社会人が異世界人を拾いました

かぷか

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松編 ③

32 ソルト城 ⑤

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「では、乾杯をしましょう」

 お茶で乾杯を?

「今後の松君様とヒマイラの繁栄に」

『乾杯~』

 俺は口につける前に匂いを嗅いだ。酒臭い。

【とら様】

 ソルトも気がついたようで飲むのをやめた。

「ささ、どうぞお二人一緒に飲んでください」

 俺の記憶がいろいろ甦る

 やれと言わんばかりのベッド
 
 恋人岬への語らい誘導

 そしてお茶といいながらの魔石入りのお酒


 一見、おもてなしのように見えなくもないがある事実に考えを偏わせると符合する点がある。

 これは、河口君とフィグさんが婚姻をした手順に何処と無く似ている。こういう時の俺の勘は冴え渡る。

 間違いない

 こいつら、勝手に婚儀をあげようとしている


「おい、ソルト飲むな」

「はぃ」

「なぜ飲まないのですか!!とっても美味しいお茶なんです!!」

「これ、お酒です。それにこの魔石は何かの儀式に使うんじゃないですか?」

 一斉に動きが止まった時点で図星だ。

「ななな、何を仰るんですか!」

「父上、とら様と私に何をさせたいのですか?」
 
 観念したのかソルトの父親はグラスを置いた。

「ヒマイラ…ヒマイラにはやっぱり家に帰ってきてもらいたい。そして…婚儀を…でもって孫を…」

「できません」

「ナグマでのお前の罪は償い終わり寧ろそこで自分の地位を確立したこともわかっている。私は世間体で永久追放したことを反省した。お前を追い詰めていたんだな。すまなかった」

「父上…」

「謝っているところ悪いんですが永久追放したのは結果であって実際は帰ったらソルトを一家の恥さらしとして魔物送りにしようとしたんではないですか?」

「………。」

「とら様…」

「俺はこういう綺麗事は嫌いだ。自分達は悪くないとする行動がすでに反省してない」

「松君様、その通りで事実です。お父上はヒマイラ様を魔物送りにしようとしました。城では一家の恥さらしは世に出せません。そんな恥というただの世間の目から逃がれようとした我ら一族はヒマイラ様を犠牲にしようとしました」

「それについてはどうなんですか?」

「…悪いとは思ってる。だが親としては恥さらしを置いておくわけにはいかなかった」

「俺はその心情全くわかりませんけど。体裁を気にするより親ならソルトを守る方が大事だったと思いますけど。実際、河口君がいなかったらフィグさんに魔物送りにされていた。それぐらいフィグさんは怒っていたんですよ」

「…ヒマイラすまなかった。罪を犯したお前を一番に守らなければならなかったのに。許してくれ。今は恥さらしなどと思っていない」

「……父上。もう気にしていません」

「お前が生きているとセサミからの文で知った時は驚いた。しかも、償い終えているなんてありえないと思った。だがもし、償って帰ってくるならナグマ城の関わりを一切絶ってもらいたかった。そして、勝手だが見合い相手を探してここで静かに暮らしてもらおうと思った」

 そういうことか。
 一応幸せは願ってたんだな。

「だが、お前はナグマ城で働きたいと言う。しかも松君様の側近で調教途中。ならばその仕事となる松君様をソルトとくっつけたらここに住んで貰えるのではないかと思って」

 おい。

「なぜ、この城にこだわるのですか?」

「それはお前をあの二人から離れさそうとしたんだ。王と王妃の幸せを見ていて辛いのではないかと思ったんだ」

 んー親心ってやつか。

「一度もその様なことを思ったことはありません。私、王が好きではなかったです。妃になることを目標にしていただけで好きじゃなかったんです。ですからお二人が幸せな姿をみても恨みは微塵もないです」

「ではなぜあんな大罪を犯したんだ!」

「妃にならなければ自分は価値などないと思ったんです。ですから式を壊して王妃様さえいなくなれば無かった事になると思ったんです。そして我が一族をまた評価して貰えると思ってやりました。本当に愚かだったと思います」

「そうか…我々のためだったと言うのか……王が好きでは無いと知れたならば話してもういいな。実はソルト。本当はダーシャル王から断りの文が来た後、もう一通その後にお前宛てに文がきていたのを私が渡さなかった」

「聞いてないです」

「すまない。お前が傷つくと思って渡せなかった。内容は婚儀が決まったという事とお前と改めて話がしたいという内容だった。今さらだと思ったよ」

「そんな…なぜ見せてくださらなかったんですか!それを見ていればこんな事にならなかったかもしれない…」

「城へ行っても仕方ないと思ったんだ。婚儀まで決まってわざわざ呼び出して話なんて何があるというのだ。侮辱しかない!」

「多分ですが、フィグさんは王妃様をソルトに紹介しようとしたんじゃないですか?」

「なら、余計いかなくてよかった。惨めな思いをするだけだ」

「それはどうかと思います。王妃様…河口君を見たら納得して貰えます。それにフィグさんはそんな人じゃない。悪いと思ったからこそソルトに誠意を見せようとしたんだと思います。確かにこれは一か八かになるかもだけど、大事な河口君をソルトに見せる権利と受け止める器があると思ったんだと俺は思います。もしかしたら手紙を読んで城にいってたとして河口君を見たら違う結果になってたかもしれない。あくまでも仮の結果の一つですけど。な、ソルト」

「はぃ……やまと様は…大変…優しく…っ」

「泣くなよ」

 松はソルトの頬を掴み涙を拭いた。

 もしこの文を見ていたら犯罪者などと呼ばれてしまう行動を止められたのではないかと思うと悲しくてしかなかった。

「私は…私は…っ…とら様…」

「でもそれが無かったら俺ら出会って無かったって思ってる。てか思えよ」

「はぃ…」

「だから泣くなって」

「はぃ…ぅっ」

 ポロポロと溢れる涙は松が拭いても止まらなかった。松は優しくソルトを抱き締めた。ソルトは松をぎゅっと抱き締める。

「ソルトを自由にしてあげてください。いつまでも子供じゃない、自分の事は自分で決めます。ソルトは今、ナグマで実力を認められて俺の側近になってます。彼のがんばりを摘まないでください。俺はソルト以上に努力している人を見たことない」

「私は…何て事を…ヒマイラ、許してくれ…本当にすまなかった。認める。お前の好きなようにしなさい」

 跪き床にてをつき心から謝る父親。
 
「今後、ソルトを犯罪者だったと侮辱する奴がいたなら俺が許さない。必ず一人残らずお礼参りする」

 松は腰に着けていた鞭を手に取り思い切り床にバシッ!!と叩きつけた。

「返事」

『はい!!!』

 その場の全員が返事をした。
 
 松はソルトの手を握り部屋を出ていった。残された者達は口々に今の状況を話した。

「凄かったですね」
「途中から胸のトキメキが止まらなかった」
「あれが調教師の器か…凄い能力だな」
「優しさと厳しさでハマるかもしれない。一度松君様に調教されてみたい」

「おい!何としてでも松君様をヒマイラの伴侶にしたい!!全力をつくせ!」


□□□□□□


 部屋に戻ると松はソルトをまた抱き締めた。

「ソルト、帰るぞ」

「はぃ…直ちに」

 泣き止んだソルトは洗面で顔を洗い荷物をまとめる松の所へ戻った。

「とら様、バキバキ。ありがとうございます。バキバキ。とってもスッキリしました。バキバキバキバキ」

バキバキ?

「なら、もういいだろ。こんな所さっさとでるぞ」

「はぃ、伴侶と話しても良かったかもしれません」

「だめだ、フィグさんと約束してる。婚儀していないのに公にはできない」

「はぃ」

「婚儀したいのか?」

「いえ、そうではありません。父にとら様が伴侶だと言えたら良いなと」

「あぁ~そうか。今、隠してるようなもんだしな」

「それを伝えなければ大変なことになりますから」

「?」

「とら様、うちの父上は私の婚姻に関して並々ならぬ思いれがありまして。諦めることはないです。既成事実を先に作ろうとします」

「は?」

「ですから、婚儀を決して諦めませんから帰るまで婚儀を知らずのうちに終わらせようと、あれやこれやしてくると思いますのですぐでましょう。もしかしたら婚儀するまで帰してもらえないかもしれません」

「さっきので諦めたんじゃないの?」

「諦めませんよ。見てください、盗聴に盗視。私と婚儀するとこんなにお得ですというお品書きの文字が増えています。ここに婚儀書類と子作りの魔石もあります」

「ざけんな!いつの間に置いたんだよ!」

「ですから、婚儀するまではこれが続くかと」

 面倒くせー!!

 ソルトがナグマ城に住む確約できたからいいや。
 内縁関係だって絶対言わねぇ!
 言ったら最後、ナグマ城に戻れなくなりそうだ。

「重い。すぐ帰るぞ」

「はぃ!」

 俺達は早々に帰ることにした。
 走りながら追ってくるソルト父と他の人達。

「ヒマイラ様~松君様~どうか婚儀を~」

「ヒマイラ、最後に本当に申し訳なかった。これを松君様に土産としてわたしてくれ!そして、松君様を絶対離すな!!誰にも調教の座を奪われてはならん!そして婚儀が決まったら教えてくれ!!我々が仕切るから!!孫とこの城にお前達を~」

 最後は聞かなかったことにした。

 ソルトに箱を渡した父は小さくなった。
 
 ふぅ、逃げ切れたか。俺、婚儀とかそういうの向いてないんだよな。万が一やるならナグマ城でひっそりやると俺の中で今決まった。
    
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