夜の冒険者は牙をむく

かぷか

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80 レイの家再び ⑧

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 すぐに二人が駆け寄り無事を確かめる。体に何かされた形跡はなかった。

「何かされてない?」

「全く」

「本当に?」

「本当に」

「逆になんで?どう見ても怪しかった」

「レイが教えてくれたは効果絶大だった」

二人は顔を見合せ、頭に「?」を浮かばせた。



 約束通りテラスで食事をしたのはルーベンが自分に手は出さないと確信していたからだ。一方ルーベンはどうにかソードの面の皮を剥がそうとしていた。

 前日にお菓子の封を開けた時に見せた笑顔がきっかけだった。だが、その日の夜に結婚を認めた時もその後、研究室でしたのと同じようにお菓子を渡したのにも関わらず無表情だった。

お菓子を与えればいいわけではないのか…
どうしたらあの感情が味わえる…

いつも研究室で捕まえた魔獣をすぐに殺してしまわない、もっと知りたいという欲求が先にくる研究家の心理と言えば心理。

「そう言えば、研究員を庇った時に思ったが君は冒険者として優秀なんだね」

「他と比べた事がないのでわかりません」

「組んだり、討伐で力を測ったりしない?」

「そうですね、レイさんとロキ以外で長く組んだ人はいませんから。後、討伐依頼は選んでます」

「へぇ~どんな依頼を受けているんだ?」

「薬草依頼が主です」

「薬草。へぇ~何でか聞いても?」

「生態系の基本ですから」

 なるほど……だから、冒険者として名前が上がらないのか、面白い。まだ誰も知らない冒険者か…見つけものだ。

ソードが他と違えば違う程ルーベンは興味が湧く。

「では、その基本に君は逆らう事になるね」

「……。」

「男同士では生態系が崩れてしまう」

「そうですね」

「基本に忠実ではないのかな?」

「はい、忠実でいる必要はないです。年間幾つもの新種が生まれるのも基本に忠実ではないから起こりうる事実です」

「ふふふ、そうだな」

 自分の手元に置けない事はわかっているのに、もし手にはいったらと妄想が膨らんでゆく。そして、昨日のソードの発言「自分で本心を引き出せない」そんな魅力的な言葉は本心を引き出させてみろと聞こえた。彼の心を引き出させるとしたらどんな心情になってしまうのか知りたくて必死に探りをいれていた。

そんな邪な事を考えいるルーベンをよそに、本人は何を考えていたかというと…利用しようとしていた。
 
 昨日、自分を殺さなかったのは自分に興味が有るからだとふんだ。そこで自分がルーベンの最後のレアコレクションになれば彼からの危険を回避できると。更に上手く扱えば属が自分たちの命を狙らう事はなくなる可能性が高いと考えた。

「キミはいいね。私にも君を分けて貰えないだろうか」

「というと?」

「私に忠実でない君を味あわせて欲しい」

「言っている意味がわかりません」

「シリルには話さない」

「奥様に聞かれるとまずい内容ですか?」

「いや…どうしたら君と…」

「何か?」

 自分の意に反してレイ達の結婚を認めたのは、自分との関係を欺く為めでもあったがレイからソードを離してしまえば一生会えなくなるからだとも考えた。だから、自分の家名に取り込んでレイを使ってまですぐに逃げれないよう縛ろうとした。

そこまでしたのに今ここで機嫌を損ねてしまったら折角手に入りそうなレアをみすみす逃がしてしまう。そんな事が頭によぎっていた。

喉まででかかっている決定的な言葉がいえない。既婚者にその言葉は御法度だからだ。

「君をもう少し知りたいのだが」

「はい、なのでこの食事で二人の時間をとりました」

「そうだが…」

「美味しかったです。またがとれるといいですね」

「それはよかった、またをとろう」

お菓子の笑顔につれたのはソードの知れぬ所ではあったが、二人の時間をとるのはソードにとってルーベンを上手く操作する時間でもあった。ソードを取り込もうとした時間が逆に自分が釣られる材料になってしまった事に本人は気がつくはずもなく。
 
 自分を殺そうとしたルーベンを生かさず殺さずで扱おうと決めたのだった。

 帰り際に頬を撫でようと試みたルーベンに釘を刺した。確実に抑え込めるレイの教え。

「それは信仰に反します」

 触ろうとした手をスッと引っ込める。
ずっと信仰してきた自分の信念が最後にいつも邪魔をして手を出せないのだった。

「そうだったな、また必ず時間をとってくれ」
「わかりました」

自分に信仰心がなければ容易く触れれただろうと考えてしまったルーベンだった。

□□□

「ってな感じで上手くいった」

「「全然いってない!!」」

やはり、男の勘は当たっていたと二人は思った。

レイは父親が自分の結婚相手にちょっかいを出そうとしたことに鳥肌が立ちソードに抱きついて離れない。ロキは次に同じ事になればレイには悪いが殴り込みにいくといっていた。

ソードは呑気に今回上手く言って良かったなと考えていた。レイのように覚悟も無いし、全部捨てて自分を選ぶ事もない。それに、根付いた信仰が彼の忠実な基本を乗り越えさせないからだ。軽い火遊びで命の保証が確保出来るなら安いもんだなと思った。

ルーベンはレイの自由さが今頃羨ましくてしょうがないだろうな~。

「あ、そー言えば。また時間とるって約束したな」

「「もう、絶対だめ!!」」

怒られたがこれが一番丸く治まり結婚を認められたのでいいのではと思っていた。二人をなだめつつ、一応解決したかな?と思い明日帰る事にした。

□□□

 あれから結婚をルーベンが容認した事でシリルとメアはしぶしぶ了承した。それについてはレイはただの報告に来ただけだったので二人が認めようが認め無かろうがどちらでも良かった。それよりも、属から二人を狙われない事の方が今回の最大の課題だったがそれもルーベンが結婚を認めた事で大丈夫だとソードは言った。

「じゃあ、帰る」

「ソード君とロキ君もまた来なさい」

「「はい」」

「レイ、また来なさい!!絶対よ!」

「そんな事より親父どうにかしろよ。ソードに手、出しに来たぞ」

「え?」

「レイ、やめなさいシリルが誤解する。食事しただけだ」

「俺達のソードに手を出した罪は重い、母親に弁明でもするんだな」

レイはソードを引き寄せた。

「ソード君!食事しただけだと言ってくれ!」

「あ、お菓子沢山ありがとうございました」

「あなた?」

ペコリと頭を下げレイに腕を引かれなが門へ向かった。ロキもペコリと頭を下げてた。

「ロキ君~また来て~ゆっくり話そうね~」
「はい」

メアの後ろにいたハイルがレイに駆け寄る。

「兄様、結婚おめでとうございます」

レイはビックリしたが喜んで頭を撫でながら「ありがとう!」と笑顔でいった。

嵐のように騒がし家族の元を三人は後にした。
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