トワイライトコーヒー

かぷか

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二部

十五夜 

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「ニジェ!お帰り!」

 その部屋には若い男女が10人ほどいた。携帯にパソコンがズラリと並べられカスタマーセンターのように話していた。男に渡された紙を見るとたくさんの数字が書いてあった。男の肩に腕を回し胸に思い切り紙を押し付けこう言った。

「今日の見せて、嘘つくなよ。数字ごまかしたらバレるからな、お前らもボサッとしとらんとちゃんとやれや!!」

 渇が飛ぶと皆が一斉に携帯やらパソコンを忙しく動かした。男の肩をポンポンと叩くと部屋を出ていった。

「聞き慣れませんね」

「何がや?」

「ニジェ…兄さんからきてるんでしたっけ?」

「あー…そうらしい、あいつらが勝手につけた。その方が呼びやすいなら何でもええわ」

「斎藤さん来て半年になりますけど、早いですね」

「せやな」

 あれから斎藤は加成の命令で海外へ飛んでいた。数年前から海外事業にも加成は足を踏み入れていて斎藤はそれの地盤強化に来ていた。休みという休みはなくただ数字をひたすら上げる毎日。

「これからどうします、拡大します?それとも新規で何か立ち上げますか?」

「やりたいみたいなのは結構おるけど微妙やな。若いやつでチンピラみたいなやつならいくらでもおるけど働きが悪い。女の方がよう働くしな、細々した日本人向けの店やった方が儲かるかもしれんが…それも」

「微妙ですね。海外だと気がでかくなるのか良客とも言いがたいですし」

「せやな、ほんでもっと持ってるとこからとりたいねん。横の繋がりも必須やし賄賂もいるから金がいくらあっても足りん」

「意外と物入りでしたからね」

「閉めて近隣に行くか…岩瀬の方が今いい感じやな。景気がいいからそっちから少し引っ張るか」

「隣ですけど国が違ったらまた違いますしね。やりやすい、にくいはあるかもしれません」

「せやな。あ、岩瀬?忙しそうやな。悪いけどどっかで合流できへん?いけんのなら俺がそっち行くけど、わかった。……。俺、明日から隣行ってくるわ。悪いけど2.3日ここ頼むな」

「はい」

 今もまた他の国へ向かい売り上げやら店の管理に走り回る日々を過ごしていた。


 隣国
 
「斎藤さん!久しぶりです!」

「元気そうやな岩瀬」

 岩瀬とは、斎藤がまだ関西で店を切り盛りしている頃に加成の組に入ってきた男で年は上だが同期に近く東京に来た時に一緒に仕事をしていた仲だった。斎藤のやり方に感化され店の経営の仕方を学び共に売上に貢献した一人だった。その腕を買われマネージャーとして二年前から海外の店を任されていた。

「いろいろ聞きたいんやけど、そっちどない?こっちは人が動かん。文化の違いか?」

「ありますね、それにここは観光客も多いですからそれなりにハイクラス相手に商売ができてます。よそ見ながら値段は決めてますけど」

「あっちは全然違う事業やから比べるのは違うんやけどそれでも微妙や。流れが悪いから閉めてもええんやけどそれでも少し利益はあるから困ってんねや」

「そうですか、伸び悩むなら思い切って畳んで新規に広げたら駄目ですか?景気回復したらいけそうですけど、それ待ってたら時間が勿体ないですし」

「時間が勿体ない…か」

 一瞬ブレスレットがチリっとした気がして腕を上げ太陽に照らした。

「買ったんですか?昔は付けてたイメージ無かったですけど。前会った時も仕事の邪魔になるから付けないって言ってたんで付けないもんだと思ってました」

「貰いもん」

「そうですか…」

「なんや?」

「いえ…嬉しそうだなと。ついでにこっちで遊びますかって思ったんですけど辞めときますわ。てか、睨まんで下さい」

「そんな暇ない。とりあえず仕事場見せて欲しい」

「はい。昼間からでも一応空いてはいますが夜がメインです」

 車に乗り込み街並みを見ながら飲み物を飲む斎藤に話しかけた。
 
「この車はレンタカーなんで盗聴されてません。店は勿論、社用車には全部カメラついてます。何人か加成さんからの派遣もいます。事務従業員は今から会わせる子は全員そうです。あっちで何があったんですか?」

「派手に飛ばしてくれたわ」

「俺も驚きました。斎藤さんが海外来るなんて。でも、申し訳ないですが嬉しい気持ちのが強かったです。噂では借金もち飛ばしたとか…」

「んー、飛ばしたつもりは無かったんやけど結果そんな感じになってもうたな。俺からしたら堅気に戻しただけやけど」

「御法度の借金肩代わりじゃないですよね?」

「してない。ただ売り飛ばされそうなのずっと阻止してただけや」

「そんな借金あったんですか?」

「借金はあったけど売られる前に最速で返した」

「どうやってです?」

「二人分にしてちょっといろいろ加工したらできたって話やけど、元の金額は大したことなくて普通に風俗で働けば終わっててん。問題は利子やったから低利子にしてやった」

「まぁまぁ、それもだめっちゃだめですけど」

「俺にはその権限があるからしただけや。結局それはバレてないし問題やなかったんやけど。それよりその子がお金になりそうな子やって売りの話がずっとでててん。そんな子を風俗にも売りにもさせんかったから余計目つけられて。売りなんか行ったら更に借金増やされるのはわかってたからな」

「いつもの手ですね」

「せや、加成さん所行ったら最後。借金をなんやかんや増やされ最後骨も残らんまでむしられるからな。だから俺が面倒みるってごねてたんやけど、そしたら和田さんが業を煮やして仕込むっていって襲ったんや」

「まぁ、そういう事もなきにしもあらずですけど。斎藤さん的にはその子横取りされた感じですか?」

「横取りも何も初めから俺のや言うてんのに手だしたんは向こうや。適当な言いがかりつけてどうせ回して好きなように使いたかっただけやからな。あいつはそういう奴や」

「……。結局最後までですか?」

「いや、最後までしてたら俺はここにおらん。幸い薬飲まされて口使われただけで済んだ。んで俺は水も飲めんぐらいに和田の口を縫うてやった」

「……。」

「いらんことばっかするし、うるさかったからな」

「…よう生きてますね。和田さんの所が黙ってないんじゃないですか?どうやって治めたんですか?」

「当の本人は口聞けんから加成さんとこ行って、借金の完済の証拠突きつけて美日下やその他もろもろの損害でたいうて晒した。その場は一応治まったんやけど、それでも俺の周り彷徨くやつが居ったから和田さんの念書見せたら加成さんがそんなに元気なら海外行け言うて飛ばしたわけや。周りには俺がやらかしたから示しつけるための海外や思てる奴多いけど、実際は裏に何かあるやろな」

「念書ですか…(実際やらかしてますけどね)」

「金輪際手を出しませんて書かせてたんや。なかなか書かんから納得するまで一対一で話し合った」

「納得するまで…(監禁したんや…)」

「納得するまでや。魔が差した言うてたけど俺には通用せんから。ヤクザなんてそんなもんやろ」

「で、和田さんはどうなったんですか?」

「今、どこに居るかは知らん。俺以外にもやらかしてて借金背負わされて飛んだらしいけど俺は海外やから会ってないし後は加成さんが何とかするやろ」

「相手の子は大丈夫なんですか?」

「暫くうちのホテルの事務所にかくまってもらっててその間に何回か嫌がらせに来たらしいけどある日突然止まったらしいわ。加成さんやな。その後はなんもない聞いてる…今のところは。そんでしっかり堅気に戻しましたとさ。で、終わり」

「そうですか…」
 
 最後の発言で何とも言えない悲しいげな顔をしながら景色を見る斎藤に悪いことを聞いてしまったと岩瀬は思った。斎藤がその人をなぜ庇ったのかそこまでして堅気に戻したがったのかは聞かなくてもわかることで話を変えた。

「売り上げの一部ピンはねはできてます」

「数字弄ってもわからんやろうけど念には念をやな…そのうち抜き打ちで店に来んで」

「怖いこと言わんで下さい。加成さんが来たら根こそぎとられてしまいます。横の繋がりはある程度ありますからそっちでなんとかしますけど」

「はは、二重三重じゃ策は足りんからな。地元の何人か紹介して欲しい。すまんな、ピンはね分は絶対わからんようにせなあかんからもう人踏ん張りや。あ゛ーはよ、日本帰りたい」

「やっぱりあっちがいいですか?」

「んー、せめて同じ国に居たいってだけや」

「…そうですか。ところで西原さんはどうしてるんですか?」

「虎視眈々と上の権限ある幹部になってるよ。世話役が抜けんくて俺にたまに連絡してくるけどあの人まだ諦めてないから」

「若頭ですよね」

「あの人の下でええ思うけど。俺を良いように使いたいだけやしな。それよか…もう少し自由になりたい」

「俺は知り合った時からしか斎藤さんの事わかりませんけどそれ前はどうやったんですか?噂通り…」

「ずっとやな、ずっと、ずーっと、生まれる前からヤクザや。全てヤクザの考え押し付けられてきてん。それしか知らんかったし、それでええ思てたから。堅気になれたんは養子先から親父の所に行った時の一瞬だけやな。ヤクザやなかったらどんなんやったかな思うけど、それでもヤクザやったかもとも思うし何より考え方がもう抜けん」

「ある意味英才教育ですね」

「何言うてんねん、不浄や」

「辞めよう思ったりしました?」

「ある……かもな」

「俺、散財酷いことしてきて家族にも周りにも。どうにもこうにもならなくてこの世界飛び込んだんですけど実際はどっちの世界も変わらないです。案外堅気の世界の方が狂ってたりしますしね」

「はは、せやな」

「着きました」

 車を停めると派手な看板に広いロビー、カウンターバーが併設されていた。昼間見ても派手さはあった。

「向かいの店はなんや?」

「あれは合法ドラッグの店です」

「かなり良い感じの雰囲気やな」

「今はあんな感じでお洒落に売ってますね」

 廊下を通るといくつかのカラオケルームにマッサージの部屋。階段を登ると待機の女性らがいた。今度はエレベータに乗ると5階へついた。

「ここは別料金です。主にお金のある海外向けのスペースで大部屋と個室に別れてます。人数も何人かで割り振って客の質見て臨機応変に答えれるところは答えてます。あっちがバーと奥はマッサージです」

「楽しそうやな」

「何でもありますね。近くに日本食屋やら食べ物屋もボチボチあるんでまぁまぁ客通りも悪くないです。さっき見たドラッグの店もありますからここで1日過ごしたりする人もいるぐらいです」

「うちのNo.1のジェルです」

「そうか、仕事楽しいか?」

「楽しいそうです」

「ならええわ、欲しいのあったら何か買ってやって」

「わかりました。こんな感じです。売り上げは飲食とサービスでかなり差が出ます。旧正月なんかは案外暇でそこだけは落ちますけど。海外の方の口コミでなんとかその月も赤字にはなってないです」

「ライバル店はどない?」

「まぁまぁです。いなくはないですが価格はうちより安いですね。けどうちみたいにここまで手広くやってるところは少ないんでやれてます。何ヵ国語かにも対応してんのがでかいです。今のところ近隣とは仲良くしてますから特にトラブルもないですね」

「こことどこ?」

「2店舗あります、最近オープンしたとこいきます?」

 車で移動すると丁度オープンの時間になった。ブティックのような作りに綺麗な男の子が何人も出迎えで待っていた。

「いらっしゃいませ」

 全員で頭を下げると二人の後ろをついてきた。

「ここは男専用か」

「はい、女性の扱いですが全員男です。今やこっちのが人気です」

「へー見た目はバラバラか」

「はい、男のままの人もいれば女性のような感じも様々ですね。見分けつかんぐらいの子もいます。まだ、オープンしたてなので手探りな部分もありますけど上々ですね。新しいものに飛び付くってだけの人もいますから今後どうなるかはこれからです」

「ふーん」

 男の子達は待合室へと帰っていった。

「ここは基本マッサージです。裏もやってるんですけどそこは普段はVIPしか通してないです。大部屋になってるところはバーラウンジですね。ここで話したりしてって感じですけど奥に個室がありますから店の子にそっちいくように誘導させてます。勿論別メニューです。本番は一応無しですけど持ち帰りはありにしてますから口コミでどんどん来てます」

「客層は?」

「海外観光客です。マッサージならともかく、裏のこんなルールある所わかってんかなと思てましたけど5割強いますね。国はバラバラでアジアは勿論北米もいます。貸し切りも一応してますから後は、お偉いさんですか。海外接待用で使う人達もちらほらです」

「立地もええなここ」

「はい、他の店と融合されてるのは強いですね」

「教育はしてんの?」

「まだ、これからですね。一応簡単にはしましたけど」

「してってええ?」

「勿論構いません、ありがたいです。どの子でもいいです」

 斎藤は一人の男の子を呼び個室に入った。まだ、入って二日の子だった。聞けば日本人とのハーフでかたことだが日本語もできていた。

「悪くないな」

 褒められ嬉しいそうにした。ベッドに横になると少し緊張していた。

「もしかしたら、やったことないんか?」

 頷くと斎藤は仕方ないと一からやった。風俗で初めてを体験するのは珍しくない。それを狙って来る子もいるくらいだった。

「穴はほぐれてんな、自分でしたんか?」

 頷く男。

「なら、やりやすいな。名前、何て言うん?」

「?」

「名前」

「サワリ」

「サワリか、入れるで」

「うぁ!」

「本物はどうや?」

「ああっ!」

 斎藤は初めてするサリワが思いの外新鮮味があった。手につけたブレスレットが光る。

「クソ、美日下とやりたい…」

「くそみ、と、やりた?」

「はは、こっちの話や、自分でやって動いてみ」

 あれこれ仕込み一通り終えると射精することなく終えた。サワリは何度もいったようで放心状態だった。シャワーを浴びて出てくるとサワリはお礼を言った。斎藤が出てくるとあと二人、口だけだが指導をしてやった。サワリが部屋から出てくるときゃっきゃと嬉しそうに仲間同士で盛り上がった。

「なんや?」

「斎藤さんが凄いて言ってます」

「あっそ」

「サワリはどうでした?」

「使える思うよ。タトゥーも入ってて可愛いし人気でそうやから上手いこと使って。他の子もまぁまぁやけど、サワリはVIPにすぐあげていいかもな」

「わかりました」

 サワリ達は待合室で大騒ぎだった。

「?」

「一回でうちの子骨抜きにせんで下さい」

「知らんがな」

 深夜まで店を隈無く見回りその近辺も調査し二日間でできるだけ店舗を周り息つく暇もなくまた自分の持ち場へと帰って行った。帰宅後すぐに会議を行い店の方針を話あった。結局こちらは2ヶ月で畳むことになり岩瀬の方へと力を入れることにした。

 斎藤は岩瀬を手伝うつもりだったが別の街で新たに店を任されそちらにつきっきりとなった。店も基盤にのり安定するまでに1年半かかりながらも成果を上げる所まできていた。そんな生活にもすっかり慣れ言葉も大体は話せるまでの年月が過ぎたある日、突然加成が幹部を連れてきた。

「暑いね~」 

「加成さん!?」

「ちょっと旅行で様子を見に来ただけだ」

 携帯が鳴りっぱなしだった。チラッと確認すると岩瀬からだった。その名前を見ただけで察した。さりげなく店のパソコンで作業を終えると加成が店の事務所の椅子に座って言った。

「ここは溝口に渡すから戻ってこい」

「わかりました。いつです?」

「今日の夜」

 突然すぎる言葉だがそれぐらいでは驚かなかった。

「わかりました。とりあえず言われることはしましたけど次はなんですか?」

「最近は斎藤いないと締まらなくて。あっちも今いろいろあってな」

「また、厄介事ですか?」

「何人か捕まって人手不足だ。帰って俺の仕事を手伝って欲しい」

「わかりました」

「そうそう、今回お前の働きにご褒美をやる」

「金以外いりません」

「はは。そう言うなちゃんと用意してる。帰って受けとれ」

 二年以上にも及ぶ海外も加成の一言でアッサリと終わった。次は何を企んでいるのやらと思ったが久しぶりに日本に帰れる事に単純に喜んだ。
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