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第1章 光の導き手

第13話 強者を求めし者

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 ヒナと別れたユカリとユウトは、カイの待つ最上階に向け階段を駆け登っていた。

 (…………長くね?)

 ユウトは異様に長い階段を駆け登りながら、構造の異様さについて考えていた。

 (あれからどれくらいの時間が経ったか分からないが、一向に三階に辿り着く気配がない)

 一階から二階に登る為の階段は通常通りだったが、現在のルクス内は全部で四階層しか存在していない為、元が百階層まで存在していた建造物の構造上、二階から三階までに螺旋状で形成された階段が異常に長くなっていた。

 (ルクス内の構造が以前とは全く違う。こんな構造になっているなんて……どれ程の人間が闇にいると言うの?)

 原型を留めていないルクスの構造に一抹の不安を感じながらも、ユカリは背後にいるユウトに視線を向けた。

 (私が治癒していた短い期間でここまで成長するなんて……赤子のようだったユウトが、目に見える程の成長を遂げている姿が、不安に押し潰されそうな私に大きな希望を与えてくれる)

 ユカリは今までの行動や発言、そしてユカリだけが感じる事が出来る、内に秘めた想いや属性の大きな変化に、ユウトの成長を強く感じていた。

「ユカリ。ようやく三階に着きそうだ」

 ユカリ達は、長い階段を登り切りようやく三階に到着した。

「あ、あれは」

 階段を登り終えた二人の視線の先には、部屋の隅に積み重ねられた大量の死体を椅子にするように黒衣の男が座っていた。



 男は以前ルミナで見た時とは衣服も異なっており、右手には黒い小手を、左手には赤い小手の様な物を装備していた。

「おっ!ようやく来やがったか!」

 二人を見つけると嬉しそうに死体から飛び降りると、ゆっくりと二人の元へ歩み始めた。

「その人達はカイが言っていた闇の人間達ですよね?何故殺したんです……同じ闇の人間に殺されたら転生する事が出来ずに絶命してしまう事は、貴方も知っている筈です!」

 ユカリは男に向けて叫ぶと、部屋の中央付近に来た所でその言葉を聞いた男は『は?』と言って止まり、呆気にとられた顔をした後、腹を抱えて笑い始めた。

「何を言い始めるかと思ったら、このゴミの事を言ってたのかよ。お前らが来るまで暇だったから一階の奴ら半分呼んで俺のサンドバッグになって貰ってたんだよ。身体動かしてねぇと本番で楽しめねぇだろ?」

「……抵抗できないように縛り付けてるのは何なんだよ」

 山のような死体を指差し、大笑いしている男に向けてユウトは怒りを堪えながら問い掛けた。

 ユウトの声を聞いた瞬間に、男から笑みが消えた。

「……あ?なんだてめぇ居たのか?俺がてめぇみたいな雑魚の戯言に答える訳ねぇだろ?……さっさと俺の視界から失せろっ!」

 冷徹な瞳を向けて叫んだ男は、左手で作り出した火球をユウトに向けて放った。

 その火球はユウト達の視界を遮る程に巨大で、三階の天井に触れる程の大きさの物だった。

 だが、その火炎をユウトの前に立っていたユカリに素手で受け止めると同時に、一瞬で半透明な結晶へと変化し砕け散った。

「早くユウトの質問に答えなさい」

 ユウトはユカリの声を聞いた瞬間に、表情を見る必要も無い程の怒りを強く感じ取った。

「チッ!……やっぱりお前強いな。あいつの上司だっただけの事はあるぜ!」

 男は不敵な笑みを浮かべると、ユウトに視線を向ける事なく、ユカリに視線を合わせたまま質問に答え始めた。

「俺は強者としか戦わねぇ。そこのゴミ共は、さっきも言ったが俺の暇を潰す為だけの存在価値しか無い奴等だったからな。多少手間が掛かるが、サンドバッグにして価値を見出してやったんだ。何より動かれると怠いしな」

 男は面倒臭そうに、頭を掻きながらユウトの質問に答えた。

「…………そんな理由で命を」

 ユカリの周囲に冷気が広がり、冷気によって髪が靡くと共にユカリの右手に〝ある武器〟が創造され始めた。

「待ってくれユカリ!……こいつの相手は俺がやる!」

 ユウトがユカリに向けて叫ぶと、周囲の冷気はゆっくりと姿を消し、冷静になったユカリはユウトに視線を向いた。

「ユカリ。俺はお前の力になる為に、知識と技術を身に付けたんだ。ユカリがここで力を使う必要は無い……その力はこの上にいる奴に、見せつけてやってくれ」

 ユウトはユカリに拳を向けてそう言うと、ユカリに微笑みかけた。

「ユウト……分かっていますよ。だって貴方の努力も成長も……私が一番、身に染みて感じる事が出来ますから」

 ユカリはユウトに微笑み返すと、暇そうにしていた男に向き直り声を上げた。

「貴方の相手は私ではありません!貴方が馬鹿にした。私の……私達の切り札です!」

「……」

 ユカリの言葉を聞いた男は、俯きながら両腕を怒りに震わせていた。

「さっき言っただろうが……俺は……雑魚と戦う気はねぇんだよ!」

 ユカリに向けて叫んだ男だったが、男が視線を向けた場所には、既にユカリの姿は無かった。

「いねぇ……くそがっ!」

 気配を感じた男が振り向くと、ユウトすら気が付かない程の短い間に、ユカリは屋上へと繋がる階段前に移動していた。

「貴方では、ユウトに勝つ事は出来ませんよ」

 ユカリはそう言うと紅蓮の火球を天井に向けて放ち、崩れた天井によって階段への入り口は徐々に瓦礫で塞がれていった。

 (ユウト……信じていますからね)

 閉ざされた入り口を見つめていたユカリは、身を翻し階段の先で待っているカイの元へと階段を登り始めた。

―*―*―*―*―

 ユカリを取り逃がした男は、瓦礫で塞がれた階段を眺めて茫然と立ち尽くしていた。

「おいっ!お前の相手は俺だって言ってるだろうが!」 

 男の様子を見ていたユウトは、出し惜しみする事無くレンとの模擬戦で使用した結晶拳リフィスタを右手に纏わせた。

「チッ!……うるせぇんだよクソが。さっさとてめぇを潰して奴を追う……その前に、格の違いをてめぇに教えてやるよ!」

 怒りに震えた男は、左手に身に付けていた小手に赤黒い炎を纏わせた。

「右手は使わないのか?」

「てめぇも左手に武器を付けてないだろうが!」

 怒りのままに声を上げた男は、左手でユウトを指差した。

「てめぇが右手を使う程の奴なら使ってやるよ!今のてめぇは俺にとって雑魚中の雑魚だ!本気を出して欲しかったら俺をその気にさせてみろ!」

 男はそう言うと地面を力強く蹴り、ユウトとの距離を一気に詰め懐に入り込んだ。

「まずは、一発っ!」

 男に対応したユウトは、両腕で自身の身を守りながら創造を開始した。

 (奴と俺の間に、壊れない結晶の盾!)

 男の左拳がユウトを殴りつける寸前に、自身と男の間に創造された結晶の盾が男の拳を防いだ。

「チッ!姑息なんだよ!」

 結晶を殴った左手で小さな火球を作り出し、掌で爆発させた男は盾の右側に移動し盾を掻い潜ると同時に、盾の後ろにいるユウトを右脚で思い切り蹴り付けた。

「ぐはっ!」

 正面の防御にのみ意識を向けていたユウトは、意識外の背後から受けた重い蹴りによって、正面の盾を砕くように前方へと勢い良く蹴り飛ばされた。

 (ぐっ!今の蹴りで背骨が折れた。創造するのは……傷付いていない自分!)

 ユウトは吹き飛ばされ床を転がりながら創造する事で傷を治し、身体の全快と同時に男に向かって結晶拳リフィスタを構え、一気に加速させた。

「いっけぇぇ!」

 男に拳を向けた状態で、一直線に突撃しながらユウトは叫んだ。

「そんな猪突猛進な攻撃を受けてやる程、俺はお人好しじゃ無いんだよ!」

 そう告げた男は両手を前に出し、ユウトの拳を受け流す構えをした。

 (来い!……その拳を受け流して、てめぇの身体にキツい一発を叩き込んでやるからよ!)

 男が真っ直ぐ突撃してくるユウトを観察しながら、悠長に次の手を考えていると、突然目の前からユウトの姿が消えた。

 目の前で起こった予想外の現状を見ていた男は、咄嗟に周囲を見回した。

 (なんだ!あいつ何処行き——)

 思考を巡らせる前に、男の腹部に結晶拳リフィスタが深々の減り込んだ。

加速する結晶拳アクセレイト・リフィスト

「ぐふっ!……な、なんだとぉ!」

「まだ、終わらせないっ!」

 吹き飛ぶ寸前だった男の脚を結晶で固定すると同時にユウトは更なる追撃を開始した。

 (創り出すのは……左手を包む結晶の拳!)

 ユウトの左手に先程から身に纏っていた右手と同様の結晶拳リフィスタが創り出された。

対なる加速する結晶拳ツイン・アクセレイト・リフィスト 連撃アサルト

 両手に付けた結晶拳リフィスタで目にも止まらない速度で連続的に拳を浴びせた。

 その後、ユウトが両手を広げると胸部前方に小さな結晶の球が出来ると、結晶内は瞬時に紅蓮の炎で満たされた。

「くらぇ!」

誓いの炎オース・フレイム

 結晶の球に小さな穴が開くと、負傷した男に向け炎の柱が放たれた。

 男は無言のまま炎に包まれ、炎と共に階段の瓦礫に衝突すると同時に轟音を立てて爆発した。

 階段前にあった瓦礫は炎の属性によって溶け、四階への階段も爆発によって跡形もなく消し飛んでいた。

「ヒナに教わった技と、レンに教わった戦い方が役に立った!……教えて貰っていて良かった」

 ユウトは吹き飛んだ男を確認しようと黒煙の元へと歩み始めた瞬間、黒煙の中からボロボロになった男が笑みを浮かべながら現れた。

「くぅ~良いなお前!……最初にあった情け無い時よりも格段に強くなってやがるぜ!」

 男は黒こげになり、服も殆ど焼け落ち半裸状態になりながら笑っていた。

「お前、ちゃんと強くなってんじゃねぇか!先に言えよなっ!こんな強い奴なら最初から本気の殺し合いを楽しめたってのによ!かぁ~勿体ねぇ……こんな戦いを待ってたって言うのに俺の身体がお前の攻撃でボロボロになっちまっただろうが!」

「…………何言ってんだ?」

 男が意気揚々と発する言葉が理解出来ないユウトは、唖然としたまま立ち尽くしていた。

「おいっ!もっとガンガン来いよ!俺をもっと楽しませろ!」

 (なんだこいつ……意味が分からん)

 そんな事を考えていると、ユウトの頭にある言葉が浮かんだ。

「……〝エム〟」

「あ?なんつった?」

「お前みたいなドM野郎には、〝エム〟って名前がピッタリだ!」

 男を指差してそう告げたユウトに対して、男は呆然と立ち尽くしていた。

「…………おいてめぇ。意味分かって言ったんだろうな?」

「知らんっ!その言葉が勝手に頭に浮かんだんだ……しょうがないな!」

 腕を組みながら納得するように何度も頷いているユウトを見ていたエムは、腕を震わせながら怒りの表情を向けた。

「勝手に人を命名した上に……勝手に納得してんじゃねぇー!!!」

 エムの叫びは階段を上がっていたユカリに聞こえる程に響いていた。

 その声を聞いたユカリは、『何の話?』と首を傾げるのであった。
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