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第1章 光の導き手
第5話 一人の正義
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(どうして、こんな結果になったんだ……)
レンは全裸で座り込む〝少年〟と、少年に前屈みになって右手を差し伸べるユカリを交互に見返した。
(実験を行なう前は、確かにユカリだけがこの部屋に入って行った筈なのに……)
少年の見た目はユカリと同じ漆黒の髪をしており、歳も同じくらいに見えるが、何故か服を着ておらず雲ひとつない空色の瞳をユカリに向けたまま固まっていた。
「ひゃぁ!」
ヒナは衣服を身に付けていない少年を見ると、短く叫びんだ後に手で目を覆い裸の少年を直視しないようにしていた。
全員が現状に困惑し、辺りは静寂に包まれていた。
そんな静寂を最初に破ったのは、ユカリを見つめていた裸の少年だった。
「あ……あぅ……ああぅぅ……」
少年は言葉とは言えない声を上げながら両腕をぎこちなく動かし、ユカリが差し出していた右手を握った。
「……は?」
レンは想像していなかった一声に、思わず声を漏らした。
(まさか……喋る事も、まともに動く事も出来ないのか?)
本来ならばユカリと全く同じ容姿をした、同じ強さを持った分身のような存在が創造される筈だと全員が考えていた。
一度きりの実験の結果が目の前の、喋れない、知識も無い・身体もまともに動かせない、しかも性別も違う少年が生まれてくるなんて、誰の目にも明らかな失敗だった。
「くっ……僕は、これ以上この部屋に居たくない。先に自室で休ませてもらうよ」
レンが振り返り部屋を立ち去ろうとした時、カイがその肩を掴んで引き止めた。
「ちょっ!おい待てって……そもそもこの実験に可能性なんて元々無いようなものだったんだから、この結果だってしょうがないだろ?彼の事はユカリに任せてさ……俺達は、これからユカリの力が回復するまでの間に、日本の防衛網をどうするか会議室で話し合おうぜ」
カイの必死な説得にレンは溜め息を一度吐いた後、『分かった』とだけ口にして作戦会議室へと歩いて行った。
ユカリに少年を任せた二人は、作戦会議室に向かったレンの後を追った。
ユカリと少年が二人きりになった部屋で、ユカリは身体の力が抜けたようにしゃがみ込むと、茫然とこちらを見ている少年に視線を合わせた。
「貴方が私と同じ存在である事は、感覚で分かります。不安定な状態で貴方が創造されてしまったのは、私が心の奥底で微かな不安を感じていたからでしょう」
そう告げるとユカリは、少年から視線を逸らし俯いた。
「……正直に言うと、今は少しホッとしています。私の心を元にして貴方のような存在が生まれたのなら、きっと私が考えている程の闇を私は抱えてはいないと実感できます」
ユカリは自身が感じている心の内を包み隠さず打ち明けた。
「実験以前から少し考えていましたが、創造された貴方にも他者と関わる時に必要な名前が欲しいと思っていました」
ユカリは少年に近づき、少年の身体に手を翳して創造した。
(思い浮かべるのは、〝彼が着ている筈のルミナの隊服〟)
ユカリが男性用の隊服を創造すると、裸だった少年の身体に半透明な結晶が集まり始め、結晶が服の形を構築すると、結晶が徐々に色を帯びていき数秒後には、ユカリの創造した通りの隊服を少年が纏っていた。
「貴方の名前は、この争いの中でいつまでも優しい人であり続けて欲しいという願いを込めて、〝優人〟と言う名前を考えました」
ユカリはそう言うと、隊服を身に付けたユウトに手を差し出した。
「ユウト……これから私と共に学び、共に強くなりましょう!」
未だにユウトは、ぎこちない身体の動かし方をしていたが、ゆっくり手を伸ばし差し出された手を優しく握りしめた。
―*―*―*―*―
二人が実験室にいた頃、作戦会議室では不穏な空気が立ち込めていた。
本来ならば、日本の防衛に関して話し合いを三人で行なっている筈だったが、そこには倒れた二人と笑いながら誰かと話すカイの姿があった。
「ユカリの実験が、あんな滑稽な結果に終わるなんてその場で思わず笑いそうになったぜ」
スクール形式の広い会議室で、カイはユカリが座る筈の席を踏みつけテーブルに座り、実験の結果を思い出して大笑いしていた。
「おいっ!そんな話どうでも良いんだよっ!早く光の強い奴と戦わせろって!」
白い隊服を雑に着た玉蜀黍色の髪をした柄の悪い男が、ボロボロになり横たわるレンとヒナを他所に紅の瞳をカイに向けて叫んだ。
「まぁ落ち着けよ。実験を待ったのは何もユカリが弱るからってだけじゃなく、どんなバケモンが生まれんのか興味があったからだ。お前だって弱くなってる奴を潰しても面白く無いだろ?」
「……確かにそうだが、光の主力だったか?この二人がそうなら本来の実力も大した事ないと思うがなっ!」
そう言うと男は、レンとヒナに向け黒く淀んだ炎の属性を火球として放った。
二人は既に意識を失っていたが、属性の力を受け二人はそれぞれ別々の方向へ吹き飛ばされた。
着弾した際の爆風によりヒナは部屋の中央に飛ばされ、レンは壁に強く打ち付けられた事で意識を取り戻した。
「ぐっ!はぁっ……はぁっ……い、いきなり何するんだい?カイ、君は何故そいつを攻撃しないんだ!」
レンは身体全身に広がる激痛に顔を歪め、掻き消えそうな声を上げた。
(おかしい。この作戦会議室に入った僕らに放たれた属性には闇の特徴があった。だけど、この光の拠点には……そもそも日本に入る事すら闇の人間には出来ない筈だ)
様々な疑問が、レンの思考を埋め尽くしていた。
「カイ……君の属性は正の属性だった筈じゃないか!何故闇の人間がここに、どうして……その男はここに居る?」
属性の呼び方は様々存在するが、一般的には光の人間が使用する属性を正の属性、闇の人間が使用する属性を負の属性と呼んでいた。
属性が開花すると同時に、人は光の人間か闇人間か決定し、その後闇の人間は光の人間が使用する正の属性を扱う事は不可能である。
その為、闇の人間でありながらユカリの障壁を通過した男について、そして正の属性を使用していたカイが闇の人間と結託している事自体が、レンにとって考えられない事だった。
レンの言葉を無視した男に替わり、テーブルに座っていたカイが声を上げた。
「お前と話す事はもう無い。少なくとも俺は、〝属性が開花したその時〟から、お前達側の人間じゃなかった……それだけの話だ」
カイは座っていたテーブルから降り、ゆっくりと会議室の出口へと歩き始めた。
「僕が……このまま行かせるとでも?」
力を振り絞りカイ達を阻止しようとしたレンだったが、怪我が酷くまともに動く事も出来なかった。
「レン。お前は、自分の無力を嘆きながら俺達が引き金を引く終わりの見えない戦争を、弱体化した導き手がどう足掻くのか見ているんだな」
そう言い残し、隊服を翻し立ち去ろうとしたカイは扉の前で立ち止まった。
「俺は全てを捨て去ろうとも、貫いてきた正義を全うする……甘ったれたお前らは到底理解出来ないだろう正義を」
カイから告げられたその言葉を最後に、レンは激しい痛みに耐えかね意識を失った。
レンは全裸で座り込む〝少年〟と、少年に前屈みになって右手を差し伸べるユカリを交互に見返した。
(実験を行なう前は、確かにユカリだけがこの部屋に入って行った筈なのに……)
少年の見た目はユカリと同じ漆黒の髪をしており、歳も同じくらいに見えるが、何故か服を着ておらず雲ひとつない空色の瞳をユカリに向けたまま固まっていた。
「ひゃぁ!」
ヒナは衣服を身に付けていない少年を見ると、短く叫びんだ後に手で目を覆い裸の少年を直視しないようにしていた。
全員が現状に困惑し、辺りは静寂に包まれていた。
そんな静寂を最初に破ったのは、ユカリを見つめていた裸の少年だった。
「あ……あぅ……ああぅぅ……」
少年は言葉とは言えない声を上げながら両腕をぎこちなく動かし、ユカリが差し出していた右手を握った。
「……は?」
レンは想像していなかった一声に、思わず声を漏らした。
(まさか……喋る事も、まともに動く事も出来ないのか?)
本来ならばユカリと全く同じ容姿をした、同じ強さを持った分身のような存在が創造される筈だと全員が考えていた。
一度きりの実験の結果が目の前の、喋れない、知識も無い・身体もまともに動かせない、しかも性別も違う少年が生まれてくるなんて、誰の目にも明らかな失敗だった。
「くっ……僕は、これ以上この部屋に居たくない。先に自室で休ませてもらうよ」
レンが振り返り部屋を立ち去ろうとした時、カイがその肩を掴んで引き止めた。
「ちょっ!おい待てって……そもそもこの実験に可能性なんて元々無いようなものだったんだから、この結果だってしょうがないだろ?彼の事はユカリに任せてさ……俺達は、これからユカリの力が回復するまでの間に、日本の防衛網をどうするか会議室で話し合おうぜ」
カイの必死な説得にレンは溜め息を一度吐いた後、『分かった』とだけ口にして作戦会議室へと歩いて行った。
ユカリに少年を任せた二人は、作戦会議室に向かったレンの後を追った。
ユカリと少年が二人きりになった部屋で、ユカリは身体の力が抜けたようにしゃがみ込むと、茫然とこちらを見ている少年に視線を合わせた。
「貴方が私と同じ存在である事は、感覚で分かります。不安定な状態で貴方が創造されてしまったのは、私が心の奥底で微かな不安を感じていたからでしょう」
そう告げるとユカリは、少年から視線を逸らし俯いた。
「……正直に言うと、今は少しホッとしています。私の心を元にして貴方のような存在が生まれたのなら、きっと私が考えている程の闇を私は抱えてはいないと実感できます」
ユカリは自身が感じている心の内を包み隠さず打ち明けた。
「実験以前から少し考えていましたが、創造された貴方にも他者と関わる時に必要な名前が欲しいと思っていました」
ユカリは少年に近づき、少年の身体に手を翳して創造した。
(思い浮かべるのは、〝彼が着ている筈のルミナの隊服〟)
ユカリが男性用の隊服を創造すると、裸だった少年の身体に半透明な結晶が集まり始め、結晶が服の形を構築すると、結晶が徐々に色を帯びていき数秒後には、ユカリの創造した通りの隊服を少年が纏っていた。
「貴方の名前は、この争いの中でいつまでも優しい人であり続けて欲しいという願いを込めて、〝優人〟と言う名前を考えました」
ユカリはそう言うと、隊服を身に付けたユウトに手を差し出した。
「ユウト……これから私と共に学び、共に強くなりましょう!」
未だにユウトは、ぎこちない身体の動かし方をしていたが、ゆっくり手を伸ばし差し出された手を優しく握りしめた。
―*―*―*―*―
二人が実験室にいた頃、作戦会議室では不穏な空気が立ち込めていた。
本来ならば、日本の防衛に関して話し合いを三人で行なっている筈だったが、そこには倒れた二人と笑いながら誰かと話すカイの姿があった。
「ユカリの実験が、あんな滑稽な結果に終わるなんてその場で思わず笑いそうになったぜ」
スクール形式の広い会議室で、カイはユカリが座る筈の席を踏みつけテーブルに座り、実験の結果を思い出して大笑いしていた。
「おいっ!そんな話どうでも良いんだよっ!早く光の強い奴と戦わせろって!」
白い隊服を雑に着た玉蜀黍色の髪をした柄の悪い男が、ボロボロになり横たわるレンとヒナを他所に紅の瞳をカイに向けて叫んだ。
「まぁ落ち着けよ。実験を待ったのは何もユカリが弱るからってだけじゃなく、どんなバケモンが生まれんのか興味があったからだ。お前だって弱くなってる奴を潰しても面白く無いだろ?」
「……確かにそうだが、光の主力だったか?この二人がそうなら本来の実力も大した事ないと思うがなっ!」
そう言うと男は、レンとヒナに向け黒く淀んだ炎の属性を火球として放った。
二人は既に意識を失っていたが、属性の力を受け二人はそれぞれ別々の方向へ吹き飛ばされた。
着弾した際の爆風によりヒナは部屋の中央に飛ばされ、レンは壁に強く打ち付けられた事で意識を取り戻した。
「ぐっ!はぁっ……はぁっ……い、いきなり何するんだい?カイ、君は何故そいつを攻撃しないんだ!」
レンは身体全身に広がる激痛に顔を歪め、掻き消えそうな声を上げた。
(おかしい。この作戦会議室に入った僕らに放たれた属性には闇の特徴があった。だけど、この光の拠点には……そもそも日本に入る事すら闇の人間には出来ない筈だ)
様々な疑問が、レンの思考を埋め尽くしていた。
「カイ……君の属性は正の属性だった筈じゃないか!何故闇の人間がここに、どうして……その男はここに居る?」
属性の呼び方は様々存在するが、一般的には光の人間が使用する属性を正の属性、闇の人間が使用する属性を負の属性と呼んでいた。
属性が開花すると同時に、人は光の人間か闇人間か決定し、その後闇の人間は光の人間が使用する正の属性を扱う事は不可能である。
その為、闇の人間でありながらユカリの障壁を通過した男について、そして正の属性を使用していたカイが闇の人間と結託している事自体が、レンにとって考えられない事だった。
レンの言葉を無視した男に替わり、テーブルに座っていたカイが声を上げた。
「お前と話す事はもう無い。少なくとも俺は、〝属性が開花したその時〟から、お前達側の人間じゃなかった……それだけの話だ」
カイは座っていたテーブルから降り、ゆっくりと会議室の出口へと歩き始めた。
「僕が……このまま行かせるとでも?」
力を振り絞りカイ達を阻止しようとしたレンだったが、怪我が酷くまともに動く事も出来なかった。
「レン。お前は、自分の無力を嘆きながら俺達が引き金を引く終わりの見えない戦争を、弱体化した導き手がどう足掻くのか見ているんだな」
そう言い残し、隊服を翻し立ち去ろうとしたカイは扉の前で立ち止まった。
「俺は全てを捨て去ろうとも、貫いてきた正義を全うする……甘ったれたお前らは到底理解出来ないだろう正義を」
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