創造した物はこの世に無い物だった

ゴシック

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第1章 光の導き手

第2話 全てはここから始まった

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「初めまして、私」

 小柄こがらな少女はそう言いながら、床に座り込み、こちらをじっと見つめている少年に手を差し伸べた。



 貴方あなたは、雪の結晶の様な小さな〝奇跡〟を信じますか?

―*―*―*―*―

 (ここが、日本に二箇所存在する拠点の一つ。西拠点きょてんルミナ)

 首都に聳え立つビルの中で一際目を引く高層ビルの入り口に、一人の少女は立っていた。

 (服装、乱れてないよね?)



 太陽の様に明るい橙色だいだいいろの髪と瞳をした少女は、身に付けている白を基調きちょうとした隊服を確認し、風になびく髪を整えながらある人物を待っていた。

「お待たせしました」

 多くの人が行きう中、妙に緊張した様子で服装を確認していた少女は、正面から突然発せられた声に驚き、下に向けていた視線を正面に戻した。

 そこには自身と同じ隊服に身を包み、自身よりも少々小柄な少女が、海の様にきらめくあおい瞳をこちらに向けて立っていた。



「ようこそルミナへ!貴方がフィリアさんですね?……私がルミナで代表を務めているユカリと言います」

 目の前の少女は、腰まで流れた夜空の様な黒髪を揺らし、小さくお辞儀じぎをしながら挨拶をした。

 (この人が……)

「は、はいっ!は、初めましてユカリ様!本日から西拠点ルミナに配属となりました、フィリアと申します。本日はよろしくお願い致します!」

 フィリアは緊張からか、少し上擦うわずった声になりながらも、目の前の少女に敬意を込め深々とお辞儀をしながら挨拶をした。

 (この人が……〝光の導き手〟)

―*―*―*―*―

「私が亡き両親の意志を受け継ぎ、争いの根絶された平和な光に満ち溢れた世界へと皆を導く事を誓います!」

 導き手の娘であったユカリが光の人々に向け、現存する西拠点ルミナにて決意を宣言したのは三年程前。

 両親を赤壁の街で失ったユカリは、十二歳の若さで光の導き手になる事を決意した。

 そして、ユカリが最も信頼していた三名を筆頭に両親が取り組んでいた導き手としての活動を引き継いだ。

 総本部をユカリの母国である日本に築き、ユカリが〝創り出した〟半透明の障壁で日本全体を覆った。

 それにより外敵からの攻撃及び侵攻に対する防御を固める事で、日本に在住する人々は平和な日常を送る事が出来ていた。

 一部を除いた他国にも同様の障壁が展開され、外部からの敵による侵攻及び侵入を阻んだ。

―*―*―*―*―

 そんなユカリは、フィリアの発した接尾語せつびごに違和感を感じていた。

「ユカリ〝様〟ですか。挨拶が丁寧な事は、とても素晴らしい事だと私も思いますが、光では上下関係の概念がいねんを廃止する為に、敬語の使用は極力控えて下さい。私の事はユカリと呼んで貰って構いませんから」

「わ、分かりました。ではユ、ユカリ……本日はよろしくお願いします」

「はい!こちらこそよろしくお願いしますね!フィリア」

 ユカリから向けられた笑顔を目にしたフィリアは、自然と気持ちがやわらぎ微笑み返していた。

 その頃には、ユカリの柔らかな応対に影響されフィリアの緊張も自然と和らいでいた。

「では、会議室に向かいながらになりますが、説明を始めましょうか!」

 ユカリの言葉に頷いたフィリアは、案内に従い会議室のある階層へと歩みを進めた。

―*―*―*―*―

 目的地までの移動中、ユカリは復習の意味を兼ねて基本的な情報を説明した。

 一つ目は、この世界の『歴史』に関して。

 遥か昔から、この世界には二種類の人間が存在する。

 争いを望まず、他人ひとを想い、平和な世界を望む〝光の人間〟。

 欲におぼれ、争いを好み、個々の欲望に身を任せ、殺戮さつりく強奪ごうだつを繰り返す〝闇の人間〟の二種類である。

 人々は互いの存在を黙認もくにんし、光と闇は入り混じりながらいつわりの平穏を送り続けていた。

 平穏のかげで繰り返される残虐ざんぎゃくな行為にも目をつむり、光の人々は根絶する事は不可能なのだと諦め、日々を過ごしていた。

 そんなある時、光の人々は繰り返される非人道的な行為に耐えかね、世界各地に光の人間達のみがつどう拠点を建て闇の人間と隔絶かくぜつされた領域をさだめました。

 それは日本も例外ではなく、国内に存在していた闇の人間達を国外追放又は〝転生〟させる事によって光の人間のみが住む国となった。

 二つ目は、光の人々が住む〝拠点〟には関して。

 世界には各国ごとに光の拠点が点在しており、その中でもアメリカとロシアは国土が広い為に国内に複数点在している。

 そして日本も他国と同様に、ユカリの両親が光の導き手として活動を行なった際に、二箇所に光の拠点を建設した。

 拠点にはそれぞれ名前が存在し、西拠点をルミナ、東拠点をルクスと名付けられた。

 ユカリ達の現在地である西拠点ルミナの拠点構造は、地上に百階、地下は五階となっており、この構造は日本拠点で共通となっている。

 三つ目は、国内外への〝移動手段〟について。

 光の人間達が居住している拠点間の移動には、〝転移エリア〟と呼ばれる空間を使用する。

 ユカリが創り出した転移エリアは各拠点内に一箇所設置されており、その空間から国外に点在した全ての拠点に行き来する事が可能になった。

 瞬時に移動する事が可能な転移エリアだが、欠点が二つ有る。

 一つ目は、拠点内に設置させている転移エリアの移動先は光の拠点に限定されている為、それ以外の場所への転移に関してはユカリに申し出なければならない事。

 二つ目は、転移した際に移動距離におうじて使用者の身体に負担が掛かってしまう為に、一日に使用する事が出来る回数に限界がある事。

―*―*―*―*―

 淡々たんたんと説明していたユカリは、説明を一区切りさせると、近くに設置された半透明なボタンを押した。

 すると周囲の壁がけていき、白い壁に覆われていた通路は全面ガラス張りの通路に変化した。

「ルミナの周囲に広がる街は、光の人々の居住施設になっています」

 通路を変化させたのち、ユカリは眼下に広がる街並みを眺めながら説明を再開させた。

「私は光の人々に自由な生活を送って頂く為に、小型の転移端末てんいたんまつを配布しています」

 ユカリは眼下に向けていた視線を後ろに立つフィリアへと向けた。

「フィリアにも支給されていると思いますが、その端末は私が創り出した物で、一時的に転移エリアと同じ効果を使用者の一定範囲に発生させる事が出来ます」

 フィリアはユカリからの説明を聞きながら、支給された転移端末を確認した。

「闇の人間は端末の創り出すエリアに侵入する事は不可能なので、緊急時きんきゅうじには拠点内への闇の人間の侵入を防ぎつつ避難の遅れてしまった光の人々を救助する事が可能になっています」

 支給された転移端末以外に隊服にも同様の転移装置が内蔵されており、隊服を身に付けている者の意志で転移先の拠点を指定する事が可能になっている。

「この端末を、ユカリが〝創り出した〟んですか?」

「はい」

 ユカリの回答にたいして首をかしげているフィリアに対して『その話に関しても、きちんと説明しますから』と言葉を付け加えた。

「先程の日本の拠点に関する説明の補足になりますが、この西拠点ルミナは私が、東拠点ルクスは私の信頼している右腕みぎうでが、それぞれ代表を務めています」

 備え付けられたボタンを押して変化させていた通路を通常の状態に戻して、再び会議室へと向かい始めたユカリの後を追いながら、フィリアは自身の持つ手帳に得た知識を記入し始めた。

 そんな時、突然前を歩いていたユカリが立ち止まり、フィリア向かって振り返った。

「そう言えばフィリア、最初に私が話した事を覚えていますか?」

 ユカリは思い出したかのように、フィリアに質問を投げかけた。

「えっ!け、敬語は極力使用しないという決まりですか?」 

 フィリアは突然立ち止まったユカリに衝突しそうになりながらも、間一発かんいっぱつの所で静止した。

「はい。闇の人間になるけは負の感情によるものが殆どで、その原因と考えられる上下関係、金銭などを廃止し、私が属性によって創り出す事によって人々が望む物を提供する事が可能になり、人間同士での奪い合いを無くす事が出来ました」

 ユカリは、自身のてのひらに浮かばせた〝雪の結晶〟を見つめながら説明を続けた。

「人々から求められる物は食べ物等の食料品が殆どです。今は娯楽を楽しめるような、平和な世の中では無いですからね」

 ユカリは表情を曇らせながらも、現状に関する情報をフィリアに説明した。

「だから私は、フィリアに敬語を控えるように伝えたんです。強制する気は全くありませんが、光の中では全ての人々が平等である事が大切ですからね」

 太陽の様に暖かい微笑みを向けられたフィリアは、少しだけ頬を緩めた。

 (ユカリが光の導き手になってから確かに光の人間同士が争い、闇の人間に堕ちる事は無くなった。一人ひとりに向き合っているユカリが、多くの人を平和へと導いているんですね)

「さて……お話の続きは、この先の作戦会議室で行いましょう」

 ユカリの指差した先には、会議室と表示された半透明な表示板が入り口の上部に設置されていた。

「次の授業はこの世界の〝属性〟について説明していきますよ!」

「はいっ!ユカリ先生!」

 ユカリの言葉に適当な返答を返したフィリアは、互いに顔を見合わせて笑みを溢していた。
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