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番外編
1「仰天!フライも良いけど俺は焼き!」①
しおりを挟む目の前には大きな魔物が!
一昨日から城の近くまで来ていると情報が入った。二人の王は策を練り最強のナグマに頼むことにした。
周りには信頼できる最高位護衛が数十名。王の隣には腕利きの側近が二人構えている。
皆の準備はいつでもオーケーだ。
俺も準備に入る
魔石のお陰で俺にも力が………
と言いたいがそんなものはない
最強のナグマが掛け声をかける!
「準備はいいか、俺が合図をしたら順番に攻撃を繰り返せ」
「「はい!」」
「行け!」
二人の側近が代わる代わる攻撃を繰り返す
俺は自分の出番を今か今かと待った
「俺の出番!」
「違う」
今ではないようだ
また、二人が攻撃を繰り返す
「俺の出番!」
「違いますよ」
何だって!?
なら俺は……
なるほど…そうか、そう言う事か
とっておきは最後ってね!
任せてくれ!
「これでとどめだー!」
「「「違う!!」」」
「河口君、それはフィグさん達がしてくれますよ」
「松君~俺も戦いたい~役にたちたいよ~」
全く何もできない俺は松君と魔物退治を見学させてもらっている。たまたまこっちに来ていた松君に魔物退治見学会ツアーあるけど行く?と聞いたら二つ返事だった。
「無理ですよ。見てください。屈強な男達が戦ってるでしょ。俺達二人がめちゃくちゃ弱いからさっきから魔物が俺ら目掛けてここに来ようとしてるじゃないですか。護衛さんの近くで大人しく見てましょ」
そして二人で暖かい格好をして見学。ちなみに俺は婚儀で使ったテディベア服。あれ、暖かいんだよね~
「命のやりとりでヒリヒリしたね!」
「俺にはフィグさんの圧倒的勝利に見えたよ。半分以上フィグさんが倒してた。多分ソルトが使えるか試したんじゃないかな?」
「へー!」
いつも俺の護衛をしてくれる最高位護衛さんが横から解説をしてくれた。
「松君様、流石ですね。今日は良い機会だとソルトさんの実力を王とクラムさんとで見に来た感じです。一匹はそんなに強くは無いですが連携が必要でなかなか手強いです。ただ、王はあの魔物なら一振りですが」
「そうなんだ。そういや、フィグ鎧つけてないね」
「そうですね、王はあれぐらいなら鎧は無しですね。昔は魔物が城の近くにかなり居て問題になってたんですが今はほとんど来ません。今日は珍しいです。とはいえ、日々の鍛練を怠る事はできませんのでこうして王自ら実戦できる時は指導してくださいます。あ、王が戻られましたよ」
三人は堂々とした足取りでやまとと松の元へ戻った。他の人達は倒した魔物の確認やら作業をしている。フィグは護衛からロングマントを受けとり肩に羽織った。
やまとを片手で持ち上げ行きのようにフィグのマントの中に潜り込ませ顔だけ胸の辺りから出した。
「フィグお疲れ様。なんとなく格好良かった!」
「そうか」
「とら様、やまと様みたいにしてくれてくれないんですか?」
「絶対嫌。あれは河口君だからいいんだよ」
シュンとするも構うことなくいつもの首輪に紐を付け松が握る。満足げにするソルトを見ると顔に切り傷が付いているのに気がついた。
「お前、顔に怪我」
「あ、大した事ないです」
松はハンカチを出して軽く傷口を拭いた。
「心配してくれるんですか?」
「……そんなんじゃ駄目だな」
松は向きを変えさっさと歩いて先に行ってしまった。クラムさんが近寄り軽く肩を叩いて言った。
「心配かけない方が松君さんは喜びますよ」
「はい…」
「帰るんだろ、行くぞソルト」
「はい!」
ペコリとクラムにお辞儀をして松の元へ走っていった。
先頭を行くフィグとやまとは城の近くの湖に着いた。
この時期は氷の下にいる光魔物がでるそうでフィグ曰く綺麗だから見に行こうと皆で寄り道をする事にした。
大きな湖に厚い氷が張っていて良く見ると光魔物がゆらゆらと泳いでいた。光ったり消えたりしていて綺麗で幻想的な風景。
「おお~凄い綺麗!」
「今の時期に良く見かける光景だ」
「星が床にあるみたいじゃない?」
「ふふっそうだな」
やまとはフィグのコートから下に降りると動く光魔物を追った。松も足元にたまに通りすぎる光を珍しそうに見ていた。
「フィグ、流れ星みたいに速いやついるかも?」
「かもな」
「そしたら、それに願い事したら叶うかもよ?」
「そうだな」
二人だけにしかわからない会話の内容はフィグの心を温かくさせた。氷を覗いてじっーと速い光魔物を探す。
「フィグ、めちゃくちゃ速いやついる!」
一緒に覗くと確かに一匹だけやたら速いのがいた。恐らく種類が違うのだろうと思っていたがどうやら全然違うみたいだった。
デカイ物体はどんどん表面に近づき
ドン!!
という音と共に体当たりをしてきた。
フィグは咄嗟にやまとを抱き上げすぐに体制の指示を出す。
「クラム、護衛と下がれ!ソルト、松君さんを守れ!」
「「はい!」」
ピキピキピキと氷が割れるとそこから一気に水が噴水のように吹き出た。
中からは巨大なイカが現れた。
「王!光魔物の巨大化です!」
「光魔物は攻撃してこないがこいつはわからん、皆を避難させろ。攻撃はするな!」
クラムと護衛は警戒しながら下がった。ソルトは松に「触れます」といってさっと抱き上げ安全な所まで下がる。
やまとを抱きながらいつでも攻撃できるようにフィグは片手で剣を構えた。
巨大化した光魔物はゆっくりとフィグに近づくと抱えられているやまとにちょんちょんと肩に触れた。
「はい」
やまとは話しかけられたと思い返事をした。すると、別の足がやまとの顔をプニプニと押した。
「何でしょう?」
勿論、答えてくれるわけもなくひたすらプニプニされ続けていた。
周りもそんな様子を伺っていた。
「クラム様、何をしてるんですかね?」
「わかりませんが、やまとさんを触ってますね」
「ソルト、河口君が何されてるかわかるか?」
「いえ。ただ、品定めにも見えます」
3本目の足がやまとの腕を引っ張る。フィグはすぐに後ろに下がった。
「狙いはやまとだ!だが、まだ攻撃はするな!」
フィグの一声で緊張が走る。フィグは牽制しながら避けていく。やはり、やまとばかり狙う魔物。クラムがふと思い出す。
「王!儀式の光魔物がやまとさんに張り付いたのを覚えてますか!」
「ああ」
「何かあるのかもしれません!」
「あの魔物を連れてこい!」
「わかりました!」
クラムは急いで護衛数名と取りに行く。婚儀練習にやまとに絡み付いた光魔物はやまとを気に入ってなかなか離れなかった事があった。もしかしたら何かわかるかもしれないとフィグとクラムは考えた。
水槽に入れられた光魔物を護衛2人が運ぶ。
巨大な光魔物は水槽に気がつき近づく、小さい光魔物の足を引っ張り取り出した。これで帰ると思いきや小さい光魔物がやまとを指差した。
フィグは嫌な予感しかしなかった。
そう、光魔物がやまとを気に入ってたからだ。
巨大イカはやまとを引っ張ってつれていこうとしていた。仕方無いと思い斬る構えをとるとやまとがイカの手を取り言った。
「泳げません!息できません!氷の中は冷たいので嫌です!」
力強い答えだった。
今度は小さい光魔物がやまとに張り付いた。
「ごめん、本当に無理なんだ。皆と一緒に行って。俺、君達の仲間じゃないんだ。光れないよ~」
小さな光魔物はやまとにでろでろと名残惜しそうに絡み付いた。フィグがピッピッと足を払う。負けじと足を絡ませてくるのでフィグがイラついて短剣で斬ろうとしたらやまとが止めた。
「フィグ、何かいいたいのかもよ?」
「こいつが執拗にやまとに触れる」
「クラムさん~、ちなみに食用ですか?」
「一応食べれなくはないですよ。食べたら光ります」
「そっか~ちょっと試してみたいよね」
「食べるなら斬る」
「…河口君、めちゃくちゃ怖いこと言ってる」
「そうですか?」
魔物の言いたいことがわからない以上どうすることもできないやまとは、うーん、と腕を組んで考える。
そして閃く!!
「フィグ、何かあったら助けて」
その言葉にフィグは眉をひそめた。
やまとはフィグの止めるのもお構い無いに魔物の前に立とうとしたがフィグが頑なに拒んだ。仕方ないので後ろにいてもらい腰に手を当てていつでも抱えて逃げられるようにする事で話がついた。
皆が息を飲む。
やまとは両手を大きく広げた。
『俺、無理、泳げない』
自分を指差し、胸で×印をして、泳ぐ真似をした
『俺、無理、光れない』
次に途中まで同じで最後だけ、両手を頭から振りキラキラを表現した。
「とら様…やまと王妃は何をしてるんですか?」
「……ジェスチャーだと思う」
何やら身振り手振り動かすやまとに皆が興味津々だった。松の発言に皆が耳を傾けた。
「じぇすちゃあ、とは何ですか!!やまとさんの能力ですか!?」
「違いますクラムさん。話せない時に使ったりする気持ちの表現の一つです」
「あれで、魔物に伝わるんですか?」
「……わかりません」
「では、なぜ?」
俺も知りたい
なぜ、ジェスチャーなら通じると思ったんだ。人間にですら分かるのが難しいジェスチャーなのに魔物に理解なんてできないと思うけど。
ただ、必死で伝えようとする河口君は可愛い。
「おそらくですがあれなら魔物に伝わると思っての行動だと思います」
「そうですか…ならば見守るしかないですね」
固唾を飲んで皆は見ている。
終わったようだ。
振り返りフィグを見つめ爽やかな笑顔で答えた。
「ふぅ~駄目みたい」
一汗かいてにっこり笑うやまとを見てフィグは頭を撫でた。小さい光魔物はやまととフィグに割って入るなように体当たりのようなハグをいきなりしてきた。フィグはすぐにひっぺ返した。
すると小さい光魔物は大きい魔物に歩み寄る。何やら二匹で話し合っているようだった。よく分からない説得が通じたのかやまとの元を離れると巨大魔物と一緒に氷水の中に帰っていった。周りからはおぉ~!という声が響き渡った。
「王、何だったんでしょう…あの光魔物を返して欲しかったのでしょうか?」
「さぁな、ただやまとを連れていこうとしたのは確かだ」
「河口君、大丈夫?」
走りよる松はやまとを見るとあちこちに吸盤の痕がついていた。
「大丈夫だけど、ちょっと生臭い」
「無事で良かったよ」
イカに心を通わせれるやまとに感心しながら松は綺麗なタオルを渡した。
□□□
前回の予告題名「仰天!フライも良いけど俺は焼き!」長いので以後いか編に省略!
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