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第2章 紡がれる希望

第7話 人形

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 アメリカ中央拠点クレイドル 南部

「やはり……予想した通りでしたね」

 南部へと転移したユカリは、眼前に広がる幾多の闇の人間達と対面していた。

 アメリカ南部に存在する闇の人間達全てには遠く及ばないが、数千に及ぶ人々がユカリに向けてゆっくりと歩みを進めていた。

「まるであの頃の日本を見ている様です」

 ユカリはカイの裏切りと共に始まった闇の人間達の侵攻を思い返していた。

「標的を補足……〝主様〟の——」

 闇の人間達を先導するかの様に黄金色こがねいろの髪と紅掛空色べにかけそらいろの瞳をした女性が十三・十七・四・三十九人に別れた状態で浮遊していた。

「あの頃の私は零落れいらくしていた」

 ユカリは、静かに瞳を閉ざした。

 するとユカリの周囲に白い霧が立ち込み、近辺に存在した大地は徐々に凍結していった。

「信じていた仲間に裏切られ……人々を守る為の力も一時的に失い……国民の希望さえも一度絶とうとした私は、もう二度と誤ちを犯す事は許されない」

 そう口にしたユカリは、ゆっくりと閉じていた瞳を開けた。

 その瞳はユカリの意志と誓いを表すかのように、金色に染まっていた。

 (時間は掛けられない。ロシアから転移した負傷者からの話では、こちらと同じ状況の筈……だとすると〝ソーン〟が心配です)

「命は全てが平等で、特別な命なんて一つもありません。私自身が道を違えてしまった者を償うべき場所へと導く事が最善だと、大切な人から教授されました…………一人の人間として、そして光の導き手として……導き、償って貰います。貴方達がして来た全てを」

 ユカリが右手に結晶刀クリスタリアを創造すると、切先が凍結していた大地に触れた。

凍華零域とうかれいいき

 大地の凍結は、瞬時に闇の人間達を全員の足場を凍てつかせると覆い包む様に上昇し、外界と隔絶された半透明なドームで闇の人間達を隔離した。

 そのドームが消えたのは、ユカリが創造してから数秒程たった後であった。

 先程まで数え切れない程の人々が歩んでいた場所には静寂のみが残され、既に人が存在しない場所の一角に結晶化した人形の様な物と壊れ掛けた〝通信機〟が残されていた。

「——私の事が——」

―*―*―*―*―

「早く終わらせよ」

 黄金色の髪をした女性との距離を詰めたウトは、背後をとる様に回り込み始めた。

「……」



 女性は表情を変える事なくウトのいる場所へと浮遊した状態のまま方向転換すると同時に、六対の銃身を向け同時に放った。

 銃身から放たれた光線は、ウトを飲み込む程の範囲に渡り放たれた。

「……遅い」

 進行方向とは逆に飛び退いたウトは、前方へと放たれた光線を観察した。

 (赤黒い雷……貫通力特化のビーム)

 光線自体は黄色く発光していたが、光線に纏わり付いていた属性は赤色の雷属性であった。

「どれだけ破壊力があっても、当たらないと意味ないから」

 光線を観察し終えたウトは、浮遊する女性の足元まで接近した。

 女性は咄嗟に向けた銃口の先には、既にウトの姿は無かった。

炎刃えんじん

 女性の背後まで接近していたウトは刃が白色の刀身全てに蒼炎を纏わせ、浮遊していた女性の背後目掛けて力強く刃を振るった。

 すると蒼炎は、刀身と同じ形状を保ったまま前方へと放たれた。

 放たれた斬撃によって女性を真っ二つに斬り裂いた斬撃は速度を落とす事なく前進し、ユウの対峙していた女性さえも斬り裂いた。

「あ!」

 ユウは目の前で起きた事に驚き女性の浮遊していた地点から距離を取ると、少しだけ不機嫌そうにウトを見つめた。

「……これでユウトに褒めて貰える」

 ウトは、刃に纏わせていた炎を横払いして消した後ユウに歩み寄った。

 (ずるい)

 依然として不機嫌そうな表情を浮かべていたユウだったが、付近に倒れていた女性を見て驚愕した。

「これは……」

 先程まで浮遊していた女性は、身体を二分され〝息絶えた状態で現存〟していた。

 本来であれば属性で死亡した場合、転生する為に消滅する筈の身体が残されていた。

 転生しない場合においても同様に身体は消滅し、息絶えた人間はその場に存在しなかったかの様に姿を消すのが基本であった。

 (何で遺体が残されているの?ウトの斬撃には属性が含まれていた……それに属性を纏わせた状態でなくても遺体は消滅する筈なのに)

「スヤァ……」

 考え事をしていたユウの側で、ウトは体育座りをした状態で眠っていた。

「こんな所で寝るな!」

「んあ……」

 頭にチョップを受けたウトは、小さく欠伸をすると目を擦りながらゆっくりと立ち上がった。

 (……気になるのは女性の切断部)

 二分された女性の体内は、黒い糸のような物で臓器が構成されていた。

 流血する事なく倒れている女性は、まるで〝人形〟の様であった。

「一体……これは」

 女性を観察して首を傾げているユウの背中を、ウトは静かに見つめていた。

―*―*―*―*―

「ここにいた筈の人を何処へやった!」

 二人と離れた場所で戦闘を開始していたユウキは、浮遊していた黄金色こがねいろの髪をした女性に向かって叫んだ。

「……」

 女性は表情を一切変える事なく青藍せいらんの瞳でユウキを見つめたまま六対ある銃身の内、上下に浮遊していた四対の銃身をユウキに向けた。

「答えないなら……俺の邪魔だ!」

 ユウキは右手に結晶刀クリスタリアを創造すると、浮遊する女性に向けて踏み飛んだ。

「わ……れに」

 接近したユウキに対して、女性は向けていた銃身とは異なる左右に浮遊していた二対の銃身を逆向きにした。

「我に勝てると思っているのか!」

 先程まで声を発する事の無かった女性は、突然怒号を発すると同時に左右の銃身から後方へ向けて光線を放ち、倍以上の速度でユウキに接近した。

「っ!」

 女性はユウキとの距離を詰めると同時に、右側の銃身を変化させた。

 光線を放つ為の銃身は大刀の様に鋭利に変化し、トンファーの様な持ち手をした武器を両手に持った女性は、ユウキに目掛けて刃を振るった。

「くっ!」

 ユウキは咄嗟に、結晶で創り出した翼で刃を防いだ。

 (あの速度から、あんな斬撃喰らったら力負けする)

 女性との距離を取るために、結晶の翼を女性に向けて力強く開いたユウキは、その瞬間自身の誤ちに気付いた。

 女性は既に銃身の形状を戻し、六対になった銃身は全てユウキに向けられていた。

 (しまった)

 ユウキは瞬時に左手を女性に向けると、巨大な結晶の盾を瞬時に創り出した。

「我……は」

 放たれた光線は、咄嗟に創り出した盾によって防ぐ事に成功した。

 空中で光線を受けたユウキは、光線によって後方へと飛ばされ地面へと吹き飛ばされた。

 (くっ!創造する物は……着地時に衝撃を吸収する水)

 ユウキが脳内で想像した球体上の水は、ユウキの身体全体を覆う様に創り出され、吹き飛んだユウキの衝撃を失くした。

 (くそ……今のままじゃ本気が出せない……これさえ外せば)

 ユウキは包まれていた水を消滅させると、髪を結っていた結晶のリングに触れた。

 (いや駄目だ!……レンとの約束がある)

 首を横に振ったユウキは、リングから右手を離した。

 (限られた力で勝つ……勝ってレンを見つけ出す!)

「だから……無事でいてくれ……レン!」

 ユウキは浮遊したまま、此方を見つめる女性の周囲を囲う様に障壁を創り出した。

 『終焉の爆烈結晶フィニス・エクスプローディア

 障壁内に創造された数十個の結晶爆弾エクスプローリアは障壁内で同時に爆発し、障壁は爆発による発光で赤く染め上げられた。

 ユウキは、爆発音さえも隔絶された障壁を見つめ続けていた。

 (レンを探したい気持ちが募る……でも、この違和感はなんだ?)

 障壁内で発生していた爆発が収まり始めると、閉じ込められていた存在が姿を現すと同時に障壁は甲高い音を立て砕け散った。

 障壁内には身体の節々が焼け焦げた女性が、浮遊していた。

「殺……四……一……三……」

 微かに笑みを浮かべた女性は、聴き取れない声を発すると六対の銃身を自身の周囲に浮遊させた。

「我は……最も強い……誰よりも……〝災禍〟の側に」

 女性はゆっくりと、左腕をユウキに向けた。

 すると女性の周囲を浮遊していた銃身が、ユウキに銃口を向けたまま女性の周囲を回る様に回転し始めた。

 (こいつに手加減は通用しない……悪いなレン……一瞬だけ約束……破るぞ)

「その必要は無いよ」

 リングに触れようとした瞬間、聴き慣れない声が聞こえたユウキは周囲を見渡した。

「良いから!〝替わって〟!」

 その声と同時に、ユウキの身体は結晶が包み込まれた。

 包み込まれたユウキは単結晶化すると地上から徐々に浮遊し、地上から五十センチ程浮いて停止した。

 その異様な光景を見ていた女性は、銃身の回転を停止させた。

「……ユ……ウ……ト」
 
 浮遊していた結晶に、バキッという音と共にヒビが入ると単結晶は粉々に弾け飛んだ。

 中から現れたのは、半透明な回転式結晶銃を両手に携えた〝灰色の髪〟の少女だった。

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