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第1章 光の導き手

第51.5話 黒フードの男

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 白の世界は徐々に周囲の色と混ざり合い消失し、ユウトの視界一面に東拠点ルクスがその姿を現した。

「着いたな……久し振りに」

 ルクスへと転移したユウトは、創り出されてから現在に至るまでに幾度もの当たりにした光を象徴する白壁の巨大な建造物を前に、これまでに起きた出来事を思い出し言葉を漏らした。

 (ボスの右腕だったユウとの闘い、闇のボスとの対面、イタリア拠点シエラの壊滅……ユキとの対立、そして光の導き手であるユカリとの衝突……短い間に二転三転する様な出来事が多過ぎた)

「随分と時間が掛かったな……日の丸最強」

 突然掛けられた声に驚き、過去へ向けていた意識を現実へ戻すと、黒服を着た六尺程の男性が照明の付いていないルクス内の闇から徐々に姿を現した。

 (奥の階段から降りて来たのか?)

 男の背後に目を凝らすと、奥には以前同様に螺旋状らせんじょうに伸びた階段への入り口が確認出来た。

「待ちくたびれて俺の方から出向いてやった……あいつは待てるだろうが、俺は暇じゃない」

 男は、右手で頭を掻き溜息を吐きながら重い足取りで歩み寄って来た。
 
 (あの右眼……義眼か?)

 男は闇に同化する様な漆黒の髪に右眼は水晶の様な白色に染まり、左眼は血に染まったかの様な紅の瞳をしていた。

 (黒服の男……まさか……こいつが噂の)

 ユウトは、ふとルミナの資料室で目を通した資料の中に書かれていた〝黒フードの男〟の特徴を思い出した。

「何でお前がここにいるんだ?……噂では、イタリア周辺にいる筈のお前が」

 ルミナの資料で見た覚えのある浅い情報ではあったが、黒フードの男は現在まで日本での目撃情報は無かった。

 ユウトは自身の憶測を確信させる為に、男に向けて問い掛けた。

「いつの話だ。イタリアにいたのはシエラの偵察の為だ……イタリア国内で〝最強〟と呼ばれる人間の確認に行っていた。それ以外に意図は無い」

 表情を変化させる事無くユウトの問いに答えた男は、両手をポケットに突っ込んだまま互いの距離が二メートル程まで近付くと、ピタリと静止し見下すかの様な眼差しでユウトを見据えていた。

「だが、お前も〝あの少女〟と同じで国内だけの最強だな。世界最強と称される三人を超える程の力を持っていない……これからの伸び代は除外して」

 視線を晒すそらす事無く淡々と喋り続けていた男だったが、突然右拳を上げ人差し指のみを立てた。

 男の解答から黒フードの男だと確信したユウトは、主要武器として記述されていた黒色のガバメントを警戒し障壁を創り出した。

「一つ良い事を教えよう。この日本には、もう俺とあいつの二人しか闇の人間はいない。俺の言葉を信じるか信じないかはお前の勝手だが……」

 そう告げた男はユウトから視線を外し、階段へと振り返った。

「もしあいつが負けた場合は、俺達はこの東拠点ルクスを放棄する」

「……は?」

 男の意外過ぎる言葉に呆気に取られたユウトは、自然と声を漏らしていた。

「元々特定の拠点に固執こしつするのは自滅行為だ。この国にも〝世界最強の一核いっかく〟がいるからな……力の回復した導き手を殺す事が出来るのは、こちら側に存在する最強の誰か……もしくは俺ぐらいだ」



 ユウトには男の言葉が自惚うぬぼれでは無く、確信による言葉であると感じさせた。

「逆にお前が負けた時は、闇最強の一核がこの国を〝大陸ごと〟消滅させる」

「なっ!大陸の消滅だって!……一人の力でそんな事が出来る筈が……」

 男から唐突に投げ掛けられた言葉に驚愕し反論しかけたユウトだったが、隕石を出現させたのが闇の最強による物である場合、大陸の消滅も可能なのではと考えてしまい自然と言葉を中断した。

「一人か……世界に選ばれた最強は、人間じゃない……化け物なんだよ!光の最強と呼ばれる三人でさえそうだ?一人は命を、一人はときを、一人は領域を……三人とも到底理解出来ないような力で人々を守る英雄だ……反吐へどが出る」

 先程まで冷静な表情を浮かべ、顔色一つ変えなかった男が目を血走らせながらユウトへと視線を向けた。

 表情からは怒りの感情が伝わって来るが、こちらへの殺意は全く感じる事はなかった。

「面白いのは、〝命逆の炎姫めいぎゃくのえんき〟だ。あいつは自分の属性によって〝死ぬ事が出来ない〟らしい……チッ!その特性の影響で俺とあいつは最悪の相性だ」

 (命逆の炎姫?確かユカリと同様に〝異質な属性〟を持ち、アメリカのみならず世界に名の知れた不死身の女性……資料にはそう書かれていた)

 資料の記述には、二十代前後の金色の髪をした女性で、異質な炎によって生命の理に逆らい生き続けている事から〝命逆の炎姫〟と称されていると記載されていた。

「命逆の炎姫については知っているが、相性が悪いとはどう言う事だ?」

「俺の傑作けっさくが通用しないって事だ」

 男は右手の親指と人差し指を立て、銃に見立てた手をユウトに向けた。

「傑作……?」

 黒フードの男の情報は限られており、男の言葉だけでは傑作が拳銃なのか弾丸なのかを判断する事が出来なかった。

「……まぁ、それを見越してこちらも動いているからな、今頃は〝クレイドル〟も火の海だろう」

 男は不適な笑みを浮かべると、再びポケットに手を突っ込んだ。

「……あの要塞クレイドルを?」

 (アメリカ中央拠点クレイドル。資料通りなら命逆の炎姫と呼ばれる女性だけでなく、俺と同じように国内で最強と呼ばれる女性が在席しているアメリカ最大……いや、世界最大級の光拠点)

 アメリカも日本と同様に主力を分散して配置しており、国土の広大さから光拠点数も世界で一二を争う程であった。

「お前らがどれだけ知っているのかは知らないが……簡単に火の海に出来るような要塞じゃない。お前が言っていた命逆の炎姫を筆頭に、強者が大勢いる国だ」

「そんな些細ささいな事は、こっちの最強には関係ない……あまり思い上がるなよ?誰もが自由……そんな無法者共に最強と呼ばせ服従させる程の奴等だ……生半可な化け物には務まらない。お前達のような、お気楽能天気な塵共ちりどもが称した最強とは訳が違う」

 これまでに感じた事の無い強い殺意を向けられたユウトは、恐怖から左手に結晶の盾を創り出し防御態勢を整えた。

「どれだけ自由でも、あの三人には逆らえない……俺もその一人だ。他人を最大限苦しめて殺すのは最高だが、俺だって人間だ……〝あんな死に方〟は、したく無い」

「自分は良くて他人は駄目とは、独裁者の様な考え方をしているんだな」

 ユウトの言葉に殺意の瞳を向けた男は、ポケットに入れていた両手を取り出し大きく広げた。

「当然だ!俺以外の人間に人権なんて元々存在しない。生きる生物全ては、俺の実験材料として息をする事を許してやってるんだ。有り難く思え」

 男の言葉には自身を肯定する強い意志を感じさせ、男の瞳からは男の冷酷さをはっきりと感じされる程に、光を感じない黒い感情を秘めた瞳をしていた。

「お互い理解なんて到底出来やしない……だからこそ、この世界は光と闇が別け隔てられているのだからな」

 男はそう言い、ユウトとの距離を再び縮め始めた。

 「さあ、話は終わりだ。最初に言ったが、俺も暇じゃないんだ」

 ユウトは男との距離を一定に保ち、盾を前に構えたまま男の進行方向から離れた。

 男はユウトに視線を向ける事無く、転移エリア前方に出現した〝黒い渦〟へと歩みを進めた。

「お前が俺の研究対象に相応しいかどうか……〝あの人〟と共に見物させて貰うとしよう」

 そう言い残し、男は黒い渦の中へと姿を消した。
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