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第2章 紡がれる希望
第54話 天地
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ユウトが闇のボスと交戦する前日
ロシア南部
『雷の皇帝』
アーミヤの悲しき叫びに呼応する様に、南部に存在する〝全て〟の大地が雷光を発し始めた。
「なんだ……この光は!?」
チェルノボクは、目の前で発生した不可思議な現象に目を奪われていた。
次の瞬間、座り込んだパベーダを飲み込む様に雷の柱が地面から天を衝くように発生し、パベーダの前に立っていたチェルノボグは、咄嗟に後方へと飛び退いた。
「っ!一体これは……まさか」
チェルノボグは、噂とばかりに思っていたロシアに存在する影の世界最強について思い出していた。
「周囲に存在した光の人間には、到底不可能な芸当だ。もし、それが出来るとすれば……噂に聞いた凋落の女帝だけだ」
(世界最強の座を捨て帝国の総司令となった女帝が動いた……パベーダの奴が通信機を起動させていたのか)
目の前に存在する巨大な雷の柱を見つめていたチェルノボグは、徐にポケットの中に入っていた黒い端末を確認した。
(日の丸最強の準備が整うまでの時間潰しには丁度良かったか?)
視線を向けた端末には、『USA』と『ITA』の文字に加えて『RUS』の文字が薄く表示されていた。
(残念だが、傀儡どもは既に動き始めている。アーミヤ……お前も、すぐに知る事になるだろう)
チェルノボグは冷たい笑みを浮かべると、背後に出現した黒い渦の中へと姿を消した。
―*―*―*―*―
ロシア南部 雷の柱 内部
「これが、アンタの力か?」
地面に座り込んだまま動けずにいたパベーダは、自身の周囲を包み込む様に発生した金色のカーテンに視線を向けて口を開いた。
「……そうだ」
依然として司令室にいるアーミヤは、属性を通じて遠方のパベーダに自身の声を伝えた。
「入隊から十年以上の時を経て、私と共に私の身に宿る属性も成長し、大地を統べる雷となった」
「流石……アタシの憧れだ」
パベーダが喪失しかけた意識は、金色のカーテンから伝わる微量な電撃によって辛うじて保たれた。
「ありがとな……アタシを殺しに来てくれて」
光の人間が闇の人間によって命を絶たれてしまう事は、闇の人間として転生してしまう事を意味する。
パベーダは、光の人間として最も地獄と言える結末を阻止する為に、アーミヤが属性を解放したのだと解釈していた。
「お前の部下達も、援軍として要請していた救援隊に保護させた。南部に残された人間は……お前だけだ」
通信機を通じて把握していたパベーダの現状と、パベーダ自身が治癒不可能な程の致命傷を負っている事を理解していたアーミヤは、パベーダが気に掛けていたであろう部下達の現状を伝えた。
「そっか……良かったよ」
「……心残りは無いか?」
アーミヤの報告を聞いて微かに笑みを浮かべていたパベーダは、アーミヤの問い掛けに対して再び表情を曇らせた。
「そうだな……平和になった世界を、この目で見てみたかったかな。アタシ達のような、戦闘専門の人間が存在しなくても済むような世界を」
「……そうか」
パベーダの言葉に対して、一言だけ返ってきたアーミヤの声は救う事の出来ない歯痒さと別れに対する悲しみによって震えていた。
「もう一つは、アンタの事さ」
「私の?」
「アンタの……アタシの憧れの全力を見てみたかった。属性の鍛練も、導き手に頼んで他の隊員達に把握されない様にしてただろ?」
「……すまない」
世界最強と称された人間でも、日々の鍛練を怠る事は基本的に無い。
そんな時、鍛練の相手になっている人物が導き手であるユカリなのだ。
属性全てを制するユカリの力は、全力で解放する属性の鍛練に於ける緊急停止装置を担う事が出来る。
属性の制御に失敗した場合でも安全に対処する事が出来るのは、属性を封じ、無力化する事が可能なユカリだけであった。
その為、ファイスは頻繁にユカリの元へ訪ね、属性に頼る事が不可能な中での肉弾戦の訓練を積み、ソーンは結晶の盾を創造したユカリと対峙し、長期戦に向けた属性の継続化に取り組み、アーミヤは範囲の拡大と、属性使用時の威力強化に取り組んだ。
「仕方ないさ。世界最強の相手なんて同じ世界最強にしか務まらないんだ」
「……」
「でも、良かったよ……一度でもアンタの属性を見る事が出来たからな」
周囲に視線を向けたパベーダは、チェルノボグの脅威を忘れてしまう程の安心感に包まれていた。
「ヨハネに憧れて力を付けた……アンタに憧れて属性力を磨いて、大地を利用した戦い方を考えた」
そう告げたパベーダは、ゆっくりと瞳を閉じた。
「アンタを憧れて良かった……アンタとの出逢いが、アタシにとって一番幸運だった」
「…………安らかに眠れ……我らの戦友よ……過去の私を信じ、今の私を変えてくれた恩人よ」
悲しみと深謝の意が籠った言葉を口にしたアーミヤは、天高く伸びた雷の柱を降下させ、一人の人生を終わらせた。
―*―*―*―*―
ロシア本部ツァリ・グラード 司令室
パベーダの命を絶ったアーミヤは、悲しみの涙を流しながらその場に崩れ落ちた。
「……嫌な力だ。こんな属性の使用法……見出さなければ良かった」
(どれ程大地を統べろうと、消え行く命を救う事も出来ない……こんな力)
『アタシに追わせてくれ、そのままのアンタの……憧れの背中をさ』
負の感情に呑み込まれかけていたアーミヤは、ふとパベーダから告げられた言葉を思い出した。
「そのままの私か……」
頬を伝う涙を拭い、数秒瞳を閉じたアーミヤは、南部に発生させ続けている属性に意識を向け、パベーダの周囲に存在していた筈のチェルノボグが存在していない事を把握した。
「パベーダ……お前の愛した民は、お前の愛したこの国は、私が必ず護ってみせる。お前が死に際まで信じた憧れとして」
強い決意を言葉にしたアーミヤは、パベーダの通信機から聞き取った情報を整理し始めた。
『現状までに俺の出していた力が、多く見積もっても二割程度だと公言しても……お前は俺に、その言葉を口に出来るのか?』
「パベーダと戦ったチェルノボグという男、二割程度の力しか使用していないと公言していたな。二割の力で主力に勝ったと言うのか?」
チェルノボグの発言の中で一番印象に残っている言葉について考えていたアーミヤは、通信機に繋がれた録音機を確認した。
「入隊から日が浅いとはいえ、帝国の主力となったパベーダが太刀打ち出来ない程の実力……世界最強でなければ対処不可能な人間が現れたと言う事か」
現在に至るまで、自国で世界最強に匹敵する程の力を有した闇の人間が確認された事例は無かった。
アメリカでは世界最強と称されたヨハネが闇に堕ち、光拠点であるクレイドルに大損害を与えた事件が起きたが、ロシアでは平均的な実力を有した闇の人間が大軍勢で攻め入る事例があった程度で、個人が主力以上の力を有していた事は無かった。
コンコンコンコン
アーミヤが思考を巡らせていると、司令室の扉を数回ノックする音が室内に響いた。
「入れ」
「失礼します」
そう言葉にして扉を開けたのは、顎髭を生やし白い隊服に身を包んだ褐色の男性だった。
「ロシア西部捜索隊ムスリム……他の隊員に伝達及び、捜索状況把握を終え只今帰還しました」
「召喚への対応、感謝する」
「気にしないで下さい。私達が担当していた西部の捜索も完了した所だったので」
そう告げたムスリムは、逆立った黒髪に手を当て垂れ下がった目を細めて微笑んだ。
「捜索結果に関しては口頭で構わない……何か変化はあったか?」
「いえ、残念ながら西部側にリエルらしき存在は確認出来ませんでした。不審な点も特に無く、異常らしきモノは何もありませんでした」
「そうか……リエル捜索への協力感謝する。他の隊員達にも後程、私から感謝の意を伝える」
そう口にしたアーミヤは、南部の様子を属性で監視しながらムスリムに録音機を差し出した。
「ムスリム……先んじて伝えていた通り、お前には現状の把握と、他国への情報伝達を依頼したい」
「はい、構いません」
アーミヤの言葉に対して即答したムスリムは、差し出された録音機を受け取った。
「こちらに、パベーダ前衛部隊将官が録音した記録が残されている。記録された情報をまとめ、アメリカ光拠点クレイドルの人間に伝えて欲しい」
「アメリカのみですか?」
「日本には、南部で負傷した隊員達を何人か移送する命を属性を通じて下した……一個中隊に相当する重篤者に対する確実な処置として、日本に存在する治癒師ヒナの助力が必要だと私が判断した為だ」
「そうですね……治癒室に設置された回復結晶にも限りがありますし、南部で起きたと言う戦闘が激化した場合の事を考えると、支援部隊員や回復結晶が必須になりますよね」
「そうだ。私も戦況の変化を迅速に把握し、これ以上の支援部隊の出動も、過度な回復結晶の使用もせずに済むように、現時点で行なっている属性による監視を続ける」
そう告げたアーミヤは、金色に輝く自身の足元を指差した。
「ムスリム……米国への報告は頼んだぞ」
アーミヤの言葉に力強く頷いたムスリムは、日頃ミールが使用している机を使用し、通信記録とロシアの現状をまとめ始めた。
(ミール……何かあったのか?)
ミールの不在に疑問を抱いたアーミヤは、南部に展開していた属性に妙な違和感を感知した。
「なんだ……この感覚は?」
その場所に生体反応を感じる事は無かったが、その場所に展開していた属性が、底しれない力で強引に押し戻されるような感覚を感じた。
「……何故転移エリアと同じ感覚を、こんな場所で感じるんだ?」
疑問を口にした次の瞬間、チェルノボグが存在したであろう場所周辺に、人一人が通れる程度の黒い渦が数十箇所に出現した。
「っ!闇の属性を感知しただと!……馬鹿な」
(先程までは確かに誰一人存在しなかった……敵も我々と同様に転移する事が可能だと言うのか)
中から現れた存在は全員、黄金色の髪をした紅掛空色の瞳をした女性だった。
「て、敵襲ですか!」
「ああ、ムスリムは情報整理に従事していろ……敵には私と他の隊員達で対処する」
「わ、分かりました」
アーミヤは展開していた属性に再び属性を込め、ツァリ・グラードに待機していた隊員達へ指示を出す為に通信機を手に取った。
ロシア南部
『雷の皇帝』
アーミヤの悲しき叫びに呼応する様に、南部に存在する〝全て〟の大地が雷光を発し始めた。
「なんだ……この光は!?」
チェルノボクは、目の前で発生した不可思議な現象に目を奪われていた。
次の瞬間、座り込んだパベーダを飲み込む様に雷の柱が地面から天を衝くように発生し、パベーダの前に立っていたチェルノボグは、咄嗟に後方へと飛び退いた。
「っ!一体これは……まさか」
チェルノボグは、噂とばかりに思っていたロシアに存在する影の世界最強について思い出していた。
「周囲に存在した光の人間には、到底不可能な芸当だ。もし、それが出来るとすれば……噂に聞いた凋落の女帝だけだ」
(世界最強の座を捨て帝国の総司令となった女帝が動いた……パベーダの奴が通信機を起動させていたのか)
目の前に存在する巨大な雷の柱を見つめていたチェルノボグは、徐にポケットの中に入っていた黒い端末を確認した。
(日の丸最強の準備が整うまでの時間潰しには丁度良かったか?)
視線を向けた端末には、『USA』と『ITA』の文字に加えて『RUS』の文字が薄く表示されていた。
(残念だが、傀儡どもは既に動き始めている。アーミヤ……お前も、すぐに知る事になるだろう)
チェルノボグは冷たい笑みを浮かべると、背後に出現した黒い渦の中へと姿を消した。
―*―*―*―*―
ロシア南部 雷の柱 内部
「これが、アンタの力か?」
地面に座り込んだまま動けずにいたパベーダは、自身の周囲を包み込む様に発生した金色のカーテンに視線を向けて口を開いた。
「……そうだ」
依然として司令室にいるアーミヤは、属性を通じて遠方のパベーダに自身の声を伝えた。
「入隊から十年以上の時を経て、私と共に私の身に宿る属性も成長し、大地を統べる雷となった」
「流石……アタシの憧れだ」
パベーダが喪失しかけた意識は、金色のカーテンから伝わる微量な電撃によって辛うじて保たれた。
「ありがとな……アタシを殺しに来てくれて」
光の人間が闇の人間によって命を絶たれてしまう事は、闇の人間として転生してしまう事を意味する。
パベーダは、光の人間として最も地獄と言える結末を阻止する為に、アーミヤが属性を解放したのだと解釈していた。
「お前の部下達も、援軍として要請していた救援隊に保護させた。南部に残された人間は……お前だけだ」
通信機を通じて把握していたパベーダの現状と、パベーダ自身が治癒不可能な程の致命傷を負っている事を理解していたアーミヤは、パベーダが気に掛けていたであろう部下達の現状を伝えた。
「そっか……良かったよ」
「……心残りは無いか?」
アーミヤの報告を聞いて微かに笑みを浮かべていたパベーダは、アーミヤの問い掛けに対して再び表情を曇らせた。
「そうだな……平和になった世界を、この目で見てみたかったかな。アタシ達のような、戦闘専門の人間が存在しなくても済むような世界を」
「……そうか」
パベーダの言葉に対して、一言だけ返ってきたアーミヤの声は救う事の出来ない歯痒さと別れに対する悲しみによって震えていた。
「もう一つは、アンタの事さ」
「私の?」
「アンタの……アタシの憧れの全力を見てみたかった。属性の鍛練も、導き手に頼んで他の隊員達に把握されない様にしてただろ?」
「……すまない」
世界最強と称された人間でも、日々の鍛練を怠る事は基本的に無い。
そんな時、鍛練の相手になっている人物が導き手であるユカリなのだ。
属性全てを制するユカリの力は、全力で解放する属性の鍛練に於ける緊急停止装置を担う事が出来る。
属性の制御に失敗した場合でも安全に対処する事が出来るのは、属性を封じ、無力化する事が可能なユカリだけであった。
その為、ファイスは頻繁にユカリの元へ訪ね、属性に頼る事が不可能な中での肉弾戦の訓練を積み、ソーンは結晶の盾を創造したユカリと対峙し、長期戦に向けた属性の継続化に取り組み、アーミヤは範囲の拡大と、属性使用時の威力強化に取り組んだ。
「仕方ないさ。世界最強の相手なんて同じ世界最強にしか務まらないんだ」
「……」
「でも、良かったよ……一度でもアンタの属性を見る事が出来たからな」
周囲に視線を向けたパベーダは、チェルノボグの脅威を忘れてしまう程の安心感に包まれていた。
「ヨハネに憧れて力を付けた……アンタに憧れて属性力を磨いて、大地を利用した戦い方を考えた」
そう告げたパベーダは、ゆっくりと瞳を閉じた。
「アンタを憧れて良かった……アンタとの出逢いが、アタシにとって一番幸運だった」
「…………安らかに眠れ……我らの戦友よ……過去の私を信じ、今の私を変えてくれた恩人よ」
悲しみと深謝の意が籠った言葉を口にしたアーミヤは、天高く伸びた雷の柱を降下させ、一人の人生を終わらせた。
―*―*―*―*―
ロシア本部ツァリ・グラード 司令室
パベーダの命を絶ったアーミヤは、悲しみの涙を流しながらその場に崩れ落ちた。
「……嫌な力だ。こんな属性の使用法……見出さなければ良かった」
(どれ程大地を統べろうと、消え行く命を救う事も出来ない……こんな力)
『アタシに追わせてくれ、そのままのアンタの……憧れの背中をさ』
負の感情に呑み込まれかけていたアーミヤは、ふとパベーダから告げられた言葉を思い出した。
「そのままの私か……」
頬を伝う涙を拭い、数秒瞳を閉じたアーミヤは、南部に発生させ続けている属性に意識を向け、パベーダの周囲に存在していた筈のチェルノボグが存在していない事を把握した。
「パベーダ……お前の愛した民は、お前の愛したこの国は、私が必ず護ってみせる。お前が死に際まで信じた憧れとして」
強い決意を言葉にしたアーミヤは、パベーダの通信機から聞き取った情報を整理し始めた。
『現状までに俺の出していた力が、多く見積もっても二割程度だと公言しても……お前は俺に、その言葉を口に出来るのか?』
「パベーダと戦ったチェルノボグという男、二割程度の力しか使用していないと公言していたな。二割の力で主力に勝ったと言うのか?」
チェルノボグの発言の中で一番印象に残っている言葉について考えていたアーミヤは、通信機に繋がれた録音機を確認した。
「入隊から日が浅いとはいえ、帝国の主力となったパベーダが太刀打ち出来ない程の実力……世界最強でなければ対処不可能な人間が現れたと言う事か」
現在に至るまで、自国で世界最強に匹敵する程の力を有した闇の人間が確認された事例は無かった。
アメリカでは世界最強と称されたヨハネが闇に堕ち、光拠点であるクレイドルに大損害を与えた事件が起きたが、ロシアでは平均的な実力を有した闇の人間が大軍勢で攻め入る事例があった程度で、個人が主力以上の力を有していた事は無かった。
コンコンコンコン
アーミヤが思考を巡らせていると、司令室の扉を数回ノックする音が室内に響いた。
「入れ」
「失礼します」
そう言葉にして扉を開けたのは、顎髭を生やし白い隊服に身を包んだ褐色の男性だった。
「ロシア西部捜索隊ムスリム……他の隊員に伝達及び、捜索状況把握を終え只今帰還しました」
「召喚への対応、感謝する」
「気にしないで下さい。私達が担当していた西部の捜索も完了した所だったので」
そう告げたムスリムは、逆立った黒髪に手を当て垂れ下がった目を細めて微笑んだ。
「捜索結果に関しては口頭で構わない……何か変化はあったか?」
「いえ、残念ながら西部側にリエルらしき存在は確認出来ませんでした。不審な点も特に無く、異常らしきモノは何もありませんでした」
「そうか……リエル捜索への協力感謝する。他の隊員達にも後程、私から感謝の意を伝える」
そう口にしたアーミヤは、南部の様子を属性で監視しながらムスリムに録音機を差し出した。
「ムスリム……先んじて伝えていた通り、お前には現状の把握と、他国への情報伝達を依頼したい」
「はい、構いません」
アーミヤの言葉に対して即答したムスリムは、差し出された録音機を受け取った。
「こちらに、パベーダ前衛部隊将官が録音した記録が残されている。記録された情報をまとめ、アメリカ光拠点クレイドルの人間に伝えて欲しい」
「アメリカのみですか?」
「日本には、南部で負傷した隊員達を何人か移送する命を属性を通じて下した……一個中隊に相当する重篤者に対する確実な処置として、日本に存在する治癒師ヒナの助力が必要だと私が判断した為だ」
「そうですね……治癒室に設置された回復結晶にも限りがありますし、南部で起きたと言う戦闘が激化した場合の事を考えると、支援部隊員や回復結晶が必須になりますよね」
「そうだ。私も戦況の変化を迅速に把握し、これ以上の支援部隊の出動も、過度な回復結晶の使用もせずに済むように、現時点で行なっている属性による監視を続ける」
そう告げたアーミヤは、金色に輝く自身の足元を指差した。
「ムスリム……米国への報告は頼んだぞ」
アーミヤの言葉に力強く頷いたムスリムは、日頃ミールが使用している机を使用し、通信記録とロシアの現状をまとめ始めた。
(ミール……何かあったのか?)
ミールの不在に疑問を抱いたアーミヤは、南部に展開していた属性に妙な違和感を感知した。
「なんだ……この感覚は?」
その場所に生体反応を感じる事は無かったが、その場所に展開していた属性が、底しれない力で強引に押し戻されるような感覚を感じた。
「……何故転移エリアと同じ感覚を、こんな場所で感じるんだ?」
疑問を口にした次の瞬間、チェルノボグが存在したであろう場所周辺に、人一人が通れる程度の黒い渦が数十箇所に出現した。
「っ!闇の属性を感知しただと!……馬鹿な」
(先程までは確かに誰一人存在しなかった……敵も我々と同様に転移する事が可能だと言うのか)
中から現れた存在は全員、黄金色の髪をした紅掛空色の瞳をした女性だった。
「て、敵襲ですか!」
「ああ、ムスリムは情報整理に従事していろ……敵には私と他の隊員達で対処する」
「わ、分かりました」
アーミヤは展開していた属性に再び属性を込め、ツァリ・グラードに待機していた隊員達へ指示を出す為に通信機を手に取った。
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