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4 ソードとレイ ②
しおりを挟むあれから俺は鬱々と日々を過ごしていた。
どうしても、あいつに会いたくて冒険者が居そうな所や聞き込みもした。討伐依頼も何件か受けて探し回った。
全く手がかりは見つからなかった。
この街は大きくも小さくもない、かといって田舎でもなくそこそこ栄えた「ダンケル」という街。商業、工業もあって割と住みやすいと評判だ。
「はぁ…」
「よぅ!まだ探してんのか?」
「まーな」
冒険者の依頼表を見て、ため息をついた俺にセドリックが話かけてきた。こいつは同じ冒険者で歳は1個上。何回か討伐も一緒にこなすうちに気の知れた中になった。
「もう、だいぶ経つぜ。あれから、何かわかったのかよ」
そう、あいつを探し続けて1年が経とうとしていた。俺は19歳になり冒険者を続けていた。それなりに生活に困らないぐらいは稼げるようになっていた。そして住み着く予定も無かったこの街にまだすがっていた。
「さっぱり」
「そうか。にしてもお前の力をもっても探しだせねぇとはな」
「どー言う意味だ」
「知らねぇのか、その美貌を持てばありとあらゆる情報が入ってくるってな」
「あ?美貌て…からかうな」
「この街でお前の顔を知らねぇ奴は居ねぇよ。逆に言ったら知らねぇ奴はこの街出身者、もしくは移住者じゃねぇからな」
俺は、はんっと乾いた笑いをした。
「だったらもう、居ねぇかもな」
少し諦めかけそうになる自分に、言い聞かせるように言。
「まーまだわかんね~だろ?おっと、わりぃ」
ちょっと体制を変えたセドリックの手が人に当たった。
「いえ、こちらこそすみません」
ん?ベージュのフードを被ったやつが謝った。まさかな?あんな、普通な感じじゃないしフード黒じゃないしな。そーいや今の奴眼鏡…してたか?
そんな事を考えていたら、そいつはそそくさと行ってしまった。
「おい、レイ最近できた菓子屋しってるか?すげーうまいらしいぞ!午前中で売り切れるらしい」
「へー甘いの食わないのにそんな情報あるなんて珍しいな」
「ふふ任せろ、あまりの美味しさからいろんな街からそれを食いに集まるんだとよ!そしてだ、その向かいには俺の行きつけの武器屋!なんとそこに新しい武器が入った!!」
あ、そーいう事。
「てことで、見に行こうぜ!」
こいつ、武器マニアだったな。そして、今日は暇なんだな。
「んじゃ、いくかお菓子屋」
□□□
すげー列
何人並んでんだ?20人はいるな。
「まだ、昼前だぞすげーな」
「だろ?まだ、空いてる方だな。一昨日のが凄かった。オープンだったからな」
武器屋の中から窓の外をみて、俺たちは話した。
「あんなに沢山女の子いるなら、1人ぐらい俺に持ってきてくれねぇかな」
「あ?何言ってんだ。あそこで並んでるやつはほぼ自分の為に買ってんだよ。甘党なめんな。それに、男もチラホラいるぞ」
「だな、お前買わなくていいの?甘いの好きだろ?」
「あ~好きだけど、もちょい空いてか……ら」
俺はなんとなく列を見ていた。本当になんとなくだ。あのフードのやつ、さっきの奴か?丁度いい念のため確かめるか。フードに手をかけて…とったか。黒髪……眼鏡?っと思うと同時に駆け出してた。
「やっぱ買いにいくのか~」
セドリックの声が後ろから小さく聞こえた。
□□□
丁度買い終わって店から出た所だ。間違いない、近づくほど確信になる!
ヤバイ、何て話す!「おい!」は絶対ダメだ!
初手でビックリされて逃げられる!どうする!!
「こんにちは」は、さすがにねぇな!
ダメだ話したいことがありすぎる!!
くそぉ、嬉しくて口元がにやける
パニックになりながら必死で考え出された俺の脳の答えは、うれしさを最大限に表現するしかないと行き着いた。
言葉や、バグ以上の喜び方法。外で人からみられてもギリギリ許される表現行動!
俺は声も掛けず、そいつの腰を抱えこみ、盛大に見ず知らずの人の前で公開処刑をしたのであった。
ぶちゅ…
俺はうれしさの表現を間違えたようだ
黒目が驚いて少し大きくなる
思わず俺は
「わりぃ」
と言ったのであった。
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