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第1章 光の導き手
第18話 追いかけた背中
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「………」
ユウトの入っていた結晶の中から現れた少女は、自分の言葉に反応を示さず茫然と立ち尽くしているシュウに目を向けた後、徐にその場で準備運動を始めた。
正面で向き合っているシュウだけでなく、遠くから変化の様子を見ていたフィリアも同じように無言のまま固まっていた。
「ど……どちら様?」
硬直からようやく解けたシュウは、準備運動をしている少女に声を掛けた。
「ん?誰って……さっきまでここにいたじゃん!僕はユウトだよ」
シュウに笑顔を向けて質問に答えたユウトは、準備運動を済ませると床に正座して、回転式結晶銃の調整を始めた。
再び訪れようとした静寂を破るように、大きな銃声が響き渡った。
ユウトはシュウから放たれた弾丸を紙一重で回避し、ゆっくりと立ち上がった。
「そんなわけないじゃん!ユウトは男だよ?」
シュウは黒い渦から取り出した銃を構えたまま、正面で不思議そうに首を傾げているユウトに言い放った。
「安心して!僕は男だから!」
ユウト?は、『えっへん!』と胸を張りながら言い放った。
「男にそんな胸ありません!」
シュウは、八十センチ程ある胸を指差して反論した。
「大胸筋!」
シュウの言葉に対して、ユウトは意気揚々と反論し返した。
「……そんなわけ……そんなわけあるかー!!」
ユウトの反応に怒りが爆発したシュウは、黒い渦に銃を戻し、先程フィリアに向けて連射したガトリング砲を取り出しユウトに向けると同時に無数の弾丸を放った。
「残念……僕には、それ通用しないよ?」
『増殖する結晶弾』
面影を一切感じさせない程に、一瞬で冷静になったユウトは、両手に持つ結晶銃を胸の前で交差させた後、腕を広げる動きに合わせて二発の弾丸を放った。
それぞれの弾丸は放物線を描きユウトの前で互いに接触すると、衝撃を受けた弾丸は果物のように分裂し、数倍に増殖した弾丸はガトリングの弾丸を全て相殺した。
「は?……そんな事、有り得ないって!」
シュウは更に連射を続けるが、ユウトは合わせて踊るように増殖する弾丸を撃ち続け、全ての弾を相殺した。
ガトリングの弾を全て撃ち終えた頃には、辺りに弾丸の残骸が飛散していた。
「……おかしいよ……なんで?弾数の少ない回転式拳銃が、ガトリング砲と対等に渡り合えてるの?弾数は?銃の反動は?弾の威力は?……あうぅ、頭がパンクしそう」
目の前で起きた現象を必死に理解しようとしていたシュウは、首を傾げながら思案に暮れていた。
「この結晶銃は普通の銃とは違うんだ。この銃は創造する時に、弾丸を弾倉中で自動的に補填させ続ける反動の無い銃として創り出したんだ……弾丸も用途に合わせて特殊弾を創造出来るんだよ?」
商品紹介のように淡々と結晶銃の解説をしているユウトは、創造物の成果にとても満足そうな顔を浮かべていた。
「ユウト?……本当に、私達と一緒にいたユウトなんですか?」
茫然と立ち尽くしていたフィリアは、再度確認するようにユウトに質問を投げ掛けた。
「そうだよ?僕は君達と一緒にルクスに乗り込んだユウト本人!僕の姿は、遠距離武器に特化した姿と思ってくれれば良いよ」
質問に答えたユウトは、フィリアに視線を向けて優しげに微笑むと、再びシュウに視線を戻した。
「あの人……本当にユウトなんだ。雰囲気も喋り方も、別人にしか見えないけど」
フィリアは完全に姿の変わったユウトを、上から下まで何度も往復するように凝視していた。
少し時間が経った事で冷静さを取り戻したシュウは、ガトリング砲を地面に投げ捨て黒い渦の中から取り出した二丁の銃を両手に構えた。
「……俺の属性、まだ見せてなかったよね?君が本当にユウトだって言うなら、容赦なんてする必要は無いよね!」
そう告げたシュウの周りに、突然淀んだ緑色の水が渦巻き始めた。
「へぇ……闇の人間で、水のマイナス属性を有しているなんて珍しいね!」
ユウトが属性の感想を口にすると、シュウから明るさが消え、先程とは違う冷たく鋭い視線をユウトに向けた。
「……悪いか?俺は水のマイナス属性を有していながらプラスを持たない……闇の人間の中では有り得ない程に出来損ないだったんだよ」
両手に持っていた銃を震わせながら、シュウは行き場のない怒りを見せた。
「属性のハンデを背負ってまで……なんで君は闇の人間にいるの?」
「……カイに……兄貴に着いて行く為だよ」
―*―*―*―*―
シュウは、生粋のお兄ちゃん子だった。
どんな時でも、兄であるカイの後ろを着いて歩き。
エムの指導を受け始めた時もカイの背中を追い続け、遂には殺人を犯してしまった。
それでもシュウは、涙を流しながらも懸命にカイの背中を追う為だけに人を殺め続けた。
そして属性開花の日、カイと同じ時期に属性を開花させる事が出来たシュウは、自分が兄と同じ闇の人間になれた事を喜んだ。
だか、兄であるカイの反応はシュウが望んでいたものとは違うものだった。
「シュウ……お前。水の属性……しかも、マイナスだけじゃねぇか」
(やっぱりお前程……優しい奴が、俺と同じ道を歩むべきじゃ無かったんだ!)
カイは弟を誤ちに引きづり込んだ事を悔やみ、シュウに背を向け歩き始めた。
「シュウ……お前はこれ以上俺に着いてくるな。お前がいても…………足手纏いになるだけだ」
「えっ!そんな……お兄ちゃんのお手伝いさせてよ!……お願いだから、僕も一緒に連れて行ってよ!!」
離れて行くカイの背中を追って走り寄ろうとするシュウに向けて、カイは両拳を強く握り締めながら強く叫んだ。
「着いてくるなと言ってるだろっ!!お前みたいな雑魚は、俺の前から…………消え失せろ!」
カイの周囲を赤黒い火炎が覆うと同時に、火炎は一気に広がりシュウを爆風と共に後方へと吹き飛ばした。
「がはっ!」
(そんな……約束したのに……ずっと一緒だって……お兄ちゃん)
二人が立ち去った後も、属性による治癒を行なわずに地面に倒れ込んだままのシュウは、その場から動く事も出来ずに、ただ時間だけが過ぎて行った。
「……なんだ?この男女?」
数時間が経過した頃、正面から声を掛けられたシュウがゆっくりと顔を上げると、黒いフードを被った男がシュウの前に立っていた。
「お前、闇の人間だろ?……こんな所で何をやっている?……腹でも減ったのか?」
優しげに語りかけられた男の言葉に、シュウは大粒の涙を流し始めた。
「おいおい……男の癖に泣くなよ」
容姿は少女にしか見えないシュウの事を、黒フードの男は容姿を一眼見ただけで男だと認識していた。
「お兄ちゃんに……お兄ちゃんに、捨てられたぁ……僕はもぉ……生きていけないぃ」
黒フードの男の質問に、傷だらけで地面に伏せた状態のシュウは、涙を流しながら呻き声のように掠れた声で答えた。
「は?……くだらねぇな」
黒フードの男は小さく溜息を吐くと、徐にシュウの前にしゃがみ込み、右手をシュウに向けて差し出した。
「……俺の所に来い!お前のブラコンは、闇の人間になった今日で終わりにして……ただ俺の背中だけを見て強くなれ」
涙を流していたシュウは、思い掛けない言葉を掛けてくれた男に視線を向けた。
フードの中で微かに見えた男の顔は、微かな笑みを浮かべていた。
(……そうだ。俺はお兄ちゃんに……いや、〝兄貴〟に認められる為に強くなる!この人の元で、この属性で!いずれは兄貴も超えて見せるから!)
シュウは涙を拭い、決意を新たにすると男から差し出された手を掴んだ。
―*―*―*―*―
過去について話している間も、シュウは属性付きの弾丸を数発撃ち込み、ユウトが結晶弾で相殺するという攻防は繰り返されていた。
(属性に似合わない威力だね……結晶弾が少し押し戻される)
ユウトはシュウの弾丸を結晶化されることで相手の弾丸を砕きながら相殺し続けていた。
「あの人のお陰でこれだけ強くなった!武器が出し易いようにって、あの人が〝上〟に頼んでこんな変なのも用意してくれたし!」
シュウは銃撃を止め、横に出来た黒い渦を指差した。
「これは、俺が望んだ時にだけ現れる有限の武器庫!……らしい!」
「へぇースゴイネー」
過去の話は真面目に聞いていたのに、渦の事は自身の属性と〝あまり大差が無い〟という理由で大して興味を惹かれなかったユウトは、説明を殆ど聞き流していた。
「あからさまな棒読み!」
銃撃が収まっていた事で、ユウトは暇つぶしに二丁の結晶銃でジャグリングしながら話を聞いていた。
「ぐぬぬ!……もういいよ!ユウトなんか俺のとっておきで、さっさとくたばっちゃえ!」
そう口にしたシュウは、出現した大きな黒い渦に両手を突っ込むと、渦の中から巨大なレーザー砲が姿を現した。
「へっへっへ!……うぅ重いぃ!」
よろよろしながらも、ユウトに銃口を向け属性を蓄え始めた。
「水のマイナス属性でも、闇の特性付きの光線を喰らえば、人なんて跡形も無く消し飛ばせるんだよ!」
「……それなら、こちらも誠意を持って終わらせようかな」
ピタリとジャグリングを辞めたユウトは、片方の結晶銃を消滅させ、もう片方の結晶銃を両手で構えると、シュウに向けゆっくり銃口を向けた。
「……?その奇天烈銃からビームでも出すの?」
シュウは、レーザー砲に属性を溜めながら向かい合うユウトに問い掛けた。
「……この一発で、君の全てを終わらせられる」
静かに目を閉じたユウトは、シュウに聞こえない小さな声で呟いた。
(ユウトは、なんて言ったんだろう?まぁ……良いや!この一撃で俺の強さを証明出来る!俺の成長……見ててね……〝お兄ちゃん〟!)
遂に属性が最大まで蓄えられたレーザー砲は、ユウトに向けて放たれた。
ドス黒い光線が、天井と床を削り取りながらユウトに向かって迫り始めた。
「……〝shot〟……」
『最後の引き金』
ユウトの銃口から放たれた一発の弾丸は、シュウの放った光線に接触すると同時に、接触箇所から結晶化し光線全体を瞬時に結晶化すると、弾丸はそのまま結晶化した光線を貫通し、光線の向こう側にいるシュウを撃ち抜いた。
「へ?」
シュウの身体を結晶弾が貫くと、傷口から結晶が一気に広がり全身を覆い始めた。
「痛っ!……く無い?寒……くも無い」
身体が結晶化し続けていながら、冷静に自身の状況を口にしているシュウに、ユウトは急いで駆け寄った。
「良かったね……これでカイとまた一緒に居られるよ?僕も待っているから、良い子になって戻っておいで!」
ユウトの言葉を聞いたシュウは、数秒唖然としたまま黙り込んでいたが、目からは滝のように涙が溢れ出ていた。
「……うん……うんっ!えへへ……待っててよ!兄貴と二人で……兄貴の師匠も一緒に三人で、君の所に行くからね」
その瞬間、ユウトの身体にヒビが入ると身体を形成していたであろう結晶が砕け散ると、女ユウトの立っていた場所に、元の姿である男のユウトが現れた。
「……待ってるからな」
ユウトからの一言を聞いたシュウは、安心するようにゆっくりと目を閉じた。
(……やっぱり、ユウトに会えて良かった……)
シュウの身体全体を結晶が包み込むと同時に、結晶は跡形もなく砕け散った。
ユウトの入っていた結晶の中から現れた少女は、自分の言葉に反応を示さず茫然と立ち尽くしているシュウに目を向けた後、徐にその場で準備運動を始めた。
正面で向き合っているシュウだけでなく、遠くから変化の様子を見ていたフィリアも同じように無言のまま固まっていた。
「ど……どちら様?」
硬直からようやく解けたシュウは、準備運動をしている少女に声を掛けた。
「ん?誰って……さっきまでここにいたじゃん!僕はユウトだよ」
シュウに笑顔を向けて質問に答えたユウトは、準備運動を済ませると床に正座して、回転式結晶銃の調整を始めた。
再び訪れようとした静寂を破るように、大きな銃声が響き渡った。
ユウトはシュウから放たれた弾丸を紙一重で回避し、ゆっくりと立ち上がった。
「そんなわけないじゃん!ユウトは男だよ?」
シュウは黒い渦から取り出した銃を構えたまま、正面で不思議そうに首を傾げているユウトに言い放った。
「安心して!僕は男だから!」
ユウト?は、『えっへん!』と胸を張りながら言い放った。
「男にそんな胸ありません!」
シュウは、八十センチ程ある胸を指差して反論した。
「大胸筋!」
シュウの言葉に対して、ユウトは意気揚々と反論し返した。
「……そんなわけ……そんなわけあるかー!!」
ユウトの反応に怒りが爆発したシュウは、黒い渦に銃を戻し、先程フィリアに向けて連射したガトリング砲を取り出しユウトに向けると同時に無数の弾丸を放った。
「残念……僕には、それ通用しないよ?」
『増殖する結晶弾』
面影を一切感じさせない程に、一瞬で冷静になったユウトは、両手に持つ結晶銃を胸の前で交差させた後、腕を広げる動きに合わせて二発の弾丸を放った。
それぞれの弾丸は放物線を描きユウトの前で互いに接触すると、衝撃を受けた弾丸は果物のように分裂し、数倍に増殖した弾丸はガトリングの弾丸を全て相殺した。
「は?……そんな事、有り得ないって!」
シュウは更に連射を続けるが、ユウトは合わせて踊るように増殖する弾丸を撃ち続け、全ての弾を相殺した。
ガトリングの弾を全て撃ち終えた頃には、辺りに弾丸の残骸が飛散していた。
「……おかしいよ……なんで?弾数の少ない回転式拳銃が、ガトリング砲と対等に渡り合えてるの?弾数は?銃の反動は?弾の威力は?……あうぅ、頭がパンクしそう」
目の前で起きた現象を必死に理解しようとしていたシュウは、首を傾げながら思案に暮れていた。
「この結晶銃は普通の銃とは違うんだ。この銃は創造する時に、弾丸を弾倉中で自動的に補填させ続ける反動の無い銃として創り出したんだ……弾丸も用途に合わせて特殊弾を創造出来るんだよ?」
商品紹介のように淡々と結晶銃の解説をしているユウトは、創造物の成果にとても満足そうな顔を浮かべていた。
「ユウト?……本当に、私達と一緒にいたユウトなんですか?」
茫然と立ち尽くしていたフィリアは、再度確認するようにユウトに質問を投げ掛けた。
「そうだよ?僕は君達と一緒にルクスに乗り込んだユウト本人!僕の姿は、遠距離武器に特化した姿と思ってくれれば良いよ」
質問に答えたユウトは、フィリアに視線を向けて優しげに微笑むと、再びシュウに視線を戻した。
「あの人……本当にユウトなんだ。雰囲気も喋り方も、別人にしか見えないけど」
フィリアは完全に姿の変わったユウトを、上から下まで何度も往復するように凝視していた。
少し時間が経った事で冷静さを取り戻したシュウは、ガトリング砲を地面に投げ捨て黒い渦の中から取り出した二丁の銃を両手に構えた。
「……俺の属性、まだ見せてなかったよね?君が本当にユウトだって言うなら、容赦なんてする必要は無いよね!」
そう告げたシュウの周りに、突然淀んだ緑色の水が渦巻き始めた。
「へぇ……闇の人間で、水のマイナス属性を有しているなんて珍しいね!」
ユウトが属性の感想を口にすると、シュウから明るさが消え、先程とは違う冷たく鋭い視線をユウトに向けた。
「……悪いか?俺は水のマイナス属性を有していながらプラスを持たない……闇の人間の中では有り得ない程に出来損ないだったんだよ」
両手に持っていた銃を震わせながら、シュウは行き場のない怒りを見せた。
「属性のハンデを背負ってまで……なんで君は闇の人間にいるの?」
「……カイに……兄貴に着いて行く為だよ」
―*―*―*―*―
シュウは、生粋のお兄ちゃん子だった。
どんな時でも、兄であるカイの後ろを着いて歩き。
エムの指導を受け始めた時もカイの背中を追い続け、遂には殺人を犯してしまった。
それでもシュウは、涙を流しながらも懸命にカイの背中を追う為だけに人を殺め続けた。
そして属性開花の日、カイと同じ時期に属性を開花させる事が出来たシュウは、自分が兄と同じ闇の人間になれた事を喜んだ。
だか、兄であるカイの反応はシュウが望んでいたものとは違うものだった。
「シュウ……お前。水の属性……しかも、マイナスだけじゃねぇか」
(やっぱりお前程……優しい奴が、俺と同じ道を歩むべきじゃ無かったんだ!)
カイは弟を誤ちに引きづり込んだ事を悔やみ、シュウに背を向け歩き始めた。
「シュウ……お前はこれ以上俺に着いてくるな。お前がいても…………足手纏いになるだけだ」
「えっ!そんな……お兄ちゃんのお手伝いさせてよ!……お願いだから、僕も一緒に連れて行ってよ!!」
離れて行くカイの背中を追って走り寄ろうとするシュウに向けて、カイは両拳を強く握り締めながら強く叫んだ。
「着いてくるなと言ってるだろっ!!お前みたいな雑魚は、俺の前から…………消え失せろ!」
カイの周囲を赤黒い火炎が覆うと同時に、火炎は一気に広がりシュウを爆風と共に後方へと吹き飛ばした。
「がはっ!」
(そんな……約束したのに……ずっと一緒だって……お兄ちゃん)
二人が立ち去った後も、属性による治癒を行なわずに地面に倒れ込んだままのシュウは、その場から動く事も出来ずに、ただ時間だけが過ぎて行った。
「……なんだ?この男女?」
数時間が経過した頃、正面から声を掛けられたシュウがゆっくりと顔を上げると、黒いフードを被った男がシュウの前に立っていた。
「お前、闇の人間だろ?……こんな所で何をやっている?……腹でも減ったのか?」
優しげに語りかけられた男の言葉に、シュウは大粒の涙を流し始めた。
「おいおい……男の癖に泣くなよ」
容姿は少女にしか見えないシュウの事を、黒フードの男は容姿を一眼見ただけで男だと認識していた。
「お兄ちゃんに……お兄ちゃんに、捨てられたぁ……僕はもぉ……生きていけないぃ」
黒フードの男の質問に、傷だらけで地面に伏せた状態のシュウは、涙を流しながら呻き声のように掠れた声で答えた。
「は?……くだらねぇな」
黒フードの男は小さく溜息を吐くと、徐にシュウの前にしゃがみ込み、右手をシュウに向けて差し出した。
「……俺の所に来い!お前のブラコンは、闇の人間になった今日で終わりにして……ただ俺の背中だけを見て強くなれ」
涙を流していたシュウは、思い掛けない言葉を掛けてくれた男に視線を向けた。
フードの中で微かに見えた男の顔は、微かな笑みを浮かべていた。
(……そうだ。俺はお兄ちゃんに……いや、〝兄貴〟に認められる為に強くなる!この人の元で、この属性で!いずれは兄貴も超えて見せるから!)
シュウは涙を拭い、決意を新たにすると男から差し出された手を掴んだ。
―*―*―*―*―
過去について話している間も、シュウは属性付きの弾丸を数発撃ち込み、ユウトが結晶弾で相殺するという攻防は繰り返されていた。
(属性に似合わない威力だね……結晶弾が少し押し戻される)
ユウトはシュウの弾丸を結晶化されることで相手の弾丸を砕きながら相殺し続けていた。
「あの人のお陰でこれだけ強くなった!武器が出し易いようにって、あの人が〝上〟に頼んでこんな変なのも用意してくれたし!」
シュウは銃撃を止め、横に出来た黒い渦を指差した。
「これは、俺が望んだ時にだけ現れる有限の武器庫!……らしい!」
「へぇースゴイネー」
過去の話は真面目に聞いていたのに、渦の事は自身の属性と〝あまり大差が無い〟という理由で大して興味を惹かれなかったユウトは、説明を殆ど聞き流していた。
「あからさまな棒読み!」
銃撃が収まっていた事で、ユウトは暇つぶしに二丁の結晶銃でジャグリングしながら話を聞いていた。
「ぐぬぬ!……もういいよ!ユウトなんか俺のとっておきで、さっさとくたばっちゃえ!」
そう口にしたシュウは、出現した大きな黒い渦に両手を突っ込むと、渦の中から巨大なレーザー砲が姿を現した。
「へっへっへ!……うぅ重いぃ!」
よろよろしながらも、ユウトに銃口を向け属性を蓄え始めた。
「水のマイナス属性でも、闇の特性付きの光線を喰らえば、人なんて跡形も無く消し飛ばせるんだよ!」
「……それなら、こちらも誠意を持って終わらせようかな」
ピタリとジャグリングを辞めたユウトは、片方の結晶銃を消滅させ、もう片方の結晶銃を両手で構えると、シュウに向けゆっくり銃口を向けた。
「……?その奇天烈銃からビームでも出すの?」
シュウは、レーザー砲に属性を溜めながら向かい合うユウトに問い掛けた。
「……この一発で、君の全てを終わらせられる」
静かに目を閉じたユウトは、シュウに聞こえない小さな声で呟いた。
(ユウトは、なんて言ったんだろう?まぁ……良いや!この一撃で俺の強さを証明出来る!俺の成長……見ててね……〝お兄ちゃん〟!)
遂に属性が最大まで蓄えられたレーザー砲は、ユウトに向けて放たれた。
ドス黒い光線が、天井と床を削り取りながらユウトに向かって迫り始めた。
「……〝shot〟……」
『最後の引き金』
ユウトの銃口から放たれた一発の弾丸は、シュウの放った光線に接触すると同時に、接触箇所から結晶化し光線全体を瞬時に結晶化すると、弾丸はそのまま結晶化した光線を貫通し、光線の向こう側にいるシュウを撃ち抜いた。
「へ?」
シュウの身体を結晶弾が貫くと、傷口から結晶が一気に広がり全身を覆い始めた。
「痛っ!……く無い?寒……くも無い」
身体が結晶化し続けていながら、冷静に自身の状況を口にしているシュウに、ユウトは急いで駆け寄った。
「良かったね……これでカイとまた一緒に居られるよ?僕も待っているから、良い子になって戻っておいで!」
ユウトの言葉を聞いたシュウは、数秒唖然としたまま黙り込んでいたが、目からは滝のように涙が溢れ出ていた。
「……うん……うんっ!えへへ……待っててよ!兄貴と二人で……兄貴の師匠も一緒に三人で、君の所に行くからね」
その瞬間、ユウトの身体にヒビが入ると身体を形成していたであろう結晶が砕け散ると、女ユウトの立っていた場所に、元の姿である男のユウトが現れた。
「……待ってるからな」
ユウトからの一言を聞いたシュウは、安心するようにゆっくりと目を閉じた。
(……やっぱり、ユウトに会えて良かった……)
シュウの身体全体を結晶が包み込むと同時に、結晶は跡形もなく砕け散った。
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