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40 レイの家 ③
しおりを挟む久しぶりの実家は変わらずレイの気持ちを沈めた。どこからかお祈りとお香の匂いがする。研究室に顔を出さなければならないが全く乗り気じゃなかった。この匂いのきつさにも理由があるからだ。
レイは気分転換もかね友達に会いに行く事にした。ウェザーの端にある「レゼルバ」という街は魔術士には好奇心そそる研究施設がいくつもあり若い人にも人気な街の一つ。
その研究施設にレイの友人の何人かが働き住んでいた。学校時代からの一番仲の良かった友達に、何年かぶりに会う。普段なら会いに行く事はないが、前にソードがいっていた事を思い出す。
施設に着くと受付で自分の名を出して呼んでもらった。遠くからピンク色のふわふわした髪の男が来た。
「うわ!レイ、本物久しぶり!」
ソードと同じぐらいか少し小さいこの男は、ミイナ=カシュー。白い服に大きな目で可愛らし雰囲気の持ち主だ。
「久しぶり、何か会いたいから会いに来た」
「!?」
「ビックリするなよ。忙しい?」
「あーぼちぼちだけど、今から切り上げれるよ」
「いいのか?」
「いいよ!」
魔術学校からの付き合いでずっと一緒だったが17歳の時にレイが冒険者になるのを幾に別々の道にすすんだためなかなか会えないでいた。
「どーしよっか、どっかお茶でもする?」
「そうだな」
レイはミイナに自分が冒険者になった話や住んでいる場所などいろいろ話した。ミイナも、自分がそのまま研究者になり魔術の研究を進めている近況を報告した。久しぶりに学生時代の感覚を思いだし時間を忘れて過ごした。
しばらく、そんな話をした後にミイナが何気なく聞いた。
「レイの家族も元気?」
「……。そうだな、相変わらずだった」
「そっか、そうだね」
ミイナはレイの状況を少なからず知っていた。だから冒険者になるとでていったレイを応援したし、好きなようしたらいいと思っていた。そのレイが戻って来ているからには、何かあるのだろうと心配になった。
「レイ、何か相談あるなら聞くよ?聞くしかできないけど」
「…。そうだな、相談というよりは変わらない事に不安を感じてる。俺のうちは何を言っても変わらないなって」
「何か言ったの?」
「ほっといて欲しいって話した。さっき話した冒険者いるじゃん。アイツをほっといてくれって」
「そっか」
「でも、全然話にならなかった。一緒にいるのって難しいな」
「でもさ、僕の時もそうだったじゃん。レイと違う属だけど、友達でいられてるし。会いにこれてるし」
「そうだな、友達だとそこまで厳密にダメとかじゃないんだよきっと」
「友達だとって事はレイの今、好きな人その冒険者の人?だからか~」
ニヤニヤとしながらレイを見る。
「そっちのが気になる!教えてよ~」
「あーちなみに今好きなじゃなくこの先ずっとだからな」
「ギャー!レイがレイが、変わってく」
「うるせ」
「まさか、結婚報告?」
「違う、まだ返事もらってない」
「ギャー!プロポーズしてんじゃん!てか、返事まだって即答じゃなかったの?あの、レイだよ?レイ様だよ?」
「うるせ。だから今必死になってんだよ」
「マジか~レイが好きな人の為に必死になるなんて~。どんな人?」
「んー変な人」
□□□
「ヘクチっ!」
「何だソード風邪か?」
「あ?違うだろ。多分」
レイがいなくなって2週間以上すぎ、ソードはレオの所に来ていた。ロキを気にかけ学校に顔を出したが、忙しすぎて会えなかったのでここにきた。レオが書類を片付けている最中、お菓子を食べながら窓の外を見ていた。
「ソード、ロキなら大丈夫だぞ。ぶっちぎりで校内で一番強い」
「んー」
「なんだ、それが聞きたいんじゃないのか?」
「んー気になるのはそれじゃない」
「あー忠誠心とか、そーいうやつか?」
「そう、うまく誤魔化せたとしてそれが重荷になってないか?」
「相変わらず変な所を気にするな。大丈夫そうに見えるがな。お前とは違うしロキが強いのも、うまく隠せてるから心配すんな」
「なら、いい。少なくとも俺と関わったから、性格が偏屈になりそうで」
「お前自覚あったのか」
「うるせ!」
「ははは、ロキはまっすぐで教えやすいよ。なぁ、レイは暫く帰らないんだよな?いいのか?」
「何が」
「いや、何かあんじゃねぇの?ソードから離れたがらなかっただろ?」
「まーアイツが自分で決めた事だし待つさ」
「お前、さっきから何窓見てんの?」
「そりゃ~お客さんだよ。わざわざウェザーからお越しの」
「あ?」
□□□
昨日はミイナに話して少し気が楽になった、俺の話ばかりして悪かったな。次はミイナの話を聞いてみたいから帰る前にもう一度会いに行くか。
さすがに今日は研究室に顔を出すか…
俺は門を出て父親のいる棟へ向かった。棟は地上4階建ての地下が3階で、地下には限られた人しか入れない。受付を済ませ、地下へ降りた。地下の2階と3階は父の研究室で人もまばらだ。やけに明るい部屋なのも気にさわる。
「来たか、見ろ!すごいだろ!」
前よりも沢山の研究サンプルや道具が置かれていた。
「魔術を使いあらゆる可能性に導き、我々の発展を開らこうとしている。これも信仰あっての事だ。来なさい」
俺の背中に手をかけ奥へ進む。
魔獣だ。
魔獣を使い研究をまだ続けている。
「この魔獣は強くてなかなかどの魔術士も手をやいている。お前ならできるだろう」
魔獣は鎖につながれて身動きが取れない。何度も攻撃を受けたのだろう所々傷がある。吐きそうだ。いくら研究向上の為とはいえ、抵抗できなくさせてからじわじわ殺しそれをデータにとる。
「……。」
「さぁ、昔みたいにできるか?いろいろ試せばいい」
「……。」
ソードがハブウルフを倒した時を思い出す。アイツなら、絶対にこんなことしない。ソードはこれを知ったらどう思うだろう。こんな事をしている俺達をソードはどう思う。
『行ってこい』
出かける時にソードに強く抱きしめられた背中を思い出す。
父親の背中の手を払い魔獣を氷魔術でスパリと切った。
「なんだ」
父はあっさり斬った事にそんな言葉をなげかけ、残念そうだった。レイは腰にある剣で魔獣の鎖を全部切り離してやった。
「その剣まだ持ってたのか」
嫌な言い方だ。
「ベルがくれたから」
「そうか、お前が長らく帰らないなからあいつにいてもらう必要もなくなったからな。暇を与えた」
「そうですか」
「レイ、また強くなったな~」
俺は答える事なく研究室をでていった。
吐きそう。やはり何も変わってない。
いや、ベルが居なくなったか…
早くソードに会いたい…
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