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第1章 光の導き手

第6話 光の繋がり

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「……うっ……あ……れ?」

 作戦会議室の中央で倒れていたヒナは、ゆっくり立ち上がり、自分が気を失っていた事を知った。

「うぅ……身体が……」

 激痛に顔を歪め身体を見ると服が血に染まりボロボロになっており、骨も何箇所か折れてしまっていたが、ヒナは身体に流れるマイナスの水属性の治癒により徐々に身体の怪我は回復していった。

 (確か……会議室に入った後、カイの声に反応して入って来た男の人に攻撃を受けて——)

「…………レンはどこに?」

 ヒナは怪我の完治を待たず、会議室にいた筈のレンを探し始めた。

 辺りを見渡すと、入り口近くに倒れているレンを発見した。

「レンっ!大丈夫ですか?しっかりしてください!」

 多少よろめきながらもレンに近づくと、レンは完全に気を失っていた。

 命に別状はないが、どこかに向かった二人を追って這いずりながら入り口まで行った所で気を失った事を、入り口まで続くレンの血痕が物語っていた。

「レン……私に任せて下さい。すぐ直して見せますから」

 レンを属性で出来た緑色の泡沫で覆った後、ユカリの創造した通信機を取り出し〝ある事〟を済ませ治癒を再開させた。

―*―*―*―*―

 その頃、ユカリはユウトの前に座り込んだまま動けずにいた。

「はぁっ……はぁっ……や、やっぱり辛いですね。全ての属性を消費してしまうこの実験は……可能性が無に等しい命の創造が成功した事は奇跡としか言えませんが」

 座り込み疲労の色を浮かべているユカリを心配したユウトは、ぎこちない動き方をしながら俯いたままのユカリに近づいた。

「うー……あぅ……あー?」

 ユカリの顔を覗き込むように身を屈めたユウトは、心配そうな表情を浮かべていた。

「あ、あはは……大丈夫ですよ?少し休めば動けるようになる……筈です」

 ユカリも能力を全開で使ったのは〝久し振り〟だった為、はっきりと断言する事は出来なかった。

 そんな時、ユカリの背後にあった実験場の扉が開いた音がした。

「ちゃんと弱り切っているか?ユカリ」

 聞き慣れた声が聞こえ、ぎこちないユウトの助けを借りてなんとか身体を動かしたユカリは、背後に目を向けると閉じた扉の前で佇む二人の姿があった。

「…………カイ?」

 立ち尽くした二人の内一人は、ユカリが別人かと感じる程に雰囲気が変化したカイがいた。

 カイの隣にいた男はルミナの隊服を身に付けていたが、光の人間とは思えない冷たい笑みを浮かべていた。

「なぁ、こいつが光の親玉か?こんな奴がお前の元上司かよ!よく黙って従えたもんだな!」

 男は大笑いしながらカイの肩を叩くと、ユカリの背後にいるユウトに視線を向けたが、すぐにユカリへと視線を向けた。

「実験も失敗してやがるし、楽しめそうに無いならさっさと消しちまおうぜ」

 先程の笑みは消え、殺意に満ち溢れた顔に変わった男は両手から澱んだ炎ほとばしった。

 そこでカイは、男の前に手を翳して静止した。

「落ち着け。ここでは何もしないと言っただろ?ユカリ……数分ぶりだな。この状況は、説明しなくてもお前なら理解出来るだろ?」

 問い掛けられたユカリ自身は、思考が全く追いつかず、カイに視線を合わせたまま茫然としていた。

 (どうして……カイが?彼は完全に光の人間だった。属性も彼自身の意志も行動も闇の人間が持つような思考では無い筈なのに)

「カイ……貴方は間違いなく光の人間だった筈です!貴方が闇の人間だとしたら、貴方のして来た行動も強い平和に対しての意志も、属性についても、全く説明がつかないじゃないですか!」

 カイは頭を掻きながら『仕方ないか』と面倒臭そうに口にすると、ユカリの質問に答え始めた。

「まぁ……俺の属性に関しては、俺より強い闇の人間にそういう特性を持った属性を有した奴がいるんだ。今までやって来た行動や俺の意志に関しては、俺がそうしたかったからそうしたまでだ」

「なら……なんで闇になったんですか?貴方なら光の人間に、正の属性を身に付けられる筈なのにっ!」

 ユカリは三年間信じ続けた、仲間に精一杯の思いをぶつけた。

「それが、この世の意志だからだろっ!!」

 ユカリの言葉を聞いた途端、カイは怒りの表情へと変わり、力強く叫んだ。

「貴方程人を想い、戦っていた人が負の属性に開花する筈がありませんっ!」

 ユカリは今まで見た事のないカイの剣幕に動揺しながらも、自身の抱く疑問をカイに向けて叫んだ。

「俺だって……属性が開花する十五の頃までは、光の為に行動していると信じていたさ……」

 カイはそれだけ伝えると、ユカリに背を向け実験室から立ち去ろうとした。

「…………私を殺さないんですか、カイ?」

 そう告げるとカイは、ユカリに視線を向け不適に笑った。

「俺達がお前の弱体化を待ったのは、お前を殺しやすくする為じゃない。お前が守っているこの日本に闇の人間が侵入しやすくする為だ。例え繋がりが切れているとは言え、多少壊れれば創造主であるお前は障壁の損傷を感じ取れるからな」

「闇の……人間が?」

 確かにユカリは属性を全て消費した事で疲労し、外部からの情報を感じる事が出来ていなかった。

「最近闇の人間達の行動が減少していた理由は、この機会を待っていたからさ。ルール無用な闇の人間達に、そうさせる程の脅威が闇の中には存在するんだ」

 そう口にしたカイの脳裏には、闇の人間達を統括する程の脅威を知る切っ掛けとなった〝黒フードの男〟の姿がチラついた。

「日本に侵入した闇の人間達は、俺が代表だったルクスに集まり、闇の人間の拠点になる。そして、ルクスにいる光の人間達は、こいつにやる事にしているんだ」

「あぁ……楽しみだぜ!骨のある奴が一人はいるかもしれないしな!」

 カイの言葉を聞いた男は振り返り、実験場の扉へと歩みを進めた。

「それを聞いた私が、貴方達をそのまま行かせると……思っているんですか?」

 ユカリの言葉にカイは溜め息を吐き、ユカリに向けて冷たい眼差しを向けた。

「今のお前に何が出来るって言うんだ?下らない正義感で自滅を考えるよりも俺達と戦う心構えでもしてるんだな。万全な状態のお前を倒して初めて俺の意志の強さを証明する事が出来るんだからな」

 そう口にしたカイは、実験場から立ち去ろうと身を翻した。

「信じて……いたのに、どうしてっ!どんな思いで私達と共に歩んでいたんですかっ!」

 離れていくカイの背中に向けて、ユカリは悲痛の涙を流しながら届く事のない手を伸ばした。

「ユカリ、ヒナ、カイ……少なくとも三人で歩んだ三年間は、俺にとって楽しい物だった」

 カイは扉を開きユカリに視線を向ける事なく呟くと、その言葉を最後にカイはもう一人の男と共に実験場を後にした。

 カイと光の繋がりは、ゆっくりと閉じていく実験場の扉によって断ち切られた。
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