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第三部 最終
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律儀なあいつは一人で堂々とやって来た。こういう所は昔から変わらないな。
「よう、お前には失望したよ。まさかこんな事になるとはな」
「反論の余地はねぇよ。ヒューズにとって俺のした事は大損失で裏切り行為だ。すまなかった、じゃすまねぇ事も。ヒューズ国の王として育てたくなかった」
「いやいや、りっぱな息子に育て上げたのは間違いない。お前に託したのは正解だった。ただ、立派すぎだな。新しく国を作り王となったんだ。うまくやり遂げた」
「そうか」
「だが、責任はとってもらう」
「あぁ、そのつもりだ」
「ヒューズ国の王子にする役割は破られた。まさかお前が反逆者だったとはな…」
「あぁ」
「最後に言い残す事は?」
「シルバは良い子に育った。誇りに思う」
「……。」
ピッと血を払う。
「おい、すぐにアビサルに送れ!息子への誕生日カードも忘れるな。腕は処分しろ」
□□□
頭の痛い夜だ。
「で、見つかったか」
「顔も名前も変えられ行方まではわかりませんでしたが、その…元王との仲を知る侍女から話をきけまして。酷く怯えて城を早く出たいと言っていたそうです」
「愛人には話を聞けたか?」
「はっ、既に城を数年前に辞めており行方まではわかりませんが別の男性と婚姻したとききました」
なら、駆け落ちでもない。何に怯えていたんだ
「日に日に怯える王に侍女も恐ろしくなり関係は徐々に無くなっていったそうです。王が脅されていたのは間違いないかと思います」
いろいろと引っ掛かる。王そのものを辞めたかったのか?それとも俺の王になるまでの期限だったか?誰かと密約か命を脅かす弱み…どれも府に落ちんな
「引き続き調べろ」
王の部屋をくまなく探したが何もでてこなかった。書類は他国との協定の紙が残ったまま。
その日の深夜
月が綺麗だったような気がする。
静かな夜だった。
俺の腕の中でリヒトは寝ている。安心する。
あれ以来リヒトが近くにいないと落ち着かない。王になって今以上に一緒にいれるが…無性に不安が押し寄せる。
窓が空いている…?
「人の情事を覗くとはいい趣味だな」
「ふふ、だろ?」
男は音もなくいつの間にか部屋に入っていた。ここから姿は伺えないが恐らく自分の目先の壁に立っている。暗殺者なら一流だが何か雰囲気が違う。妙な奴だ…
「お前か…10年前の脅しは」
「ふふ」
「何だ、覗きがバレて帰る所か?」
「まさか」
「さっさと話せ」
「君は知らない事だけど君の父、前王と10年平和を取り付けてたんだ。その期限がきれてね。今この国は保証切れだ」
「10年前……魔獣のやつか。やはり親父は知っていたのか」
「察しがいいね。ただ知っていたのではなく教えてあげたんだよ。君の父上は察しは良くない、息子のしていた事すら知らなかったんだ。だが従順だ。自ら命を絶つこと無く息子に引き継いだのだから。さて、誰かがこの責任をとらなくてはならない。当然…ね?ちなみに…
俺達は許していない。
10年の猶予の先は王が自ら首を差し出すか息子が答えを出すだ。俺達はどちらでも構わない」
「で、俺の命を狙うのか」
「勘違いしないで欲しい。この世には女神がいてね。君はその寛大な女神によりこの10年、生かされていた。決して君のお父上の力でも横に寝る最愛でも、ましてやこの国の民が願ってそうなったわけじゃない」
「何が言いたい」
「女神は更に寛大でさ、お前の悪事をこの質問でちゃらにしてくれるとさ。俺達もそれに従う」
「なんだ」
「そう、急くなよ。夜は長いんだ。ここの広場に建ててある冷たい石の女なんかよりよっぽど美しくて平和を望んでいる。何故魔獣を使おうと?」
「お前らこそ女神を高くかってるんだな。その女神が何をしてくれたんだ?抱かせてくれたか?」
「俺の質問だろ?答えろ」
「魔獣を使えば簡単だ、金もかからない。すぐに決着がつく。くだらない領土戦が終わる」
「行き着く先は同じだが少々強引だな」
「綺麗事では終わらない」
「確かに、だが魔獣を使うのは許さない」
「なんだ、あいつらを神か何かと思ってるのか?狂信者か」
「彼らには関係のない事だ。住みかから離れる」
「離れたらなんだ、役に立つなら使えばいい」
君は何も知らないんだな。
どんな魔獣がいてどんな生態系でどう生活してるかなんて事も……。
魔獣は戦いの道具ではない。
「そうか…それじゃあ、女神の質問を」
「この国をどうする?」
「……こ」
「レグルス、心して答えろ」
雲が流れたのか月明かりが大きくなり男の姿がじわりと照された。
この日に月明かりは必要なかった。
その男の背後に黒い影が現れ大きく揺れる。目は魔獣のように光り俺を逃す事はない。手に握る剣はまるで鋭い爪をたてられたようで引っ掻かれればひとたまりもない。瞬きすらさせてもらえない中で押し潰されそうになり息が上手くできない。背中の汗がさっきから流れたままだ。
まるで……魔の森に裸で放たれたようだ
男は笑った。
ただ笑っただけなのに大きな牙をむいて今にも喰い殺そうとしている。
本当に女神がいるなら今すぐにでもすがりたい
「レグルス、女神はうまかったぞ」
「はぁ、はぁ、はぁ、俺は…俺はこの国を…」
「よう、お前には失望したよ。まさかこんな事になるとはな」
「反論の余地はねぇよ。ヒューズにとって俺のした事は大損失で裏切り行為だ。すまなかった、じゃすまねぇ事も。ヒューズ国の王として育てたくなかった」
「いやいや、りっぱな息子に育て上げたのは間違いない。お前に託したのは正解だった。ただ、立派すぎだな。新しく国を作り王となったんだ。うまくやり遂げた」
「そうか」
「だが、責任はとってもらう」
「あぁ、そのつもりだ」
「ヒューズ国の王子にする役割は破られた。まさかお前が反逆者だったとはな…」
「あぁ」
「最後に言い残す事は?」
「シルバは良い子に育った。誇りに思う」
「……。」
ピッと血を払う。
「おい、すぐにアビサルに送れ!息子への誕生日カードも忘れるな。腕は処分しろ」
□□□
頭の痛い夜だ。
「で、見つかったか」
「顔も名前も変えられ行方まではわかりませんでしたが、その…元王との仲を知る侍女から話をきけまして。酷く怯えて城を早く出たいと言っていたそうです」
「愛人には話を聞けたか?」
「はっ、既に城を数年前に辞めており行方まではわかりませんが別の男性と婚姻したとききました」
なら、駆け落ちでもない。何に怯えていたんだ
「日に日に怯える王に侍女も恐ろしくなり関係は徐々に無くなっていったそうです。王が脅されていたのは間違いないかと思います」
いろいろと引っ掛かる。王そのものを辞めたかったのか?それとも俺の王になるまでの期限だったか?誰かと密約か命を脅かす弱み…どれも府に落ちんな
「引き続き調べろ」
王の部屋をくまなく探したが何もでてこなかった。書類は他国との協定の紙が残ったまま。
その日の深夜
月が綺麗だったような気がする。
静かな夜だった。
俺の腕の中でリヒトは寝ている。安心する。
あれ以来リヒトが近くにいないと落ち着かない。王になって今以上に一緒にいれるが…無性に不安が押し寄せる。
窓が空いている…?
「人の情事を覗くとはいい趣味だな」
「ふふ、だろ?」
男は音もなくいつの間にか部屋に入っていた。ここから姿は伺えないが恐らく自分の目先の壁に立っている。暗殺者なら一流だが何か雰囲気が違う。妙な奴だ…
「お前か…10年前の脅しは」
「ふふ」
「何だ、覗きがバレて帰る所か?」
「まさか」
「さっさと話せ」
「君は知らない事だけど君の父、前王と10年平和を取り付けてたんだ。その期限がきれてね。今この国は保証切れだ」
「10年前……魔獣のやつか。やはり親父は知っていたのか」
「察しがいいね。ただ知っていたのではなく教えてあげたんだよ。君の父上は察しは良くない、息子のしていた事すら知らなかったんだ。だが従順だ。自ら命を絶つこと無く息子に引き継いだのだから。さて、誰かがこの責任をとらなくてはならない。当然…ね?ちなみに…
俺達は許していない。
10年の猶予の先は王が自ら首を差し出すか息子が答えを出すだ。俺達はどちらでも構わない」
「で、俺の命を狙うのか」
「勘違いしないで欲しい。この世には女神がいてね。君はその寛大な女神によりこの10年、生かされていた。決して君のお父上の力でも横に寝る最愛でも、ましてやこの国の民が願ってそうなったわけじゃない」
「何が言いたい」
「女神は更に寛大でさ、お前の悪事をこの質問でちゃらにしてくれるとさ。俺達もそれに従う」
「なんだ」
「そう、急くなよ。夜は長いんだ。ここの広場に建ててある冷たい石の女なんかよりよっぽど美しくて平和を望んでいる。何故魔獣を使おうと?」
「お前らこそ女神を高くかってるんだな。その女神が何をしてくれたんだ?抱かせてくれたか?」
「俺の質問だろ?答えろ」
「魔獣を使えば簡単だ、金もかからない。すぐに決着がつく。くだらない領土戦が終わる」
「行き着く先は同じだが少々強引だな」
「綺麗事では終わらない」
「確かに、だが魔獣を使うのは許さない」
「なんだ、あいつらを神か何かと思ってるのか?狂信者か」
「彼らには関係のない事だ。住みかから離れる」
「離れたらなんだ、役に立つなら使えばいい」
君は何も知らないんだな。
どんな魔獣がいてどんな生態系でどう生活してるかなんて事も……。
魔獣は戦いの道具ではない。
「そうか…それじゃあ、女神の質問を」
「この国をどうする?」
「……こ」
「レグルス、心して答えろ」
雲が流れたのか月明かりが大きくなり男の姿がじわりと照された。
この日に月明かりは必要なかった。
その男の背後に黒い影が現れ大きく揺れる。目は魔獣のように光り俺を逃す事はない。手に握る剣はまるで鋭い爪をたてられたようで引っ掻かれればひとたまりもない。瞬きすらさせてもらえない中で押し潰されそうになり息が上手くできない。背中の汗がさっきから流れたままだ。
まるで……魔の森に裸で放たれたようだ
男は笑った。
ただ笑っただけなのに大きな牙をむいて今にも喰い殺そうとしている。
本当に女神がいるなら今すぐにでもすがりたい
「レグルス、女神はうまかったぞ」
「はぁ、はぁ、はぁ、俺は…俺はこの国を…」
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