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インセット編
10 真実 ①
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家に着くとすぐに荷物を広げあれやこれやとインセットに説明しながら時間を過ごす。
「ブレイク寂しくなかった?大丈夫だった?」
「大丈夫だよ」
「俺はね、寂しかった」
ソードの素直な気持ちに嬉しくなる。本来なら自分の意見を素直に話せる子なのにと思うと胸が締め付けられぎゅっと抱きしめた。
「ソード、好きな本を持っておいで読んであげる」
返事をして二冊持ってくる。
一冊はいつもの世界のお菓子、もう一つは迷いの森という本だった。まるで今のソードを表しているかのようだった。
ソードの本選びはいつもそう。お気に入りを一つともう一つはおどろおどろしい本。図鑑を見ても楽しい所と恐ろしい所を交互に何度も見ていた。
自分の心のバランスを量ろうとしていて特に恐ろしい場面では自分を試そうとしていた。
「この本好き?」
「うーん、わかんないけど見たくなる」
「そう、怖いもの見たさだね」
「本当は怖いもの嫌い」
「俺もだよ。でも、怖いものを知らなければ、実際に起こった時の心構えが違うから俺は見てる」
「そう!そうなんだ!心構えができる!ブレイクも一緒!」
自分の気持ちを理解してくれるインセットはソードの中で大切な存在だった。
二冊読み終わるとソードはインセットにくっついて寝た。
数日が過ぎソードが新たな事を始めた。外に出て棒を持ち振っていた。それをインセットはじっと見ている。
目が片方見えないのがわかっていないのか右側にえらく隙ができていた。前までは感覚でカバーできていたが今のソードには難しい。
「上手だね」
「体が鈍ってる気がして。それにレオが手合わせしたいってこの間言ったから練習」
「そう、そのレオって子は強いの?」
「うん、強い。いつも俺が勝ってたんだけどこの間初めて負けた。あいつ剣士の構えばっかりするから俺に負けてただけで本当はあいつのが強い」
「そう、わかるんだね」
「アビサルに行ってからは前より強くなった気がする。腕が一本減って力も前より無くなったのに強いの何でだろ」
話しながらいろいろ思い出してきてるな
前より口調が滑らかで状況把握もできてる
「それは、基礎でカバーできているのと本来の自分の構えを取り戻したからだよ」
ソードが練習をやめてインセットを見た。
「すごい、ブレイクは何でもわかるんだね。やっぱりあいつの方が強いんだ」
「ふふふ、俺はソードの方が強いと思う」
「えー無理だよ。俺は独学だし力もないから」
インセットはソードに近づき持っている棒を一緒に握って振る。
「ここから下ろす方が楽だ」
「うん!」
ソードは素直に言われるまま剣を振った。夢中になって教わるソードに丁寧に指導をした。その日を境に本を読む他に剣術を習う事が増えた。
夜、お風呂に入ると自然と剣術の話になり会話が弾む。そして寝る前になると必ず自分の昔の話をせがまれた。
「これはソードと出会う前の話ね」
「じゃあさ、前途中になってた話は?」
「前?」
「今度は起きてるから、前の続き!ブレイクの師は伝術士を辞めて孤児を育てた後どうなった?ねぇ」
「ふふふ、そうだった。まだ途中だったね。そう、俺の前から姿をくらましたんだ……」
………………………
レオを家に送り届け、これで解散だと言って俺を置いてアイズは消えた。同じ宿に戻るが帰ってくることはなかった。
いなくなったアイズが行く場所には見当がついていてそれを確かめるべく俺はハースへ行った。
冒険者としてリッカの検問から入ろうとしたが知らせが騒ぎだし検問所からではなく夜にこっそり侵入することにした。
深夜まで時間を潰そうと前回地下牢を教えてくれた男がいた酒場に行くが今日はあいつはいないようだった。酒を飲みながら何気なく小声で男の事を聞くと店主は口ごもる。一気に酒を飲みきりもう一杯高い酒を頼んだ。
「あんた生きてたのかい?」
「どういう意味だ」
「この間の旦那は死んだ」
「どういう事だ」
「わからない、あんたと会った数日後に殺されたそうだ。通り魔に殺られたと聞いた」
口封じか。
すぐに俺はそう思った。
噂の出所を絶てばその噂に尾びれ背鰭が付きがどれが本物かわからなくなりガセばかり流れる。ガセは情報の隠れ蓑になるから真実への時間稼ぎにもなる。慣れてるな…
「まさか、どこでどんな風に」
「あんたと消えた後、何日かたった明け方、川に浮いてたのを見回り兵が見つけた。その後もう一人死体が見つかったって聞いて、てっきりあんたかと…」
「犯人は?」
「まだ捕まってない。そのせいで夜はかなり厳重になった」
店主は更に息を潜めて言った。
「ここだけの話、ハースの奴じゃないかと噂だ」
「何故」
「あいつは情報をいろいろ持ってたからポロっと余計な事を話してもおかしくはない。今はハース国の噂は禁句と言っていい。生き残りがそれを聞いてあいつは怒りを買っちまったんじゃないかね」
「そうか…ありがとう」
少し多めにお金を渡し店を出た。
あの晩、つけられていたなら俺が気がつかないわけない。可能性としてはどこか遠くから見物していたか、或いはあいつが一人になるのを待って殺したか。
仮に俺が得た情報の口止めをしたなら俺も狙われる可能性があったが俺は狙われていなかった。狙われたならそれはそれで好都合だった。
ペラペラと話すあいつは確かにされる側からしたら邪魔な存在だし良い見せしめになる。必要以上に掻き立て過ぎた末路だがそれよりあの噂が事実であると裏付けられた。
例の場所まで来たが誰もいない。目印へ近づき石畳の場所へ着いたが術を解かれた跡はなくここには来ていなかった。
もう一人あいつの次に殺された奴。関係があるなら一緒にいた魔術士だと思ったが違っていた。
調べを進めていくとヤツと一緒にいた魔術士が殺されたのでは無く指名手配中の生き残りの側近だった。
イルーセル、そんな名前だったか。今になって姿がばれて殺されたのならヒューズの殺し屋にでも殺られたかと思ったがハースで遺体が発見されたのには引っ掛かった。逃げ通せたなら逃亡し続けるはずだがわざわざ危険なハースで見つかるなど偶然にしては出来すぎだ。何か情報を掴んで舞い戻ったか呼び出されたかわからないがきな臭いな。
側近を殺るなどそれ以上の強さに自信がある奴しか挑まない。それにヒューズの奴なら捕らえるだろう。
これであの二人が殺されたとなればアーサー王と関わりがあるとしか考えられなかった。
「ブレイク寂しくなかった?大丈夫だった?」
「大丈夫だよ」
「俺はね、寂しかった」
ソードの素直な気持ちに嬉しくなる。本来なら自分の意見を素直に話せる子なのにと思うと胸が締め付けられぎゅっと抱きしめた。
「ソード、好きな本を持っておいで読んであげる」
返事をして二冊持ってくる。
一冊はいつもの世界のお菓子、もう一つは迷いの森という本だった。まるで今のソードを表しているかのようだった。
ソードの本選びはいつもそう。お気に入りを一つともう一つはおどろおどろしい本。図鑑を見ても楽しい所と恐ろしい所を交互に何度も見ていた。
自分の心のバランスを量ろうとしていて特に恐ろしい場面では自分を試そうとしていた。
「この本好き?」
「うーん、わかんないけど見たくなる」
「そう、怖いもの見たさだね」
「本当は怖いもの嫌い」
「俺もだよ。でも、怖いものを知らなければ、実際に起こった時の心構えが違うから俺は見てる」
「そう!そうなんだ!心構えができる!ブレイクも一緒!」
自分の気持ちを理解してくれるインセットはソードの中で大切な存在だった。
二冊読み終わるとソードはインセットにくっついて寝た。
数日が過ぎソードが新たな事を始めた。外に出て棒を持ち振っていた。それをインセットはじっと見ている。
目が片方見えないのがわかっていないのか右側にえらく隙ができていた。前までは感覚でカバーできていたが今のソードには難しい。
「上手だね」
「体が鈍ってる気がして。それにレオが手合わせしたいってこの間言ったから練習」
「そう、そのレオって子は強いの?」
「うん、強い。いつも俺が勝ってたんだけどこの間初めて負けた。あいつ剣士の構えばっかりするから俺に負けてただけで本当はあいつのが強い」
「そう、わかるんだね」
「アビサルに行ってからは前より強くなった気がする。腕が一本減って力も前より無くなったのに強いの何でだろ」
話しながらいろいろ思い出してきてるな
前より口調が滑らかで状況把握もできてる
「それは、基礎でカバーできているのと本来の自分の構えを取り戻したからだよ」
ソードが練習をやめてインセットを見た。
「すごい、ブレイクは何でもわかるんだね。やっぱりあいつの方が強いんだ」
「ふふふ、俺はソードの方が強いと思う」
「えー無理だよ。俺は独学だし力もないから」
インセットはソードに近づき持っている棒を一緒に握って振る。
「ここから下ろす方が楽だ」
「うん!」
ソードは素直に言われるまま剣を振った。夢中になって教わるソードに丁寧に指導をした。その日を境に本を読む他に剣術を習う事が増えた。
夜、お風呂に入ると自然と剣術の話になり会話が弾む。そして寝る前になると必ず自分の昔の話をせがまれた。
「これはソードと出会う前の話ね」
「じゃあさ、前途中になってた話は?」
「前?」
「今度は起きてるから、前の続き!ブレイクの師は伝術士を辞めて孤児を育てた後どうなった?ねぇ」
「ふふふ、そうだった。まだ途中だったね。そう、俺の前から姿をくらましたんだ……」
………………………
レオを家に送り届け、これで解散だと言って俺を置いてアイズは消えた。同じ宿に戻るが帰ってくることはなかった。
いなくなったアイズが行く場所には見当がついていてそれを確かめるべく俺はハースへ行った。
冒険者としてリッカの検問から入ろうとしたが知らせが騒ぎだし検問所からではなく夜にこっそり侵入することにした。
深夜まで時間を潰そうと前回地下牢を教えてくれた男がいた酒場に行くが今日はあいつはいないようだった。酒を飲みながら何気なく小声で男の事を聞くと店主は口ごもる。一気に酒を飲みきりもう一杯高い酒を頼んだ。
「あんた生きてたのかい?」
「どういう意味だ」
「この間の旦那は死んだ」
「どういう事だ」
「わからない、あんたと会った数日後に殺されたそうだ。通り魔に殺られたと聞いた」
口封じか。
すぐに俺はそう思った。
噂の出所を絶てばその噂に尾びれ背鰭が付きがどれが本物かわからなくなりガセばかり流れる。ガセは情報の隠れ蓑になるから真実への時間稼ぎにもなる。慣れてるな…
「まさか、どこでどんな風に」
「あんたと消えた後、何日かたった明け方、川に浮いてたのを見回り兵が見つけた。その後もう一人死体が見つかったって聞いて、てっきりあんたかと…」
「犯人は?」
「まだ捕まってない。そのせいで夜はかなり厳重になった」
店主は更に息を潜めて言った。
「ここだけの話、ハースの奴じゃないかと噂だ」
「何故」
「あいつは情報をいろいろ持ってたからポロっと余計な事を話してもおかしくはない。今はハース国の噂は禁句と言っていい。生き残りがそれを聞いてあいつは怒りを買っちまったんじゃないかね」
「そうか…ありがとう」
少し多めにお金を渡し店を出た。
あの晩、つけられていたなら俺が気がつかないわけない。可能性としてはどこか遠くから見物していたか、或いはあいつが一人になるのを待って殺したか。
仮に俺が得た情報の口止めをしたなら俺も狙われる可能性があったが俺は狙われていなかった。狙われたならそれはそれで好都合だった。
ペラペラと話すあいつは確かにされる側からしたら邪魔な存在だし良い見せしめになる。必要以上に掻き立て過ぎた末路だがそれよりあの噂が事実であると裏付けられた。
例の場所まで来たが誰もいない。目印へ近づき石畳の場所へ着いたが術を解かれた跡はなくここには来ていなかった。
もう一人あいつの次に殺された奴。関係があるなら一緒にいた魔術士だと思ったが違っていた。
調べを進めていくとヤツと一緒にいた魔術士が殺されたのでは無く指名手配中の生き残りの側近だった。
イルーセル、そんな名前だったか。今になって姿がばれて殺されたのならヒューズの殺し屋にでも殺られたかと思ったがハースで遺体が発見されたのには引っ掛かった。逃げ通せたなら逃亡し続けるはずだがわざわざ危険なハースで見つかるなど偶然にしては出来すぎだ。何か情報を掴んで舞い戻ったか呼び出されたかわからないがきな臭いな。
側近を殺るなどそれ以上の強さに自信がある奴しか挑まない。それにヒューズの奴なら捕らえるだろう。
これであの二人が殺されたとなればアーサー王と関わりがあるとしか考えられなかった。
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