夜の目も寝ず見える景色は

かぷか

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インセット編 

19 コール回想 ①

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 今でもあの事は昨日のように思い出す。どこで間違ってしまったのだろう。あいつと出会わなければ、いや伝授術士などならなければ。考えても戻れない。あいつの運命だったとしか思うほかない。 

ハース崩落後 ヒューズ某所

「アヤ、アイズが見つからないインセットと連絡とれるか」

「ああ」

 俺達はインセットと連絡をとりアイズを呼び出した。伝術士の主要メンバーの集合は久しぶりだった。

「アイズ、説明しろ」

 ヒューズがハースの国崩しを実行した。

 我々はそうならないために水面下で動いていた。ハースの経済事情に苦労していたのは知っていたし伝術士はお互い連携を取りつつできる限り争いを避ける作戦を取っていた。有利な情報をなるべくハースに回しアーサー王の采配に任せる予定で事が進んでいた。しかし、最悪の結果に至った。

 本来ならヒューズとウェザー両方と交渉し民を守りつつどちらかの国につく手筈だった。だが、交渉すら行わず一方的にウェザーについたのだ。それに怒りを表したヒューズが攻撃をした。

「アーサー王はこの情報を知っていたのか?」

「ああ。だが攻められてしまった」

「俺がもっと早くアイズに情報を伝えていれば交渉が密にとれ防げたかもしれない。アイズだけが悪いわけじゃない」

「アーサーにヒューズ王との対談日時を伝えたが聞く耳を持ってもらえなかった。説得できなかった。すまない」 

別の伝術士達が意見する。

「それは説得できなかったでは済まないぞ」

「何のためにお前がいる」

「待て。伝えたのにアーサー王が従わなかったのなら起こるべくして起こったのでは?」

「アイズ、本当に伝えたのか?」

「ああ、伝えた。責められて当然だ。俺がハースを滅ぼしたんだ。伝術士としての責任はとる」

「それは剥奪受け入れると言うことか?」

「ああ」

 ざわざわとなったが多数決となる。

「4:1決まりだ。アイズ、伝術士の剥奪を言い渡す。伝術士の他言ならびに全ての禁じ手の使用を禁止。罪を犯せば我々は牙を向く。以上」

「了解した」

 アイズはその場から居なくなったと同時に奥から声がした。 

「待って下さい!」

 アイズの弟子のインセットだった。

「お前に止める権限はない」

「なら、私の行動にも制限はありませんね」

「ない。お前は今まで通りだ」

「わかりました」

 そう言い残しアイズを追いかけてインセットは消えていった。残った四人はその場にとどまった。

「コール、アイズを調べろ」

「やはり気になりますか、俺もどうも気持ち悪い。アーサー王が交渉を蹴るなどあり得ない。何か隠してるかもしれません。インセットはどうしますか?」

「あいつはアイズを慕っている。もしかしたら今回、何か噛んでるかもしれない。一緒に調べてくれ。できれば気がつかれないように伝術士の仕事は引き続き継続させる。では解散」

「アヤ!」

「はい」

 近くにいたアヤを呼びアイズを調べることにした。アヤにはインセットを調べてもらうことにしたがアヤはアッサリといいのけた。

「インセットは白だ」

「なぜ、そう思う」

「白に白の証明は難しい」

「相変わらずお前のはわからん、いいから調べろ」

 こいつは俺が面倒を見てる伝術士のアヤ。でかい図体で基本無口。性格はちょっと意地悪な気がするが本人は悪気はないようだ。誉めても叱ってもあまり顔に出さないが気に入らないとたまに拗ねて目を空に向ける。

 仕事はきっちりこなすが必要以上には首を突っ込まないタイプ。アイズの所のインセットとは正反対の性格だ。

 ふたてに別れ俺はアイズを調べた。アイズも無口であまり話さない。あいつは俺と年が近く伝術士になった時期も似ている。お互い寄らず付かずの仲だが比較的俺とは会話をしてくれていた。そんな奴の身辺調査とは気が進まない。

 だが、今回はそうせざるを得ない。なぜかあいつらしくない結果だ。まるで剥奪を望んでいたかのような、何かシナリオの上を歩いているような感覚に陥った。

 ハース、ヒューズ戦は免れた筈だ。危うかったが俺の情報からは交渉次第では避けられると踏んでいた。アーサー王は平和主義、アーサー王らしからぬ行動に違和感がある。

 自棄になったのか?

 納得いかないな、いずれにせよ調べてアイズに話を聞く必要がある。
  
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