夜の冒険者は牙をむく

かぷか

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第二部

12 ソード ①

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第3深層後半

「特に変わりはないな」

「そうだな」

「後ろから2体来る」

 3深層後半から第4深層を遠くまで覗く。ソード達は不穏な動きが無いか情報を集めていた。
後ろから来る魔獣を三人で倒そうとしたら遠くから緊急音と人が飛び跳ねるのが見えた。

「あれ!」

「お前らは帰れ。見てくる」

目を薄めソードが真剣な顔しながら双剣を握る。

「「俺も」」

「駄目だ。わかってるよな、すぐ帰れ。今なら二人でも帰れる。夜になったら厳しくなる」

「「……。」」

「行け!後ろにいるやつ任せたから二人で頑張れ!」

「「わかった」」

「んじゃあ、後で!」

「「うん」」

 ソードは飛び降りて音のした第4深層奥へ駆けて行った。
 目星をつけた場所で倒れた人を探す。ほどなく冒険者は見つかったが既に息が途切れた後だった。衣服をあさるが身分を証明する物が何もない。

「おかしい…」

何だ…見た目は普通の冒険者に見えるが情報が少なすぎる。しっかり調べたいたが時間がないな。第4半ばをこいつ一人で来たとは思えない。相方は何処だ…クソ、夜になる駄目だ帰る。

 帰ろうと木に飛び上がる途中に地面から根のような物が下から飛びでてソードの足首に絡み付いた。さっきの死体は根に絡まれ土に半分埋まり始めていた。

剣を振って足の自由を作るが魔獣が追いかけてまわし森の深くまで入りこむ。やっと逃げた先に巨大な魔獣がでてきてソードの体に殴りかかった。

「4深層後半まで来たか…」


□□□〈レイとロキ〉

「ロキ大丈夫か?」
「はい」

 息を切らしながら第2深層まで戻る。多くは逃げながらだが何とか夜でも安全を確保できそうな場所まで来た。

「念のためここもすぐ出る」
「わかりました」

森の入り口で待つことも考えたがソードが戻るには時間がかかると思い森を出て宿に来た。とは言え第3深層後半から魔獣の相手をしながら下るのは時間がかかり帰宅できたのは深夜だった。

「怪我は?」
「切り傷と打ち身程度です」
「見せて」

そこまで酷くなくレイは安心した。

「レイさんは?」
「俺はロキが盾になってくれたから擦り傷程度」
「そうですか」

沈黙になる。

ベッドに座るがかといってくつろげる気分にもなれなかった。

レイが口を開いた。

「ロキ先にシャワー浴びてこい、何かあったらすぐ出掛けるようにしとこう。俺も準備する」

「はい、わかりました」

 ソードならこういう時どうするかレイは考えていた。今まで一緒に行動してきた経験を無駄にはしないし、こんな時がいつかあると心の備えをしてきた。何かあったらすぐ出れるようにするだろうし自分達が危険に晒されないように余念がないはずだと。

 いつでも出れる準備をして二人は部屋でソードを待った。しかし、朝になってもソードは帰って来なかった。

 次の日も宿に戻る事はなかった。

 空気が重くなりお互いに考えたくも無い最悪な事が次々頭に浮かぶ。

「レイさん、探しに行きますか?」

「…いや。俺らにその力はない」

「はい…」

 二人で第3深層ギリギリなのに第4深層でソードを探すなんて到底無理な事。ロキもわかってはいるが、いてもたってもいられない気持ちになって口にだした。レイも自分に言い聞かせるように答えた。

 今、一番してはいけない事は自分達の命をかけても探し出すことだ。待つ以外何もできない苛立ちと苦しさを痛感した。

 その日もソードは戻る事は無かった。


 無言が続く部屋のドアにスッと紙が挟まれた。
僅かな変化すら二人には有りがたかった。
レイが紙をとりドアを開けるが誰もいない。

すぐに紙を見る。

 【 風の森 廃屋 双剣 】

とだけ書かれていた。
ロキに紙をすぐ渡す。

「レイさんこれ!」

「ソードの事で間違いないが…捕まったのか?」

「無事なんですか!?」

「いや、これだけじゃわからない。ただ俺達とソードが組んでいる事を知っていて、この場所もわかるって事はかなり手練れだ。ここをソードが教えるとは思えない。でも、生きている可能性はある」

「はい」

 この文面から親切に保護されたとは考えづらい。属や暗殺者ならこんな事をせず殺してる。

 何かに巻き込まれたのか…罠か?

 俺らも捕まえる気…ならとっくにされてるな。
 交換条件?どちらにせよ行く以外ない。

「ロキ行くぞ」

「はい!」

すぐに部屋を出て森へ向かった。

「ロキ、ソードが捕まるなんて相当だ。もし手元に来てもここへ来るまでは気を抜くなよ」

「はい、わかりました。誰なんでしょうか…」

「わからない。あと一応…最悪な事まで考えとけ」

「…わかりました」

 ソードという形だけが残っている可能性もある。心構えは必要だった。自分も口に出さないといざ見たときに耐えれないかもしれないとレイは思った。

 言いながら苦しくなる……
 頼むから無事でいてくれ…

 ロキもレイに言われ不安で仕方なかった。ソードがいないだけでこんなにも気持ちが落ち着かないなんて怖くて怖くて仕方がなかったのはきっとレイも同じだと感じた。今はこの紙1枚にすがるしかない。

 無事でいて欲しい


 風の森は昔、領土戦があった森の一つ。大きな廃墟が2.3棟あるぐらいであまり人は寄り付かない。その場所には噂があり、人体実験をしていただの拷問部屋だったなどといろいろだ。

 風の森に人が入ると消えていなくなる、悪い事をすると風の森へ連れて行くと大人達は子どもに言い聞かせる話でもあった。
実際に何度も何度もそこでは行方不明者が出ておりいつしか近付く人は誰もいなくなった。

「ここだな」
「はい」

 暗い大きな廃墟に入ると半分以上は崩れていたり瓦礫で足場が悪かった。周りは森に囲まれ空気も冷え冷え、誰かが連れていかれても気がつかないぐらい不気味な場所だった。

 カチリと音がしたため音のする方へ二人は向かう。また、カチリと音のする方へ向かわされた。建物を抜けて開けた中庭にでる。その先を通り抜けると広いホールのような場所に入った。

周りを見ると幾つか部屋があるようで窓は曇りガラスなのか部屋の中までは伺い知れなかった。

 一つドアが勝手に開き誘導される。声が響くであろう高い天井の部屋に入ると不自然に机に置かれたソードの防具があった。

 二人は無言で待った。

 どれぐらい時間が経っただろう。
 緊張と警戒で短くも長くも感じた。


 ドアが突然開く。

「お待たせ」

 包帯姿のソードが部屋に入り後ろからは見慣れない男がついてきていた。無表情のまま真っ直ぐレイとロキを見る。

「ほら、ソード君行っていいよ」

 一歩も動かないソードに「じゃあ、遠慮なく」と言いぎゅっと抱きしめキスをした男に二人は牙をむけた。
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