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二つの領土
1 ジーバル ソルベ
しおりを挟む「あの、クソ野郎のせいで謁見許可が下りない」
「ソルベ様、お言葉使い気を付けてください」
「だってそうだろ、あいつが松君さんを襲うなんてことしでかさなかったらとっくに俺達の領土に来てたかもしれないんだぞ」
エクジプソルベシークベトラマ王は我が領土ジーバルの王で通称ソルベ様。本日も要望書を却下され機嫌が悪いです。その要望書とはやまと王妃様の拝謁許可なのですが未だに一度も許可が下りません。本来なら婚儀後すぐに他の領土への御披露目の式が行われ盛大にこちらでも祝うはずなのですがいろいろあってまだです。
私はソルベ様の第一側近をしているバレンシアと申します。
「はい、うちの民度の品性が問われています」
「知ってる!ナグマでのジーバルの評価は下がりまくって地底にまで落ちている!ただでさえうちはフィグルの評価が低いというのに!」
「それはあのお方のみにだけですよ」
「ふん!」
「ですが、これだけ遅いとそうと言えるかもしれません」
先日、やまと王妃様のご友人である松君様をうちの領土の愚か者が襲いました。これによりジーバルの評価は急激に下がっています。現にダーシャル王からはうちの領土服を着たものは行動場所の制限が施されています。当然と言えば当然です。
ソルベ様はそれをずっと気にしておられます。私としても挽回の場を儲けていただけないかとこうして毎回要望書を送っているのですが。
「やまとにも会えないし、松君さんにもお詫びがしたいのにできない!」
「はい、他に何かお考えがあるのかもしれないです」
「例えばなんだ?」
「そうですね、何か持病を患われているとか」
「ない。やまとはいたって健康だ」
「では、うちに来させたく無い何かがあるとか」
「そんなの無いだろ。やまと可愛さのあまり部屋から出したくないのはわかるが、公務を拒否し続けるなんてまではしない。うちが安全だという証拠を示さない限り許可なんて下りない。はぁ~」
机の上で頬杖を付きながら片手でサインをするソルベ様は報告書に八つ当たりをしていらっしゃいます。大きなため息をしてイライラを押さえています。
横からカップにお茶をゆっくり注ぎ入れるのはもう一人の側近ロシェ。
「フィグル王は我々を幾度となく救ってくださった方ですから悪いようにはなさらなと思いますよ。許可は下りるまで気長に待ちましょう」
「救う…か。にしてもやまと独り占めとは。俺もやまとともっと遊びたい!」
「やまと様は最重要人物です。そんな簡単には会えませんよ。それよりもあんな可愛らしい王妃様を迎えられて羨ましいと言っているように聞こえます」
「ふん!否定しない。やまとの着せかえは楽しい。婚儀の練習も楽しかったな~それに最近は松君さんの服も作れるようになったから楽しいんだよな~ライムとどっちが良い衣装を作れるか競ってる」
「調教師様ですね」
「そうそう、ちょっと前にナグマ城の職つきになったんだ。異世界人っていうのを伏せたいらしい」
「はい、最重要機密になっています。うちの領土一、愚行をいたした輩のせいですね。跡形もなく関係人物を全て排除いたしましたから情報が漏れることはないですが思い出しただけでも腹が立ちますね」
「そ、あのクソ野郎のおかげで二人と会える機会が遠退いた。何とか会えないかな」
「ソルベ様、言葉使いに気をつけてください。やまと様ですらまだですから松君様の拝謁はもっと時間がかかりそうですね」
「ああ。本当、悪いことしたから謝りたいんだけど…」
「フィグル王はさぞお怒りですね」
「フィグルじゃない。もう一人だ」
「?」
□□□□□□
「では、ソルトさんいつも通りこちらの報告書と要望書に目を通し仕分けしてください。松君さんへの要望書はこちらです」
「わかりました」
クラムは幾つかの束をソルトに渡すと席に着いた。少し離れた場所にソルトの机がある。黙々と作業をこなすソルト。
ここクラムの仕事場では主に報告書と要望書が届く仕訳の最終収集所。ある程度の仕分けはされているが更に細かく仕分け王へ伝えるべきなのか判断する場である。要望書は誰宛のなんの要望書かが記載されている。
最近では松がナグマで職を与えられたためナグマ国民と浸透すると一気に要望書が増えていた。そんな松への要望書の仕訳はソルトの重要な仕事でもあった。
報告書の束をソルトが速やかに処理していく。ソルトの手は休まることを知らず1秒も掛からず仕分けられていった。松に関する書類は全てソルトが目を通し王の判断がいるものだけ避ける。目を通した後は王へ渡りサインがされて最終的にまたソルトの元へ戻ってくる。戻ってきたものをソルトが最終判断のサインをしてクラムが目を通してまた王に報告してやっと許可が通る手順になっていた。一見かなり手間の掛かるやり方でその場でソルトが判断してサインをすれば良いと思うが王に目を通す=やまとも見るということになりこれはこれで重要なやり取りであった。この鉄壁なチェックにより松の安全は守られている。ちなみに要望書は今まで一度もソルトの許可を通ったものはない。
そして、この日も書類達はソルトを冷血に変える。
シャッ!!シャッ!!
シャシャ!!
ソルトさんが俗物でも見るかのように書類を仕分けています。さっきより力がこもってますから松君さんへの要望で気に入らないものがあったでしょう。前は私が処理をしていましたし今ほど多くありませんでした。ですが最近は100倍ほどに増えてしまいましたからソルトさんの手を借りるのが一番効率的で正確です。なにより作業がとてつもなく早く安心して任せられるので助かっています。
「クラム様」
「は、はい」
「できました。目を通して下さい」
大量にある要望書で王に見せれそうなのはたった2枚ですか。いつも通りですね。他は不要ですからソルトさんの希望通り却下サインで済ませます。
「では、王へ報告するまでもない不要な要望書は却下サインをお願いします」
「かしこまりました」
バシッ!!バシッ!!!
バシバシバシバシッ!!
ひぃ!!いつみても殴り付けるような却下サインは迫力があります。松君さんの伴侶足るにはやりそういうことなのでしょう。これをみたら要望書が減ると思うのですが見せれないのが残念です。
ソルトさんが伴侶と知ったら皆さんどうされるでしょうか…私なら怖くて働けません。
「クラム様、終わりました」
「はい、ありがとうございます。いつもながら早いですね。助かります」
「いいえ」
「この二枚は王へ渡り次第またソルトさんに戻します。最終的にサインをするかどうかはソルトさんにお任せいたしますね」
「はい、ありがとうございます」
「他の松君さんへの要望…「クズです」
「わ、わかりました。今日はこの辺で大丈夫です」
「かしこまりました。失礼いたします」
そういってソルトは一礼してクラムの部屋から出ていった。
恐ろしい殆ど即答でした。さてと、この2枚はいつも通り王へ渡しにいきますか。あ、ついでに他の報告書と要望書も。
ノックをしてフィグの仕事部屋に入るとフィグはやまとを膝にのせ服を脱がそうとしていた。
「王、何してるんですか!」
「なんだ、勝手に入るな」
「なんだじゃないです!報告書に要望書、それに松君さんの要望書でいつも通りソルトさんの目を通過したものです!早く目を通してください!」
「わかった」
「王、いつまで却下されるのですか?」
「どれをだ」
「ソルベ様とライム様の領土への拝謁許可です。最高位護衛もだいぶ鍛えられていますからやまとさんだけならそろそろよろしいのでは?」
肘掛けに頬杖ついてそれかといった感じで答える。
「何度も話しただろう。却下だ」
「ですが…婚儀から日も経っていますしやっとナグマも落ち着きを取り戻しましたからそろそろ宜しいのでは?ソルベ様とライム様の領土民も待ち望んでますよ」
「特にライムの国はだめだ」
「ライム様ですか?てっきりソルベ様の方だと思っていましたが」
「どっちもどっちだがソルベの領土は確実にやまとが反応するであろうものがある。それにライムの方は…あそこは特種な集団がいる」
「ですがそろそろ両領土へのご挨拶はしていただかないと」
「わかっている」
「反応って?特種って?」
「なんと言えばいいのでしょうか。ソルベ様領土には土地の産物が。ライム様の領土は得意分野と言いますか」
ジロリとクラムを見た。
「いえ、なんでもないです」
「やまと却下だ。ついでにソルトから来た要望書の方も却下だ」
「か、かしこまりました」
「えー残念。俺行きたいのに。ソルトさんのもずっと断ってるよね。それ、松君に会いたいってやつでしょ?」
「そうだ。松君さんに少しでも恐怖を思い出させるものは全て却下している。特にソルベの領土の者はソルトの許可が下りるまで駄目だ。松君さんから行きたいと打診があるまでは行かせる予定はない」
「なるほど…その話今度松君に直接聞いても良い?」
「あまり深堀はするな。あの二人に任せている」
「そっか。なら、最終的な権限は二人にあるってことだよね?気が変わっていいよってなるかもしれないから許可だけフィグが先にしたら?」
「やまとさん、それだと王からの圧力が掛かりませんか?許可を出したなら松君さんを差し出さないといけないと」
「うーん、最終的に二人で答えを出すんだからソルトさんは絶対松君が嫌がる方向へしないと思う。逆にフィグが却下を出し続けてたら永遠にそれは通過できないってことだしだめかな?」
「許可をする」
「王!」
「それでソルトがすぐ許可を出したら俺に通せ」
「かしこまりました」
結局、この結果は最終的にソルトにより却下された。恐らくこれを何度か繰り返せば本当に二人の判断に任せるというのはソルトが理解してくれると思ったのだ。そして、これにより思わぬ転機が訪れる。
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