トワイライトコーヒー

かぷか

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二部

三十夜

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 春雅に会ってから楝の店では嫌がらせが活発になっていた。明らかに何処からのさしがねかは分かったが斎藤家がやったと言ったところで証拠がなく、動かない加成に自ら会いに行った。

「加成さん、斎藤家は俺が管理していいですよね?」

「ダメだ」

「何でか理由聞いてもいいですか?」

「役にたつからな」

「なんの役ですか?」

「お前は斎藤家を潰したいのか?」

「誰もそんな事いうてないてすけど」

「なら、どうするつもりだ」

「店の管理ですよ」

「お前のピンはねは常習だからな」

「若頭なっても思ったより稼ぎないんで生活しんどいです」

「はは、なってもそうか。養わないといけないしな、なら少し取り分を上げてやる。そのかわり斎藤家はダメだ」

「わかりました。店も荒らされたんでその分もお願いします。そしたらそっちを片付けに行きますんで斎藤家は加成さんにお任せします」

「ああ」

 バタンと扉が閉まった。居なくなってから机の携帯のボタンを押した。

「聞こえたか?案外すんなり引き下がったな」

「はい。加成さんの言う通り間違いないです」

「だろ?斎藤がお前達を潰せるはずもない。若頭になってからは大人しいし従順なんだ。春雅、お前の次に可愛い弟分だ」

「ありがとうございます。けど楝は昔からよくわからない奴です」

「あいつは簡単には釣れない。ずる賢いから釣るときは良い餌じゃないと食らいつかない。良い餌とわかっていてもまだ警戒する。少しずつ餌をつついて安心だと思わせ最後釣り上げる。そのタイミングを間違えれば餌代が高く付く上に獲物にも逃げられる。根比べといった所だな。釣り上げた後は観賞用だ。俺は見物料を頂いて儲ける」

「それは釣り上げたってことですか?」

「そうだ。観賞用には良い餌と環境が必要だ。多少金がかかってもその手間は惜しまん。一種のショーのようなものだ。だがいくら飼い慣らされても餌を喰う時は本能的に野生に戻る。苛立ちはわかるが店には手を出すな。餌には敏感だ、近づく程度にしとけ。でないと餌がないと暴れるからな。あの餌がある限りうちは安泰だ」

「わかりました」

「他の組の矢面には斎藤を、裏の若頭の顔としてお前には動いてもらう。組で名前をあげれなくてすまなかった。こっちにもいろいろ事情があって時期がきたらお前を上げてやる準備をしてやるからそれまではあっちで頼む。何かあればすぐこちらに呼ぶ」

「はい!」


 春雅は加成との会話を終えるとすぐに弟の成清に電話をかけた。

「そっちはどやった?」

「楝に脅しが効くなんて思ってないけど相手には効いてるからこれで楝は牙むき出しで噛みついてくるで」

「美日下とかいう奴はどない?」

「完全に一般人やな。俺の事目で追ってたから見る感じ母親の話は初めて知ったみたいやったわ」

「へぇ」

「見つけた所でやったけどそれを楝が知らんわけでもないやろうな。ただ、母親が見つかるなんて思わへんかったやろからその辺つつけるとは思う」

「ほんならそれネタにするのもありか」

「楝がどういう風に動くか知らんけどあの二人の仲引き裂くにはええかもしれんな。ただ次また美日下に会えたとして話しに応じてくれるかはわからん。必死に守ってるみたいやったでまた店行ったらいろんな意味で終わりそうな気もするな」

「なら捕まえられんやんけ」

「あの場所潰したら楝が黙ってないし、流石に店で拉致るわけにもいかん。帰りもあかんな。あの楝がマメに送り迎えしてんのやぞ。あの楝が」

「お前は昔から楝が好きやからな。初めて奪うから嫌われたんやで」

「はは、ええやろ。弟とするなんて滅多にできん。美日下とかいうんよりよっぽど俺のがええのに。それに俺は可愛いのより男らしいの抱く方が好きや。楝の堪えてた顔、今でも思い出すわ」

「悪趣味やな、女のがええやろ」

「楝、男前で可愛いで」

「絶対お前の影響で男好きになったわ」

「それやったらやった甲斐あるな、また抱かせてくれへんかなぁ。美日下の前でしこたまやりたい」

「キショ、」

「てか、直接楝に会いに行く方が早いには早いけど会ってくれるかは別やな。若頭になってガードが堅いわ」

「何でもええけど俺らの事こけ下ろしてんねやから引きずり落としてやらな。舎弟の何人かは用意できるけど自宅突き止めて殴り込み行った方が早いぞ」

「兄ぃはいつもそうやな、でも美日下に接触させてもらえんなら楝追いかけるしかないか。また兄弟ネタ擦ったら金流してもらえるかもしれんし。俺は地位を引きずり落とすんは二の次で金貰えればええわ。加成さんから金入るんやろ?」

「ああ」

「ほんなら兄ぃは和田からもろた男の画像を店でばら蒔く言うて連絡してくれ。俺は一応美日下とも接触できるかやってみて無理なら楝とこ行って兄弟ネタで金揺すってみるわ」

「せやな、楝には働いてもらわな」

「そういや、加成さんなんて?」

「店は狙うなやって。あと、美日下は使えるから脅すだけにしとけ言うてたわ。だから、俺らも程々しか手出せんぞ」

「結局そうなんか…けど、俺らには最後あいつ差し出せばそこまでのおとが目ないやろ。少しぐらい痛めつけても…」

「そんなんで加成さんが許すか?」

「兄ぃが差し出したらええやん。こんなん連れてきました言うて。ずっと探してんやからそれなりの見返りあるやろ。それに大したネタでもないのにあいつ匿う意味ないやろ?」

「そうやけど、楝が許さんぞ」

「はっ、務所ボケか?兄ぃがそんな腑抜けた事言うなんて珍しいな」

「違う、美日下とか言う奴に手出しておいて楝より先に加成さんに渡したら金はいらんやろ。楝かて和田を探してるはずや。引き渡しはこれが終わった後や、楝から取るだけとって加成さんに引き渡せばええ」

「あの男昔から嫌いやわ。楝、勝手に持ち出して兄ぃの手柄も自分のにして気いにらん」

「そう言うなて、加成さんも考えあっての人やから。俺を若頭に裏でしてくれる言うてたわ。矢面に楝立たせて俺が裏を仕切ってええってことやろ?」

「ホンマか?あの人の話は信用せん。兄ぃは昔から気に入ってるみたいやけどあんな男のどこがええんや、好きやないわ。権力無かったら従いたくもない」

「何言うてるんやあの人は凄い、組長になったんやで。今回は事情があって若頭にあげれんけどすまんが準備してる言うたんや。次回でかい報告会やるらしいからそれに俺も呼ばれてるからでる。加成組長の初合同報告会や」

「俺は行かん。晒しもんやんけ。兄弟三人集まってまるで客寄せパンダや。楝が上で兄弟の俺ら下の地位やなんてバカにされてるみたいや」

「だから、裏の若頭にあげられるから準備あんのやって!」

「はっ、アホらし。ほんなら手はず整えてくれ。そしたらこっちもするから。早よ金巻き上げて東京脱出したいわ」


□□□□□

 ビルから出ると待っていた車に乗り込んだ楝は少し考えながら助手席に座っている木嶋に喋った。

「木嶋、やっぱりなんもする気なかったわ」

「そうですか」

 自分の話題をすり替えられ斎藤家がなんの役に立つかその場で言わなかったことにピンと来た楝。濁す言い方をしたのは春雅に盗聴されているからだと思った。

「なら好きにしていいんじゃないですか?」

「はは、お前案外あざといな」

「違うんですか?」

「そやで、、、」

「まさか…もう、してるんですか?」

「何がや?」

「いえ」

「ほな、荒らされた店行くか」

 自分にも手の内を見せない楝の行動は木嶋にとって難解だった。いつどこで何を思っているのか目的はなんなのかはっきりしない楝。売り上げ、斎藤家、加成、どれもどこかしっくりこないが全てこなしている。唯一その中で一貫性が見つかるならば…それを思うと恐ろしく思えたがそれで線は繋がっている。

 黒い車が2台狭い路地に路駐した。そこから出て来た者に誰も何も言わない。舎弟を待機させ店舗のあるビルに一人で入って行くと中の店は入れ替わっていたが昔の店長は健在だった。

「斎藤さん!」

「久しぶり」

「生きてたんですね。噂ではえらく出世したって聞きましたよ」

 その辺の椅子を借りて座った。

「生きてるわ、出世というか罰ゲームいうのか…。今もあっちの店荒らされたの何とかしてきたところ。近いからついでにて寄ったんやけどそっちはどない?」

「良いと言いたいですけど正直斎藤さん抜けて売り上げは厳しくなりましたね。名前も変わって内容も変えてやってますけどマネージャーっていうのが仕事もできんのに売り上げ売り上げいうから店の子どんどん辞めていってその子ら他に取られてます」

「そっか。売上関係なしの相変わらず一律?」

「一律ですね。ですからもっとキツくなってます。売り上げ良い時はいいですけどこれだけ無いと金額確保するので手一杯で新しい子なんて雇えません。下げて欲しいですけど難しいです実際」

「俺にこの店の権限あればどうにかしてやりたいけど、今は別やからな。細々やっていくしかないけどな」

「そうですよね…で、何かご用ですか?」

「用って程でもないけど。昔、うちで働いてた従業員で誰か連絡とれんか?できれば俺の仕事知ってて1年は続けてた子がええんやけど」

「うーん、辞めた子…店出た子らは殆ど連絡知りませんね。絶対的な信用度であげるなら厚田元店長なら連絡先知ってますけど」

「辞めたんやな」

「はい、斎藤さんいなくなって厳しくなって店も潰れてしまいましたから。他の店行くって言ってましたけどそれ以降は連絡してないです。連絡とりましょか?」

「助かる」

「引き抜きなら俺も連れてって下さい。勿論、クリーンな店やないと嫌ですけど」

「あははは、今は無理やな。これで美味いものでも食うて」

「これくらいでそんなのいりませんよ。斎藤さんにはお世話になりましたから」

 数年ぶりに訪れた風俗の店は少し閑散としていたが自分がいた時の名残も残っていた。そんなこの風俗街ももうずっと遠い昔のように感じられ過ぎた過去になってしまったと思った。

「変な事いいますけど斎藤さんは昔も今も変わりませんね。本当にヤクザなんですか?」

「バリバリやけどな」

「そら、見た目はそうかなぐらいですけどホンマに数年前と変わらないですよ」

「変わってないか…」

「いい意味でですよ、勿論!」

「周りは変わったけどな」

「そういや、あの子どうなったんですか?気になってた子」

「美日下か?今、一緒におるよ。相変わらず可愛いし同棲中や」

「それは良かった。一緒になれたんですね。別れてたら嫌やだなって思って気になってただけです」

「ふっ…別れてないよ。別れてたらここにも来んかったやろうな。相変わらず迷惑かけっぱなしやけど約束もあるし同じ方向向いてるから大丈夫や」

 自然とブレスレットを触る楝の手首をみた。

「変わりましたね」

「さっき変わらん言うたがな」

「あはは、男前になったなと思っただけです」

「前からや!ありがとうな、ほなまた」

 そういうと楝は封筒を置いて出ていった。店長は裏だった封筒を表にするとデート代と書かれていた。相手もいないのにとフフっと笑って受け取った。防犯カメラで店の外へ出た楝を見送った。以前とは違う雰囲気の人達数人を引き連れ街へ消えて行く。見送りが終わると封筒をもう一度見直した。それが簡単にできないのだろうなと思うと店長は少し楝を不憫に思ったのだった。
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