た情報も、必要になると思う」
話のまとまった三人を筆頭に、八人は情報を整理する為に会議室へと足を踏み入れた。
―*―*―*―*―
アメリカ中央拠点クレイドル 会議室
八人が白い外壁に覆われた会議室に入ると、そこには既にケフィが横たわっていた。
「……そうでした」
小さく溜息を吐いたクライフは、ソファーに寝ているケフィに近付き、優しく身体を揺すった。
「ケフィ!起きて下さい!」
「ムニャ……アンリは……もう食べられないよ」
「す、凄く奇怪な夢を見てるようですね……はぁ……仕方ないですね」
そう告げたクライフは、隊服のポケットから赤い色をしたスイッチを取り出した。
「ムニャ……はっ!」
その瞬間、ケフィは何かを察知したかの様に起き上がり、ソファーから転げ落ちた。
「ふぎゅ!!……む、無慈悲のクライフの気配が!?」
「人聞きの悪い事を言わないで下さいケフィ」
ケフィが飛び起きたと同時に、クライフは手に隠れる様にスイッチを持つと、静かに隊服のポケットにスイッチを入れた。
「ケフィ……北部からヨハネ達が帰還したの。私達の情報とヨハネ達の情報を共有する必要があるから、貴方も会議に出席して」
「……分かった」
やけに潔く了承したケフィからは、先程までの明るさが消え、少し曇った表情へと変わっていた。
―*―*―*―*―
情報を整理し始めて数分後。
北部で起きていた事を聞かされた三人の表情は暗く、会議室内の空気も重苦しいものになっていた。
「そんな事が起きていたんですね。お、私達も本部から国内の変化に目を光らせていましたが、北部にだけは監視カメラで確認する事も出来ない奇妙な状況が続いていましたから」
二人と最も関わりが多かったクライフは、ヨハネ達の報告に対して言葉を返す事は無く、両手で顔を覆い、小さく俯き声を殺すように涙を流していた。
「助力に来てくれた日本の主力が二人とも……か」
涙を流すクライフの隣に腰掛けていたケフィは、自身の心境を口にすると、視線を下に下げたまま沈黙してしまった。
「ファイス……先程聞いたロシアからの情報……本当なのか?」
「ヨハネ……何度も言わせないで。ロシア南部で前衛部隊将官のパベーダがチェルノボグと名乗る男に、ロシア東部ではソーンが殺された……ツァリ・グラード後方狙撃隊の将官ロキの手によって」
「報告の内容を疑いたくもなる……皇帝の住まう街の主戦力が、二人も殺されていると公言されればな」
静まり返った室内には、ユウトの隊服に擦りつくルアの摩擦音と、会議室にあるビスケットを頬張るフェイトの咀嚼音だけだった。
「ロキ……アンリエッタと同じようにロシアにも敵の内通者として主力の座に居座っていたと言うのか……だとしても、刻絕の姫君と称される程のソーンが、主力程度の人間に殺されるなどと」
「ツァリ・グラード戦闘部隊総司令アーミヤから依頼を受けたムスリムからの報告。パベーダやソーンだけじゃない……一般隊員にも多くの重傷者が出ているそう……日本に転移させられた負傷者の話をヒナから聞いた時から嫌な予感はしていたけど」
世界最強と呼ばれている三人は、主力よりも遥かに高い属性力と属性量を有している。
そんな人間を殺せる人間を、闇にいた頃の記憶を持つヨハネは二人知っていた。
「アンリエッタ……そして、チェルノボグ……いや、黒フードの男か」
ヨハネの発した言葉に反応を示した七人は、一斉にヨハネに視線を向けた。
「光では導き手がいるように、闇の中にも統括者が存在がいる……それも、光に存在する世界最強を凌駕する程の力を持った奴が」
「た、確かにアンリも〝闇の神〟に仕えてるって言ってた」
アンリエッタの名前を聞いたケフィは、以前アンリエッタとファイスが戦った際に口にしていた言葉を思い出した。
「アンリエッタの言葉通りなら、光の神と対を成す存在がいるのは明らかだろう。そして、黒フードの男も世界最強と同等の力を持っていると考えて良い……奴等が相手だったのなら、ロシアの状況にも合点がいく」
整理した情報を口にしているヨハネに視線が集まる中、ファイスは北部で命を落としたフィリアの死因を思い出していた。
「ユウト……一つ確認」
「なんだ?」
「貴方の報告……刀を折られ戦死したフィリアは、命尽きる直前に『視認困難な弾丸』と言ったの?」
「……ああ。確かにフィリアはそう言っていた」
ユウトからの回答を聞いたファイスは、数秒考え込むように沈黙した。
「何か気になる事があるのか?」
「いえ、私も同じような弾丸に撃たれた事があるだけ」
「なんだって!?」
思い掛けない返答を聞いたユウトは、座っていたソファーから立ち上がった。
「ひゃっ⭐︎」
その衝撃で、引っ付いていたルアは勢い良くソファーから転げ落ちた。
「災禍領域について調べている時に何度か……生半可な銃撃で私を殺せる筈は無いけど」
その言葉を聞いたユウトは、過去に一人の男から聞いた言葉を思い出した。
『面白いのは、〝命逆の炎姫〟だ。あいつは自分の属性によって〝死ぬ事が出来ない〟らしい……チッ!その特性の影響で俺とあいつは最悪の相性だ』
ユウトはその時初めて、ルクスで出会った男が口にしていた言葉が、ファイスに対して最高傑作と公言した弾丸を使用した際の経験に基づいた言葉だった事を理解した。
「……黒フードの男が……フィリアを」
「落ち着け……ユウト、私の言葉を忘れたか?」
腕を震わせ怒りを露わにするユウトの腕を掴んだヨハネは、転生後に自身が口にした言葉を思い出ささせる事で冷静な判断を促せた。
「もしお前の憶測通り黒フードの男の犯行だとするならば、冷静さを欠いた行動をすればお前一人だけでなく、仲間の死に直結する事を忘れるな」
「…………分かった」
頭の冷えたユウトが再びソファーに腰を下ろした様子を見たヨハネは、小さく息を吐き、再び整理した情報を口にし始めた。
「ユウトの情報を含めると、アメリカ及びロシアで起きた一連の出来事の主犯はチェルノボグ、アンリエッタの二名と思われる。奴等の本拠地はイタリア北部だが、アメリカ国内の防衛を疎かにする訳にもいかない」
ヨハネの言葉に、クレイドルの三人は小さく首を縦に振った。
「そこで、私とルアを含めたユウト達五人でイタリア北部の本拠地へと向かう。非戦闘員のフェイトはファイス達が世話してやってくれ」
「もぐ…………えぇぇぇぇ!?」
ビスケットを頬張っていたフェイトは、ヨハネの言葉を聞いて固まると、徐々に溢れ出る涙を流しながら悲鳴に似た声を発した。
「仕方ありませんよフェイト……ユウト達が向かう場所は危険区域ですから」
「やだぁぁぁぁあ!!」
「駄目なものは駄目です!」
「むゔぅぅぅう」
クライフに叱られたフェイトは、頬を膨らませて視線を合わせていたが、その後不貞腐れる様に会議室の隅で備蓄していたビスケット全てを食べ切ろうと躍起になっていた。
「イタリア北部を目指す訳だが、一度ロシアに立ち寄ってから向かうべきだろう……ロシア側の状況を把握する意味もあるが、ツァリ・グラードの主力とはユウトも顔を合わせておくべきだ」
そう告げたヨハネは、ソファーに腰掛けたユウトに視線を向けた。
「今述べた事は、あくまでも私個人の意見だ。そうするかどうかは、ユウト……お前が決めてくれ」
「俺もヨハネと同じ意見だ。前にも言った事だけど、俺はユカリに創り出されてから日が浅い……ユカリの分身としてじゃなく、一人の人間ユウトとして主力達に俺を認知して貰う為に、他国の拠点には出来る限り出向いておきたい」
ユウトの意志を聞いたイタリア北部組の四人は、行動指針に対する承諾の意を込めて力強く頷いていた。
「ロシアには、ユカリさんもいるよ」
話がまとまり、行動を開始しようとしたその時、突然会議室の扉を開けて話に割り込んで来たのは、光拠点シエラに所属していたイタリア最強の少女リエルだった。
ユウトの腕の中で結晶化したフィリアは、寂しげに靡く風と共に雪のように流れ、徐々に周囲の景色と混ざり合うように消えていった。
その光景を静かに見つめていたユウトは、命尽きる寸前のフィリアに託された刀の柄を握り締め、最後に立てた誓いを自身の心に刻み込んだ。
周囲が静寂に包まれている中、クレイドル方面上空から何かが急速に近づいていた。
「ん~~~寒いぃぃぃい!!」
ユウトへ向けてミサイルのように飛んで来たのは、ヨハネによって柱に縛られ、クレイドルに連行されていた筈のルアだった。
「よっと!」
ユウトから数十メートル横地点に頭を下にした状態で飛来したルアは、両手で着地すると同時に凄まじい速度で前方倒立回転を連続で決めた。
「……アレェ?」
しかし前方倒立回転で速度が落ちる事は無く、ルアは山積みになった瓦礫に向かって回転しながら勢い良く突っ込んだ。
ズガァァァァアン
周囲に瓦礫を吹き飛ばす程の力で衝突した事で、周囲に轟音が響き渡り、強風によって土煙が舞っていた。
「きゃっ!」
ルアによって飛散した瓦礫を避ける為に身を屈めたフェイトは、間一髪で自分以上の大きさの瓦礫を回避していた。
「す、凄い威力」
爆弾が爆発したと勘違いする程の光景を目の当たりにしたフェイトは、脱力しながら地面にへたり込んだ。
「も~~容赦ないんだからぁ!」
ぷんぷんと怒りながら自身に覆い被さっていた瓦礫をストレス発散の意を込めて周囲に吹き飛ばしたルアは、座り込んだユウトを見つけると一目散に駆け寄った。
「あっ!!ユウ……ト」
本来であれば、ユウトに頭突きをしているであろう状況で数歩進んで足を止めたルアからは、先程までの笑顔は消えていた。
「悪いな。今は近付かないでくれ」
契約によって増大したユウトの属性力によって結晶化した地面は、ルアの立ち止まった地点まで広がっていた。
「……分かった⭐︎」
ウインクしながら緩い敬礼をしたルアは、離れた場所にへたり込んでいたフェイトの元へと歩いて行った。
「この感覚…… ユカリとの契約とは何かが違う」
ユウトは、契約によって増大した属性力がユカリの時とは違う変化をしている事を感じ取っていた。
契約は、指輪を持つ者同志が互いの属性を共有する事が出来る。
しかし、フィリアはユカリ達と違って契約の指輪を持っていないにも関わらず契約が発動した。
(指輪無しで契約が発動した。まさか……〝一段階目よりも数段階上の契約〟なのか)
ユウトが想定した契約は、全部で三段階存在する。
しかし、第二段階を成功させるには依然として指輪が必要になる為、フィリアの様に指輪無しで契約を発動する事は出来ない。
(急激に属性が流れ込んで来る様な感覚……この感覚は契約とは違う…… 〝属性の譲渡〟だ)
契約をした二人は、互いに任意で共有している属性量を決める事が出来るが、フィリアは自身の所有する属性を全て渡し、ユウトの属性と結合させていた。
ユウトはフィリアの雷のプラス属性を有していなかった為、ユウトの持つ変異した水のプラス属性と混ざり合い属性力を倍以上に増大させていた。
(属性は少しずつ安定してる。フィリアの持っていた属性……炎が炎と繋がり、雷が水と混ざり……弱気だった俺に進む勇気と力をくれる)
「ありがとう……フィリア」
属性が安定したユウトはゆっくりと立ち上がり、フィリアに向けて感謝の言葉を告げたユウトは、雲一つない晴天の空に向けて視線を向けた。
―*―*―*―*―
「泣いてるのぉ~?」
へたり込んだフェイトに歩み寄ったルアは、フェイトの頬を伝う雫を見つめながら声を掛けた。
「うん……ルアは痛くないの?」
「私は平気だよぉ!だって治癒力凄いから⭐︎」
ルアは自身の持つ強力な水のプラス属性によって、激突時の傷を既に治癒していた。
「フェイトだっけぇ?フェイトだってなんで泣いてるのぉ?怪我でもしたぁ?」
忙しなくフェイトの周りを回り身体を観察したルアは、怪我がない事を確認し終えるとすぐにユウトへ視線を向けた。
「私もユウトと同じだったから。大切な人達が突然殺されて、頼りにしていた人達も逃げる様に私の側から離れて行った……私は、ずっと一人だった」
ルアの意識がユウトに向いており、話を聞いていない事に気付いていないフェイトは、自身の過去について短く語った。
その瞳には、光を呑み込むとさえ感じる程の底知れない負の感情が込められていた。
「でも今は、お母さん達がいる……ユウトも、皆んなもいてくれる……だから、私〝は〟寂しくない」
そう告げて視線を上げたフェイトは、ルアが話を聞いていない事に気が付き頬を膨らませた。
「ルアが話聞いてない!」
「へ?ん~~ゴメンなちゃい⭐︎」
「全然気持ちが篭ってないー!」
「私が気持ちを込めるのは、ユウトへの愛だけ♡」
頬を膨らませて怒るフェイトと、身体を揺らしながら愛を告げるルアを他所に、ユウトは雲の無い空に向けて顔を上げていた。
その後、北部に戻ったヨハネ達と合流したユウトから告げられた言葉に、ユウは涙を流し、ヨハネとウトは瞳を閉じて黙祷を捧げた。
―*―*―*―*―
アメリカ中央拠点クレイドル 支援部隊本部
北部で起きていた事を報告する為に、ファイス達がいるクレイドル中階の支援部隊本部に到着した六人は、妙な違和感を感じていた。
「……静かだな」
先頭を歩くヨハネの後に付いていたユウトは、クレイドル内の妙な静けさに対する違和感を口にした。
「確かにそうですよね?大国の総本部なら、敵襲の後も損壊した建物の復旧や、避難した人々に対する対応に追われていてもおかしくない筈ですけど」
「もう復旧は終わった……とか?」
「ウト……北部の状況を見て来ましたよね?ユカリやユウトのように一瞬で治せる人なんて普通はいないんですよ?」
三人の会話を聞いていたヨハネは、何かを考える様に数秒目を閉じた後、ゆっくりと支援部隊本部に足を踏み入れた。
中に入った六人は、ラベンダーの香りが広がる室内で、黙々と作業に従事している隊員達に目を向けた。
「皆、作業に集中しているだけのようだな」
「……それにしては、空気が重くないか?」
ユウトは、周囲を見回していたヨハネに自身の感じた違和感について小声で語り掛けた。
「当然と言えるだろう。闇の人間が侵入不可能とされた障壁内に、同じ容姿をした得体の知れない敵が大群で現れ、私やルアのような主力戦力が必須となる敵の出現……挙句に、クレイドルで攻の月と称されたアンリエッタが敵となった。感情に浸る暇もない程短い間に、想定外の出来事が起き過ぎた」
そう口にしたヨハネの暗い表情からは、自身が転生前に犯した行ないを心の底から悔いる事が見て取れた。
「お疲れ様です!皆さん!」
部屋の奥にある会議室から出てきたクライフは、入り口付近に立っていた六人に気付くと、足早にヨハネの元へと歩み寄った。
「すまないなクライフ。私は導き手が創造したクレイドルには地理が無いからな……クレイドル内の隊員達に場所を聞きながら来たんだ」
「いえ、此方こそ皆さんにお手数をお掛けしてしまい申し訳ございませんでした」
そう告げたクライフは、六人に向けて深々と頭を下げて謝罪をした。
「お前が謝る必要は無い……クライフ、北部で戦っていた私達と同じ様に、本部で作業に従事していたお前達も多忙だっただろう?」
ヨハネの言葉を聞いたクライフは、申し訳なさそうにゆっくりと顔を上げると、正面に立つヨハネに視線を合わせた。
「地理を知らぬなら聞けば良い……そんな些細な事に文句を言う人間は、少なくとも私の後ろにいる五人の中にはいない」
その言葉を聞いたクライフが視線をヨハネの背後にいる五人に向けると、その内の三人は小さく頷いた。
「迷子にならなかった!」
そう元気良く告げたフェイトは、頷いたユウト達の横で胸を張っていた。
「私は~もぉっとユウトとお散歩したかったかも♡」
北部で自由になったルアは、再度拘束を試みるヨハネの手を掻い潜り、現在までユウトの右半身に張り付く様に身体を擦り寄せ続けていた。
「ふぅ……少しの間、我慢してくれユウト……私が、後で必ず教育する」
「ヨ、ヨハネ様が怒ってる」
ヨハネがルアに向けた鋭い眼差しに身震いしていたクライフの背後から、会議を終えたファイスが近づいて来ていた。
「ヨハネ……ユウト?達もお帰り」
まだ名前を覚えていないファイスは、疑問形でユウトの名前を読んでいた。
「合ってますよファイス様。すみませんユウト……ファイス様は名前を覚える事が苦手で」
「対人関係に慣れてないの……クライフやフィアと違って」
「き、気にしないでくれ。俺だって、ユカリに創造されてから日が浅いんだ……覚えて貰えるように、これから努力すれば良いだけだから」
視線を逸らすファイスと、ファイスの代わりに謝罪するクライフを前にユウトは、自身の感じた気持ちを素直に告げた。
「貴方がしてくれた事、私は感謝してる……貴方の、貴方達の行動があったからクライフ達を助けられた……ありがとう」
ユウトに視線を合わせて感謝の意を告げたファイスは、小さく『人の名前を覚えられないのは、元からだから』と口にしていた。
「クライフ、あの部屋は会議室か?」
「は、はい」
クライフ達が出てきた扉を凝視していたヨハネの質問に、クライフは間髪入れずに答えた。
「互いに情報を共有しておきたい。あの部屋を使用しても構わないか?」
「勿論です」
「私達が得た情報も、必要になると思う」
話のまとまった三人を筆頭に、八人は情報を整理する為に会議室へと足を踏み入れた。
―*―*―*―*―
アメリカ中央拠点クレイドル 会議室
八人が白い外壁に覆われた会議室に入ると、そこには既にケフィが横たわっていた。
「……そうでした」
小さく溜息を吐いたクライフは、ソファーに寝ているケフィに近付き、優しく身体を揺すった。
「ケフィ!起きて下さい!」
「ムニャ……アンリは……もう食べられないよ」
「す、凄く奇怪な夢を見てるようですね……はぁ……仕方ないですね」
そう告げたクライフは、隊服のポケットから赤い色をしたスイッチを取り出した。
「ムニャ……はっ!」
その瞬間、ケフィは何かを察知したかの様に起き上がり、ソファーから転げ落ちた。
「ふぎゅ!!……む、無慈悲のクライフの気配が!?」
「人聞きの悪い事を言わないで下さいケフィ」
ケフィが飛び起きたと同時に、クライフは手に隠れる様にスイッチを持つと、静かに隊服のポケットにスイッチを入れた。
「ケフィ……北部からヨハネ達が帰還したの。私達の情報とヨハネ達の情報を共有する必要があるから、貴方も会議に出席して」
「……分かった」
やけに潔く了承したケフィからは、先程までの明るさが消え、少し曇った表情へと変わっていた。
―*―*―*―*―
情報を整理し始めて数分後。
北部で起きていた事を聞かされた三人の表情は暗く、会議室内の空気も重苦しいものになっていた。
「そんな事が起きていたんですね。お、私達も本部から国内の変化に目を光らせていましたが、北部にだけは監視カメラで確認する事も出来ない奇妙な状況が続いていましたから」
二人と最も関わりが多かったクライフは、ヨハネ達の報告に対して言葉を返す事は無く、両手で顔を覆い、小さく俯き声を殺すように涙を流していた。
「助力に来てくれた日本の主力が二人とも……か」
涙を流すクライフの隣に腰掛けていたケフィは、自身の心境を口にすると、視線を下に下げたまま沈黙してしまった。
「ファイス……先程聞いたロシアからの情報……本当なのか?」
「ヨハネ……何度も言わせないで。ロシア南部で前衛部隊将官のパベーダがチェルノボグと名乗る男に、ロシア東部ではソーンが殺された……ツァリ・グラード後方狙撃隊の将官ロキの手によって」
「報告の内容を疑いたくもなる……皇帝の住まう街の主戦力が、二人も殺されていると公言されればな」
静まり返った室内には、ユウトの隊服に擦りつくルアの摩擦音と、会議室にあるビスケットを頬張るフェイトの咀嚼音だけだった。
「ロキ……アンリエッタと同じようにロシアにも敵の内通者として主力の座に居座っていたと言うのか……だとしても、刻絕の姫君と称される程のソーンが、主力程度の人間に殺されるなどと」
「ツァリ・グラード戦闘部隊総司令アーミヤから依頼を受けたムスリムからの報告。パベーダやソーンだけじゃない……一般隊員にも多くの重傷者が出ているそう……日本に転移させられた負傷者の話をヒナから聞いた時から嫌な予感はしていたけど」
世界最強と呼ばれている三人は、主力よりも遥かに高い属性力と属性量を有している。
そんな人間を殺せる人間を、闇にいた頃の記憶を持つヨハネは二人知っていた。
「アンリエッタ……そして、チェルノボグ……いや、黒フードの男か」
ヨハネの発した言葉に反応を示した七人は、一斉にヨハネに視線を向けた。
「光では導き手がいるように、闇の中にも統括者が存在がいる……それも、光に存在する世界最強を凌駕する程の力を持った奴が」
「た、確かにアンリも〝闇の神〟に仕えてるって言ってた」
アンリエッタの名前を聞いたケフィは、以前アンリエッタとファイスが戦った際に口にしていた言葉を思い出した。
「アンリエッタの言葉通りなら、光の神と対を成す存在がいるのは明らかだろう。そして、黒フードの男も世界最強と同等の力を持っていると考えて良い……奴等が相手だったのなら、ロシアの状況にも合点がいく」
整理した情報を口にしているヨハネに視線が集まる中、ファイスは北部で命を落としたフィリアの死因を思い出していた。
「ユウト……一つ確認」
「なんだ?」
「貴方の報告……刀を折られ戦死したフィリアは、命尽きる直前に『視認困難な弾丸』と言ったの?」
「……ああ。確かにフィリアはそう言っていた」
ユウトからの回答を聞いたファイスは、数秒考え込むように沈黙した。
「何か気になる事があるのか?」
「いえ、私も同じような弾丸に撃たれた事があるだけ」
「なんだって!?」
思い掛けない返答を聞いたユウトは、座っていたソファーから立ち上がった。
「ひゃっ⭐︎」
その衝撃で、引っ付いていたルアは勢い良くソファーから転げ落ちた。
「災禍領域について調べている時に何度か……生半可な銃撃で私を殺せる筈は無いけど」
その言葉を聞いたユウトは、過去に一人の男から聞いた言葉を思い出した。
『面白いのは、〝命逆の炎姫〟だ。あいつは自分の属性によって〝死ぬ事が出来ない〟らしい……チッ!その特性の影響で俺とあいつは最悪の相性だ』
ユウトはその時初めて、ルクスで出会った男が口にしていた言葉が、ファイスに対して最高傑作と公言した弾丸を使用した際の経験に基づいた言葉だった事を理解した。
「……黒フードの男が……フィリアを」
「落ち着け……ユウト、私の言葉を忘れたか?」
腕を震わせ怒りを露わにするユウトの腕を掴んだヨハネは、転生後に自身が口にした言葉を思い出ささせる事で冷静な判断を促せた。
「もしお前の憶測通り黒フードの男の犯行だとするならば、冷静さを欠いた行動をすればお前一人だけでなく、仲間の死に直結する事を忘れるな」
「…………分かった」
頭の冷えたユウトが再びソファーに腰を下ろした様子を見たヨハネは、小さく息を吐き、再び整理した情報を口にし始めた。
「ユウトの情報を含めると、アメリカ及びロシアで起きた一連の出来事の主犯はチェルノボグ、アンリエッタの二名と思われる。奴等の本拠地はイタリア北部だが、アメリカ国内の防衛を疎かにする訳にもいかない」
ヨハネの言葉に、クレイドルの三人は小さく首を縦に振った。
「そこで、私とルアを含めたユウト達五人でイタリア北部の本拠地へと向かう。非戦闘員のフェイトはファイス達が世話してやってくれ」
「もぐ…………えぇぇぇぇ!?」
ビスケットを頬張っていたフェイトは、ヨハネの言葉を聞いて固まると、徐々に溢れ出る涙を流しながら悲鳴に似た声を発した。
「仕方ありませんよフェイト……ユウト達が向かう場所は危険区域ですから」
「やだぁぁぁぁあ!!」
「駄目なものは駄目です!」
「むゔぅぅぅう」
クライフに叱られたフェイトは、頬を膨らませて視線を合わせていたが、その後不貞腐れる様に会議室の隅で備蓄していたビスケット全てを食べ切ろうと躍起になっていた。
「イタリア北部を目指す訳だが、一度ロシアに立ち寄ってから向かうべきだろう……ロシア側の状況を把握する意味もあるが、ツァリ・グラードの主力とはユウトも顔を合わせておくべきだ」
そう告げたヨハネは、ソファーに腰掛けたユウトに視線を向けた。
「今述べた事は、あくまでも私個人の意見だ。そうするかどうかは、ユウト……お前が決めてくれ」
「俺もヨハネと同じ意見だ。前にも言った事だけど、俺はユカリに創り出されてから日が浅い……ユカリの分身としてじゃなく、一人の人間ユウトとして主力達に俺を認知して貰う為に、他国の拠点には出来る限り出向いておきたい」
ユウトの意志を聞いたイタリア北部組の四人は、行動指針に対する承諾の意を込めて力強く頷いていた。
「ロシアには、ユカリさんもいるよ」
話がまとまり、行動を開始しようとしたその時、突然会議室の扉を開けて話に割り込んで来たのは、光拠点シエラに所属していたイタリア最強の少女リエルだった。
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