上 下
28 / 192
第1章 光の導き手

第26話 一対の少女達

しおりを挟む
「「私は」」

「——の事が嫌いだった」

「——の事が好きだった」

―*―*―*―*―

 再びルクスに転移した五人は、目の前の光景に唖然としていた。

 シュウの時までは、目の前にそびえ立つルクスの内部構造が変わっている事に驚愕していた。

 しかし、今回のルクスは内部構造だけでなく外部の変化も異様だった。

 真っ直ぐに伸びていた形状は左右に歪み、複数の大きなトゲの様な物が生えた外壁は、以前のルクスの白い壁とは真逆の黒い壁に覆われており、確認出来る内装は複数色のペンキをぶちまけた様な煩雑はんざつな塗装がされていた。

「なんだ……これ。本当にルクスなのか?」

「はわぁ……僕らがいた時のルクスとは雰囲気が全然違うね。お兄ちゃん」

 カイとシュウは、以前と全く異なったルクスの姿を見て呆然としていた。

「どんな事をしたら、短期間でここまで変化させられるんだよ……」

「あんたらの元上司じゃないの?」

 呆然とルクスを見つめていたカイに対して、腕を組んだユキが背後から声を掛けた。

「……そうかもしれないが、俺達は他の闇の人間達と交流があった訳じゃないからな。支配力のある人間がいる事だけは知っているが」

「核となる存在についても知らないのかい?」

 レンの問いに対して、カイとシュウは二人で首を縦に振った。

「俺は一人だけ覚えてる……が、本人を見た覚えは無い……確かお前と似た髪色の奴だったぜ?」

 エムはそう言うと、徐にユキを指差した。

「あんたも……人を指差すんじゃないわよ」

「〝白髪〟だった……と言う事かい?」

 レンの言葉に、エムは小さく頷いた。

「ああ……写真だった様な気もするが、どこだったか覚えちゃいねぇ。まあ、そんな奴もいるって事だ」

 その時、ルクス外壁から耳をつんざく反響音が鳴り響いた。

「あ、あー……聞こえてる?光の従力じゅりょく達」

 (……イタリア語?)

 言葉を聞いたユキは、耳を塞ぎながら相手がイタリア語を話している事を認識した。

「……主力ですよ。〝アイリ〟」

「っ!うっさい!〝ティーレ〟は黙ってて!」

 反響音の元は、壁に備え付けられていたスピーカーから流れており、そこから聞こえる二人の少女の声が不快な程大きく響き、五人は両手で耳を塞いでいた。

「うるさっ!なんなの?完全に目が覚めたよ僕」

 いきなりの騒音に驚いたシュウは、驚きの余り涙目になって両耳を塞いでいた。

「良かったじゃないか、シュウ」

 そんなシュウの側に立っていたカイは、シュウに視線を向けたまま両耳を塞いでいた。

「騒音被害で訴えられないかしら?」

「闇の人間が大人しく出頭するとは思えないけどね」

 レンは両耳を塞ぎ、苦笑いを浮かべながら返答した。

「お前も真面目に返してんじゃねえよ……」

 そんなレンに対して、エムは呆れた様に溜息を吐いた。

 そんな甲高いノイズが収束して行き、五人が両手を離して慨嘆がいたんしていると再び少女の声が聞こえて来た。

「全く!どんだけ待ったと思ってるの?あんたら遅すぎ!このノロマ!」

「アンリ……言い過ぎだよ?」

「っ!だからうっさい!ティーレはどっか行ってて!」

 少女二人の声を聞いていた五人は、スピーカーを呆然と見つめていた。

「話が進まねぇし、さっさと始めようぜ?」

 頭を掻いて溜息を吐いたエムの発言に、ユキは小さく頷いた。

「そうね……この騒音娘に説教(物理)して帰りましょ」

「君達、本当に仲良いね」

「……あんたと仲良くなりたいんだけど……」

 レンの言葉に対して、ユキは掻き消える程小さな声で呟いた。

「え?何か言ったかい?」

「……言ってない。さっさと行くわよ!」

 入り口に向けて歩き始めて数秒後、ユキはピタリと立ち止まると、後を追う様に歩いていた四人に向けて振り返った。

「そういえばあんた達、さっきの言葉の意味ちゃんと分かってる?」

「へ?……もちろんっ!煩いって事は解ったよ!」

 ドヤ顔でおバカを告白したシュウを軽く流したユキは、他の三人に視線を向けた。

「俺とエムは闇の頃イタリアに行っていた期間があるから、ある程度の知識はあるな」

「僕も、多少解る程度かな」

「……それなら」

 ユキは、茫然と立ち尽くす四人に向けて右手を翳した。

「これであんた達四人全員が日本語に聞こえる様になったわ」

「へぇ……やっぱ便利だなその力」

 ユキが話したロシア語に対して、違和感なく返答したカイの反応を見て、ユキは創造が成功している事を確認した。

「どんな創造をしたんだい?」

「一時的に全ての言語が日本語に聞こえる小型言語変換器って創造したのよ……耳に付いてるでしょ?」

 そう言われたレンが、自身の右耳を触ると結晶で創られた小型の補聴器のような物が付いていた。

「マジで何でも有りだな……その属性」

 エムが唖然としている側で、ポケットの中を漁っていたレンは中の確認を終えた後、ユキに歩み寄った。

「まぁ僕らが支給されている言語変換機能の付いた通信機を、最初から持参していれば良かったんだけどね……ごめんねユキ」

 通信機を忘れた事を自白したレンは、誤魔化す様に苦笑いを浮かべていた。

「……今度から忘れない様にしなさいよ」

 ユキはそう言うと、小さく溜息を吐いた。

―*―*―*―*―

 ルクス内部には、シュウの時と同様に多くの障害物が設置されていた。

 障害物は以前の机や椅子などでは無く、小売店に並ぶ様な商品棚が乱雑に配置されていた。

 周囲を確認すると然程離れていない場所に、二階へ上がる為の階段を確認する事が出来た。

「……色まで煩いなんて、ほんと嫌になるわ」

 ユキは階段まで歩みを進めながら、周囲を見渡した。

 ルクスの内壁は、乱雑に塗られた色鮮やかな塗装がされていた。

「色が多過ぎて目がチカチカするよ!」

「大丈夫か?無理はするなよ?」

「うん!ありがとうお兄ちゃん!」

 心配そうにシュウを見つめたカイに向けて、シュウは満面の笑みを返した。

「あの騒音娘の性格を表しているんじゃねえか?」

 周囲の景色を見ていたエムは、薄ら笑いを浮かべながら心に思った事をそのまま口に出した。

「酷い言われ様だね」

「言わせてる様なもんでしょ?」

 五人が話をしていると、棚の影から大勢の闇の人間達が姿を現した。

「あいつら、マジでどっから湧いて出て来てんだよ」

「影でずっとスタンバイしてたのかな?」

「そんな事言ってないで準備だ、鍛錬の成果を見せる時だぞシュウ!」

「ふっふっふ!ようやく地獄の鍛錬の成果を見せる時が来たね!」

 ((((終盤殆ど寝てただろ))))

 自信満々で公言したシュウに対し、四人は心の中で同時に突っ込みを入れた。

 そして三人は、百人以上いるであろう闇の人間達の前に出ると各々の主力武器を構えた。

 カイは日本刀を、エムは転生前と同様の小手を、シュウは以前使用していた黒い渦が無い為に、腰に装着していた銀色のグロック二丁の内一丁を取り出した。

「この無限に撃てる銃で、穴だらけにしてあげるよ!」

 光の人間達に支給されている物は基本的にユカリが創造した物で、ユウト(女)が創り出した結晶銃と同様に弾切れの心配が無い。

「お前らはさっさと二階に上がれ!こいつらは俺達が小手調べに使う!」

「わかったよエム!君達も気をつけるんだよ!」

「あんた達、もう転生出来ないんだから……死ぬんじゃないわよ?」

 心配の眼差しを向けたユキに対して、エムは不敵な笑みを浮かべた。

「は?誰がそんなヘマするかよ!」

「転生した僕らの実力、あいつらに思い知らせてあげるよ!」

「ユキ、レン……そっちは頼んだぞ!」

 三人と言葉を交わした二人は階段までの距離を走り抜け、振り返る事なく階段を駆け上がり二人の少女の元へと向かった。

―*―*―*―*―

「強い奴とは私がやるから!ティーレは弱い奴とやって!あんた弱いんだから、私の足引っ張んないでよね!」



 白いシャツに赤い上着を羽織り、紺色のショートパンツを履いた桜色の髪をした小柄な少女は左に流れるサイドテールを揺らし、手元にある薙刀をクルクルと回していた。

「ありがとうアイリ。ごめんね……私が弱いから」



 アイリと呼ばれた少女より少し背の高い、白いシャツに緑の上着を羽織り、茶色のショートパンツを履いたブルーグリーンの髪をした少女は、双頭刃式の槍を持ち、右に流れたサイドテールを揺らしながら俯いていた。

「本当よ!全く世話が焼けるんだから!」

 (だから嫌いなのよ……〝死ぬ前から〟)

「楽しみだわ。早く来なさい……〝私達と同じ〟光の主力!」

「……」

 少女達は、階段を上がって来るであろう者たちの到着を待ちわびていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

嘘つきと言われた聖女は自国に戻る

七辻ゆゆ
ファンタジー
必要とされなくなってしまったなら、仕方がありません。 民のために選ぶ道はもう、一つしかなかったのです。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...