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第1章 光の導き手

第50話 居場所

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 闘技場上空に飛散した結晶が太陽の光で煌めく中、人々は静かに中央の白煙を見守っていた。

「俺の勝ちだな……ユカリ」

 黒煙のみが消失した白煙の中、守結の盾イージスを砕き割った拳は、ユカリに当たる寸前で停止していた。

 その拳には何も纏われておらず、金色に染まっていたユウトの左眼は元の状態に戻っていた。

「……私の気持ちは、闘いの中で既に負けていましたよ」

 ユカリの金色だった瞳は澄んだ空色へと変化していた。

「……後は、人々の意志を纏める〝言葉〟を……人々を納得させられる強い〝意志〟を、伝えてあげて下さい……ユウト」

 そう告げたユカリは優しく微笑むと、ユウトに背を向けた状態で右腕を払い、二人を覆い隠していた白煙を吹き飛ばした。

「まだまだ元気そうだな……ユカリ」

 自然と見せた馬鹿力に苦笑いしたユウトは、障壁の消えた傍観席で不安げに見つめていたユウに視線を向けた。

「ユウ……ちょっと来てくれるか?」

 ユウトが手招きをすると、ユウは小さく頷き傍観席から飛び降りると、闘技場中央に立つユウトに向けて駆け寄った。

「……ユウト」

 辺りを見回し不安げな表情を浮かべているユウに微笑みかけ、震えている手をそっと握った。

「ユウ……たとえ人々に認められ無かったとしても、お前一人だけが違えた道を歩む事は決して無い……俺はあの日、共に償い続けるとお前に誓ったからな」

 ユウトの言葉を聞いて安心したユウの手は、徐々に震えを収めていった。

 手の震えが収まった事を確認したユウトは、二人を静かに見つめる数万人の人々へと視線を向け、ゆっくりと口を開いた。

「この結末に納得出来ない人々も大勢いるだろう……ユカリとのぶつかり合いの中で、伝えたい想いは殆ど発した俺からは……多くは語らない」

 そう言うと右隣に立っていたユウの頭に、そっと手を載せた。

「見ていてやって欲しい……光へと転生したユウの……一人の少女の行く末を」

 ユウの頭を撫でながら、二人を見つめる数万人の人々へ向けて精一杯の想いを込めた言葉を伝えた。

 すると傍観席の至る所から喝采が広がって行き、やがて闘技場全体に響き渡る程の大喝采へと変わっていった。

「聞こえるか、ユウ……大勢の人々が拍手でお前を迎えてくれてる」

 ユウトは頭を撫でていた手を降ろし、ユウの前に差し出した。

「……ユウ。お前の居場所は、ここにある」

「…………はいっ!」

 ユウトの言葉に満面の笑みで答えたユウは、永く蓄積され続けてきた不安から解放された安心感から、大粒の涙を流しユウトから差し出された手を取った。



―*―*―*―*―

 光の導き手と日本の最強が対峙してから数日が経った頃、ユウは光の人々と少しずつ交流し始め、ユウから得た闇の人間達の情報を頼りに、他国との更なる情報共有が必要であるとユカリは判断した。

 日本の主力達は、ユカリを除いた二人の世界最強と連絡を取る為にロシア、アメリカへと出向していた。

 アメリカ出向組は、フィリア、レンの二人

 ロシア出向組は、カイ、シュウ、エムの三人

 アメリカよりもロシアに人数が傾いた理由は、近頃日本国内で噂になっていたイタリア最強とロシアに存在する世界最強の小競り合いが原因だった。

 災禍領域によって壊滅してしまったイタリアの生き残りであるリエルという名の少女は、情報が広まった同時期にロシア最強と小競り合いを起こした後、姿を消してしまったらしい。

 更に、噂では〝黒フードの男〟の目撃情報が近頃はロシアに集中しているらしく、諸々の情報を共有する為に三人の主力達を向かわせた。

 残された四人の内、ユウは国内の人々から信頼を得やすくする為に、ルミナの護衛を任された。

 支援部隊の中心であるヒナは、ルミナに残り傷付いた人々の治癒に専念。

 ユカリは、日本に残っている可能性がある闇のボス以外の残党を捜索を行なっていた。

 そして、ユウトは闇のボスが待つルクスへ向かう準備を進めていた。

「かなり時間は掛かったが……終わらせに行こう……日本で起こった全てを」

 ユウトはルミナの隊服に身を包み、転移エリアへと歩みを進めていた。

「本当に、単身で向かうんですか?」

 ルクスへ向かう連絡を受けたユカリは、転移エリアへと向かっていたユウトと合流していた。

「誰かと一緒に行けばユウの様に操作される可能性があるからな。それに、相手には一対一と伝えてるんだ……約束は破れない」

「……そうですか」
 
「ユカリ……出発前に少し良いか?」

「……?はい、構いませんよ」

 数分後、ユウトは首に下げた〝ギメルリング〟を握り締め、転移エリアへと入って行った。

「ユウト……貴方に光の導きがあります様に」

 消え行くユウトの背中を見守っていたユカリは、自身の信じた希望の勝利を静かに祈っていた。

―*―*―*―*―

「……手は出さないでね?」

 ルクスの頂に座して待つ少女は、隣に立つ黒服の男に鋭い眼光を向けた。

 上下共に黒を基調とした服に身を包んだ男は、右手に持っていた〝透明な器内で衣服を纏わず安らかに眠る黒髪の少女〟が映った端末から目を逸らし、声の主に視線を向けた。

「そんな下らない事を、この俺がすると思っているのか?見定めたら戻るさ……〝俺達の災禍〟が欲した男がどれだけの存在なのかを」

 黒服の男は、懐から取り出した〝オセロの石〟を見つめ不適な笑みを浮かべた。

「俺の研究も、もう直ぐ成就する。弱者同士の下らない力量試しを見守る程、暇じゃないんだ」

 端末の電源を切り、少女が腰掛ける椅子の背後に回り壁にもたれ掛かった。

「そう……私はいつも通り殺すだけ。それが……私にとっての〝日常〟だから」

 男の弱者という言葉に反応を示す事なく、少女は何一つ感じさせない紅桔梗色の瞳を入り口へと向け、階段を登り来る少年の到着を心待ちにしていた。
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