社会人が異世界人を拾いました

かぷか

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二つの領土

6 ソルトと側近バレンシア ②

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数日後

 城内の最高位護衛広場で待たされた。

 やまと様は雪山で遭難中にフィグル王に発見されナグマに来た。てっきり松君様も異世界と繋がる雪山から城に来るのかと思い城門での出迎えと思っていたが違っていた。ソルト様曰く深夜に隠密に来ることが多く今回も人知れず既に城に来ている模様。どうやって来たかは考えるだけ無駄だ。当然お泊まりの部屋の場所は教えて貰えなかった。どこなのか考えていたら辺りが急に物々しい雰囲気になる。私はチリと目を合わせ気合いを入れた。ソルト様指名の最高位護衛が私たちに合図をする。

【お見えになられました】

 フードを被られた松君様の隣にソルト様のみ。
最高位護衛もいるがかなり離れている、あんなにも綿密な稽古をしている割りに手薄だ。だがこの最高位護衛はどこか結託しているように見え他の護衛と雰囲気が違う。松君様には指一本でも触れさせないといった気合いの入った様子。

 遂にお姿が見られると思ったが頭からフードを被り全身ローブに身をまとっていた。松君様を僅かな外見だけで情報を汲み取るなら思った以上に華奢な体つきに見える。ナグマの平均身長より低い。我々の前で止まられたので瞬時に膝を付いた。

「ソルト」

「とら様、大丈夫です。先ほどお伝えしたジーバル領土の護衛候補のものです」

「わかった」

 やっとの思いで聞けた声は普通だったがどことなく妖艶な雰囲気で影のあるお方だと思った。こういう相手は嫌いではない。不思議なのはソルト様に首輪をつけてその紐を手に持っている事だ。なんという見慣れぬ光景。それに寡黙な方なのかソルト様の会話に一言三言返事をしてるだけだった。残念だがこの距離だと内容までは聞き取れない。

それにしても護衛のピリピリとした緊張感とは正反対のなんともソルト様の和やかな様子。この感じなら無事に終わりそうだ。

 許可を経てやまと王妃の部屋に続く廊下の一角まで護衛をする。にしてもやまと様のご友人にも関わらず現れたのは下層。つまりその周辺に滞在するお部屋があるということだが少し行けば一般に近い場所、どういう扱いなのだ。この階層は確かに厳重なのはわかるが少々不思議な場所に位置している。

 案の定やまと様に会いに行くには一部一般の廊下の近くを渡らねばならない。もっと上階層でやまと様に近い部屋で良いのではないのか?わざわざこんな遠い場所にお泊まりとは。

 一般の廊下に近づくにつれざわざわと騒がしくなった。なんだと思っていると別の最高位護衛達が必死に城民をこちらにこさせないように押さえていた。そして、周りの最高位護衛が構えをした。

「ソルト様、なんですかあれは…」

「クズです」

「「は?」」

「いえ、失礼しました。とら様を一目見ようと願う者達です」

「松君様~!!」
「どうか私を踏み台に!!」
「最強の調教師様~鞭を!」

 訳のわからないことを皆が叫んでいる。と、一人の男が護衛の目を盗み飛び出した!と思ったら壁に飛ばされていった。

 何事かと思いソルト様を見ると恐ろしい目でそいつを見ていた。どうやら瞬時に蹴り飛ばしたようだ。

「そ、ソルト様?」

「蹴ってください」

「へ?ですが…」

「殴っても構いません」

「よ、よろしいのですか!?」

「構いません、輩ですから。それよりもとら様に不快な思いをさせないことの方が大事です」

 最高位護衛も激しく頷いている。どういうことだ。松君様が城民に狙われているということなのか?

「バレンシア様、チリ様、これができないようでしたらお帰りいただくしかないです」

「いえ、やります」
「はい、私も!」
 
 確かに私の仕入れた情報では松君様は人気が高いと聞いた。その行動を見たものは心奪われるのだとか。調教師と何か関係があるのか?それとも淫乱が発動するのか?チリと目が合うがお互い良くわからずの頷きをして言われるがまま構えた。お守りする項目の一つとなれば勿論やるのだがナグマで一体何が起きているのだ。

「躊躇しないでください、次々きますから」

「「わかりました」」

 三人が何か叫んで迫ってきていた。私もチリも一撃で仕留める。一人見失ったと思ったらソルト様が率先して足殴りをしていた。

 だ、大丈夫だろうか?

「ソルト、やめろ」

 紐を引っ張り松君様は自分の元にソルト様を引き寄せると足蹴にして…足蹴に!?

 グッ、なんだこの感覚は

 屈辱?哀れみ?不快?

 どうやらやりすぎを注意された様子。ピリッとした空気になるのかと思いきや周りからは何故か歓喜の声が上がった。

「なんでしょう、バレンシア様!皆さん喜んでるように見えます!すごい歓声です!」

 紐がギシギシとしなっている。あのソルト様がいとも簡単に膝をつかされている。思わず私もつられて膝を着こうとしたら、フードから覗く松君様のソルト様を見る瞳を見てしまった。


 ビビビビビー!!


「やりすぎなんだよ。おい、さっさと行くぞソルト」

「はぃ、とら様」

 すぐに紐を引っ張りソルト様と一緒に立ち去る松君様。衝撃から我に返り中腰だった自分の姿勢を正した。……他の者に見られてはいないな。周りを見ると護衛が怒鳴り散らしていた。

「お前らさっさと帰れ!!牢屋に入れられたいのか!!」

「今日は四人か、松君様のフード姿も痺れるな」
「でもやっぱり俺は顔を見たい。あの視線を俺にして欲しい!」
「嗚呼~あの紐で強く引っ張られたい。俺を一日中足置き場にしてくれないかな~ソルト様が羨ましすぎる」

「お前達いい加減にしないか!!毎回毎回、松君様は見世物じゃないぞ!!」

 なんということだ…

 皆、あれを期待しているのか
 あんなものが…良いなんて…信じ…られない!
 だが…皆が嬉しそうにしていた…

 あの紐で…
 
 私としたことがソルベ様以外にこんな感覚になるとは…

「バレンシア様!バレンシア様!」

「あ?」

「護衛!置いてかれます!」
 
 しまった!

 走って追い付き護衛場所までの任務をした。淫乱という能力が発動したのか!?それともあれがもしや調教師という職業なのだろうか…いや、ただソルト様をお叱りになっただけだ。そう自分に言い聞かせ職務を終えた。

 我々は護衛が終わると別部屋に待機するようにと言われた。

「バレンシア様、さっきの凄かったですね。とんでもない人気ですね。何だかまだ興奮してます。さっきからソワソワしてどうされたんですか?」

「いや、私としたことが柄にもなく緊張していたようだ」

「わかります!初めて松君様と会えましたもんね!もしかしてソルト様よりお強いのでは?きっとそうです!あの人気の高さは調教師様ならではですかね。もし、あんな方をお守りできたなら嬉しいです!」

「え、ええ。我々にはその責務があります。チリ、貴方はソルト様と松君様の関係をどう思いますか?」

「とても信頼していると思います。側近とお世話係、両方なんて凄いです!」

 信頼なんて生易しいものではない。まるで楔のような切れない何かを感じました。それにしてもなんでしょうこの味わったことの無い感覚は。

「…そう、ですね」

コンコンコン

 ノックの音に私の心臓に緊張が、先ほどの衝撃で少し護衛として遅れをとってしまいましたからそれについて何か言われるかもしれません。部屋のドアが開くとソルト様が入ってきました。

「お座りください」

「「はい」」

「とら様の護衛お疲れ様でした。これがとら様をやまと様の部屋まで無事に届ける為の重要任務です。本日は割りと静かでしたね」

「凄かったです!感動いたしました!ソルト様の我々にしてくださった稽古理由、痛み入ります!」

「ええ、私も納得いたしました。あまりの衝撃に反応が遅くなりもうしございません」

「そうですか。私としてもお二人にお分かりいただけてありがたいです。とら様は、大変重要な職務のため禁止事項が多いです。また、本来なら見ず知らずの護衛は一切受け付けていませんがソルベ様と我が王の友好関係ということで受けました」

「「はい」」

「何か質問はありますか?」

「はい!」

「チリ様どうぞ」

「松君様は先ほど能力を使われたのでしょうか?」

「いえ、そういったのはございません」

「では、何故あのような輩が?」

「やまと様同様、とら様も歩くだけで人を惹き付けてしまいます。これを説明するのは非常に難しいですが輩を見ていただければわかったと思います」

 能力を使わずにしてあの人気。もし、能力を使われたならどうなるのだ。

「松君様が能力を使われたならどうなるのですか?」

「バレンシア様、それについては話すつもりはございません」

「た、大変失礼いたしました!」

 つい、気になって聞いてしまった。

「ですが、先ほどはどちらかと言えば調教師…といった方が正しいです」

「わかりました。これ以上は聞く予定はございません!大変失礼いたしました」  

 何を聞いているバレンシア。今は側近護衛になれるかなれないかなのに。にしても調教師の仕事とはなんなんだ!

「いえ、初めて見たのですから驚いて当然かと思います。で、ですがいろいろ判断した結果ですが側近護衛をお願いしようかと思います。よろしくお願いします」

「「ありがとうございます!」」

 安心したのもつかの間、チリが無作法な発言をした。

「あの、ソルト様。本日松君様にお目通りはできないでしょうか?」

「それは…」

「一度でもしっかりと顔合わせをすれば安心感が違うと思います」
   
 会えるのならば願ってもないが今はまだ弾かれる恐れのある行動や発言は控えるべきだ。折角合格したというのに。真剣に考えるソルト様は時間をといい出ていった。

「会えるといいですね。そうすればお互いやりやすいですから」

「そうだがチリ、安易な発言は控えるべきです。松君様は高貴な御方です。おいそれと我々の発言で会える相手ではないです。控えめに確実に側近をするべきです」

「すみません、確かにそうでした。興奮してつい言ってしまいました、気を付けます」

 緊張に不安、興奮といろんな感情が入り交じる。機嫌を損ねて帰られるかもしれない。もしそうなればジーバルとしても任務失敗でソルベ様に会わせる顔がない。程なくしてソルト様が戻ってこられた。

後ろにはフードを被られた松君様のお姿が!

まさか本当に会えるとは思ってもみなかった。私の心臓が急に速くなる。

「とら様」

「いいから」

 そうソルト様の発言を静止させフードをゆっくり取られる松君様、初めてお顔を間近に拝見できる。

「先ほどはありがとうございました。改めまして松永竹虎です」

「ジーバル所属ソルベ様第一側近デイゼルバレンシアグラフと申します」

「同じくジーバル所属ソルベ様第三側近モルゼットチリジードアースです」

「いえ、こちらこそ身の程をわきまえず我が儘を言いましてご足労おかけしました事をお詫びいたします。以後気をつけます」
「大変失礼いたしました、すみません」

「全然、気にしないでください。本当なら俺からお願いをしなければいけなかったのにすみません」

 なんとも謙虚な、それに麗しい瞳
 目線は合わないが穏やかな雰囲気

 髪は濃紺?いや、もっと暗い
 肌もきめ細かく新雪のよう

 おっと、あまりじっと見ては失礼だ

 まつながたけとら様。だから、とら様ですか。下の名前の方が親しみがあるということでしょう。ソルト様以外この呼び名は致しませんのでこれにも許可がいるのは間違いない。

 手袋を外されているだけなのにあの仕草はなんなのですか。ナグマのやつと色気がまるで違う。
(※普通に取ってるだけです)

「とら様、側近にそれは…」

「俺を守ってくれる人達に手袋をはめて握手なんて失礼だろ」

「はぃ…」

「ソルベさんの領土に近々伺いますがその時はよろしくお願いします」

「「はい!」」

 あんな細腕で紐を握ってソルト様を足蹴にしたのか。チリも同じことを思ったはず。チリに笑顔をかえし握手をする顔に何故だかぞくぞくした。

 気さくで優しいこの笑顔からどうしてあのような行動が想像できよう。先ほどのソルト様にした顔と今の顔どちらが本来の松君様なのだ。

…腰についているのは城民が言っていた鞭か、いつ使うのだろう。指だけでなく腰も細すぎる一体何を食べたらそんな体つきになるのだ。

私も恐れ多いが松君様と握手を交わした。と同時にふわりといい香りが。体が松君様に吸い込まれそうだ。なんと柔らかい手…ずっと触っていたくなる。ああ、あの鞭をいつどこで強く握って使われるのだろうか…

 !!!

 私としたことがいつの間に淫乱の能力にかかっていたのだ!!すぐに手を離したがだめだ、思考が松君様一色になってしまってる!いつからこの能力にかかっていた!

よく考えたら先程の鋭い目付きはソルト様に投げ掛けていた。しかもあの目を見ても動じなかったソルト様。能力に対応できているからだ。
あの時あの目を見てしまったから能力にかかってしまったのか!

だから、わざと目線を外すのではないか?だとしたら、一生懸命我々に能力を発揮しないよう目を逸らしてくださっているのではないか。

クソ!

なんという事だ、私としたことがそんな健気なお姿に気がつかないとは。

わかっている、わかっているのだが目を合わせたくて仕方ない!細い腰にかかるあの鞭を使う姿を見てみたいとまで思ってしまっている!
 
その時寒気がしてがして身震いが起こった。寒気が治まらない、ソルト様を見ると笑顔だがあのときのように目が笑っていない。まずい、能力にかかったのが知られてしまった!?

「申し訳ございません」

「何がですかバレンシア様」

「あ、いえ…」

「とら様、もう結構ですから手袋とフードをして戻ってください」

 ソルトは二人から松を隠すように間に入り扉を開けた。

 ほっ、気がつかれていない

「バレンシア様」

「なにか?」

【それ以上その愚脳でとら様を勝手に想像致しましたら斬ります。さっきから愚な感情が駄々漏れですからどうぞおしまいください】

「訪問の際は、よろしくお願い致します」

 そしてバタンと扉を閉めると松君様といなくなった。

「チリ、お前俺がなに考えているかわかるか?」

「うーん、松君様に会えて嬉しいな、ですか?」

「……。」

 このままでは業務に支障がでる。異世界人の噂は本当だった。一度会えば虜になるとアドベが言っていた。あいつが松君様を追い回した理由が今ならわからなくもない。くそ、いつの間にかこんなにも心揺さぶられるとは情けない。私はソルベ様の側近だぞ。

「チリ、お前好きな奴いるか?」
「なんですか急に!」

「こうなる前に早く作っておけ」
「?」

…………………


「とら様」

「ん?何だよ急に」

 部屋で携帯をいじる松を後ろからぎゅっと抱きしめた。ソルトはナグマの男の性癖を無自覚に開花させてしまう松を心配した。そんなことなど知らない松は自分の肩に頭を埋めて離れないソルトを気が済むまでほっといた。  
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