社会人が異世界人を拾いました

かぷか

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二つの領土

2 ソルトと決断

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 ふぅ、とら様への要望書は増えるばかりです。ほぼ愚脳によるクズ要望なので内容など見ずにすぐにでも抹殺したいところですがこれは後程です。底辺を除きある程度の要望書はクラム様の元に来てしまうということが問題です。文章巧みにとら様と会おうと目論む要望書が後を立ちません。当然どんな手を使おうとソルトがお見通しですから許可などでません。会うなどもっての他です。ですがこの二つは違います。

 今日も王に目を通してもらうのはいつもの二つ。ライム様とソルベ様へ領土への拝謁希望。
どちらも最終的な判断は私に委ねられていますがいつもその前に王が却下のサインをなさるので私も同意見のため同じく却下をしています。クラム様も納得のご様子。

 それより今はとら様の護衛配備にルート確保。できるだけ安全な場所を選びその事に細心の注意を払っています。

 あれからとら様の目にジーバル領土の方が目につかないように配慮してもらっていますがそれでも全員は無理です。一時、同じような色の服を見ただけで後退りしてしまった事があります。やはりとら様の傷は相当だったと思います。それからというものこの要望書が毎回来ても断りをいれています。当然ながらとら様の不快となるものは全て排除対象です。

「ソルト、ソルト?」

「はぃ、とら様」

「考え事か?」

「あ、はぃ。少し護衛の配置を考えていました」

「そっか、」

 つい考え込んでしまいました。それ以上何も尋ねないとら様。護衛配置と聞いて自分の事だと気がつかれたのですね。この事はゆっくり進めて行きます。とら様があちらへ行きたいと言うまで要望書は通しません。
 
 今日はここまでです。とら様との時間の方が大切です。

「とら様、りく様が浮気度チェックを携帯でしてくれました。私は100%無いそうです」

「あっそ」

「安心してくれましたか?ただ、すとーかーにならないよう気をつけてと助言がありました」

「初めから不安に思ってない。だけどその助言はあってる」

「すとーかーとは何ですか?」

「四六時中俺を追い回す奴の事だ」

「ナグマの輩の事ですか!?あれと一緒にするなんて酷いです!」

「似たようなもんだろ」

「とら様!!」

 それにもう一つ悩みが、というのはナグマにも輩がいます。とら様はやまと様に会いに行く為に一部一般廊下を通ります。その為いつの間にかそこを通ると熱狂的輩が蔓延るようになりました。どいつもこいつも抹殺したいですが今は我慢です。

それにしてもとら様の要望書は調教師の御披露目希望が多いです。やはり皆さん仕事内容が気になるのでしょうか。私の為の職業ですから誰にも御披露目などしたくないです。

 そんな日々を送っていましたら意外な事が起こりました。

 王があの二人の領土への要望書に許可を出したのです。こんな事は初めてです。てっきりいつものように却下のサインがされると思っていたのですが…

「ソルトさん、どうしますか?」

「…あの、却下したいのですが…」

「はい、ではサインをしてください」

 まだ、とら様があちらに行くには早すぎます。いくら王が受理しても私は許可できません。
ですが日が過ぎては同じようにまた要望書が届きましたが、ダメです却下です。

 クラム様も何も仰いません。行って欲しいのでしょうか?だとしてもダメです。

 ですが、いずれは…


 数週間後

「ただいま~」

「お帰りなさいませ。とら様、週末のご予定は?」

「特に無いけど」

「では、ナグマで過ごしませんか?」

「いいよ」

 お二人の思惑がわかりませんがそれを知るには思いきってとら様を試す他ないです。今回はルートを変え今から行く場所の反応を見ます。少しでも怖がりましたら引き返します。

「今日はどこ行く?」

「ビタさんが鞭の改良をしたそうです服飾部屋に取りに行かれませんか?」

「いいよ」

 無表情に返事をされたのは襲われた相手と出会った場所に行くからでしょうか。それともいつもと同じを装っているのか…伴侶なのにわからないとは情けないです。アドベと出会った服飾の場所はあれ以来一度も訪れていません。クラム様のお見合い相手のビタさんが勤めていますが特に会いたいとも言われませんでしたから今まで私の方から避けていました。

 できればとら様から行くと仰られてからと思いましたが今後のこともあります少しずつですが前に進んで……

 実際こんなことをさせてよいのかわかりません。ですが私の思惑は今の一言でとら様に伝わったと思います。

今回はクラム様に頼んで働く者以外は入らないように配慮しました。しかし道中は誰かと必ず会います、十分に警戒しなければなりません。

 いつものように紐を持つとら様ですがさっきから何も話しません。やはりこの誘いは良くなかったかもしれません。わざとらしく見え透いてます、判断の失敗です。
あの場所でピタリと足を止めてしまいました。私は現場を見ていませんが間違いなくここです。護衛の緊張が伝わります。やはりまだ早すぎました。

「とら様、戻りましょう」

「何で?」

「あの…」

「この先、どうやって行くか教えろよ。前回来たのが前過ぎてわかんない」

「かしこまりました」

 私はとら様の指示に従い服飾部屋まで案内しました。何事もなく着きましたが護衛も私も緊張が切れることはないです。周りは久しぶりのとら様のお姿を見てざわつき始め口々に何かを話していましたが集中しすぎて聞こえませんでした。とら様が気になる内容でない事を願います。

「あ~こんな感じだったかも。相変わらず凄い」 
「松君様!」

 一瞬だけビクリとされたとら様ですがその声がビタさんだとわかれば笑顔で手を振って迎えました。ビタさんの気さくな挨拶に和みます。

「最新作改良型です!」

「ビタさんこの間もありがとう。服飾だけかと思ったんですが武器も作れるんですね。鞭に改良とかってどうするの?」

「いえ、大したものではないですが武器は趣味程度ですが小さいのでしたら作れます。前より持ちやすく軽量にしましたので日常的に使えます。デザインも変えてみました。ソルト様とお揃いの首輪もあります」

「ありがとうございます!前とデザイン違うのいいね!また河口君と三人で話そうね!」

「はい!」

 軽く談笑したとら様は部屋を後にしました。帰りの道は行きがけに残した文字の効果があったようで空いていました。また、何かありましたらこの文字を残します『任務中、妨げれば即座に排除』

 無事用事が済みやまと様にもビタ様のプレゼントを見せ楽しく過ごされた後私の部屋に戻りました。護衛を解散させとら様の残りの休日を共に過ごす予定です。しかし部屋に入っても紐を離さないとら様はベッドへ倒れ込みました。私も引っ張られるままとら様と一緒にベッドに。

「はぁ…」

 大きなため息でした。
 やはり、いろんな意味で失敗でした。

「とら様、触れる許可を」

「いいよ」

 私は後ろからそっと抱き締めました。今回の事は何となく何がしたいかとら様もわかったと思います。言い訳、弁明、色々考えましたが私はとら様の側近でもありますからどうしても国の業務に関わる内容もしていかなければならないです。ですがそれはあくまでとら様のお気持ちがあってです。無理矢理するものではないとわかってはいるのですが…

「とら様…今回」
「喋るなよ」

「はぃ…」

「このまま寝たい」
「はぃ…」

 毛布を軽くかけるととら様は何も言わず寝てしまわれました。

 まだとら様には不特定多数は会わせられません。あの場所へ行き嫌な事を思いださせてしまいました。きっととら様の事ですから思い出しても表に出さないよう我慢なさったのだと思います。行き過ぎましたから。次回からはまたとら様の行きたい場所のみにします。

「とら様…ごめんなさい。伴侶としても側近としても未熟です」

 とら様の服を軽く脱がせ楽にさせ私は寝息をたてるとら様をずっと見ていました。

何でしょう心地よいです。知らずのうちに寝てしまったようです。うっすら目を開けるととら様が私の髪や頬をゆっくり撫でていました。こんなに優しいとら様を私は試してしまいました。

「今日はすみません…」

「お前また俺の事考えてたのか…」

「とら様以外ないです」

「側近がそうなのか、お前がそうなのか」

「両方です」

「気にするなよ」

「します」

「別にそこまで俺に気を使わなくてもいいよ。それとも何か理由でも?」

「これは理由にしたくないのですが今は理由になってしまっています。とら様への要望書が増えています」

「要望書?」

「はぃ、ナグマには要望書というのがあります。誰に何をしてもらいたいか具体的な案をだすのです。当然私的で個人的なものは却下ですがそういった城の要望書がクラム様の元へ届きます。それで選別されたものが王に届き許可が下され実行されます。これは王だけではなく、やまと様への要望書もありまして地位のある方に届く公務的なものが多いです」

「へー」

「調教師となられたとら様への要望内容はほぼ会いたいや見たいというもので勿論全て却下しています。ただ、毎回ライム様とソルベ様の領土の方から要望があります。これは少し種類が違います。やまと様の公務に近い要望書です。とら様がこちらでの地位と職業に就かれましてクラム様より上ということでその顔合わせです。それを私がずっと却下してきました」

「初耳。なんで?」

「会わせたくないからです。ソルベ様の領土へ行かなければなりません。それにどちらか一方の領土のみ行くというのはないです。ですから両方お断りしています。ですが側近といたしましては友好関係を築く為にもいずれあちらに行けたらと願っています。ですから今回このような真似をいたしました。側近としての理由は以上です」

「ふーん。お前の個人の意見は?」

「とら様が1日でも早く怯えない生活を望んでいます。焦らせたくないです。本当は誰にも会わせたくないです。ナグマなどに来ずゆっくり傷を癒して欲しいです。もう、あんな思いをさせるのもするのも嫌です」

「お前がトラウマになりかけてるじゃん」

「……。」

「別に誰かに会うのは構わないだろ」

「……はぃ」

「因みに、要望書の詳しい内容は?」

「領土友好による拝謁許可です。もう一つは調教師様との職業交流会」

「なんだそれ」

「とら様の役職を知りたいのだと思います。地位が高いので今後両領土で作るべき職業なのか検討するのだと思います」

「うげ、俺なんもできないのに」

 ソルトの浮かない顔を見た松は苦笑いをした。

「お前はそれをずっと悩んでたのかよ」

 無言でぎゅっと松を抱きしめるソルトに松は優しく抱き返した。

………………………

 ちゃぷん。

 初めてとら様と一緒にお風呂に入りました。ベッドから起き上がるととら様は私の手を引いてお風呂場へ。何事かと思うと脱がされ一緒にはいると言ったのです。

普段から一人でしか入られないのにどうしたのでしょうか。透き通った白い肌がお風呂だと余計目立ちます。とら様は目をつむり気持ち良さそうです。

「最大の癒し。お風呂は俺の超プライベート空間でリラックスできるから好き」

「そうでしたか」

「これ、俺の部屋から持ってきた。オイル」

 そういうと数滴湯船にたらすと良い香りが。

「とら様がいつも良い香りなのはこれを入れていたからですか?」

「アパートだと匂いもそんなにつけれないから本当にリラックスしたい時だけ。普段はこのオイルに似た体用のやつを少しだけつけてる」

 そういうととら様は私の足を軽く持ち足の裏を揉み始めました。

「とら様!?」

「ナグマにこういう所するとこないの?」

「あ、ありません!」

「気持ちいいのに」

 そういうと足の指先をとら様の指で圧をかけました。それがとても気持ちいいんです。

「と、とら様!そんな事やめてください!」

「なんで?気持ちよくない?」

「き、気持ちいいですが…はぅ!」

「なら、いいだろ。俺、マッサージの仕事したかったんだよな。リフレクソロジーみたいな」

「?」

「こうやって、疲れた人癒す仕事。自分が癒されたくてさ。でも自分がなったら癒されないし、俺、接客むいてないってやめた」

「とら様なら繁盛しそうです…ぅ」

 圧をかけながら絶妙な力を手に入れて足を揉むとら様。とっても気持ちいいですがちょっぴり恥ずかしいです。

「なぁ、あっちの領土行ってもいいよ」

「とら様、それはまだ早いかと思います」

「いつまでも、びびってるのやだし。お前や周りに気を使わせて心配かけたくないし」

「ですが…」

「じゃあ、言い方変える。だんだん慣れていかないと」

「とら様…」

 私はとら様が前に進むのを応援したいです


 ちゃぷん。

 今度はソルトの手を両手でマッサージし始めた。少しさっきよりも距離が縮まる。

「とら様がよろしいのなら。何か私にできることはありますか?」

「お前がいるっていうのが条件」

「勿論です。誓って離れません。では領土への訪問許可を王に話しておきます。ところでとら様、絶対ナグマで開業しないで下さい」

「?」

「皆が殺到します」
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