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松編 ②
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しおりを挟む「そうなんです!王が我が儘過ぎるんです!」
余程たまっていたのかクラムさんは豪快にお酒を飲んでいる。多分、この人は飲まれるタイプだな。途中からジュースに変えたのは内緒にしてあげよう。
「クラムさん、大変ですね」
「わかって貰えますか?王の圧がすごいんです!やまとさんとちょーーっっとでも離れるとすぐ機嫌が悪くなるんです」
「仕事はそれでもできるって事ですよね」
「はい、やまとさんが何かしようとすると一緒に必ずしたいようで仕事をすぐに終わらせてしまうんです」
「なら、いいじゃないですか」
「あんなのズルい!強くて仕事ができて、しかも優しくて淫乱な王妃まで貰って!全部手に入れてます!」
本音がでている。
「クラムさんはいい人いないんですか?」
「いません……日々仕事に追われていますから」
「そっか~どんな人がいいんですか?」
「そうですね、優しくて真面目な方がいいです」
「お見合いしたらどうですか?こっちは良くあるみたいじゃないですか」
「そうですね…王もやまとさんを迎えた事ですしそろそろ伴侶を見つけたいです」
「松君さんは私みたいな人と婚姻できますか?」
「あ~クラムさんみたいな人は…」
「とら様は私のです!!!!」
魔石3つ回しをしていたソルトが怒り出した。すぐさま松はソルトと繋がっている革紐を引っ張った。
「お前はいいんだよ。誰のお陰で牢屋が出れたんだよ」
「とら様」
「違う!クラムさんが影でいろいろ守ってくれたからだ、感謝しろよ」
「はい……すみませんクラム様」
「いえいえ当然の事をしたまでです。でも、ありがとうございます」
「クラムさんは凄いですよ。あのフィグさんの元で仕事してますから。俺ならクラムさんは真面目過ぎるので全く付き合えませんが、きっと惚れてくれる子がいると思いますよ!元気出してください!」
「松君さぁ~~ん~」
クラムはおいおいと泣いてそのまま寝てしまった。護衛を呼んでクラムさんを寝室に運んで貰うことにした。
暫くするとノックをされた。
「松君さん」
中に招き入れると毛布にくるまれフィグさんの腕の中に河口君が居た。どうやらいろいろ終わったらしい。
「遅くなった」
「いいですよ。河口君は寝てますか?」
「ああ」
「わかりました」
俺のベッドに河口君を寝かせても良かったんだけど多分フィグさんが離れないからかけ布団を手渡した。
「ありがとう」
「いえいえ、良かったらあっちのお酒どうぞ。先にクラムさんと飲んでたから半分ぐらいしかないけど」
「十分だ、ありがとう」
フィグさんは使用人にナグマのお酒を何種類も持ってこさせた。見たことのないものばかりで俺のテンションは上がる。
「結構キツイ!けどいいかも」
「そうか。一度だけやまととお酒を飲んだ。甘い酒で飲みやすかった」
「へーカクテルとかチューハイかな?物足りなくなかった?」
「酒は薄めだが旨かった」
チューハイならあるから缶を渡したが開け方を知らなかったようで教えるとグラスに入れて飲んだ。
魔石3つ回しをしているソルトに目をやる。せっかくだから一緒に飲もうと隣に座らせた。
「松君さん、良いのか?」
「いえ、こちらこそ勝手な真似をしましてすみません」
「いや、構わない。城に帰ってもあいつは魔物送りか牢屋暮しが決まっていた。やまとがそれをずっと嫌がっていたが我々としては返す以外方法がなかった」
「え、そうなんですか?」
「牢屋にずっと置いては置けないしな。いずれ返さねばならなかった。向こうの城ではソルトがいなくなり真っ先に儀式の中止だと気がついたらしい。王の妃に手を出せばどうなるか本人も知っていたはずだ」
ソルトを見るがにこりとしただけだった。
はぁ~と大きなため息をする松。
「お前…考えてから行動しろよな」
「すみません……」
「引き取る連絡がすぐに来ていたが取り調べると称してずっと伸ばしていた。だが、それにも限界がある。松君さんとやまとを間違えた事実はある。沢山の護衛も見ていた。実際取り調べた結果未遂で終わったから本来なら帰せるが向こうの城が許さないだろう。だから帰っても結果魔物送りが決定だった」
やっぱり厳しい所は厳しいんだな。フィグさんが言わずとも分かる。本当に最後になる所だったのか。何で何も言わなかったんだこいつは。
「そうですか」
大人しくお酒を飲むソルト。
「やまとを危険に晒した後の特別待遇は周りから反感が出るし、やまとが許しても王としては見過ごせない。それをすれば犯罪が増える」
なるほどな、男としては許してるが王という立場からは許せないって事か。フィグさんも大変だな。
「どちらにせよ、引き延ばしても帰らせなくてはならなかったんですね」
「ああ」
「なのに俺が出して良かったんですか?」
「そいつを置いて置く理由ができたからな。松君さんが俺とやまとの知らぬ場で牢から出す許可を取るのを護衛が見ていた。被害者の松君さん自らが刑を与えれば皆は文句は言うまい。その行動が……罰を執行してる様子にみえたんだろ」
手に持つ革縄を握りフィグに見せるようにした。頷くフィグは呆れた顔をしてソルトを見ていた。
「なるほど」
松としてはソルトが自分や他の人に迷惑を掛けないように調教するために持っていたが周りから見れば刑に伏しているように見えるらしい。
そして、本人はそれが嬉しいのだった。
「でも、刑がこちらで行われていいんですか?」
「それは構わない。初めから刑はかけたかったが魔物送り以外は反感がでそうだったからな。後は向こうが永久追放でも文をくれればそのままこちらで引き取る」
「そうですか」
ソルトをもう一度見るとまたにこりとした。
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