創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

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第2章 紡がれる希望

第31話 幼き最強

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 ユウトが闇のボスと交戦する一週間程前

 ロシア本部ツァリ・グラード

 ロシア国内では三年前から出現した災禍領域カタストロ・フィードが西側で発生した事で、恐怖を募らせた光の人々は西拠点を放棄し東部に移動し新たな活動拠点を模索していた。

 そんな時、新たに導き手となったユカリはロシア側への助力を申し出た。

 ユカリの属性によって短期間で開拓された土地には多くの国民が集まり、人が増える事に比例して建造物の数も増加していき、その規模を拡大して行った。

 光拠点ツァリ・グラードは、ロシアに現存するエカテリーナ宮殿を元に創造された拠点である。

 エカテリーナ宮殿と異なる部分は、装飾が全て黄金ではなく氷によって作られた半透明な装飾である事に加えて所属している隊員達の寝室等が大半を占めている事が挙げられる。

 そして装飾の煌めく宮殿に囲われる形で設けられた中庭では、周囲の穏やかさとは裏腹に怒りの感情を露わにした白い隊服に身を包む少女がいた。

「全部っ!お前のせいだ!!」



 怒号を放った黄橡きつるばみの髪の少女は、正面に立つクリーム色の髪の白い隊服の女性に向けて両手に持つ二丁拳銃を同時に構え数発の弾丸を発砲した。

 右眼は承知色そがいろ、左眼は天色の瞳をした少女が持つ白い拳銃は、ユカリによって創造された〝少女専用〟の特殊な拳銃だった。

「姉さん!」



 中庭に入って来たばかりの女郎花おみなえしの髪をした白い軍服の少年は、野原に座り込んだ女性に向けて叫んだ。

「大丈夫ですよ〝ミール〟」



 ミールの声に気が付いた女性は、時計を思わせる蒼い瞳をミールに向けて微笑んだ。

 女性は少女の弾丸が外れる事を最初から〝知っていた〟かの様にその場に座り込んでいると、発砲された弾丸は女性を狙ったとは思えない程に的外れな場所に着弾した。

「〝リエル〟……どうして貴方がこんな所に?」

 ゆっくりと立ち上がった女性は、光拠点シエラに所属しているイタリア最強と呼ばれるリエルが、ロシアに訪れてた理由を〝知らない〟為、キョトンとした表情で首を傾げていた。

「どうして?………〝ソーン〟に今更何を話しても……もう全部遅いよっ!!」

 再び銃口を向けたリエルは再度女性に数発発砲したが、放たれた弾丸はソーンの座る前方の地面と後方の地面に着弾した為、ソーンは無傷のままだった。

「待ってリエル!姉さんには理由が——」

「理由があったら味方を見殺しにして良いの!!」

 弁明する為に声を上げたミールだったが、リエルはその声を遮る様に怒号を発した。

「不在だった時は、仕方ない事だと思ったよ?」

 リエルがツァリ・グラードに訪れた時、ソーンは突然南部から侵攻して来た数千にも及ぶ闇の大群勢を一人で迎え撃っていた。

「でも、ソーンがあの時居てくれたらって……拠点に帰ってきた時に、私の救援に応えてくれていたらって……みんなは死なずに済んだって……頭の中で考えちゃう」

「……シエラの人々が」

 涙を流しながら力なく両腕を垂れ下げるリエルを見たソーンは、自身が知らぬ間に起こしてしまった誤ちに気付き目を見開いた。

「ソーンが悪くないんだって思っても……気持ちが整理できない…………失った物が大き過ぎるよ」

 幼いリエルは、起きてしまった惨劇に対して感情が混同してしまい自身の感情を制御出来ずにいた。

 アレン達の死、故郷の壊滅、希望だった人の不在、〝アダムとの再会〟、ロシアに来訪したリエルにとって予想を遥かに超える出来事が起き過ぎた。

「もう私には何も残されていない……もう何も」

 ゆっくりと俯いたリエルは、右手の拳銃を再びソーンに向けると銃口に黄金に輝く電撃が放たれ始めた。

「〝あれは〟……姉さん!」

 階段で中庭に降りたミールは、エメラルドの様な瞳でソーンを見つめた。

 ミールの声を聞いたソーンは、ゆっくりと立ち上がると近場に置いていた真っ白な刀を掴み鞘から引き抜くと、天空に向けて刀を翳した。

「何をやってるんだ姉さん!」

「ミール……この国でも知らない人がいる事を、他国のリエルが知らない可能性はあったの。どんな事情がこちら側にあろうとも、私が万が一に備えて属性を温存していなかった事で引き起こされてしまった悲劇には、私自身が身を持って罰せられなければいけないの」



 心配そうに見つめるミールに微笑んだソーンは、リエルへと視線を向けるとそっと瞳を閉じて俯いた。

「みんな……アレン……ごめんなさい」

 リエルが放った弾丸は、溜め込まれた電撃によって着弾寸前で爆裂すると、溜まっていた電撃は水の様に周囲に飛び散り地面に残された弾丸目掛けて飛来するとソーンを囲う様に電気の線が発生した。

 空気中を舞った弾丸の破片によって空中にも電気の線は伸び、ソーンを取り囲む様に広がった。

 電撃の伸びる方向は、リエル自身が操作する事が可能であり逃げようと隙間を潜ろうとすれば、隙間を埋める様に電気線が伸びて感電する。

 リエルの弾丸が当たらないのは、膨大な電気を蓄積できる特殊な弾丸を使用して、弾丸ではなく属性によって対象に攻撃を行う為であった。

 万が一直撃した場合、相手は雷数発分の電撃を一度に受けて即死する。

 だからこそリエルは、イタリア国内で幼いながらも最強と呼ばれる程の存在になっている。

「ああぁぁぁぁああ!!」

 泣き叫んだリエルは、電撃に囲われたソーンの上空に巨大な水玉を発生させた。

 発生した水玉は、勢い良くソーンに落ちると周囲の電気は水を浴びたソーンに集まり、凝縮された属性は上空目掛けて巨大な雷撃となって駆け昇った。

 雷の轟音に驚いた複数の隊員達が、窓を開けて中庭を確認していた。

「姉さん!」

 黒い煙が周囲に広がる中、必死に姉の姿を探すミールは野原が殆ど燃えていない事に気が付いた。

 その瞬間、周囲を待っていた黒い煙が上昇すると中から雷を纏ったソーンが姿を現した。

「姉さん……」

 感情が爆発したリエルは不安定な属性を使用した影響で体幹が崩れ、涙を流したままその場にしゃがみ込んだ。

「リエル」

 雷を帯びたソーンが声を発した瞬間、窓から見ていた隊員達や近距離にいたミールですら認識出来ない程の速度でリエルの前まで移動した。

「ごめんなさい……」

 涙を流したソーンは、しゃがみ込んだリエルに視線を合わせる様に座り込み優しく抱き寄せた。

「ソーン……私は」

 抱き締められた事で、多少気持ちを落ち着かせたリエルは両手に握り締めた拳銃を地面に落とした。

「姉さんは属性を極限まで消費すると眠ってしまうんだ」

 誤解を解く為に、ミールは冷静さを取り戻したリエルに駆け寄りソーンが何故救援に応じられなかったかを説明し始めた。

「突然眠りにつく訳では無いけど、姉さんがこの場所で眠ってしまうと声掛けだけでは起きないんだ……属性回復に意識が向けられているからね」

「……」

 リエルがツァリ・グラードの隊員からソーンの帰還を告げられ中庭に向かった時には、既に眠りについていた。

 リエルは鍛錬中だったアダムの元へ訪れイタリア拠点の話をしながらソーンが不在の理由も聞いていた為、疲労したソーンを気遣って声掛けのみで起床を促していた。

 リエルの脳裏に存在した〝まだ大丈夫だろう〟という油断にも原因があった。

「僕達〝ロシアの主力〟にも問題があった。リエルが困惑している事を知らずにいた。主力しか知らない情報を事前に知らせていなかった……謝っても赦される事では無いけれど」

 深々と頭を下げるミールに対して首を横に振ったリエルは、止まらぬ涙を流しながらミールに視線を合わせた。

「そんな事ない……事情を知らずにソーンにばかり頼った私が悪いの…………私が」

 そこまで口にしたリエルは、疲労によって意識を失いソーンに身を預ける様に倒れた。

「私にもユカリの様な力があれば、リエル達を救う事が出来たでしょうか?」

 小さく言葉を漏らし眠りについたリエルの頬を撫でたソーンは、自身の無力さを噛み締めながらリエルを抱き抱え治癒室へ向かった。

―*―*―*―*―

「騒がしいと思ったがそういう事だったのか。全く……安全な拠点内ぐらいは、ゆっくりさせて欲しいものだがな」

 拠点内に響き渡った雷の轟音と中庭での出来事を話している隊員達を横目に、漆黒の髪をした男性は治癒室に歩みを進めていた。
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