トワイライトコーヒー

かぷか

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シオン特別編

シオン特別編 ①

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 あの人の想いは聞けないままに…
 

 あの人に逢いたい。
 もう、何万回何億回想ったわからない。 

 今も俺は俺の好きな人と別れさせた人達といる。彼らに何も思わないけど、いつも思うのはただあの人に逢いたいと。

 最近よく考えるのは寂しいとかそんな事より俺をどれだけあの人は想ってくれていたのかが気になっていた。急にいなくなった俺を今も探してくれてるのだろうか…それとももうどうでもよくて探してもくれていないのか。でももし僅な望みで探してくれてまた会うことができたなら借金を返す話しして…謝って、また一緒に…なんて…

 この平和な生活は悪くない。かといって良いわけでもない。淡々とした毎日はまるで自分が普通の人に成り下がったようだった。俺は他の人とは違う…結婚も幸せも必要ない。金と権力にまみれた非現実的が俺の居たかった場所。もし戻れるならあの時間を巻き戻してあの人に逢いたいと思う…無性に。

 進んでしまった時間は戻せない。それにあの人ならもっと若くてお金になる子と今頃幸せに暮らしてるかも。

 幸せ……

 美日下君は自分の幸せを掴むために俺の幸せと引き換えに結婚をしたと言った。そんな大層な人生を俺は歩んでないがやはりああいう子が最後は幸せになるんだろうなと思う。

 泣いて謝る彼は優しくて健気だ。俺も彼が側にいることが安心できるし嬉しく思う。出会いが違えばもしかしたら付き合っていたかもしれない。けどそれは別の世界線だったらの話で友人として彼が好き。だから幸せになってくれたのは良かったけど相手がまずかった。本来なら俺が巻き込まれる事などない出来事だったが関わりすぎた故のしわ寄せがここへ来て最悪な形で押し寄せた。

元ヤクザの組長…斎藤楝。現在は佐野楝。

 この人のお陰でそれなりに稼がせてもらったし恩もあるから感謝はしてる。けどこの厄介な相手がいたから今回こんな事になった。あいつが堅気になると決めたので俺も裏切り者のような形になってしまった。やっぱりあのお節介とは関わるべきじゃなかったかもしれない。

ピロン

『Hi、Zion 元気?』

 ティ、アロ…誰こいつ。

『元気だよ、久しぶり』

 海外の人っぽいけど全然覚えてない。

『写真 CUTE!会わない?今、日本にいる!』

 うーん…まぁ、いいか。

『予約してくれるの?』

『お店通さないとダメ?』

『初めての人は皆そうしてる』

『わかった』

 そういうとシオンの指名予約が入った。

『楽しみにしてる』

『俺も楽しみ』

 ダメだ、全然わかんない。交換した人はよっぽど覚えてるけどな…会えば思い出すかも。珍しい客…

 この仕事も長いけどいつまで続けられるのかわからない。先日そんな事を佐野さんに言われ、あいつにだけは言われたくなくてムカついたが正直考えないといけなかった。いつまでも感情だけで動いてはいられない。

 あの人の言わんとしてることはわかるけど通りじゃないんだよね。世の中流されるのも大事だし心で動いた方が生きてる感じがする。お節介で真面目でヤクザに正しいもクソもないけど俺にはどれも必要じゃない。俺に世の中の理想は通用しない。そして俺がまるで何も考えてないみたいな言い方は気に入らない。ちゃんと考えてるし、これからの事だって…

 美日下君はなんであんなの好きになったんだろう。もっとましな奴は五万といたのに結婚までしちゃうんだもんな。ただのイカれたヤクザなのに。美日下君も俺に似て危険な人に吸い寄せられたいみたいな感じだったのかな。わならなくもない…あの場では全てにすがりたくなる。

 佐野さんみたいなのに好かれたら厄介だし面倒だけど流されるくらい強引な押しは必要だったって事だな。あの佐野さんとずっといられるんだもん尊敬する。俺なら30分も一緒に居たら窒息する。あの人とは真逆な存在…あの人といると生きている感じがする。けど、今はその感覚を得られない。その心の隙間を埋めるには優しい彼の存在は凄く助かる。

『ねぇ美日下君、今度うちに泊まりにこない?』

『行く!』

ヴヴ

『まだ美日下は泊められん。悪いな、うちに来るならええけど』

 なんで佐野さんからメールくるの。俺なんてもう監視されてないのに。でもダメってことは…まだ監視されてるってこと?

『理由聞いても良いですか?』

 …返信が遅い


『俺の美日下に触るな』

『わかりました』

 誤魔化しが下手だな。ふふふ、ちょっとだけ嬉しいかも。まだあの人との火種は消えてないってことか。

『誘っといてごめん、予約が入って…今度泊まれる時間があったら前もって話すからね!それまで楽しみにしてて!』

『うん、仕事、無理しないでね!』

『ありがとう!美日下君大好き!』

『俺もシオン君好きだよ!』

 可愛い。今度、結婚した理由問い詰めてみようかな。いつもはぐらかすから全部洗いざらい聞いてみよっ。だって俺には必要ない知らない世界だから。

□□□ 

「シオン君…そんな怖い顔しないで」

「あー…ゴメン。聞いておいてなんだけど思わず、、きっ」

「いいよ、素直に言っても」

「キモ」

「うっ…そうなのか、な?」

「美日下君が良ければいいんじゃないかな?そういう人もいるし」

 結婚できたのは勿論美日下君が佐野さんをずっと待ってたから成立したんだけど、、佐野さんが結婚を決めたのは美日下君と付き合うと決めた時からだったらしい。付き合う=結婚とまで思える人物に出会っていたと思うと俺には信じられない。何年も好きでいられるのも。もしその時に堅気になる決断もしたとしたらたら、執念というか…そこまでして美日下君を手に入れたかったのかと。彼をそこまでさせた理由はわからない…

 美日下君は逆に堅気になってからお付き合いが始まるぐらいに思ってたみたいでプロポーズされた時は何でと思ったらしい。俺もそれには同感、いきなり相手の気持ちも考えずプロポーズなんてイカれてる。ハイスペックな佐野さんはお金も持ってるし見た目もいいし買いだとは思う。けど、重い。

「GPSはわかるよ。けど毎日お風呂一緒、出掛けるのも一緒。知らない男との食事はダメで毎日ハグにキスに好きって言われるのとかサイコパス!頭おかしくなる!」
 
「そうやって聞くと楝さん危ない人みたいに…ふ、
普通じゃないのかな?俺…楝さんしか知らないからよくわかんないけど…嫌だとは思ってはないよ」

「周りはもっと自由で、適当で、お互いのプライベートも尊重してる!佐野さんは…」
 
 多分、前から一途。

 美日下君と付き合う前は派手にいろんな人と遊んでいたけどそれはどれも仕事な気がした。風俗で名前を聞かない日はなかったし、それはそれは有名で新店舗ができるとわざわざ指導されたくて仕事を辞めてそこに移る人までいたくらいモテてた。

 それともう1つ、ヤクザネタには事かかない人物でどこにいても注目され人気というよりかお近づきになりたくてこぞって近寄ろうとしていた人達はいた。

 有名な佐野さんがピタリと遊びを辞めたのは出世したからだと風俗ではもっぱら噂だったがその前から美日下君だという理由を知ってるのは俺ぐらいだった。

 組の一部では美日下君の噂は出ていたが若頭になり権力を手に入れたと同時に滅多な事が周りは言えなくなっていた。そんな事があり俺の所にはプライベート事情を聞きたがる末端が何人もいた。前から手なんて届いてもいなかったのに若頭になり更にカリスマ性が高まると勘違いが何としてでも線を繋ごうと必死だった。

「何でもいいから!」

「店に来なくなったのは若頭になったからじゃないですか?忙しくてそれどころじゃないと思いますよ」

「嘘!私には連絡してきてたのに!」

「それは俺は知らないので」

「お願い、何でもいい。斎藤さんの話が聞きたい。携帯も変えて店にも来なくなって会いたくてずっと探しててやっと日本に戻ってきたって聞いて…きっと私の連絡待ってるはず、だからどこで何をしてるか教えて欲しい」

「何で俺にそんな事聞くんですか?」

「斎藤さんと一番近いって聞いて…」

「誰から聞いたんです?」
 
「それは…言えない」

「そうですか、俺もそんな人には情報は教えられないです」

 タバコを吹かしながらシオンは適当に言った。

「話せない…」

「そうですか…俺は別にいいですよ」

「待って!山科組の木村さん…」

 知らね。誰そいつ。

「へぇ…」

「話したから、教えて!」

「なら気をつけて下さい。貴方と俺は対等でも友達でもないです。フぅーッ。俺、時間あんまりないんで…」

「わ、わかってます、ごめんなさい。…ただ、元気にしてるか聞きたくて…その、」

「安くないです」

「わかってる。100万出すから…それで教えて貰える情報全部教えて!」

「ふぅ…今日の俺の指名と後10分で延長になります。この分はちゃんと支払いしてもらえますよね」

「すぐ、払います」

 指名時間に30分遅れて来た女は本来キャンセル料金で終わりだがどうしてもといい俺は待った。100万を机に置いて今日の支払いを携帯に入金した。

「因みにですけど口外すると俺も悪い立場になるのわかってます?」

「勿論!だからこうやってお金を…」

「もし俺が斎藤さんを知っていて、貴方が情報を誰にも言わない保証はない。他の人より優越感が欲しくて聞きたいんですよね?」

「…ちがう」

「そうですか?たった100万で話せる情報は無いです。信用に関わりますから。俺の背負うリスクに到底足りません」

「なら…はっきり言う。斎藤さんの連絡先が知りたいんです。お金ならまだあります」

 そういうともう100万机に置いた。
 するとシオンは1の数字を出した。

「もう100万…ですか」

「ふぅーッ。舐めないで下さい。0が一つ足りないです」

「なっ…そんな」

「それくらいの人です。しかも貴方は越えてはならない所まで来てます。この話をしてきた時点で貴方も危ない事に気づいてますか?今から彼に電話をしてもいいですけど…若頭に理由なく電話することがどれだけの意味をなすか。彼を説得して振り向かせる才をお持ちですか?2秒も相手してもらえないですよ」

「……。私なら…彼を振り向かせられる」

「これは忠告ではなく警告です。俺が斎藤さんと近いことを知っている貴方、それを組の人から聞き出しこうして会っている。それだけでもう貴方はラインを越えてるんです。この話が例えば彼の舎弟が耳にして仕事の邪魔にでもなると判断したら…」

 女は青ざめた。

「もっと言いましょうか?俺の知ってるヤクザは斎藤さんだけじゃないです。俺が身の危険を感じれば名前を出したヤクザはどうなるか…そして貴方は情報提供者から追われるかも。良かったですね俺で。お互いこんなはした金で危険な目に合わなくて済みましたね。健気に連絡を待つ方が謙虚で賢いと思いますよ。きっと斎藤さんはが好きなんじゃないですかね。この200万どうしますか?持って帰ります?」

「……、さ、差し上げます。」

「いいんですか?」

「どうぞ…あの、だから私が来たことは…」

「良いですよ、話さないです」

 タバコを吸うシオンを見て女はそそくさとバックを持ちその場から逃げるように立ち去ろうとした。

「あ、そうだ。これサービスです。斎藤さん元気でしたよ」

 ニッコリ手を振るシオン。女は何とも言えぬ表情で扉を閉めた。

「フぅーッ」

 それくらい当時の斎藤楝は金になった。

 今はヤクザという抑止力を失い結婚してからそれが大爆発中。ヤクザをやってたぐらいが丁度良かったんじゃないのってくらい美日下君を溺愛している。

 一途さは何となくわかってはいたがここまでぶっ飛んだ愛情を持っていたとは意外…いや、彼なら当たり前か。周りとの関係を一切絶ち全力で尽くし何かあれば相手に復讐するほど狂気的な愛情の持ち主。

「デートとかしてなかったと思うよ。佐野さんってヤクザ一筋で忙しい人だったしさ、今が恋愛真っ只中みたいな感じじゃない?」

「うん…あの、楝さんって愛人とかいなかったのかな」

「え?」

「あ、いや、本人に聞いたことないけど俺と付き合ってる時にいてもおかしくなかったし、同棲しててもプライベート全くわかんなかったから…」

「へぇ…いたらどうだったの?(美日下君といる時がプライベートだったんじゃ?)」

「うーん、気がつかないかもしれなかったけど…そうなら別れてたと思う」

「許してあげないの?」

「何で?」

「え、何でって。佐野さんなら何人かいてもおかしくないって思うなら許してあげれる気もする」

「うーん、けど…もし本当に居たら嫌だから俺は別れてたかな。シオン君はいいの?」

「うん、全然平気。だって心と身体の相性は別だし一人で満足できないから当然それを補う人はいると思う」

「そ、そっか。俺は…無理かも。もし、楝さんにいっぱい好きな人がいたら…うーん、本心は嫌なんだけど、好きだから許してしまえるのかな?でも自分の気持ちを偽って塗り替えてるから…結局自分は酷く傷ついてる気がする。だからやっぱり嫌だから別れてる」

 シオンの心臓がドキッとした。

「セックス下手でもいいの?他の人で満足できるならそっちがよくない?」

「え、あ…うん…まぁ…。俺が言える立場じゃないから…それに別に…不満は」

「へぇー!心の方が優先なんだね」

「うん…俺が下手で浮気されたなら…えっと、ごめんだけど…やっぱり、他の人としてたら別れるかも」

「でも、沢山の人とやるの楽しいよ!」

「俺そういう経験ないからわかんないけどもし大勢の人と相性良くても多分いけない気がする…」

「そうなの?」

「うん…一人でいけた試しないし」

「え?」

 美日下がテンダーで興奮はしない話は知っていたがAVも見たことはほぼなく、当然それでいくこともないく自慰も数える程でそれも楝と関わりがないといけなかったのを初めて知った。それを聞いてワクワクするシオン。

「待って!なら佐野さん以外とできないってこと?」

「多分。したことないし、しないけど…やっぱりおかしいかな?」

 シオンはなぜだか自分ならイカせられると確信した。プロの好奇心のアンテナがびんびん立つのを感じ美日下が他の人でいけるか無性に試したくなった。

「そんな事ないよ。大丈夫。そういう人もいるから」

「う、うん」

 ニコニコするシオンは「絶対今度お泊まりしてやる」と心に決めた。

「もしもだよ、付き合ってた人が当時いたって今知ったらどうする?」

「……。別れる」

「へぇー!意外と頑なだね。時効はないんだ」

「うん…俺が楝さんの事好きだから多分凄く傷ついてこの先きっと前に進めない。黙ってた事もきっと許せないくらい傷ついてしまうのがわかるしシオン君みたいに上手く心の整理ができないかな。過去を詮索したいとかじゃなくて、楝さんがいつも真っ直ぐなのが凄くて。ちょっとだけ空想してみただけ」

「ううん、全然。…好きな人に裏切られるのは苦しいからね。佐野さん聞いたらそんな事絶対ないって喜びそうな話」

「うん。初めてこんな話した」

 照れ笑いする美日下。たらればを想像して話したかっただけだと分かり可愛いなと思う反面好きな人の話ができるのが羨ましい気持ちがそこにあった。

「そういやこの間お店で知り合った人と付き合うことになった」

「あの、いつもの人達?」

「あっちは体だけ。本命って言うか付き合ってる人かな」

「俺よりシオン君の話聞きたかった!」

「別れてなかったら今度紹介するね」

「うん!」
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