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第1章 光の導き手

第22話 力の差

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 ユウトは、自身の創り出した刀を握りしめた。

 (〝雪月花せつげっか〟……私の姿を映した……私の全て)

 美しく煌めく雪月花の切先を、相対する少女に向けた。

「……」

 少女はユウトの創り出した結晶爆弾エクスプローリアをその身に受けながらも、顔色一つ変えずにこちらの様子を伺っていた。

 (……あの子の双剣。何か違和感を感じる)

 双刃に二色の属性を纏わせ、力なく垂れ下げている少女を見ていたユウトは、言い表せない不自然な違和感を感じでいた。

 (違和感の正体が解んない……あーもう!考えてたってしょうがない!)

 邪念を払おうとユウトが首を横に振った瞬間、目の前に少女が現れた。

「……考える暇、あると思う?」

 ユウキは咄嗟に右手によって振り上げられた刀を雪月花で防ぎ、左手による攻撃は左手に創り出した結晶の盾で防いだ。

 接触し合った刃からは、甲高い音と共に火花が舞った。

 (くっ!力強!)

 少女の見た目からは到底考えられない程の力は、ユウトを押し負かし後方へと吹き飛ばした。

「……はぁ」

 少女は小さく溜息を吐き、ゆっくりと瞳を閉じた。

「…………終わり」

 光を感じない紅の瞳が再び露わになった瞬間、残光を残すように揺らめいた刹那、ユウトの胸部は蒼き刀身によって貫かれた。

「うっ……がはぁ!」

 胸に激痛が走ったユウトは、口まで上がって来た赤黒い血を吐き苦痛に顔を歪めた。

 身体を痛みに支配されたユウトは、握り締めていた雪月花を手を離した。

「……この程度じゃ死なないよね?」

 そう告げた少女は、ユウトに突き刺した刀身を力強く引き抜いた。

 (くっ!この私が……こんな……)

 ユウトは体力の限界を迎え、ゆっくりと倒れる寸前で単結晶化した。

 砕け散った結晶内からは、男のユウトが交代した当時の状態で姿を現した。

―*―*―*―*―

 ユカリによって創り出されたユウトは常人とは異なり、三人の人間が一人の人間の中で共存している。

 ユウトという存在の中で創り出された二人は、互いに別の存在として生きており、身体もそれぞれ一人の人間として存在している。

 本来はユカリとして創り出される筈のユウトは、不安定な状態で創造された事により、精神が未発達の状態で創り出された、言わば未完成な存在。

 精神の発達によって、ユウトはそれまで存在すら認識出来なかったユカリと同じ性別で特定の武器に特化した存在を認識する事が可能となっただけで無く、互いの意志で存在を入れ替える事が出来るようになった。

 元は一つの存在として創り出される筈だった三人は、万能型であり未成熟のユウトを元に、射撃術に特化したユウト、剣術に特化したユウトの三人に別れた状態で創造された。

 その為、現実で戦っていた一人が負傷したからと言って、入れ替わった人物にその負傷が引き継がれる訳ではなく、心の中に存在する人物がその状態のまま入れ替わる。

 フィリアとの戦闘後に入れ替わったユウトは、その状態のまま心の中の女性と入れ替わった為、元に戻ったユウトはその時の状態のままで姿を現した。

 逆に女のユウトは、負傷した状態のまま入れ替わった為、心の中で負傷を治療しなければならない。

―*―*―*―*―

 (ごめん……心の中でゆっくり回復してくれ)

 ユウトは少女に視線を向けたまま、右手に結晶刀クリスタリアを創り出し始めた。

「……死にたいなら……攻撃してきて」

 その言葉を聞いたユウトは、右手に創造しかけていた結晶刀の創造を停止した。

 心の中で自身に起きている事について射撃中に特化したとされる女性から大体の説明を受けていた男のユウトは、剣術に長けた女性が手も足も出なかった相手と自身の実力差が圧倒的である事を悟っていた。

「なんでとどめを刺さない?」

「……最後だから、貴方と殺し合うのは」

 ユウトの問いかけでピタリと立ち止まった少女は、こちらに少しだけ視線を向けて言葉を発した。

 ユウトは〝最後〟という言葉の意味が解らず、呆然と立ち尽くしていた。

「……最後の時を楽しんで……ユウト」

 少女は最後まで表情を変える事無く、闇の中へと消えていった。

 敵の気配が無くなった瞬間、ユウトはフィリアとの戦闘による疲労と属性の消耗によって糸が切れた様に地面に倒れ込んだ。

―*―*―*―*―

 ※心の中では「」と()の意味が逆転しています。
 「」 心の声  () 会話

 心の中

 (あー!いったーい!あの子何なの!強過ぎ!ズルい!卑怯!チート!)

 創造によって傷を治したユウトは、降り積もった雪の上でバタバタと駄々を捏ねていた。

 (単に実力差じゃない?)

 もう一人のユウトは、回転式拳銃の手入れをしながら気遣い無しの一言を言い放った。

 その言葉にユウトは、銃の手入れをするユウトを鋭く睨み付けた。

 (初めて表に出たのに、この仕打ち……あーー!もう!今度会ったら絶対倍返ししてやる!!)

 怒りに任せて雪月花を振り回している姿を見て、銃の手入れをしていたユウトは被害に遭わないように少し離れたところから巻き上げられる雪を見ていた。

 (あの子、確かに強かったな。今度……って言っても最後って言ってたし、次は無いのかな?)

 (うがーーーーー!)

 辺りに広がる雪景色の中に、ユウトの叫びが響き渡っていた。

―*―*―*―*―

 戦いの後、カイ戦の時と同様にルミナに転移させられた三人の内、意識を失っていたユウトとフィリアは回復為に治癒室の回復結晶に入れられた。

 結晶による治癒を終えても意識を取り戻さない二人は、医務室内にあるベッドに移送される事になった。

 少女との戦いから一週間後が経った頃、三人組の男性がユウトの眠る病室へと足を運んでいた。

「おっ!ぐっすり寝てやがるぜ!……取り敢えず寝顔がムカつくから一発ぶん殴って良いか?」

「ルクスで戦闘した後だ……辞めておけ」

「そうだよ!……でも起きて貰わないと困るなぁ……そうだ!僕のキスで目を覚ますかも!」

「「キモいからやめてくれ!」」

 男三人組は、眠っているユウトの横で大きな声で言い合いをしていた。

「ん……うるさ……煩いんだよっ!誰だ!」

 あまりの騒音に意識を取り戻したユウトに、見覚えのある男達は同時に視線を向けていた。

「一番うるせぇのはてめぇだろうが!ユウト」

 ユウトを指差して叫んだのは、ルミナの白い隊服を身に纏った玉蜀黍色とうもろこしいろの髪をした柄の悪い男だった。

 (あぁ……どっかで見た事あるドM野郎だ)

「お前今、ムカつく事考えなかったか?」

 何かを察した男は、紅の瞳でユウトを睨みつけた。

「思ってねぇよドM野郎」

「口に出してんじゃねぇかよクソがぁ!」

 二人が再開の睨み合いを交わしていると、エムの背後に立っていた男性がそっと肩に手を置いた。

「その辺にしておけエム……俺達は挨拶しに来ただけなんだ」

「……俺の名前はエムに確定なのかよ」

 肩に置いた手を戻し腕を組み直した男性は、かつてユカリの右腕でありルクスの代表を務めていたカイだった。

「ユウトぉ!ひっさしぶりだねぇ!」

 腕を組み直したカイの腕を掴みながら笑顔で手をひらひらさせていたのは、二度目のルクスにてフィリアと共に対峙したシュウだった。

「久し振りって……ついさっき戦ったばかりじゃないか」

「お前は一週間程眠っていたんだ……その間に運良く三人揃って日本に転生した俺達は、三人でルミナに来たという訳だ」

 カイは腕に張り付くシュウを横目に、今までの経緯を説明してくれた。

「転生場所はおんなじ場所じゃなかったけどね!なんか分かんないけど自然とルミナに向かってて~そこで三人が集まって~って感じだった」

 カイから少し離れたシュウは首を傾げながら身振り手振りで、転生後の経緯を説明した。

「遅れてんのはテメェの方だって事だよタコ!」

「うるせぇ!エムはさっさと修練場のサンドバックになってろ!」

「んだと!やんのか?」

「上等だ!……最も転生後のか弱いお前じゃ寝起きの運動にもならねぇだろうがな!」

「このっ!ぶっ飛ばす!」

 激しい言い合いの末、堪忍袋の尾が切れたエムは徐に拳を振り上げた。

「駄目!」

 そんなエムの前に、シュウが割って入った。

「ユウトを傷つけるのは……僕が許さないよ!」

 シュウは涙目になって怯えながらも、腕を広げてユウトを庇う様に立った。

「シュウの言う通りだ。エム、お前も少し落ち着け……ユウトも、あまりエムを揶揄からかうな」

 エムの振り上げた拳を抑えたカイは、二人を言葉で宥めながらエムに視線を合わせた。

「……チッ!怪我をしなくて済んだな!」

 そう口にしたエムはカイの手を振り解いて、ユウトに背を向けた。

「お前がか?」

「テメェだ!……さっさと回復して俺の殴り相手になりやがれ。俺の好敵手ライバルならな」

 不敵な笑みを浮かべたエムは、そう言い残すと医務室から立ち去って行った。

「悪いなユウト。転生してもエムは相変わらずらしい」

「三人とも、特に変わってないと思うが……転生する事が出来て良かったな……二人とも」

「うん!僕はユウトとお兄ちゃんと、一緒に居られる事が幸せでしょうがないよ!……お兄ちゃんと、またこうしていられるのもユウトのお陰だよ?……ありがとうユウト。えへへ」

 感謝を伝えたシュウは、ユウトが横になっているベッド脇に来ると、両手で頬杖をして満面の笑みを浮かべながらユウトを見つめていた。

「ユカリに道を正された俺は、心から光の人間としてお前達の力になれる。俺もシュウも、多少力が落ちたが……鍛錬してお前達の足を引っ張らない程度に強くなってみせる」

「期待しててよユウト!」

 二人は闇にいた頃とはまるで違う眼差しをユウトに向けて決意を表明すると、エムを追って修練場に向かって行った。

「三人とも日本に転生できるなんて……かなり運が良かったんだな」

 転生した者が現れる場所は不規則で、決められた場所に転生することは基本的に不可能であり、転生した者が転生する以前の場所に再度転生する事はかなり稀である。

「……ユウト……」

 そんな事を考えながら天井を見ていると、隣のベッドから消えそうな程小さな声が聞こえた。

「フィリア?」

 カーテンによって影しか見えないが、ユウトには声の主が誰か直ぐに分かった。

「…………私は、ここにいるべきじゃありませんね」

 そう告げたフィリアは、声を震わせながら話しを続けた。

「あの首輪の影響を受けていたとしても、私は……取り返しのつかない事をしてしまった。私は、貴方の……光にいる資格なんか」

 過ちを犯したと感じていたフィリアは、涙ながらに自身の行ないを悔やんでいた。

「……フィリア、俺はお前に殺されたか?」

「え?」

 思いがけない問い掛けに、フィリアはカーテン越しにユウトに視線を向けた。

「お前の最後の一撃には、強い想いがこもっていた……その意志は、光の人間にだってある物だ。その感情を俺にぶつけただけだろ?」

「……」

「フィリアの努力も強い意志も、俺にはしっかり伝わったと思ってる。だから……フィリアにも俺と同じ光の道を、共に生きて欲しい」

 カーテンの向こう側で、その言葉を聞いた一人の少女は〝ある決意〟を固めると、涙を拭いながらユウトの言葉に大きく頷いた。
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